第7話 お金と友情をつくる 春巻き
ある日の午後、「心の食堂」にはいつもと少し違う空気が漂っていた。今日は、彼女は小柄で、肩にショルダーバッグを掛けた花子が店に入ってきた。どこか不安げな表情を浮かべてカウンター席に座り、辺りを見回していた。
「いらっしゃいませ。」
いつものように穏やかに声をかけるテル。花子は少し緊張した面持ちで話し始めた。
「私、最近ずっと悩んでいることがあって……。親友だと思っていた人に、お金を貸してほしいと頼まれたんです。でも、どうしても迷ってしまって。」
テルは静かに頷き、花子の言葉を最後まで聞いた。
「お金を貸すことが、その人との友情を壊すんじゃないかって怖いんです。けど、断るのも心が痛くて……。」
花子の言葉に、テルは少し考え込むようにしてから優しく微笑んだ。
「では、今日は『お金と友情をつくる 春巻き』を作りながら、その悩みに向き合ってみましょう。」
テルは冷蔵庫からさつまいもとカレー粉、レーズンを取り出しながら話を始めた。
「友情というのは、不思議なものですね。ときにお金の問題が絡むことで、その深さが試されることもあります。」
花子はうなずきながら、興味深げにテルの動きを見つめた。
「お金を貸すことで友情が壊れることもあれば、逆に深まることもあります。それは、相手がどういう人であるか、そして自分がどれだけその人を信じているかによるんです。」
テルはさつまいもをゆでるために鍋を用意し、火にかけた。
「たとえば、このさつまいもとカレー粉。どちらもそれだけで個性が強い食材ですが、混ぜ合わせることで新しい味が生まれる。同じように、お金や友情も、それぞれの使い方次第で新しい形を作ることができます。」
さつまいもが柔らかく茹で上がると、テルはそれを丁寧につぶし、塩、カレー粉、レーズンを加えて混ぜ合わせた。
「借金というのは、単なるお金のやり取りではありません。それは相手との信頼関係を測る試金石でもあります。貸すことで信頼が深まることもあれば、逆に距離ができてしまうこともある。」
花子は静かに聞き入りながら、自分の中で答えを探しているようだった。
「でも、もしその人が本当に親友だと思える相手なら、貸すのではなく『プレゼントする』という考え方もあります。お金を返してもらうことを期待しないで渡すことで、友情が壊れるリスクを回避できる場合もあります。」
テルは混ぜ終えた具材を8等分し、春巻きの皮の上に一つずつ乗せて巻き始めた。
「一方で、どうしても迷うなら、相手に正直に自分の気持ちを伝えることも大切です。友情はお互いの信頼から成り立つものですからね。」
春巻きを巻き終えたテルは、小麦粉と水を溶いて端を留め、揚げ油を中温に熱した。油に春巻きを入れると、心地よい揚げる音が店内に広がった。
「春巻きも友情も、バランスが大事です。材料が多すぎたり、揚げすぎたりすると、うまくいかないことがあります。」
花子はその言葉を聞きながら、自分の中の答えに少し近づいたように感じた。
「テルさんのおかげで、少しだけ自分の気持ちが整理できた気がします。」
完成した春巻きが皿に盛り付けられると、甘くスパイシーな香りが広がる。テルはそれを彼女の前に差し出した。
「どうぞ召し上がれ。この春巻きのように、相手の個性と自分の気持ちを組み合わせることで、新しい友情の形が生まれるかもしれません。」
花子は一口かじり、笑顔を浮かべた。
「おいしいです……。なんだか温かい気持ちになります。」
「それはよかったです。お金や友情も、この料理のように工夫次第で素敵なものになりますよ。」
店を後にした花子は、これからどうするか決めていた。「貸す」のでも「断る」のでもない、新しい選択肢が見つかったようだった。そして「心の食堂」の暖かな記憶は、花子の心に灯る小さな明かりとして残り続けるだろう。
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