第27話:カオティックリキッド


「こんばんマジナ~! リインちゃんネル! はっじまるっよ~!」


『マジないわ~』

『マジないわ~』

『マジないわ~』

『マジないわ~』

『マジないわ~』


 はい。というわけでね。リインちゃんネルが始まるわけだが。


『今日はワイルドワールドの案件ですか?』


「そのつもりはないっすけど。一緒してますっす。はい」


 で、まぁ企業案件以来、二度目のパーティ結成だ。卍山下ウツロとの。御本人は契約ハンターなので、企業のイメージアップのためにダンジョン攻略をしなければならないのだがテイマー系のハンターは嫌われがち。というわけでダンジョンに潜るときに一番ベターなのが俺とリインにくっつくことらしい。


「兆円単位の被害を出したのは申し訳ないんすけど」


「きにするなあ。おれはなにもおもっていないからあ」


「棒読み! めっちゃ怒ってるっすよね! 師匠!」


「さすがに賢者の石を独占されるとな」


『先輩のイジリが酷い』

『まぁ兆になるとな』

『気持ちはわかる』


「すんませんすんません! メテオールにはよく言って聞かせますので!」


「反省」


 相変わらず熟語で喋るメテオールだった。見た目スライムなのだが普通に進化してるし。エーテルプリズムはマテリアルではエネルギー産業の礎だが、ミステリアルではモンスターの強化に使われる。グレイトドラゴンのエーテルプリズムを独占すればスライムと言えど一角のモンスターにはなろうというもの。


「じゃ、今日はメテオールに活躍してもらおう?」


「いいんすか? メテオールちゃんエーテルプリズム独占しますよ?」


「働いた分を確保するのは問題ない」


「だにゃー。御本人が倒した分のドロップアイテムは確保して問題にゃいよ?」


「お世話掛けるっす! じゃあ行くっすよ! メテオールちゃん!」


「受諾」


 そう言ってヒョコヒョコと先行するメテオール。見ているだけだとスライムが勝手に動いているだけだ。一応不死という能力は得ているので、万が一は無かろうが。


「見敵」


 で、コボルトが現れる。洞窟系のエリアなので、妥当と言えば、まぁ妥当。


「攻撃」


 唸りながらこっちを警戒するコボルト。その面に立って、ヒュンと自分の肉体を振るうメテオール。スライムの肉体はいくらでも変更が効くが故か。触手のように肉体の一部を伸ばして、それを水平に振るう。その先端が金属光を得て、それこそ草原を刈る鎌のようにコボルトを水平に切り裂いてしまう。


「おー」


 俺が感心した。いわゆる混沌で出来たメテオールの身体は一部の例外を除いて、あらゆる物質に疑似変身できる。それによって金属へと変化し、無制限の変態で殺戮する。ぶっちゃけて言えばテイムしていないモンスターであれば乙級が対処すべき案件だ。


「強いな」


「っすよね! いいぞー! メテオールちゃん!」


 そのテイマーであるウツロもニコニコ。体育祭で活躍する我が子を応援するがの如き声援。


「問題不問」


 で、もぞもぞと動いて、コボルトの落としたエーテルプリズムを呑み込む。その後もメテオールは圧倒的だった。とにかく攻撃も防御も一級だ。肉体を変質させることができるので物理にも熱にも電気にも対応ができる。それも本人の知能が高いのでミスらしいミスもない。


「もう丙級くらいは行けるんじゃないか?」


 で、そのメテオールが壁の隙間にスルスルと消えていく。固有能力、超流動だ。それこそ分子一個分の隙間であろうと潜り込めるスキル。隠し部屋の扉すらもすり抜ける。で宝箱の中身をノーリスクで確保して戻ってくる。


「えーとー……そのー」


 脂汗を流すウツロ。


「保有権は主張しないので安心してくれ」


「ていうかここまで私たちにゃにもしてにゃいにゃー」


 二階層まで潜っているが、ほぼすべての索敵、迎撃、探索をメテオールが担っている。こうなるとメテオールの能力は根本的に丙級の上位クラスだろう。浅層程度では問題にもならない。あえて問題を上げるなら、テイマーのウツロが丁級のせいで、換金に関して不和が発生するくらい。ウツロが丙級に上がれば、メテオールはほぼ無双できる。適当に丁級ハンターを捕まえてダンジョン潜って、そのまま無双してドロップアイテム確保で終わりだ。


「失礼」


 メテオールには何が見えているのか。二階層で二つ目の隠し扉の発見。スルスルと隙間から入っていて、宝箱を……というか。


「ん?」

「にゃ?」

「へ?」


 その隠し扉がひとりでに動く。ゴゴゴゴと扉が開いて、洞窟の通路の側面に現れるスペース。そこには無数のゴブリンが武装して待機していた。


「…………」

「…………」

「…………」


 もちろん俺とリインとウツロは事態を理解できなかった。


「暴挙」


 そのモンスタールームを解放したメテオールはゴブリンの群れのターゲティングを抜けて、宝箱の中に侵入している。


「「「「「ギイイイ!」」」」」


 無数のゴブリンが、メテオールを無視して、俺たちに襲い掛かる。ほぼ同時に意識を回復した俺たちは、


「だっはあああああ!」

「にゃー!」


 さすがに逃げ出した。いや迎撃は出来るのだが、ちょっと距離が近すぎる。ゴブリンは足も遅いし、広範囲の魔術を使うなら少しでも間合いを離した方が効率的なのだ。


「リイン! 魔術!」


「あ」


 そこでハッとするリイン。


「――土刺剣山グラウンドフロッグ――」


 地面に手を付けて、呪文を唱える。瞬間、槍衾のように地面が隆起して針の山がゴブリンに襲い掛かる。ズタズタに突き刺さった地面の針は、ゴブリンを全滅させる。


「……丙級……いけるっすかね?」


「「無理!」」


 俺とリインはウツロの疑問にそう答える。ハンターに最も大事なのは生存力だ。端から全部罠を起動させるメテオールの所業は、丁級ハンターを連れて先導する丙級ハンターのテイムモンスターとしては不適格だ。


「死ぬかとは思わなかったが、肝が冷えたのも事実だ」


 串刺し刑になったゴブリンの遺体がダンジョンに還るのを確認した後、そのエーテルプリズムを拾っていく。かなり数が多かったので、まぁそこそこの金額にはなるだろう。


「問題」


 で、一人……というか一体。平然と宝箱の中でアイテムを独占しているメテオールが、そのスライムの身体で半透明な手を作る。アメーバ状の身体から五本指の手が出来ているのはまぁシュール。


「見敵」


 そのメテオールが指差した先。隠し扉の先にスペースで、ゴブリンが二体いた。ただゴブリンというには洞窟エリアの天井くらいまで高い背丈。ムキムキのマッスル。手に持つ武器はおそらくだが魔剣の類。


「ゴブリンキングとゴブリンクイーン……」


 まぁ言ってしまえばゴブリンの上位種なのだが……。


「どうする?」


「逃げるにゃー……」


 だよな。

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