愛人破局計画!

端谷 えむてー

第1話

高校生活とは、まさに青春の中の青春とも呼べる。

 人生において、大変、特別な時間である。そして、その青春の中でも、特に重要視されるものは、やはり「恋愛」であろう。

 だから、高校生はその恋愛というものが本当に大好きだ。

 皆、「誰と誰が付き合った」や「誰と誰が怪しい」「実は○○のことが気になっているんだよね……」等。様々な「恋バナ」というものに花を咲かせている。

 その中、みんな大好きな「恋愛」に全く無頓着な一人の男子高校生がいた。

 俺だ。

 三島直樹 十五歳。

 兵庫県立小尼高等学校に通う高校生。

彼女いない歴=年齢が名乗れる恋愛経験度であり、その権利を捨てる気もない高校生である。

 普段、女子と特に話したりとか、色恋沙汰に悩まされたりせず、教室で本(ライトノベル)を読んでいる。そんな人間だ。

 そんな俺のことを悲しい人間だと憐みの目で見る人もいるかもしれない(実際には気にもされていない)しかし、高校の友達はしっかり確保しているので、実を言うと、そこまで寂しくもない。それに、俺は一人でいるのが好きだから、そんなにみんなが思うような輝かしい恋愛色の高校生活を送りたいとは微塵も思っていないのだ。

 そして、この高校にはそんな俺と真反対の立場にいる女がいるのだ。

 その女の名は佐々木美咲。同じく、十五歳。この学校のマドンナ的存在だ。

 彼女はとんでもない美貌の持ち主で、女優としても活躍している学校の人気者だ。

 当然、男からはモテまくり、何人もの男が彼女に挑んではいるのだが、今のところ、この世の男に彼女への戦績に勝ち星がついた者はいないようだ。やはり、彼女の理想は藤崎詩織くらいに高いようだ。

 前述した俺の友達も当たって砕ける精神で彼女に挑んでみたらしいのだが、無事、砕け散ったようだ。

 ちなみに、俺が初めて彼女の存在を目の当たりにしたときに思ったことは

───こんなキャラ、現実にいるもんなのだな。

 つまりは、俺と彼女は全くもって別世界の人間。

 輝かしい女子高校生中の女子高校生と恋愛無頓着の友達一人で満足している客観的に見れば寂しい人間に値する男子高校生。

 俺はあんな別世界の人間と関わりあうことはないと思っていた……。


*****


 高校一年生・夏。

 もう、期末テストも結果発表まで無事に終え、生徒たちはテストまでのカウントダウンから終業式までのカウントダウンに気にする標的を変更している時期。

 その日、俺は図書室で相変わらず本を読んでいた。

 この学校の図書室のラノベの蔵書数は多くないし、狭いしで、そこまで良い印象を持ってはいなかったのだが、図書室の外にある本棚には漫画が置いてあったり、空調が良く効いていたり、何より、利用者が少ないので、結構助かっている空間なのである。

 しかし、その日は違った。俺の一人の空間に二人の失せ者が来たのだ。

その失せ者は男女であり、肩を組んでいるところを見るに、どうやらカップルのようだ。どうやら、二人きりで秘密のイチャイチャを行うがために、我が空間に訪れてきたのであろう。

 まぁ、人影が見えたら、流石に立ち去るだろう。

 俺はそう思い、心の中で二人に手を払った。

 しかし、二人は構わず、俺の空間に立ち入った。どうやら、一人くらいならいいか、という考えのようだ。

 なかなか無礼な奴らだ。俺の城にそんな風にずかずかと侵入してくるとは。(図書室はみんなのものです)

 しょうがない、帰るか。

 俺の独占の空間で無くなった図書室に価値はないと悟り、俺は身支度を始めた。俺にリアルカップルのイチャイチャを眺める趣味はないからな。ラノベとか漫画のやつなら見るけども。

 その間、侵入者二人は図書室の本なんかに興味など示すはずもなく、席に座っては異性交流に努めていた。不純なのかは不明である。

 俺はその二人のことを極力無視して、図書室の引き戸を開けた。

「ひゃっ!」

 扉を開けると、そうやって声を上げた一人の女がいた。

 彼女はその抜群のスタイルの体を縮こませ、じっと俺の顔を見ていた。

 その顔は恋愛無頓着でも思う。とても美しい顔だ。しかし、まぁ、ラノベヒロインには劣る。

「えっと……」

 彼女の顔は小動物のように、じっと俺を見ていた表情から、急変。みるみるうちに青ざめていった。何かまずいことでもあったのだろうか。

「……ちょっとこっちに来なさい!」

 彼女はそう言って、俺の手首を力強く握り、引っ張っていった。

「痛い!痛い!放してください!」

 非力な俺では彼女に抵抗することもかなわない。

 俺は自分の無力を恨んだ。確か、最後に恨んだ時はペットボトルの蓋が開けられなかった時だったっけ。

 そして、俺が連れてこられたところは人通りの少ない階段の陰にある謎スペースであった。

 俺はそこに乱暴に投げおろされた。手首が赤く腫れている。

「一体何なんだ……」

 俺は不満を垂らすように呟いた。

「うるさいわね……不格好に掴んだ手首なんかさすって、痛みなんか我慢しなさい。男の子でしょう?」

 なかなかに高圧的な態度を見せる彼女。

 ここは明かりが少なく、彼女の姿を詳しく確認することはできないが、おそらく、仏頂面で腕でも組んでいるのだろう。

「現代の世の中で「男の子でしょう」とかいうジェンダーバイアス的な発言は控えたほうがいいと思いますよ」

 俺は起き上がって、そんなことを言った。

「いいでしょ、ここに貴方以外誰もいないんだし」

 そして、俺は訊ねた。


「ところで、なんの用ですか。佐々木さん」

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