第二章(02) あなたとチームを組むんですか?

 エルネストさんの話は続きます。


「えー、ワタクシからの提案には続きがあります!!」


 すっと手をあげて、視線が集まると、また大袈裟に腕を広げます。


「ずばり、『じゃあ彼女を冒険者にするなら、チームメイトはどうするの?』問題についてです!!!」

「……チームメイト?」


 つまり……私の仲間になってくれる人はどうするの? ということでしょうか。そういえば、私は冒険者についてほとんど知らないのですが、冒険者といえば集団行動しているイメージがあります。


 確かに、私と一緒に魔物退治に出てくれる冒険者って、いるんですかね……。

 先程の、ロビーでの人々の視線を思い出します。


 ……隣に人を殺しそうな奴がいたら、嫌っ!!

 例えばあそこのヴィムさんみたいな人と一緒とか、嫌っっ!!!

 私は人を殺そうとは思いませんけど、できるだけ!


「冒険者は、少なくとも三人以上のチームを組んで行動することが決まっています。しかし危険すぎる彼女は、まずどこのチームも歓迎しないでしょうし、そもそもその辺のチームが彼女を相手にできるわけがありません!!」

「……俺のチームに入れる気はないぞ」


 エルネストさんへ、ヴィムさんが言います。するとエルネストさんは払うように手をぱっぱと振ります。


「あっ、それは大丈夫です、そもそもアナタのチームに入れる気はありません、逆に彼女が殺されそうなので」


 私も一安心。ヴィムさんは怖いので嫌です。本当に殺されそうですし、実際この人、前にいた『連続殺人』持ちを殺してるって言ったじゃないですか。

 配慮してくれるエルネストさんには感謝です。この人もなんか変な人ではありますが、いい人なのでしょう!!


「彼女はどんなチームに入るべきか……もうメンバーを決めてあります!!! まずはワタクシ!!! このワタクシです!!!」


 そう思っていると、ばっと手をあげたので、私は目を丸くします。そんな私を気にせず、エルネストさんは振り返ったかと思えば手を振ります。


「よろしく~」

「えっ、はい、よろしくお願いします……?」


 縛られている私はそれでも反射的に後ろ手をぴこぴこ動かします。

 この人と組む? 大丈夫なのかなぁ……?

 エルネストさんは偉い人達に向き直ります。


「といっても、私は冒険者とここの職員の仕事を兼業しているような状態ですので、実際彼女と共に行動するのは少ないかと思われます……」

「あれ? 一緒に魔物退治するわけじゃないんですか?」


 てっきりそうだと思っていたのですが、私は思わず聞きました。それから、偉い人達の中から疑問も響きます。


「では、どうやってそいつを見張るんだ! そいつが暴走した時、誰が――」

「マルタン」


 ぱっとエルネストさんが答えたのは、私の知らない名前でした。


「マルタンをウチのチームに入れます。どうせ彼、またハブられてるでしょ」


 マルタンという方……えっ、いま「ハブられてる」って言いました?

 その方、大丈夫なのでしょうか。顔が少し歪んでしまいます。


「マルタン……? 確か下級冒険者の……」

「確かに彼のスキルなら何かあった時、人々を守れる……」


 けれども、はっとしたような偉い人達の反応を見る限り、なかなかの名案のようです。もしかして、マルタンという方は強いのでしょうか。

 強すぎて一人になっちゃってる、とか?


「それからキセラ。彼女もウチのチームに入れます。彼女もどうせいま孤高ぶってぼっちでしょう」


 エルネストさんは続けてまた、私の知らない方の名前を出します。

 キセラという方……ちょっと待って「孤高ぶってぼっち」って言いました?

 大丈夫なんですか、その方? どういう意味なんですか? かっこつけてるんですか?


「中級冒険者のキセラか……」

「なるほど、キセラのスキルは『連続殺人』を無効化できるかもしれない……」


 でもその方も強いのでしょうか。または、特殊な能力を持っているのでしょうか。

 詳しいことはわかりませんが、偉い人達は妙に納得している様子です。


「以上、ワタクシ、エルネスト、マルタン、キセラ、そしてここのシャールカ……この四人で、チームを作りたいと思います」


 そしてエルネストさんが宣言します。


「名付けて!!! チーム『実験中』!!!」


 部屋の中は騒めきに満ち溢れますが、そこに大きな反対の声はありませんでした。いくらか不安そうな声、しかめ面がありましたが、それなりにみんな納得されたようです。


 つまりこれ……私は死ななくていいし、地下牢に行かなくていいし、冒険者になれたってことですか!?

 ところで、


「チーム名、ださ……単純じゃないですか? なんかもっと、いい感じのありませんか?」

「わかりやすさは、重要だ」


 エルネストさんはチーム名を変えてはくれませんでした。


 ――その後、また少しエルネストさんは偉い人達と話し合い、ついに私を拘束するロープを切ってくれました。

 ヴィムさんはいつの間にかどこかに消えていました。



 * * *



 ――部屋の外から、いくつもの足音が聞こえてきます。

 ――瞼の向こうが、あかるぅい……。


「……夢?」


 気が付くと、私はベッドで寝ていました。カーテンの隙間から漏れ射しこむのは、朝の眩しい光です。

 なんだか大変な夢を見たような気がします……。


「――夢じゃないっっ!!!」


 我に返って、ばっと飛び起きます。ここは村にある自分の家、その自室ではありません……昨日のどたばたの後、監視する必要もあるからと、冒険者協会内にある職員寮の一室に案内されたのです。今日はここで寝ろ、明日は仲間と顔合わせ、冒険者として早速仕事をしてもらう、と。

 その証拠に、ベッドのサイドテーブルには、お気に入りのあのナイフ、高かった冒険者用の服が置いてあります。昨日の私が、わくわくしながら準備したものです。


 そして、銀色の冒険者タグもそこに。


「これで……私も冒険者に!」


 間違いなく、私の冒険者タグでした。冒険者である証。『初級冒険者 シャールカ』と刻まれています。


 昨日のどたばたは――スキル『人型特殊特効』こと『連続殺人』はもちろん、実技試験なんてなくて代わりに筆記試験があったことも――全部本当のことでした。


 けれど、冒険者になれたのも、本当のこと。

 そう、私はもう、冒険者なのです!!!

 つまり。


「これで……斬れる、殺せるってことですね!!!」


 色々大変そうですが、なんとかなるでしょう。というか、なんとかしなくてはいけません。

 ……今日はまず、仲間との顔合わせです。時間になったら迎えが来るそうなので、早く着替えないと。


「早くっ、早くっ、斬りたいなっ!! ゴブリンとかっ、ワークリーチャーとかっ!! そ、そうだ! 図鑑っ! 図鑑みたいなの買いましょう!! 魔物について勉強しなくちゃいけませんし……絵であっても、斬ったらどんな感じがするのか、たくさん想像できるはずですっ!!」


 待ち切れなくてナイフを鞘から抜いては戻し、また抜いては戻しを繰り返します……。


「まっものっ、まっものっ、まっものっ、まっものっ、まっものっ―――――」

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