第28話:ゴブリンジャイアント


「「「だっはあああああ!」」」


 そうして俺たちは洞窟を逆走していた。ゴブリンキングとゴブリンクイーン。ゴブリンの上位種だが、それとは別に奴らにはある特性がある。部下であるゴブリンが殺されると、その個体数の倍数で強化されるという。既にリインは土刺剣山でゴブリンの軍勢を鏖殺している。数えてはいないが二十から三十程度は殺しているだろう。つまり最悪でもゴブリンキングとクイーンの戦力はゴブリンの二十倍。一般的に浅層にいていいモンスターではない。


「もういや! メテオールは疫病神!」


「いうてマジナ先輩にも人のこと言えにゃいにゃ! 先輩とダンジョンに潜ると最低一回は命の危機に陥っている気がするにゃ!」


「それをお前が言うか!?」


 ぶっちゃけリインとダンジョンに潜ると厄介ごとに付き纏われているような。俺のせいか……コレ?


「メテオールちゃんはどうするんすか!」


「助けたいなら行け! 俺はフォローしない!」


「一緒に死ぬのも結構だにゃ!」


「せめて一緒に死んでくださいっすよー!」


「「断る!」」


 俺とリインは息ピッタリだった。


「リイン。暗号資産は?」


「十億」


「じゃあ決戦魔術は使えるな」


「いや。どうせコイツ等倒したら……」


 と魔剣を握って襲い掛かるキングとクイーンを見るリイン。逃げながら背後を確認するのはハンターの能力だ。


「ゴブリンロードが来ると思うにゃー」


 否定も難しい。ダンジョンの意志……というか展開はちょくちょくハンターの思惑を超える。嫌がらせかと思うくらい不測の事態というのは襲い来る。その意味でゴブリンロードが現れないという意見は尚早だろう。


「じゃあ、奴らはどうする?」


「マジナは何とかできない?」


 まぁ出来るか出来ないかで言えば出来ないわけはないのだが。


「よし。じゃあ行けにゃー!」


『リインちゃん鬼畜』

『香典包みます』

『敬礼!』

『やってくれパイセン』


 好き勝手言いやがって。


 とはいえ確かに戦力を温存しつつ場を解決するのはそれしかないか。


「ふっ!」


 雄たけびを上げて襲い掛かるゴブリンキング。その振るわれた魔剣を最小限の動きで躱して、俺はみぞおちに蹴りを加える。ほぼ同時にマヨイバシを抜刀……ならぬ抜銃。


「――感電ショック――」


 ズガンッッ! と電磁銃を撃ち放つ。心臓を抉った一撃が、ゴブリンキングを致死させる。


「ガアアアア!」


 そのゴブリンキングの負債を背負ったゴブリンクイーンの能力がさらに跳ねあがる。キングの付与されたバフを引き受けたのだろう。こっちの意識が辛うじて捉えられるギリギリのレベルで魔剣を振るわれた。大人気SF映画の動きで仰け反る俺のギリギリをすり抜ける、水平に振るわれた魔剣。それこそ仰け反っていなければ腰が切断されていただろう。


 そのまま俺は軸回転して、回し蹴りをクイーンに撃ちこむ。人間に撃てば喀血して救急車を呼ぶレベル。もちろんクイーンはそれだけでは苦悶を浮かべるだけで、それ以上ではない。同時にリインが呪文を唱える。


「――水流刺突トライデント――」


 圧縮された水がクイーンを襲う。心臓を的確に撃ち抜いた。その事実だけあればいい。


「ギイイイ……ッ!」


 ズズン、と倒れるクイーン。キングとクイーン。どちらもを倒して、ドロップアイテムを拾う。もちろんそれで大円団とはいかず。


「グラアアアア!」


 さらにゴブリンロードが襲い来る。


「だから言ったじゃん! だから言ったじゃん!」


「わかっちゃいたけど覚悟が足りなかった!」


 リインが悲鳴を挙げ、俺が脱兎の如く逃げ去る。


「メテオールちゃんは!?」


「知らん!」


 今更アイツの心配なんてできるはずもなく。洞窟としての前後しかない通路を俺たちは来た道を逆走する。殺したゴブリンならびにキングとクイーン。その全ての威力を継承して、ゴブリンロードが襲い来る。


「どうするリイン!」


「殺すのは簡単にゃんだけど!」


 それでも対軍魔術の範囲内ではある。


「なにかさっきから悪寒がにゃー」


 その理由を俺も感じていた。


「くはは……面白いことになっているね」


 まるで最初からそこにいた様に、ゴブリンロードの隣に一人の人物がいた。


「お前は!」


「最悪……」


 肥大王。


 モンスターを肥大させるダンジョンに住まうオーバリスト。その威力は既に把握している。


「おい? まさか?」


『なに? リインちゃんは何を見ている?』

『分からねえけど警戒のレベルがハンパねえ』

『リインちゃん。何かいる?』


「共和王政が」


『共和王政?』

『名前が矛盾しているんだが』

『カメラに映らない何かがいるのか?』


「なぁゴブリンロード。悔しいよなぁ。悲しいよなぁ。恨めしいよなぁ」


 そうして数多のゴブリンと、そのキングとクイーンの死を全て手に入れて、最強のゴブリンとなったゴブリンロード。そのゴブリンロードを肥大王は肥大させる。


「ぎぎ! がが! ががぎぎぎ!」


 まるで腫瘍が映像の早送りのように膨れ上がる映像。それをまざまざと見せられた。肥大王に干渉されたゴブリンロードはその肉体を肥大化され、巨大なゴブリンジャイアントへと進化する。洞窟も狭くはないが、あまりのゴブリンジャイアントの大きさには不便らしい大きさだ。


「さて。どうする?」


「殺す以外の手があるにゃ?」


「だよなー」


 それは俺も言えたこと。


「アンドロギュノスも付いているし」


「背後からメテオールも襲ってくるだろうし」


「一発ドラゴニックバレルを撃つにゃ?」


「してもいいが。肥大王が肥大化させたゴブリンジャイアントに効くか?」


「未知数」


『とはいえゴブリン』

『頭を潰せば死ぬ』

『持っている魔剣はドロップアイテム』

『やっちまおうぜ?』


 気楽に言ってくれる。


「ぎ……ぎぎぎ……」


 ゴブリンジャイアントも警戒はするのか。俺を見て間合いを測っている。


「じゃあやりますか。マヨイバシと修羅病ジュラシックで」

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