第11話 相撲
アヤメは学校の正門をくぐり、グラウンド横の道を歩きながら、通学中の生徒たちをキョロキョロ見渡した。前方に肩甲骨あたりまで髪の伸びた少女の姿を見つけると早足になり、その後ろへ距離を詰め歩を揃える。
三年三組の下駄箱。
コマチは上靴を下駄箱から出して外履きから履き替える。土間に、誰かの上靴の片方が落ちている。コマチはため息をついて拾い上げ名前を確認すると『薄木』と書かれた上靴を、片方しか入っていない下駄箱に入れた。
(薄木って変わった名字だ。どう読むんだったっけ? あとで調べてみよ……)
コマチの様子を下駄箱の出入口の木の影から見ていたアヤメは、コマチが立ち去ったあと、『薄木』の上靴のところまで歩いていく。アヤメは、綺麗に揃えて並べられた上靴が下駄箱に入っているのを見ると、「三つ編み……!」と呟きながら、上靴をつかみスノコに投げつけた。
コマチが階段を上がり踊り場を曲がると前方にツクモがいることに気づいた。髪は黒いが、昨夜寝ている間に異界で会った少年と同じ後ろ姿。コマチは初めてクラスメイトの男子の姿をまじまじと見た。
ツクモが三階までの階段を上りきって教室の方へと角を曲がる。コマチが慌てて階段を足早に駆け上がると、後ろから来たソウスケがコマチを追い抜かして行った。
三年一組の教室前の廊下で相撲を取って遊んでいる一組の男子、月岡と菊池が近くの掃除道具入れにぶつかり扉が開き、通りすがりのツクモの方へ数本の箒とモップが倒れてきた。
「おい、ツクモ危ねえぞ」
ソウスケが駆け寄ってツクモの腕を引っ張った。
ツクモは軽く握った手の人差し指を唇に当てながら、
「
と相撲男子二人を睨んだ。
月岡が馬鹿にしたように笑う。
「お前ホントいっつも吃ってんな」
ツクモはムッとした顔で手を握りしめた。
「何だあいつ。行こうぜ、ツクモ」
ソウスケはツクモの肩を軽く叩く。ツクモはため息をついて教室の方へと歩き出した。
月岡と菊池は相撲を再開し「はっきよーい、のこったあ!」と声を上げた。
ツクモはその声にムッとした顔で振り返る。その視界にコマチが眉間に皺を寄せて、足元の床に落ちた箒とモップを拾い上げ掃除道具入れに片付けている姿が映った。
その後ろにはアヤメが曲がり角から半分顔を出してコマチをじっと見ている姿が。
ツクモはコマチの姿を見て一瞬唇をかすかに震わせたが、すぐ前を向いて教室の方へと進んだ。
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