第3話 欲望都市、ヨクボーン

 魑魅魍魎が住まう欲望都市ヨクボーン。

 トラックの運ちゃんは、その欲望都市に奴隷を運ぶ仕事をしていた。

 奴隷と聞いてオジェネは最初びっくりしたが、トラックの運ちゃん曰くクリーンな奴隷業らしい。

 この国では罪を犯し、悪さをした人間を合法的に奴隷化させて再利用するような事ができるらしい。

 ほかにも欲望都市に群がる富豪向けのオークションの品とか、便利な薬剤も運んだ事もあるとか。


 オジェネがトラックの助手席に座ると、運ちゃんは機嫌よく色々と喋ってくれた。

 車の事や道路の事、街頭の事やら、町の生活事情など、それはオジェネが知る常識を大きくかけ離れたものだっただけに嬉しい情報ばかりであった。


 ちなみにフェアリードラゴンの居場所については知らなかった。


 ただ、近年は大規模なフェアリードラゴン狩りにより個体数がめっきり減って見かけなくなったらしい。

 何でもフィクサーノ製薬という組織が万病に効くフェアリードラゴンの心臓を独占しようと高価格で市場から買い取り始めたのがきっかけで、ドラゴンバスター業者が乱獲してしまったのだという。

 もういないかもと不安に思っていると、今、向かっている欲望都市には色んな情報が集まっているらしいから、そこできっと何か分かると運ちゃんは太鼓判を押してくれた。


 欲望都市に降り立ったところで、お礼の品としてオジェネが見せたなけなしの硬貨と紙幣に運ちゃんは驚いた。


「こいつは何時の代物だ? 歴史的な価値がありゃ、換金できるかもしれんがな。うん? その荷物のそれなんだ」

「これ?」


 バックパックからはみ出ていた銀色の鉄板を、運ちゃんは指差していた。


「鉄板だよ」

「鉄板……?」

「うん。この上で肉とか焼いてたんだ」

「ほーん。ずいぶん不格好な鉄板みてぇだが……ちょっと見せな、坊主」


 運ちゃんは目を細めて、その代物を睨んだ。


「うーん。俺の勘がささやいている。こいつは魔銀だ。しかも高純度と見た」

「魔銀?」

「ああ。魔法の通りがよくなったり、逆に魔法を受け流す避雷針とかにもなる高級品だ。色んな軍やギルドの武器や防具にも採用されている素材だぜ。俺もトラックの運ちゃんする前は軍にいたんだよ」

「へぇ……」

「しっかし、良い輝きだ……こいつは良い値張るぜ。坊主、気を付けな。こいつは人に見せちゃいけないぜ」


 運ちゃんの忠告は絶対。

 オジェネは、分かったと返事した。


「でも運ちゃんに乗せってもらったお礼はしないと」

「しゃーないな。じゃあ、この魔銀を俺が質屋に入れてお金にしてやるよ。それを分けよう。もちろん、俺はちょっぴり多めに貰うぜ」

「ほんとっ!? お願い……ッ!!」


 運ちゃんは優しくも、この魑魅魍魎が闊歩する質屋でお金を作ってくれるらしい。

 オジェネは何も考えずにお願いした。


「ほら、坊主。大金だ。これで今月は女と遊び倒せるぞッ!!」


 質屋で換金し終えた運ちゃんは鼻歌を歌う程ご機嫌になって、オジェネにお金を渡した。


 見たことないぐらい紙幣がいっぱい手渡され、オジェネはすぐに紙幣をバックパックに詰め込んだ。

 これで旅の資金ができたと思って嬉しくもあった。


「はははっ!! 人助けはするもんだな。じゃあな、坊主。まずは服を買っとけ。それとくれぐれも闇ギルトには気を付けろよ」

「わかった。ありがとう、運ちゃん」


 運ちゃんと別れた後、オジェネはカジノ街をさまよった。


 ネオン輝く欲望都市。

 看板からキラキラと輝いてくる光が眩しい。

 高層ビルの窓から漏れる光は、夜空の光を取って代わって塗り潰している。


 一方、地表は地表で路地裏はやけに暗かったり、たまに窓が開けっぱなしの建物から女性の悲鳴のような声が聞こえたりした。


 そんな少し怖い街中を、おどおどした足取りで進んでいたオジェネは一軒の店の前で足を止めた。


 そこはチカチカと目が痛くなる眩さを放つ派手な看板を掲げた欲望都市工認のギャンブル店。


 オジェネはお店に入ろうか迷って、店の外から中の様子をうかがっていると、ぞろぞろと店の中から人が出てくる。

 あっという間にオジェネは屈強な黒服のお兄さん達に囲まれた。


「えっ!? なになに?」

「何用でしょうか」

「ぴかぴか綺麗だから入ろうかなって思って」

「失礼ですが、お客様。入る場所をお間違えではないでしょうか? スラム街はあちらです」


 屈強なお兄さんは暗い通りを指す。

 良く見えないと、オジェネは目を凝らす。


 何か目がうつろで瓶を抱えた人がいた。

 近づいちゃいけないと、オジェネの本能が警告する。


 オジェネはお金を取り出して見せた。

 運ちゃんに聞いた。

 この欲望都市ではお金が全て。

 お金を出せば解決すると。


「ほら、お金」

「っち。こいつやってやがる。窃盗だ。どこで盗んできた。おい、こいつを留置場にぶち込んで、奴隷オークション送りにしろ」


 屈強な男のリーダーらしき人の指示によって、オジェネはあっという間に牢屋送り。

 ついでに荷物もお金も取られた。


「……え、ええええッ!? 僕、無実。無実なんですぅッッ!!」


 鉄格子造りの簡単な牢屋。

 でも少し鉄格子の造りは収容用なのか太い鉄棒が使用されている

 その牢屋で叫ぶ少年、オジェネ。

 しかし周りからの反応は何もない。


 がしゃんがしゃんと牢屋を鳴らし続けると、側面の壁が強く揺れた。

 壁ドンだ。


「おい。うるせぇぞ、小僧」

「えっ。誰?」

「誰だっていいだろ。こっちは気分がわりぃんだ。少しは黙っとけッ!」

「え……うん。分かった……」


 どすの利いた低音ボイスの隣の住人。

 怖くなったオジェネは三角座りをして、帽子のもこもこを楽しみ始めた。

 荷物は奪われたが、帽子はなぜか無視された。

 オジェネの荷物が奪われた際、男達は荷物の中の大金に目が奪われたようで、どう山分けしようかと話すのに必死で見逃されてしまっていたのだ。


 その内、うとうとと眠くなってきたオジェネは眠りについた。



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