第8話 ひょうたん型

 コマチが銃を握りツクモに向けて構えようとした瞬間、二人の間に地上から青い火の手が上がり、ドスンドスンと巨大な瓦礫の塊が移動する音が響いた。


 ツクモは後方に飛び上がり、塊に向けて斧を投げつける。瓦礫が砕けて飛び散り、中から青く光る大きな蛾のような魔物が現れた。


 魔物は「キュキュ」と鳴き声をあげながら素早く辺りを旋回し、ぼんやりと浮遊していたコマチに狙いを定めて飛びかかった。コマチは蛾の足に絡め取られ、崩れかけた煉瓦の建物へと急降下する。


「い……いやあ――!! (死ぬ――)」


 コマチは落下の恐怖に目を閉じた。


 ガッ!


 地面に打ち付けられたコマチはゆっくり瞼を開ける。斜めに倒れた壁へ斧で磔にされた魔物の羽根がバタバタと揺れながら光の粒になっていく。


 魔物は完全な粒子となり、一箇所に集まると、真ん中に穴のあいた三センチメートルほどのドーナツ状の物体に変化し、コマチの目の前の地面にカキンと落ちた。


 鉱石のように自然な凹凸があり美しく青い光を放っている。


 コマチの方へ、ひび割れた大地の砂利を踏む足音が近づく。少年はドーナツ型の物体の前で立ち止まり、拾い上げた。


「お前、さっき喋ったか?」ツクモはコマチを見下ろしながらたずねた。「魔物が話をするのは初めて見た」


「は……はあ?」コマチはゆっくりと立ち上がり、膝についた砂利を払った。「私、魔物じゃないんだけど。どう見ても人間でしょ!」


 ツクモはベルトバッグの中へ青く光るトロイダルディスクを突っ込むと、コマチを上から下まで何度も眺めた。


「何言ってんだ? だってお前、ひょうたんの魔物だろ?」


「はあ?! なわけ――」


 ツクモは地を蹴ってコマチの直ぐそばまで瞬間的に移動し、コマチの顔を撫でた。


「ははっ、ツルッとしてんなー。よく見ると、瞳が緑で魔物のくせに可愛いな。そういやあ、無害な魔物は絶対に斬るなって師匠が言ってたっけ……」


「〜〜〜〜?!?!」

 コマチは口をパクパクさせて固まった。


(『……したかった。

 地球では、…………が自由に出来るのだろうか』)


 ツクモの頭に声が響く。

「ん? ……なんだ? 変だな」

 ツクモは周りに視線を投げた。 


「ちょっと! 何するの?!」コマチはツクモの胸を手のひらで押した。「変なのはあなたでしょ?! その変なスノボゴーグルのせいで目が見えないんじゃない?!」


 コマチに押され斜め四十五度になっていた身体をフワリと立て直しツクモはニヤリと笑った。


「あ、これね。格好いいだろ。俺がデザインしたんだ。これはスノボゴーグルじゃねえ。スマートグラス。物体の本質を見ることができる。魔物がどこに隠れていても見つけられるんだ」


 ツクモは得意気にフレームレスの暗い虹色ゴーグルを目から外し頭に引っかけ、コマチの方へ視線を向けた。

「?! お前……人間?! なんでひょうたん型だったんだ?!」


「それ私の本質がひょうたんお化けってこと?!」


「あれっ、なんかお前見たことあるな……、はあっ?! ていうか……え?! いや、その格好は……」

 ツクモは裸眼でコマチを凝視してから、ハッとしたように視線をそらした。耳と顔が赤くなった。

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