第7話 異界での邂逅

 ブーン。


 耳元で蜂の羽音のような奇妙な震音が響き、コマチを震わせる。


 暗闇の中、コマチの意識がぼんやりと開いた。


(苦しい……。けど、小さい頃から寝てる時、たまに見る暗闇とは、少し違う)


 全身が振動し、ぼんやりとした仰向けに寝ている感覚があるが、動くことはできない。コマチは無理矢理ぶんぶんと身体を回転させるように意識を揺らし闇から剥がした。


 ヒュッと浮遊感を感じ、眼下に自分の身体が眠っている姿を見た。あたりは暗闇。


(体外離脱? ……それとも、私は死んだ……? なわけないか)


 彼女は手の感覚を思い出し、腰にぶら下げた銃の感覚を探った。


(あった)


 ヒヤリとした硬い鉄の感触。と同時に周りに光があふれ、少し薄暗い自分の部屋の風景となった。

 ゆらゆらとした風景は蜃気楼のようにコマチにまとわりついている。


 魔術が成功しホッとするコマチ。ガッツポーズ。


(よし! 私は霊の世界に行って、自分が人間として生まれた意味を見つける!)


 コマチの頭がある辺りの感覚の位置に、少し高トーンの小さな自分の声が響く。


 瞬間。


 彼女の霊体は、屋根をすり抜け夜空をすり抜け剛速球のように加速的に移動し、バリバリバリッと窓ガラスを何枚も突き破るように突き進んでいった。


 砕け散る破片が辺りを漂い星の欠片のように煌めく。


 一瞬暗転し、停止。



 一面、広大な赤い空、赤黒い大地。


 所々に崩れた煉瓦の建物。広がる荒野。枯れた木々の枝に、朽ち果てたボロ布が引っかかり棚引いている。


 地面のところどころから火が上がり、奇妙な動物の鳴き声が響く。

 コマチは空中に浮かんで停止したまま眼下の荒地を眺めた。


 突如。


 ズドーン!


 轟音が辺りを共振させる。


 バスン! バキ!


 何かがぶつかる音が響き、空に火の手。その周りを黒い物体が高速で移動している。コマチは銃に手をやり、身を翻し素早く近くの建物の影へと降りた。壁に体を貼り付け、そっと音のする方へ目を覗かせる。


 ギュラララッと回転した物体がコマチに影を作っていた建物へめり込み微塵の粉を撒き散らし切断される。斧が、とっさに避けたコマチの髪を一束削ぎ落とし地面に突き刺さった。


 削ぎ落とされた髪の毛の束が白い光を放ちながら粒子状の霧に変わり、キュンと一センチメートルほどの球体に変化した。


 コマチが手を伸ばすと、その球体は手のひらへと転がり落ちた。モザイクシェルのように虹色に白く輝く球体だ。


「そこにいるな! 逃げんなよ!」


 少年の声が赤い闇に響く。


 コマチの目の端に黒い影がサッと舞う。見ると黒い着衣、白髪、暗い虹色のゴーグルをかけた少年が近くに浮いていた。彼は地面に落ちた斧へと手をかざし、手の中へ斧を引き寄せ握りしめると振りかぶった。


「ちょっと待って!」

 両手を広げコマチは大声で怒鳴り、空中へ素早く飛翔した。


 ツクモはコマチを見上げ首を傾げた。

「喋った……?」

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