第8話 無駄遣い!?どうやって人を喜ばせようか!

 「テルさん、最近ずっとモヤモヤしてるんですけど、相談してもいいですか?」


 その日の夕方、翔太が「心の食堂」のカウンターに座り、少し困った顔をしていた。


 「もちろん。どうしました?」


 テルは笑顔で返しながら、鍋の準備を始めていた。


 「友達に誕生日プレゼントを渡したんです。でも、正直なところ、あれって無駄遣いだったのかなって……。その友達はすごく喜んでくれたけど、自分の中ではなんかもやもやが残ってて。」


 テルは優しい目で翔太を見つめた。


 「無駄遣い、ですか。それは面白いテーマですね。では、今日は『気の流れを整えるレモン鍋』を作りながら、そのモヤモヤについて考えてみましょう。」




 テルは冷蔵庫から国産レモンを取り出し、鍋の準備を進めながら話し始めた。


 「翔太さん、小さい頃から『無駄遣いしてはいけない』って教わりましたか?」


 「はい。親に何度も言われましたね。必要なもの以外は買わないようにって。」


 「その教えも大切なことですが、無駄に見えることが人生を豊かにすることもあるんですよ。」


 テルはレモンを薄く輪切りにしながら続けた。


 「たとえば、このレモン。酸っぱいだけでなく、気を巡らせて、体を潤し、気分を安定させる力があります。一見シンプルな食材ですが、こうしたちょっとした『贅沢』が心や体を整えてくれるんです。」


 翔太は少し驚いたような表情で頷いた。


 「確かに、友達があんなに喜んでくれる姿を見たら、プレゼントしてよかったって思いました。でも、それでもどこかで『お金が減った』って思ってしまう自分がいて……。」


 テルは鍋に昆布と水を入れ、しばらく置いてだしを取る準備をしながら微笑んだ。


 「それは自然な感情です。でも、お金は使うことで循環し、新しい何かを生み出します。プレゼントで友達が喜んでくれたことは、翔太さんの人生にとって無駄ではなく、むしろ大切な投資かもしれませんよ。」




 だしが取れた鍋に酒、塩、白だしを加え、温めながらテルは話を続けた。


 「人生で素晴らしいものや楽しいことの多くは、無駄に見えるものから生まれることが多いんです。旅行やコンサート、誕生日プレゼントなんてその典型でしょう。」


 翔太は思わず笑った。


 「確かに、そうですね。大事な思い出って、必要だったかどうかなんて考えないですもんね。」


 「そうです。そして、その『無駄』が人を喜ばせ、結果的に自分にも喜びをもたらしてくれることがあります。だから、無駄遣いを恐れるより、その価値を見出すことが大切です。」


 テルは輪切りにしたレモンを鍋に浮かべ、火を止めた。湯気とともに爽やかな香りが店内に広がった。


 「この鍋も、レモンを入れるだけで香りや味が変わる。シンプルだけど、ちょっとした工夫が特別な体験に変わります。」




 レモンを一度取り出し、白菜や白ねぎ、しいたけ、牡蠣、豚肉などの具材を入れる。鍋が静かに煮立つ間、翔太は心の中で考えを巡らせていた。


 「テルさん、僕、なんだかスッキリしました。無駄遣いを悪いことだと思いすぎてたかもしれません。無駄なことがあるからこそ、人を喜ばせたり、自分が楽しんだりできるんですよね。」


 「その通りです。そして、その無駄を楽しむことが、豊かな人生への第一歩です。」


 鍋が完成し、テルは翔太に小皿を差し出した。翔太が一口食べると、レモンの酸味とだしの深い味わいが口の中に広がった。


 「これ、すごくおいしいですね。なんか元気が湧いてきます。」


 テルは微笑みながら頷いた。


 「無駄に見えるものが、実は心を満たし、エネルギーを与えてくれるものなんです。だから、これからも無駄を恐れず、楽しいことに挑戦してください。」


 その夜、翔太は友達に送ったプレゼントを思い出しながら、どこか誇らしい気持ちで家路についた。人生の豊かさは、無駄を楽しむ心から生まれる。それは「心の食

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