第17話 お金の器を大きくする
心の食堂に現れたのは、スーツ姿の男性、慎一さんだった。疲れた表情でカウンターに腰を下ろし、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「また失敗しました……。投資先がダメになって、何もかも無駄だった気がして……」
テルは手元のパプリカを丁寧に洗いながら、慎一さんの話に耳を傾ける。
「失敗は無駄だと思っているんですか?」
慎一さんはため息をつき、うなだれた。
「ええ。頑張って貯めたお金も、時間も、すべて無駄になりました……。」
テルはふっと笑みを浮かべ、パプリカを半分に切り分けながら言った。
「それなら、今日は『幸運満ちるパプリカの詰め物』を召し上がってみませんか?きっと、失敗の意味が変わるかもしれませんよ。」
テルはパプリカの中の種とワタを丁寧に取り除きながら話を続ける。
「失敗を無駄と思うか、学びと思うかで、人生は大きく変わります。お金の器を大きくするには、たくさん失敗し、それを学びに変える力が必要です。」
慎一さんは首をかしげた。
「でも、失敗すると落ち込みます。騙されたり、間違った判断をしたりすると、もう何もしたくなくなるんです。」
テルはにんにくと玉ねぎを刻みながら、優しい口調で言った。
「それなら、立ち直り方をいくつか持っておけばいいんです。失敗のたびに悩むよりも、自分に合った切り替えの方法を見つけることが大切です。」
フライパンにオリーブオイルを熱し、玉ねぎとにんにくを炒め始める。甘く香ばしい香りが店内に広がった。
「これは、お金の器であるパプリカに詰める具材です。失敗から学んだ知識や経験、それをあなた好みに変えて詰め込むんです。」
テルは炒めた具材に合挽き肉とご飯、トマトソースを加え、丁寧に混ぜ合わせた。
「このご飯は、事業や仕事の成功を象徴するパワーフードです。そしてパプリカは、色とりどりの栄養が詰まった器。その器を育て、磨くのがあなたの役目です。」
慎一さんは少しずつ表情を和らげながら、テルの手元を見つめた。
詰め物をしたパプリカをオーブンに入れると、じっくりと焼き上がる音が心地よく響く。テルは慎一さんに語りかけた。
「サンクコストという考え方を知っていますか?」
慎一さんは首を振る。
「一度かけてしまったお金や時間を取り戻そうとしないことです。深追いせずに、新しい挑戦に切り替えるほうが、結果的に器を大きくできるんですよ。」
慎一さんは考え込むように頷いた。
「でも、それが難しいんです……。」
テルは穏やかに笑みを浮かべながら言った。
「だからこそ、失敗を一つの『レッスン』として受け止める癖をつけるんです。たくさん失敗すればするほど、器はどんどん大きくなりますよ。」
焼き上がったパプリカは、鮮やかな色と香りで慎一さんを迎えた。テルは慎重に皿に盛り付け、目の前に置く。
「この料理は、あなたが失敗を学びに変えた結果を象徴しています。パプリカの甘さと具材の旨味が調和して、きっと新しい感覚を与えてくれるはずです。」
慎一さんは一口食べ、驚いたように顔を上げた。
「美味しい……。なんだか、これまでの失敗も、こうして味わえば意味があったのかもしれないと思えます。」
テルは頷きながら静かに言った。
「その気持ちが、次の挑戦を生む原動力です。そして、お金の器は、挑戦の数だけ大きくなるんです。」
慎一さんは料理を食べ終え、晴れやかな表情で立ち上がった。
「次は失敗を恐れずに、もっと大きな挑戦をしてみます。この料理のおかげで、自分の器を信じられる気がしました。」
テルは彼を見送りながら心の中でつぶやいた。
「人生の味わいは、失敗をどう受け止めるかで変わる。心の器が大きい人は、どんな失敗も糧にできるんだ。」
その日、心の食堂にはまた一つ、新しい希望の物語が生まれた。
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