第3話
俺は家でライトノベルを読んでいた。純愛モノのライトノベルだ。
たいてい、こういうものは学校で噂されるレベルのヒロインと恋を築くのが鉄板のような気がする。
そんな風に創作考察を頭に思い浮かべながら、ベッドに寝そべり、ページを捲った。
───でも、俺、宮古のほうが好きなんだ!
そんな主人公のセリフを三回くらい繰り返して、再度、恋愛のことついて少し考えてみた。
今まで、いろんなラブコメを読んできたが、やはり、よくわからない。そんなのを意識する価値はどこにあるのだろう。
そんな思考のせいで、ラブコメディーを読んではみるものの、共感できずに、十分に楽しめていないようがしてならない。
だめだな。バトル小説でも読もう。
俺は今持っているラノベを本棚に戻し、他の本に手をかけていた。そんなとき、普段、滅多になることがない俺のスマホが通知音を鳴らした。
そこにはLINEでこんな連絡が……。
『明日、Ⅾ棟の教室に来なさい!』
俺、いつあいつとLINE交換したっけ?勝手にされたのか?まぁいいか。
それにしても、Ⅾ棟か……。うちの高校のⅮ棟の教室は冷房がついておらず、滅茶苦茶暑い。そこに部室を構えている漫画研究部や生徒会室を構えている生徒会はその暑さに苦労しているようだ。
だから、できれば行きたくはない。でも、行かなかったら、後が怖い。
そのため、俺は渋々行くことにした。
*****
「ここ、暑いわね……」
「なんでこんなところを指定したんですか」
「ここしか空き教室がなかったのよ」
美咲は何故かとっても不機嫌だ。こんな机の上に乗って汗だくになっている奴がこの学校のマドンナだとは……。うちの高校の男子生徒の性癖を問いたい。
「ところで、なんで俺をこんなところに呼んだのですか?」
「計画について詳しいことを教えようと思ってね」
そう彼女は言いながら、机の上から降りた。
「そうですか」
「そういえば、私、貴方の名前知らないわ。多分、貴方も私の名前知らないわよね」(LINEの名前は本名ではないのだ)
美咲は気がついたかのようにそう言った。
「結構、今更ですね。てか、俺、貴女の名前知ってますよ。佐々木美咲さんでしょ?」
「え?なんで知ってるの?」
だって、有名だもん。
しかし、それは彼女も自覚しているだろう……。いや、本当にそうか?
自分は有名だと自覚している者が「貴方も私の名前知らないわよね?」なんて言うのだろうか。
少なくとも、俺が有名人の場合は「まぁ、知っていると思うけど、俺の名前は三島直樹だ」
という感じで自信満々に言うだろう。
彼女は自分が校内で有名だと自覚していないのだろうか。
「ところで、貴方の名前は?」
俺が一人で考え込んでいると、美咲は俺の意識を会話へと引き戻した。
「あ、ごめん、三島直樹」
すると、美咲は笑顔で頷いた。
「うん、わかった!じゃあ、「直樹」って呼ぶね」
まさかのいきなり下の名前&呼び捨てですか。まぁ、別にいいけども。
「じゃあ、俺はどう呼べばいいですか?「佐々木さん」?」
すると、美咲は頭上に「?」を浮かべたかのような顔をした。
「同い年でしょ?「美咲」でいいよ。あと敬語じゃなくても全然いいよ」
陽キャの「敬語じゃなくていいよ」は結構怖いな……(経験談)
「まぁ、というわけで例の計画のことについて話そうと思うんだけど」
例の計画
「愛人破局計画」とかいう計画だ。
「まぁ、愛人破局計画のことについておさらいするけど。愛人破局計画というのはこの校内にはびこるカップル、カップルになりそうな男女を破局させていく計画のことよ」
再度、そのことを聞いて考えてみるが、イカれた計画だ。
現代の少子高齢化社会でそんな計画を進めていたら、すぐに反感を買いそうな、彼女の我儘で成り立っている計画ともいえる。
しかし、昨日のような、俺の聖域に立ち入って、本も読まずイチャイチャするようなゴミが消えるのであれば、悪くはないとも思ってしまう俺もいる。
ひとまず、ここは乗っておこう。フリだけでも。
「それは大体予想ついているけども……具体的にはどんな事をするんだ」
「いろいろよ。計画のために作戦を立てて、カップルを破局させていく、ひとまず、今は一組ずつ破局させていく形にしようと思っているわ」
「ちなみに、俺たち以外に仲間は?」
「今はいないわ」
いつかできる日が来るのだろうか。いや、来る気がしない。
「二人だけか……」
「この学校って結構恋愛に積極的な子が多くてね……なかなか、仲間を募ることができないのよ。私もなぜか、入学以来、いろんな男に告白されたわ」
美咲はそう言いながら、首を傾げた。
なるほど、美咲は自分が有名であり、モテているという自覚が本当にないらしい。
「美咲は女優とかもやっているから、有名だし、顔立ちも整っているし、だから男にも告白されるんじゃないか?」
すると、美咲はなぜか俺を睨んだ。しまった、なんか禁句でも入っていたか?
「直樹、そんなに褒めてもジュースくらいしか出ないわよ?後でデスソース買ってあげる」
「デスソースはジュースじゃないぞ。罰ゲームだ」
「あら、そう?結構おいしいじゃない、デスソース」
美咲は純粋そうな顔でそう言った。
まじかこいつ。
どうやら、彼女は超辛党のようだ。
「出すなら、カルピスとかにしてくれ」
「あ、そうなの。あんな甘いのが好きなんだ」
辛党の気持ちは俺にはわかりかねない。
「ところで、どんな感じで計画を進めるんだ?」
俺は脱線していた話題をもとに戻した。
「そうね。とりあえず、今は一組のこのカップルの破局を中心と使用としているわ」
そう言いながら、彼女は二枚の写真を卓上に出した。
その写真には昨日、俺の聖域に立ち入ってきた不届き者の姿が写っていた。
「これは、昨日の奴らか……」
「ええ、森岡流星と米川美夏。この学校の中でもトップクラスの美形カップルね。どちらも学校でも中心的人物で、森岡はサッカー部のエース。そして、美夏はサッカー部マネージャーらしいわ」
しっかりとリサーチ済みとは、なかなかだな。佐々木美咲。
美咲は米川のことを美形と評していたが、実際、写真の米川とここにいる美咲を見比べてみても、やはり、美咲のほうが美形という言葉に似合っていると思ってしまった。それほどに彼女は美人なのだ。
「どうしたの?直樹、私の顔をじっと見て。ちなみに、私に恋心を抱くのはNGよ」
「冗談を。そんなの抱くわけがないじゃないか」
俺はどんなに美人であっても、恋愛感情は抱かない。そんな人間だ。俺の心は一瞬たりとも揺らぎはしない。
「まぁ、貴方は恋愛が似合うガラじゃないから、わかっていたけど」
恋愛が似合わないガラとはどんなのだろうか。
「とにかく、今はこの二人の関係を破局することが私たちの第一の目的よ」
「なるほど、把握した」
とにかく、俺はこの計画に乗ることにした。そう決めた以上は彼女に協力しよう。
そういう気持ちを込めた、「把握」の一言であった。
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