第13話 助けて

「はあ……はあ……」


 眉間から鼻へ汗が伝う。赤黒い異界の崩れかけた煉瓦造りの建物の屋上で杖をつきコマチは息を切らした。

「安全な場所が……ないじゃない!」


 ギャウー


 魔物がすぐ近くの地面で口から火を吹きコマチを探している。


 今日のコマチは重装備だ。全身銀色のプレートアーマーに魔法攻撃の杖。


「暑いし……動きづらいし……見づらいし……!」


 コマチはブツブツ言いながら、下がってきたバイザーを手で押し上げ、地面を蹴って飛翔し、羽の生えた橙とピンクの斑模様の魔物の上空へ停止した。杖を振りかざし呪文を唱える。


「サンダーブレイク!!」


 杖の頭にはめ込まれた青いクリスタルから稲妻が魔物へ向かう。しかし魔物は、小さな静電気をひょいと躱し、羽を羽ばたかせコマチに向かって飛びかかった。


「いや――っ! ちょっと待って待って待ってって! いきなりレベル高すぎるから! まずはチュートリアル――!」


 コマチは叫びながら、走るように空中を逃げ惑う。魔物がオレンジ色の炎を吐き出しながら、コマチを飲み込もうと大口を開ける。コマチのシールドに少しずつ亀裂が入りだした。


 魔物は高く飛び上がってからコマチへと急降下した。地面に叩きつけられシールドが砕け散り、コマチは魔物の足の下で意識が朦朧となった。


 魔物は鋭く尖った爪の生えた鳥のような足でコマチを鷲づかみにすると、上空へ向けて炎を吐き出し羽をばたつかせた。


 上空へ飛び立つ魔物の酔いそうなほどの揺れの中でコマチは身体を捻った。


「う……」


(身体が痛くて力が入らない。小玉白コダマ ツクモもいないし……、もう駄目かも。

 このままここで死んだらどうなる? もしかして現実に戻るだけ? でも髪の毛は白くなってた。


 どうなるの……? 私、死ぬの……?


 嫌だ……、死にたくないよ……。助けて……!)


「助けて……! ツクモ……!」



 ジュシュン



 音速を超え空気が破裂するような震音が赤黒い世界を歪ませ波打つ。


 コマチのかすんだ視界の先に、一辺四メートルの黒い立方体が現れた。



「あ? あれ?」立方体からツクモの声が響く。「俺、部屋で本読んでたはずなんだが、いつの間にか寝てたか?」

 


「ツクモ……!!」

 コマチは力の限りの声で叫んだ。

 

 ツクモは声へ意識を向ける。と同時に人間型に変幻した。

 コマチをつかんだ魔物が赤い空へと遠のく。


「は……お前、コマチか……?!」


 ゴーグル越しのツクモの目が赤く光る。背中から斧を浮かせて引き抜く。投げる。魔物の頭が真っ二つに割れ橙とピンクの光の霧になった。


 空中で支えのなくなったコマチは地面へ落下。


「あ! おい!」

 ツクモは瞬間的に移動し、ひょうたん型のコマチを空中で支えゆっくり着地した。


 ツクモは腕の中で目を瞑って唸っている重装備のひょうたんを見て笑った。

「こんなに着込んでるのに、弱いな……――いてっ!」


 頭にトロイダルディスクが降ってきた。

 

 

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