第5話
その時。
「お、三島じゃないか」
俺に声をかけてきたのはうちのクラスの担任であり、国語教師の四島先生だった。一応言っておくと、男である。
「まだ、残っていたのか」
「まぁ、はい。帰宅部なりにもいろいろありまして」
図書室を入るところを見られたから、ここで勉強するか、読書でもするかと思っているだろう。
「ああ、そうか。ところで、お前に頼みたいことがあってだな」
その時、俺は四島先生の手に大量のプリントがあることに気が付いたが、そのころにはもう、その依頼から免れるのには、遅すぎた。
「いやぁ、助かるな……」
案の定、俺は荷物持ちの依頼を引き受けてしまった。かなりの量があり、結構な重さになっている。運動不足男子には結構キツイ運動量だ。
「にしても、これ重くないですか?」
「まぁ、ざっと5クラス分はあるからな」
想像以上に重かった。そう感じると、より重く感じてしまう。聞くんじゃなかった。
「じゃあ、その分は二年生のボックスに頼む」
「了解しました」
そう言うと、四島先生は職員室に戻ってしまった。
そうか、職員室まで来てしまったのか。
ここから、また図書室に戻る労力を考えると、かなりくたびれる。今はそんなこと考えないようにしよう。
俺はひとまず、このプリントを二年生のボックスに入れるというタスクに集中することにした。
その時、廊下に見覚えのある影が見えた。
あの二人だ。森岡と米川。
「大丈夫?流星」
「ああ、まぁ、大丈夫だ……」
どうやら、彼らの目的地は保健室のようだ。
森岡の膝に大きな擦り傷があることが確認できた。
なるほど、部活中に怪我をしたのだな。
俺はそれを横目に見ながら、プリントの整理をする。
こう見ると、本当にお似合いだな……。
しばらく経つと、米川だけが保健室から出てきた。彼女の表情は「心配」で埋まっている。
俺はそんな彼女の顔を見ながら、まだプリントを整理していた。
すると、俺は思わず手を滑らせてしまい、プリントが床に散らばってしまった。
「あ、まずい!」
俺は思わず、そんな言葉を口に漏らす。
俺は完全に散らばるよりも先にプリント全回収をしようと急いで身を屈めた。
「わっ!大丈夫ですか?!」
米川は俺よりも早いスピードで屈みこんだ。
俺が屈んだ時にはプリントはすべて、米川の腕の中にあったのだ。いつ拾ったのか分からないくらい早い。
なぜ、サッカー部のマネージャーという器で収まっているのだ?と思わせるような俊敏性だ。
「はい!どうぞ!」
米川は彼氏が怪我をして、心配だろうに、俺に笑顔でプリントを受け渡してくれた。
「あ、どうも……」
俺は、口をもごもごさせ、覇気のない返事を彼女に返した。
「それじゃ!」
そういって、彼女は俺に手を振って、その場を立ち去った。
───いい子だな。
その感情だけが湧いた。それは恋愛感情に通ずるものではない。単純に「人」として、いい人だと思ったまでであるが。
……いや!違う!アイツは俺の聖域に立ち入った不届き者だ!
俺はそう自分に言い聞かせた。
俺はプリントの整理を終えると、少しだけ保健室を覗いてみた。すると……。
ドシン!
ちょうど、足が動けるくらいまで緊急措置の治療を終え、保健室から飛び出してきた森岡と衝突してしまった。
「いでっ!」
「だっ!」
俺はそのまま、廊下の柱に打ち付けられた。
「ちょっと!大丈夫?!」
保健室にいた養護教諭はその現場を目の当たりにしたので、すぐさま駆け付けた。
「俺は大丈夫ですが、そっちの奴は……」
森岡が俺を心配するような言葉のつなぎ方をした。
「全く……いきなり飛び出すから……大丈夫?」
どうやら、ダメージは結構大きかったようだ。まだギリ意識はあるが、応答が困難である。
「結構な衝撃を受けたみたいね……」
「先生、俺、手伝います!」
そんな、森岡の野太い声を最後に、俺の意識は徐々に薄れていった……。
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愛人破局計画! 端谷 えむてー @shyunnou-hashitani
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