第11話 湧き上がる豊かさ 塩麹の絶品かぼちゃ煮

 やわらかな音楽が流れる中、一人の中年の男性がカウンター席に腰を下ろした。彼の名はミツル。数年前に小さな会社を起業したが、最近は資金繰りに悩み、疲れた表情をしていた。


 「テルさん、お金って、本当に難しいよね。頑張っても足りない気がするし、なんだか心が休まらないんだ。」

 彼はコーヒーカップを見つめながらポツリとつぶやいた。


 テルはそっと微笑みながら、棚から一つのかぼちゃを取り出した。

 「ミツルさん、それなら今日は『塩麹の絶品かぼちゃ煮』を作りましょう。この料理には、本当の豊かさを感じるヒントが詰まっていますよ。」


 かぼちゃを切り分けながらテルは話し始めた。

 「本当の豊かさって、足りないことを心配することじゃなくて、溢れる感覚を信じることなんです。たとえば、このかぼちゃもそう。見た目は地味だけど、煮込むことで驚くほどの甘さと深みが引き出される。自然の豊かさがそのまま湧き出してくるんですよ。」


 鍋にかぼちゃを並べ、ひたひたの水と塩麹を加えると、優しい香りが立ち上る。

 「塩麹は、素材の味を引き立てながら、余計な力を使わなくてもおいしさを引き出してくれる魔法の調味料です。これが豊かさの象徴みたいなものですね。」


 ミツルはその言葉に耳を傾けながら、鍋から立ち上る香りに少しずつ表情を和らげていった。煮込み終わったかぼちゃを皿に盛りつけ、テルが一言付け加える。

 「この料理を食べるとき、自分の中にある豊かさの泉をイメージしてみてください。お金もエネルギーです。それを信じて、誰かを助けたいと思う気持ちを持てるようになると、不思議と自然に豊かさが湧き上がるものです。」


 ミツルは一口かぼちゃを食べると、ほっとしたように目を閉じた。

 「甘くて、優しい味だね。なんだか心がほぐれていく感じがするよ。」


 テルは微笑みながら答えた。

 「ミツルさん、経済的な自立は大切ですが、それを目指す過程で心が荒むのはもったいないです。お金に対してリラックスし、豊かさが自然にやってくる感覚を楽しんでみてください。」


 ミツルは満足そうに食べ終わり、ふと顔を上げた。

 「なんだか、少しだけお金に追いかけられる感覚が和らいだ気がする。ありがとう、テルさん。」


 彼は軽やかな足取りで店を後にした。その背中を見送りながら、テルは静かに鍋を片付けた。


 テルの食堂には、また一つ、新しい物語が刻まれた。

 それは、自然の豊かさと心の余裕が織りなす、静かで力強い変化の物語だった。

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