第14話 運命の人?

 うつらうつらしていたコマチは静まった空間の中で薄っすら瞼を開け、目を動かし辺りを見渡した。


 暗い。


(死んだ……)


 コマチは闇の中でため息をついた。と顔に息が吹きかかる。はっと上半身を起こすと、ガシャガシャとプレートアーマーが擦れ身体中に痛みが走った。


 金属のバイザーを手で押し上げる。四角い白い部屋の中。


「ここは……?」


「おっ! 起きたか。ここは俺の家……ってか、俺が作った異界の倉庫」


 黒服に白髪のツクモは壁際で白い木の床にあぐらをかき、膝に頬杖をついてゴーグル越しにコマチを見つめていた。


 コマチは壁にかけられた、巨大な斧、剣、刀、銃などの武器や、棚板の上にずらりと並ぶ鉱石のようなものを見渡し指さした。


「あれは……?」


「トロイダルディスク」


 ツクモの言葉にコマチが首を傾げる。ツクモはベルトバッグからトロイダルディスクを取り出しコマチへ渡した。


「簡単に言うとトーラス状の外部記憶装置ってとこかな。こっちに来た存在とか死んだ人間とかが、異世界に行く時に、このリムーバブル界層へ捨てて行った記憶の欠片。


 捨てられた記憶の欠片が長い時間を経て魔物になって――てか、あの赤い本、読んだんじゃねえのか?」


「まだ半分も読んでなくて……」


「は……まじか」


 ツクモはゴーグルを外して人間の姿のコマチを確認した。黒ずんで傷だらけになったプレートアーマーから、目だけが覗いている。


 コマチはアーマーの手のひらに乗せた、ピンクから橙のグラデーションかかった小石のような物体を眺めた。床に置く。きらきらと内部から輝くドーナツ型のライトのようだ。光を眺めながらコマチは呟くようにツクモにたずねた。


「えっと、確か、本には、人間として生きてる意味があるって書かれてたよね?」


「ん……」


「そんなものあるの? だって人間は死んだら消えるだけでしょ? それに意味や目的を持って人間になった記憶もないし……」


 ツクモはぷっと吹き出した。


「な?! 何笑ってるの?! 人が真剣に話してるのに……!!」

 コマチはアーメットを外し、くしゃくしゃになった髪の毛を手で雑に撫でつけた。


「いや、悪い。俺、異界に来るようになってから結構経つけど、ここで生きてる人間に会ったのは一野が初めてなんだ。


 ネットで検索してもここに来たことあるって奴は海外のやつで、翻訳機の片言英語でやりとりしてたけど、日本でもこっちでも一度も直接出会ったことなかった。


 聞いた感じ向こうがいる異界は、俺がいる界層とは違うみたいでさ」


 ツクモは斧を背中に固定していたハーネス型のベルトを外し、腕を枕に床に寝転び足を組んで裸眼で天井に吊るされた電球の淡い光を見た。


「カイソウ……?」

 話に耳を傾けながら、コマチは革のベルトを引っ張りプレートアーマーを脱ごうと格闘している。


「異界は界層になっててかなり広大だから、知り合いに会うことはまずないって本に書かれてたろ。出会えるのはよっぽど――」ツクモは横目でコマチの顔を見た。(よっぽど縁があるか、運命の人……?)

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