最終章 ひかりの中で。
第1話
村を出てから二日後、私は東京にいた。空まで届きそうな程に高い建物に、どこを見渡しても視界に入る沢山の人たち。車の走行音は内臓にまで轟きそうな程に大きく、息を吸う度に香水と行き交う人たちの体臭、そして車の排気ガスが入り混じったような匂いで肺は満ちていく。まるで異国の地に降り立ってしまったかのような錯覚を覚え、物珍しさよりも先に気疲れしてしまいそうだった。
「じゃあね新奈、私は外で待ってるから」
ひらひらと手を振りながら、路肩に停めていた車に乗り込もうとする凛花さんを引き止めた。
「凛花さんも一緒に来てくださいよ。私、一人じゃ心細くて、それに証言なんてしたことないし」
「大丈夫。近藤さんは信頼できる人だから。私が保証する」
凛花さんはふわりと笑いながら私の肩に手を置き、くるりと身体の向きを変えさせた。目の前には古びた雑居ビルがある。
「私がいたら話しにくい事もあるかもしれないし、証言って難しく考えずにただ見たことを話せばいいの」
「本当ですか?」
「うん。新奈だって、この世界にもし自分たちと同じような目にあってる人がいるなら助けてあげたいんでしょ?」
問い掛けられ、私はちいさく頷いた。もし私たちと同じような目にあっている人がいるなら、これから合う可能性がある人がいるなら、私は助けになりたい。それは、とうに決意していたことだった。
「じゃあ、行ってきます」
凛花さんに手を振り別れを告げてから、私はビルの中へと足を踏み入れた。
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