第15話 穴がないプレートアーマー
「ん? よっぽど何?」
コマチは脇腹のベルトを引っ張りながらツクモへ振り返った。
ツクモは視線をそらし部屋の床の中央あたりに置かれたトロイダルディスクに視点を定めた。
「あ、いや。……俺もこれが夢なのか何なのか多少疑心暗鬼だったんだが、一野にここで出会って、やっぱり異界とか過去世とかあるのかもって確信湧いてきたっていうか。
本には“地球に生まれた目的も意味も分からず、それを達成せず生きていたならば、ずっと輪廻転生し続ける”って書かれてて――」
コマチの身体からガシャガシャンとブレストプレートが床に落ち、ツクモの方へ飛んでいった。
「うわ!」
ツクモは飛び起き受け止めた。
「ずっと輪廻転生し続ける……? 生きてる意味も分からず……? そんな……」
呟きながらコマチは脱ぎ散らかしていたプレートアーマーを拾い集めて壁際に寄せ、立ち尽くした。
ツクモはブレストプレートをプレートアーマーの山のそばに置いた。
「ああ、だから俺、ここで自分が何を目的に地球に来たのか探ってんだけど。それで師匠に俺の過去世が宇宙人だからって言われて――」アーメットを指さす。「ん、あれ? このメット、バイザーに穴がねえぞ。これじゃ見えねえだろ」
「……(道理で視界が悪かったのね)。はあ……。身体痛い。疲れた」
コマチはふらふらしながら、橙色に光り輝くトロイダルディスクの横に寝転んだ。
コマチがギャンベゾンに包まれ丸まって横になっている姿にツクモはふっと笑い、その顔を隠すようにあぐらの膝に頬杖をついた。
「あんま本読んでねえのに、よくここに来れたな。俺はあの本、何度も読んで、何日も経ってやっとだったのに」
ツクモの声の響きが心地よく、コマチは眠気が襲ってきた。
「へえ……。そう? もしかして……最初の日、異界へ行くためのオヤツを半分食べたから……かな。本には、二口って書かれてたけど……」
うとうとしながらポツポツと喋る。
「あの変な味のやつ半分も食ったのか?!」
ツクモはコマチが目を瞑っていることに気づくと、身体をゆるめ横になり、肘をついて頭を支え、前髪が少しかかったコマチの額を見つめた。
「うん、あの時はちょっとお腹すいてて。新食感ゼリーって感じで奇妙な味だった……。あとで、すごい胸やけっていうか……胃もたれっていうか……」
目を閉じたまま話すコマチの意識が徐々に薄くなっていく。
「俺は最初作ったやつを毎日少しずつ食べて、それ食べ切ってから、殆ど作ってねえな。最近はもう食ってねえ」
ツクモが話し終るか終わらないかのところでコマチの身体が一瞬白く光るひょうたん型に変幻し、光の粒の霧になってサファッと消えた。
(消えた……。プレートアーマーもねえ。現実に帰ったのか?)
ツクモはコマチが消えた空間を見つめた。
床に仰向けに寝転び、視線をぐるぐる移動させ、ツクモはシンとした白い空間に色とりどりに光り輝くトロイダルディスクと並べられた武器を眺めた。
目を閉じ、ふうっと息を吐いた。
「おかしいな……」
(いつもは、この部屋で一人、並べられたものを見てるだけで満足なのに)
ツクモは不思議なざわめきを胸に感じた。図書室でぶつかったコマチの額の感触がツクモの頭に蘇った。指で額をなぞる。
ドウゥン ドウゥン
遠くで地響き。
(こんな場所にまで魔物が来たのか? おかしいな……。いつもは、この部屋に一人でいれば落ち着けるのに……)
ツクモが灰色の立方体コンテナ倉庫から出て上空で辺りを見渡すと、緑の大地の向こうの赤い荒野に巨大な魔物が徘徊している姿があった。
「まじかよ……」
(あのデカさ、一人で倒せそうもねえな。一旦帰って対策立てるか)
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