第8話 冒険者

 稀代の冒険者、レヴィ・クィメルシス。彼を讃える声は枚挙に暇が無い。

 "魔法学校の麒麟児"、"最も真理に近づいた男"、"100年に1人の天才"。

 "紫電の閃光"…は、誰も呼んでいない。


 ある農村で貧農の子として生まれた彼は、凄まじい魔法の才覚を見出され、そこの領主に養子として引き取られた。その際、彼がどんな魔法に適性があるのか血筋を調べられたが、どれだけ辿っても魔法使いに行きつかず、後に呼ばれる"神の落とし子"という異名の由来となった。

 ……ちなみにこのエピソードは非常に有名で、多くの庶民の希望の星として市井でも語り草になったらしいが、私の村では話題に上がったことは一度として無かった。クソ田舎すぎる。


 その後、魔法の才能を磨くため魔法学校に入学し、一年生の時点から全生徒の中でトップの成績を修めるも、16歳での卒業を目前にして、問題行動から退学処分を受けたある生徒とともに魔法学校の地下で秘匿されていた魔導書1冊と魔道具2つを持ち去って夜逃げ。

 あと5年…長く見積もっても10年も魔法の研鑽を積めば当代随一の魔法使いとなったであろうことは疑いようがなく、魔道を極めることに人生を捧げれば史上最高の魔法使いとして歴史に名を刻むことすら夢ではないと思われた矢先の出来事であったため、魔法使いの間では凄い騒ぎになったらしい。


 それ以降は冒険者として活動を続け、この国に留まらず世界中を飛び回り、現在18歳にして冒険者になってから2年間で未踏破だったダンジョンを25も攻略するという前人未踏の記録を達成している。しかもその内の2つは100年以上難攻不落であったという。


 現在のレヴィの評価としては、問題児ではあるが功績の方が大きく、世間一般的には英雄視する見方が大勢を占めている。

 ちなみに魔法学校から色々盗んだ件は、魔法学校サイドも後ろ暗いところがあるらしく公になっていないため犯罪者ではない。


 彼についてここ最近調べたことと、前世の記憶による補足を組み合わせるとこんなものだ。


 …レヴィのことを私は詳細に知っている。なぜなら、"ファンタズムローグ"の主人公として活躍していたからだ。



 ◆



灰纏サンドリヨン!」


 レヴィが踊るように宙を舞いながら、どこからともなく取り出したゴテゴテした大鎌を振りかぶる。

 自在に空中で方向転換しているし、静止もしている。魔女以外で跳躍ではなく完全に飛行する人間を見たのは初めてだ。…確か、靴に仕込みがあったはずだ。


 鎌の刃が刺さると同時に、刃元から炎が噴き出す。


「刹那の時を踊れ!」

 

 その言葉と共に爆音が発生し、眷属の体が内側から弾け飛んで崩れていった。

 ものの数秒の出来事である。


 その光景をどこか現実感の無い感覚で眺めながら、胸中を落ち着かせることを試みる。


「どうした、流麗なる剣士よ。我の妙妙たる戦技に見惚れたか?」


「……あぁ、いや…違う」


 納刀し、眉間を押さえて立ちすくむ私にレヴィが問いかけてきた。それに生返事を返しながら、平静を取り戻すことを試みる。


 私は今、衝撃を受けていた。彼の登場にではない、自分の心情にだ。




 あまり、ワクワクしていない。


 主人公であり世界の中心たる彼に直接遭遇したら、何か響くものがあるものだと思っていたのだが、大して高揚感を感じない。ファンとして作品を読んでいた時の記憶が蘇ってくる感覚はあるが、初めて作品に触れた時の面白いと感じた感情もさして湧いてこない。

 そもそも"ファンログ"に熱を入れていた訳ではないからだろうか。転生した後の人生の方が長いからだろうか。

 それでも、ここが漫画の世界であると気づいた時から少し楽しみだったのだ。この2ヶ月強、レヴィの活躍を調べたりしたのも期待があったからだ。何かを私に齎してくれるんじゃないかと思っていた。信じていたと言ってもいい。


 …だって、これじゃあ、私がこの世界で娯楽とすることができるのが、殺し合いしか無いみたいじゃないか。


「…本当に大丈夫か?診療所の方へ案内しようか?」


 レヴィが少し心配した声色を乗せて改めて聞いてきた。

 小さく手を振って平静を装い、頭を振って雑念を払う。


 何にせよ手が回っていない魔女の眷属を倒した今、やることはジークと合流することだ。レヴィと出会ったのは偶然で、そこから発展することは特に無い。そもそも彼が近場にいることは把握していたのだ。今日この場で会うことは予想外だが、近いうちに会う可能性があることは十分理解していた。


 移動する前に、気になっていることについて聞かなければ。

 彼は冒険者になってから、1人の竜人ドラゴニュートとともに行動をしている。まあ、有り体に言ってしまえばヒロインだ。彼女はどうしたのだろうか。まさかそこが変わったとなれば大問題だ。


「今、1人?相方はどうしてるの?」


「…アンナのこと知ってるのか、オレばかり有名であんま知名度無いと思うんだけど…オレのファン?……我が相棒は今は眠っている。昨日までの"フリアネスカ大図書館"の攻略で魔力を使い果たしてしまったからな」


 レヴィは、私が自分のことをある程度知っている人間であろうことに、ちょっとがっかりした様子でそう答えた。

 特に何も無いなら良い。


「あなたがここに来たのは何で?無報酬なのに」


 レヴィは我欲で動く人間だ。自分にも火の粉が降りかかる可能性があるとはいえ、緊急事態に王都のため善意で助けに入るタイプでは無い…と、物語を読んでいた限りだと思う。


「……あんた、見ない顔だけど誰からオレのことを聞いてんだ?純粋に人助けのため、とは思わないのか」


 しまった、踏み込みすぎたか。


「…まぁいいさ。近くに宿を取ってるんだ。警鐘が鳴った時は疲れてるし色々整理していたしで動かなかったけど、こいつが建物を壊す音が聞こえてきてな。被害が及ぶのもアンナの安眠を妨害されて不機嫌になられるのも嫌だから飛んできた」


 私がフラットに接しているからか尊大な口調が剥がれている。それとも、自身のパーソナリティをある程度知っている人間だと判断したからか。


 その時、強風が南から吹いてきた。

 まだ時間帯としては日が出ているはずだが、空が夜のように暗くなっていく。

 会話を打ち切り民家に登って風の発生源を確認する。レヴィも、空を飛んでそちらを見ていた。

 この風は吸い込むように吹いているのだろう、北側にその元凶が確認できた。


 何かが、動いている。距離感が掴めない。大きすぎる。

 目を凝らし、その全体像を何とか把握する。


 天すら貫く威容の雲の巨人が、鎌首をもたげ、立ち上がろうとしていた。数歩歩くだけで王都を平らにすることができるだろう。妙にジークが手間取っているのもアレが原因か?あんなの人間が相手するような存在とは思えない。


 しかし、それでも行かなければならない。ジークに来いと言われたからというだけではない。

 どうやれば打倒できるのか、考え始めてしまった。もう止められない。


「……これは、嵐の魔女か。……確か奴は朱厭の心臓を入れた首飾りをしていた…欲しいな」


 レヴィが小さく笑って、私のことなど目もくれず文字通り飛び出していった。急いで私もその後を追って走り出す。

 建物の屋根を伝って何とか追いついて並走する。レヴィもそこで私に気づいたらしい。


「ついてこない方がいい!死ぬぞ!」


「残念なことに、怖気づいて行かなかったらそれはそれで殺されるんだよね!」


 風の音が大きくなったことと、強くなり始めた雨の影響で音が聞こえづらい為、大声で会話をする。


 …妙だ、私の全速程度と同じとは。


「遅くない!?魔法を使って加速しないの?」


「貯蔵していた魔力はほとんど無い!新しく練ろうにもあの巨人を作るために使われてるのか、大気の魔素の濃度が著しく低くなってて難しい。温存しないと彼奴の相手はしんどいかな!」


「私の前に登場した時は魔法使ってたのは!?」


「そっちの方がカッコいいだろ!」


 その時強風に煽られた瓦礫が遠くから飛んでくるのが感知できた。かなり大きい、早く躱さないとミンチだ。


「ルツの尾!」


 レヴィがそう言うと同時に瓦礫を鞭のようなもので絡め取り、巨人の方へ向かって凄まじい勢いで投げ返した。

 回避行動を取っていたら遅れていたからありがたい。何だかんだで守ってくれる善性はあってくれるようだ。


 レヴィが道具を使う際に一々名前を呼ぶのは、彼が自らの空間に仕舞ったものを名前で結びつけることで即座に取り出すことができるようにしているからである。

 自分のみが干渉できる異空間を作る魔法を実用化できているのは歴史上レヴィだけであるため、この事を秘匿しており名前を呼んでいるのは対外的にはカッコつけのためということになっている。

 疑われないためにも、感謝するついでに適当に調子を合わせておくか…。


「流石"紫電の閃光"、貴殿の秘宝はどれも美しいな!」


「…!フハハハ!分かっているではないか!我が深淵なる宝物庫の一端を拝謁する名誉を与えよう!」


 私が合わせたのに呼応して彼も登場した時と同じノリに乗る。私のそれが演技だということはわかっているだろうに、調子のいい男である。


 戦闘音が下の方から聞こえた。誰かが戦っている。例の騎士団と魔女の眷属がぶつかっているところだろう。


 …人間は30人ちょいくらいで、眷属は8体か。雨が強くなった影響なのか自分が接敵した個体より強くなっているように見えるが、流石に本隊だけあって抑えられているようだし、助けには入らなくていいか?


「【轟け】!」


 その言葉とともにレヴィの手から雷が迸り、眷属全てに正確に直撃する。時速数十kmで飛行しながら飛び回る眷属だけを打ち抜き、その至近距離で戦闘していた騎士には一人も当てていない、正に神業だ。…ん?いや、おかしい。


「さっき魔力不足って言ったばかりじゃ!?」


「さっき貴様に無礼なことを言われたからな!この程度児戯に等しい!そんな風聞、蹴散らしてくれる!」


 そう言って下に降りていく。

 私が彼の性格を把握しているのは神の目でモノローグ含め見てきたからであるが、確かに世間ではそんな風評無いし、彼も自分の英雄然としたそれにプライドがあったのかもしれない。悪いことをした。


 しかし、どうする。レヴィは放置して私一人で行くか。

 まあそれでもいいが、ジークすら手間取っている相手だ。彼が非常に大きい戦力である以上こっちを片付けて一緒に行った方が総合的には早く終わるか…?

 私も建物から飛び降りて、隙だらけな眷属を1体切り伏せる。


「とっとと始末するよ、英雄様!」


「分かっているさ!縛逆槌!」


 レヴィは鎖の両端に分銅をつけたような見た目の道具を取り出す。

 意思を持つかのように自在に動き、まとわりついて眷属の動きを封じた。私がそこを片付ける。

 即席にしては悪くないコンビネーションじゃないか。


 元々均衡を保っていた場であったためか私たち二人でそれを崩し、あっけなく終わった。


 感謝の言葉を背にしながら走り出し、少し手間取ったが雲の巨人のもとへ辿り着いた。


 その存在を認識してからそれなりに経っているが、元のしゃがんだ状態から立ち上がってこそいるが、今は静止している。その理由はすぐ分かった。


 足元で二人の人間が動きを妨害している。立派な鎧を着ているし、おそらく上級騎士だ。魔法も使い、地形を崩したり炎を発生させたりして自由に身動きを取れないようにしているらしい。

 そしてその二人に大量の眷属──先程見たような個体ではなく、水によって形作られた化け物たちが襲いかかっている。


 ジークの姿は見えない。そんなに眷属は強く見えないし、巨人の動きは緩慢だ。彼に限って死んだなんてことは無いだろうが…。


 足元に近づいて加勢して、彼らを少しでも動けるようにすべきか。


「飛べ!」


 レヴィの声だ。反射的にその場から飛び上がる。騎士二人もとっさに跳ねた。レヴィは突撃しながらさっき使っていた大鎌…灰纏サンドリヨンを大きく回転するように振るう。

 一瞬遅れて爆音が耳をつんざくと同時に、水煙が吹きあがった。それが数秒で晴れると、その場にいた眷属があらかた蒸発していた。


「貴様らは泡沫の夢…我が奏でによって覚醒し夢幻より解放されるがいい…!」


「…?助太刀感謝する。しかし…少ししたらまた湧き出てくるぞ、警戒を怠るな」


 私もそこに追いつき、会話に参加する。


「ジークがどこにいるかは分かる?」


「ジーク殿はあの巨人を魔女が作った時の突風で一度分断されてから見ていない。我々の予測ではあの内部にいるのではないかと思うのだが…」


 …そうは思えない。ジークが剣の間合いに入って負けるわけがない。何かを狙っている。


 そのタイミングで、巨人の足元から眷属が湧き上がってきた。

 それを凌ぎながら、レヴィや騎士が隙を見て足を僅かに削るが、あまり効いているようには見えない。これを繰り返すしかないのか?


 突破口を探していると、水でできた竜二体が襲いかかってきた。一体だけなら余裕だが、二体を相手取るのは危険性が高い。上手いこと動いて三人の手も借りれるよう動くか…。


 そこまで考えたところで、銀の短剣が水でできた竜を吹き飛ばした。そしてその速度のまま私の脇を抜け遥か後方に飛んでいく。




 ──ジークが、こちらを把握している。

 彼が何も無しに私を助けた?違う。…短剣の軌道、速度、それらが何より雄弁に語っている。


 私が帯から短剣を抜き放ち、空気の流れを何とか読みながら投擲する。


「レヴィ!私が短剣を投げたところの雲を開けて!」


 投げた短剣は腰の辺りに消えていった。目算からは僅かに逸れたが、まああれぐらい大丈夫だろう。


「ハッ!我を補助に使おうとは、傲慢だ!」


 レヴィがそう言うと同時に、空を飛んで巨人の正面に仁王立ちした。空気が大きくうねり始める。


「【滴る月、碧き歯車。巡れ】!」


 詠唱を終えると、それまで吹いていた上昇気流が明確な指向性を持ったものに変わる。レヴィが風の流れを操っている。


 その時点でもう私…というか大抵の人間は動くこともできなくなった。この場で動くことができるのは、この状況を支配しているレヴィと、おそらく巨人の内部にいる嵐の魔女と──あと一人くらいだ。


 巨人が僅かに体勢を崩すが、その程度で止まる規模では無い。煩わしく感じたのか、レヴィに向かって腕を振り下ろしてくる。当たれば死は免れない。




「だが傀儡となり舞台で踊るのも、偶には悪くない」


 しかし、そのタイミングで雲でできた巨人に小さな穴が開く。私が指示した地点ドンピシャ、流石だ。


 その隙間を縫って何かが巨人の中に突っ込むと同時に、空が二つに割れた。


 割れた雲の間から差す一筋の光明が、燃えるような赤毛を照らしていた。



 ◆



「セツナァ、遅すぎ。『俺のもとに走ってこい』って言ったよな?なに雑魚にかまけて道草食ってんだ」


 嵐の魔女討伐が終わってジークのもとに駆けつけるなり、いきなり叱責された。

 そういえば確かにそう言われていた気がしなくもない。とはいえ、私にも言い訳をする余地はある。


「それは…私が眷属を倒さないと、民間人に危害が及ぶと思ったのと、ジークのところに急いだところで大して役に立たないと思ったから」


「よく言うよ、どうせ俺抜きで戦いたかっただけだろ。俺がいたら俺の盤面の駒になって自分が戦場をコントロールできないからって、自分勝手なやつだ」


「その戦い方を教えたのはあなたでしょ…体の動きはともかく思考や盤面制御の練度を上げるにはジークがいたら基本無理だし…」


「魔女は本体を倒せば眷属も消えるんだからとっとと殺すのが肝要だ。眷属は一時的には退けられてもほぼ無尽蔵に出せるからな。それに、お前が一直線に俺のところに来てたら、もっと早く…それこそあのデカブツを出す前に殺せてた」


「…それが本当とは思えないけど…反省する」


「まぁ、勝てたからいい。それに最後のあそこはよく俺の意図を察した、偉いぞ」


 レヴィは、いつの間にか消えていた。

 ちなみに嵐の魔女の首飾りも無くなっていたらしい。ちゃっかりした男だ。


 ジークがレヴィのことをどれくらい知っているのか、少し気になったため聞くことにする。


「そういえば、さっき戦ってる中で冒険者のレヴィと話したよ。知ってるよね?」


「さっき使わせてもらったんだしそりゃな…"蒼天"のレヴィ。俺ほどじゃないけど有名人じゃん、サインでももらったか?」


 ジークはぶっきらぼうに返してきた。

 "蒼天"は彼の異名の一つ…確か自称した二つ名の中でも最初のやつだったっけ?今は使ってないはずだ、呼ばれて恥ずかしがる描写があった。情報も更新してないのか。


「あんま興味ない感じなんだ」


「そりゃまあ…活動圏が被ってないから正直よく分からないんだよな。普通に世間で言われてるような評判と、今自称してる二つ名がクソダッセェことくらいしか知らん」


「…こう言ったらなんだけど、二つ名に関してはジークも同じじゃない?基本的には他称だけど、自分で名乗ってることもあるでしょ」


「"音断ち"は国から与えられた正式な称号で公的な文書でもちゃんと書かれてるし、何よりカッコいい。一緒にすんな」


「…ツッコまないよ」


 私のレヴィのことを話したのをキッカケに、"燃える玉虫亭"に戻る道すがら彼についての話をすることになった。

 二人ともビシャビシャに濡れているが、賭けの勝ち分を徴収するのが最優先らしい。


「それに、レヴィは最強の冒険者なんて持ち上げられてるが、そもそも冒険者なんて能力があるマトモな人間はやらないからなぁ」


「そうなの?強い人がやれば、誰にも縛られずに儲かるみたいなイメージある。もちろんうっかりで命を落とすことが多いっていうのも知ってるけど」


「魔神との戦争が終わった直後は、奴らが作った比較的簡単で財宝が多い遺跡やらで一攫千金を掴んだのも多かったらしいが、今はもうほとんど当時のやつは掘り尽くされてるし、残ってるようなやつはリスクとリターンが釣り合ってない。ロマンがあると言えば聞こえはいいが、結局のところ何も持たない人間が一発逆転っつう甘言に惑わされて命を散らしてるだけだ」


 なるほど…御伽話とかでは冒険者の話をよく聞く割に、この王都で戦闘ができる人の中にもそんないないのはそういう…。


「でも最近ちょっと増えてるらしいじゃん」


「それはレヴィのせいで若干大衆からのイメージが華々しくなったからだな。本質は変わらん」


 ジークがマトモな人間であるかというところには一考の余地があると思うが、確かに王都で見た冒険者というのはガラも悪くこの世界の花形と言うには泥臭い印象であった。


「新しく自然に形成されたものや魔女や魔法の残滓によって作られたものは、攻略したところで金に直接的に繋がる宝があるとも限らないしな。もっと言えばダンジョンを踏破できるような実力を保持している人間は、そんな非効率なことしないでもっと楽に稼げる。500年前に終わってんだよ、冒険者が財宝を追い求める時代は」


 ジークは私に対して何を隠す必要もないし、忌憚の無い本音を言っているんだろうが、凄い冒険者ヘイトだ。いいのか、主人公の職業をそんな風に見て。

 …これはあれか。多分最終的にレヴィに絆されて『悪くねぇじゃねぇか…冒険者ってのも』って言うパターンのやつだな。




 ここまで話したところで何かの可能性に思い当たったようで、弾かれた様に顔を上げて私を見た。意外なほど変な…焦った?顔をしている。


「まさかお前、レヴィを間近で見て憧れたとかふざけたこと言うんじゃないだろうな」


 かなり真剣に言われたため、万が一にも誤解されたままにならないようにするためにも急いで否定する。


「そんなことないよ、そもそも私は彼みたいに魔法使えないし魔道具も持ってないし」


「いやホント、絶対に止めろよ。冒険者のための技量を磨いてたりダンジョンなんぞにうつつを抜かしてたら強くなれねぇから」


 ……これ、私の身や将来を案じてるとかいう訳じゃ無いんだろうなぁ。



 ◆



「はぁ!?負けってどういうことだよ!あの手札ならイリディッシュが成立しただろ!捨て札からしてサフされることも無い!」


「あの後フィッチがツニクを宣言して成功したんだよ」


「何言ってんだ、セツナが応じる訳ないんだからツニクは不成立だろ!」


 何語?確信できる、このゲーム絶対流行ってない。

 というか本当に醜い奴らだな…というか、こんな大規模な非常事態なのに呑気に賭け事続けてたのかよ…。


 私は今直面している重大な問題から目を逸らして、ジークたちのテーブルの会話を聞く。


「そんなに疑うなら本人に聞いたらどうだ?」


「聞ける状態じゃなくなってから言ってくる卑怯なゴミどもがぁ…!店主も抱き込みやがって…!」


「お前だって囃し立てたじゃねぇか」




「出された料理は食べきってくれよ」


「オァッ…ヴェッ…」


 魔女や魔神なんぞより100倍手強い…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る