第10話 六月十六日 木曜日
「生きてる……」
コマチはベッドで上半身を起こし呆然と身体の感覚を感じた。
朝の光がカーテンの隙間からコマチへ差し込んでいる。手のひらの光を見つめた。
「生きてる」
(あんなに……消え去りたかったのに。死ぬのが……あの暗闇の中に消え去るのが……あんなに怖いなんて)
洗面所へ向かい、顔を洗い歯を磨く。鏡に映る自分を見つめコマチは固まった。
「白い……」
異界で削ぎ落とされた右側の横髪が白くなっている。自室へ戻り、極太の黒ペンで白髪に黒を塗る。手鏡で確認。
「多少はごまかせた……かな」
コマチは心配になり、白髪の部分に周りの黒髪を混ぜ込み三つ編みにした。制服に着替え鞄を肩にかけ、一階へ。
テレビの音。
(お母さん、またつけっぱなしで寝てる)
コマチは足元の床に落ちていた眼鏡を拾いテレビの前のローテーブルの上に置く。
その隣りにあるソファで寝息を立てている母親。コマチは母親の下敷きになっているリモコンをそっと抜き取り、テレビをオフにしリモコンをローテーブルの上へ置いた。
ダイニングのテーブルに置かれた弁当と水筒を鞄に詰め込み、玄関へ向かい靴を履く。
ドサッ
母親がソファから落ちる。
コマチはため息をついて「行ってきます」と小声で呟き玄関の扉を閉めた。
「痛たた……」
ソファから転がり落ちたコマチの母モモヨは、頭を撫でながら起き上がった。瞼を擦り、辺りを見渡し、ローテーブルの上の眼鏡をつかみ耳へかける。
ダイニングテーブルの上がからになっているのを確認するとニッコリと微笑んだ。
モモヨが化粧をし服を着替え終わるとスマホが鳴った。モモヨはスマホを耳に当て話す。
「もしもし、どうしたの? ……うん、みんな元気よ」
モモヨはコマチの部屋の中へ入り、綺麗に整頓された部屋の中を見渡し、ごみ箱の横に落ちているくしゃくしゃになった紙くずを拾い上げた。紙を広げる。
九十九点と授業参観の案内。
「いらないって言ってるでしょう。そんなこと言って。また怒られるわよ。……うん、またね」
モモヨはスマホと折り畳んだプリントをショルダーバッグの中へしまい肩にかけ、リビングダイニングへ降りてテレビをつけた。
「テレビさん、今日もよろしく。行ってきます」
そのまま玄関へ向かい仕事へ。
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