第14話 楽しくお金と付き合う

 昼下がりの「心の食堂」にやってきたのは、若いカップルの裕也さんと美咲さんだった。二人は仲睦まじく見えたが、話を始めると、どうやらお金の使い方で小さな意見の食い違いがある様子だった。


 「僕は、もっと貯金を増やしたいんだ。でも、美咲は新しい服や旅行にお金を使いたいって……。」


 「だって、せっかく稼いだお金なんだから、楽しんで使いたいじゃない!」



 そんな二人に、テルは微笑みながら「袋(財布)餃子」を提案した。


 「お金との付き合い方に迷っているなら、この餃子を一緒に作りながら考えてみませんか?」


 彼はそう言うと、具材を用意しながら話を始めた。


 「お金はね、楽しく使うことで、その価値が本当に生きてくるんですよ。使うときにストレスを感じると、お金も窮屈に感じてしまう。」


 裕也さんは首をかしげながら聞いていたが、美咲さんは興味津々の表情で耳を傾けていた。



 テルは餃子の具材を餃子の皮に乗せ、袋状に包み始めた。


 「この餃子の形、袋になっているでしょう?中国では古代貨幣の形に似ていることから、縁起の良い食べ物とされています。財布のように大事に包み込む感覚ですね。」


 美咲さんが包むのを手伝いながら尋ねた。


 「お金と遊ぶように使うって、どういうことですか?」


 テルは笑顔で答えた。


 「例えば、お金を使うことで誰かを喜ばせたり、自分が楽しんだりすること。そのプロセスを楽しむんです。お金は回していくことで、新しい豊かさを運んできてくれるんですよ。」



 フライパンで袋餃子が焼き上がる音が食堂に広がる。餃子がきつね色に焼けていく様子を見て、美咲さんは思わず微笑んだ。


 「お金もこうして、火を通して形にするみたいに、うまく使うことで本当の価値が生まれるんですね。」


 裕也さんも深く頷いた。


 「そうか、貯めるばかりじゃなく、楽しんで使うことも大事なんだな。でも、美咲みたいに全部使っちゃうのはどうなんだろう?」



 テルは蒸し焼きにした餃子を皿に盛り付けながら答えた。


 「バランスが大事です。必要な分は貯めて、余裕のある分は楽しんで使う。そのとき、感謝の気持ちを忘れずにいれば、お金との付き合い方が変わりますよ。」



 二人は袋餃子を一口食べた。その瞬間、肉汁とともに広がる香ばしい風味に思わず笑顔になる。


 「おいしい!これが幸せなお金の使い方の象徴なんですね。」


 「そうです。お金を大切にしながらも、楽しく付き合うことが、人生を豊かにする秘訣ですよ。」


 裕也さんと美咲さんは微笑み合いながら、餃子を口に運び続けた。二人の距離が少し近づいたように見えた。



 食後、二人は手を繋いで店を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、テルは静かに呟いた。


 「お金も、人間関係と同じ。丁寧に向き合えば、きっと人生を彩ってくれる存在になる。」


 今日もまた、「心の食堂」に小さな幸せが生まれた瞬間だった。

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