第2話

 佐々木美咲。この学校のマドンナ的人物。

 彼女は誰にでも優しく、華奢で、女子の中の女子。しかし、俺はこの様子の美咲を見てすぐに分かった。

 彼女はそんな女子の中の女子を演じているだけだと。

「そうだわ。ねぇ貴方、さっきの男女についてどう思う?」

 美咲は顔を俺に近づけて、訊ねた。

 男女というと、あの図書室に入ってきたカップルのことだろうか。

「俺の聖域に踏み入れた不届き者だと思っています」

「聖域?っていうのはよく分からないけど、不届き者というのは同感ね」

「同感?佐々木さん、あの女子に嫉妬でもしているんですか?」

 すると、美咲は指を頬に当て、首を傾げた。

「嫉妬?するわけないじゃない」

「そうなのか……まぁ、そうだよな」

 モテまくって、男に困るわけがないマドンナ女子・佐々木美咲が他の女に嫉妬なんてするわけがないよな。

「じゃあ、なんで不届き者っていうのに同感なんです?もしかして、俺の同じく聖域に侵入されたから」

「その聖域っていう意味がよく分からないから、多分それじゃないわ」

 彼女はいきなり真顔になって、そう言った。

「じゃあ、なんで……」

 すると、美咲は俺から少し距離を取り、手を後ろで組んだ。

 そして、俺の目をじっと見つめて言った。


「私はね……。恋愛が大っ嫌いなのよ」


 予想の斜めをいく理由であった。

 高校生はみんな大好きであろう恋愛。

 その中で俺はそんな恋愛に興味ナシという変な奴なのであるが……。

 ここにそんな恋愛が大っ嫌いというさらに変わった思想を持ち合わせている女性がいたのだ。

 その少女の名は佐々木美咲。この学校のマドンナであり、男の恋の標的である。

 しかし、そんな男たちに残念な知らせだ。

 彼女は恋愛に興味がないことはるかに超え、恋愛が嫌いでたまらないようだ。

「私は恋愛をすることも、恋愛を見ることも、応援することも本当に大嫌いなの」

「こういうのを読むのも?」

 俺はラブコメライトノベルを示した。

「燃やしていい?」

「なるほど、よくわかった」

 俺は燃やされたくないので、さっさとその小説をポケットの中に避難させた。

「それで、佐々木さんはあんなところで何をしていたのですか?」

「決まっているでしょう?尾行よ」

 尾行というか、動いていなかったから、ほぼ覗き見というか。

「なぜ、恋愛を見たくないと言い張っていたのに、カップルの覗き見なんかしていたんですか」

「覗き見とは人聞き悪いわね。言っているでしょ?尾行よ。尾行」

 いや、尾行も十分に人聞き悪いと思うのだが。

「しかし、なぜ……」

 すると、美咲は目をつむって、腕を組み、語り始めた。

「それは……私のとある計画のためよ……」

「計画……」

 人類補完計画のようなものだろうか。いや、違うか。

 そんなどうでもいいことをこんな会話の中考えている俺だったが……。

 ひとまず、彼女にその計画とやらを訊いてみることに。

「その計画とは?」

「それはね……」

 彼女は目を見開き、組んでいた手を広げた。


「愛人破局計画!」


「愛人……破局計画……?」

「愛人と書いて、カップルと読むわ」

 正直、それはどうでもいい。

「一体どんな計画なのですか?計画名から予想はつきますが……」

「予想がつくなら、多分その予想通りよ」

 なるほど……。

 ちなみに、俺がしていた予想はカップル及びカップルになりそうな男女を何とか破局させるという計画。

「そんな計画をしていることを君に知られちゃったわけだが……」

 美咲の目つきが一気に険しくなった。

 まずい、この話、真面目に聞いたらダメなやつだったか?

 俺は今更ながら、逃げの姿勢をつくった。

「なに逃げようとしてるのよ」

 美咲に後ろ襟を掴まれ、俺は逃げる術を失った。

「そんなところで、貴方にお願いがあるのよ」

 彼女は不気味な笑みを浮かべた。

 嫌な予感しかしない。

「この計画、貴方にも手伝ってほしいの」

 やっぱり、嫌すぎる。

「断ります」

 すると、後ろ襟を掴んだ手が勢いよく引っ張り上げた。

「うげっ!」

 首が絞めつけられて、すごく苦しい。

「放してくれ!」

 俺はそう、美咲に懇願した。

「放してほしいの?」

 すると、美咲は望み通り、その手を放してくれた。

 しかし、引っ張られ、振り回された際に遠心力がはたらいていたらしく、俺は放り投げられてしまった。

「いだっ!」

 俺はそのまま勢いよく尻もちをついた。滅茶苦茶痛い。

「ね?お願い、手伝って?」

 尻をさすっている俺を見下ろして、これまた不気味な笑みを浮かべて、彼女は言った。

 これはもう「お願い」ではない。「脅迫」だ。


 しかし、このまま致命傷を負うわけにもいかないので、俺はこの脅迫を呑まざるを得なかった。

 こうして、学校のマドンナとの変な関係がここに築かれてしまった。

 恋愛嫌いのマドンナと恋愛無関心のただの男子。

 似ているようで、似ていないかもしれない。そんな二人の「愛人破局計画」が行われるようになった。

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2024年12月1日 07:11
2024年12月1日 19:11
2024年12月2日 07:11

愛人破局計画! 端谷 えむてー @shyunnou-hashitani

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