第25話:記者会見
「んー」
とある平日。普通なら学校に行くべきなのだが俺は昼間にダラダラしていた。それはリインも同じだ。とりあえずの一時の平穏というか。金が残っているのでダンジョンにも潜らなくていい。
で、ネットに繋がっているハイエストビジョンテレビで俺は記者会見を見ていた。
「にゃにこれ?」
「記者会見」
「面白いのにゃ?」
「多分だがざまぁを見れると思うぞ」
「にゃんで?」
「今ネット炎上してるだろ?」
「私たちのことでだにゃ」
「その釈明のための記者会見」
正確には釈明ではないのだが、そこはまぁツッコみ無しということで。
記者がパイプ椅子に座って、会見を待っていた。そこに株式会社サニーの担当者とハンター学院の理事の一人が現れた。今時必要のない過剰なフラッシュが焚かれ、そうして会見は始まる。
『えー。今世間を騒がせているハンターの数十億の浪費、ならびに不当確保についてですが、全てデマであると結論を申します。ネットの噂の出どころは問題となっているハンターと同じタイミングにいたハンター磯崎氏による炎上目的のデマであり、事実を誇張に詐称した結果であると判断しました。では今からその経緯についてお話します』
おー。思ったより理性的だ。
こっちが悪くないのは動画アーカイブを見ればわかるが、もうちょっと俺たちの責任を追及するかと思ったが。
「え? 学院理事とサニーの担当者が私たちの弁護してるのにゃ?」
「社会的に保護すべき存在だからな。天寺リインは」
「照れるにゃー」
えへへ、と照れてしまうリイン。こういうところは可愛い。
『――以上が事の真相です。では質疑応答に移りたいと思います』
そうして記者会見の場では、挙手が上がった。進行役の人が記者にマイクを渡す。
『フリーの磯部です。動画で見た限り、問題のハンターは別パーティの成果を掠め取る形でモンスターを倒していますが、それについての意見を聞かせてください』
俺とリインは雪原エリアで炎魔術にて暖を取りながら、別パーティのモンスター討伐の放棄を待っていたことは事実だ。
『それにつきましては、誇張された意見であると申し上げます』
『何故です。協力して倒せばいいのに、暖を取って待っていたのですよ?』
『そもそもですが。件の別パーティは先にターゲットしたモンスターの討伐の権利を主張しています。ダンジョン攻略においてモンスター討伐の横やりは非常に悪質なマナー違反。場合によっては注意勧告。酷いときはライセンス没収まであり得ます。その意味で、横やりを入れなかったハンターの選択は正しく、また妥当であると思われます』
「そうにゃのにゃ?」
リインが首を傾げる。
お前。分かってなかったのか? いや。正確にはあの時は分かってやっていたが、そもそも覚えていないのだろう。丙級ハンターになるには並の努力では叶えられない。その意味でハンター学院中等部で丙級ハンターになったリインには常識がある。ただ、そんな些事を覚えるほど今回の件が重要ではないのだろう。実際にアカウントが炎上しても、さほど悔しそうじゃないし。初期の初期くらいは別だったが。
『〇〇社の末田です。しかしだからといって件のパーティが倒せない脅威を前に放置をしたのは事実でしょう。件のパーティが協力を求めていても、それを却下していることが動画に残されています。これは問題ではないので?』
『そもそも相性を論じる段階ですが、件のハンターはネットで言うところの廃課金と呼ばれる丙級ハンターです。実際に過去のアーカイブを見てもらえればわかりますが浅層や上層で対軍魔術を使っている記録も明確に残されています。キングユキダルマンは氷雪系のモンスター。対軍魔術でなら一撃で消し飛ばせます。それもまったくダメージが無いという前提で、です。なのでたとえ件のパーティがダメージを与えていようといまいと、そもそも問題として議論することが間違っています』
おー。嬉しいことを言ってくれる。
「えへへ。私ってすごいにゃ?」
「出来れば対軍魔術は中層以降で使って欲しいんだが」
とはいえ丁級の俺とパーティを組んでいるから、そもそも上層までしか潜れないのも事実だが。
『〇〇社の田中です。では共闘を申し出た時に協力することも出来たのでは?』
『それも動画で残っています。相手は六四で、キングユキダルマンのドロップアイテムの六割を確保しようとしていました。一撃で消し飛ばせるモンスターのドロップを、何故件のハンターが山分けする必要があるでしょうか?』
うんうん。いいぞ。もっと言ってやれ。
『〇〇社の小林です。では根本的な疑問ですが、そもそもハンターに数十億もの報酬を出すのが不当では? それも問題のハンターは学生ですよね? 流石に報酬が大きすぎるのでは?』
『そもそも数十億という数字がデマです。あまり大きな声では言えませんが、件のハンターに支払われた報酬は二億を超えていません。これは協会にも確認を取った事実です。ソースを確認せずに糾弾することは止めてください』
実際に一億五千万だったしな。その八割が魔法のカードに消えたが。よく考えると何で俺はリインの飯代を負担してるんだ?
『そもそも学生に億を超える報酬を渡すのが不当では? 社会的に見てもハンターに対する報酬が大きすぎるのは一部で問題になっています。命を賭けてる職業とはいえ、報酬に億は行き過ぎでは?』
ムカつくな。この記者。小林だったか。
『ではアナタはハンターへの報酬をどうすべきだと思っているのですか?』
ここで風向きが変わった。会見側の学院理事が質問に質問で返す。
『そもそも税金でハンターに報酬を支払っている現制度が問題化と。契約金を設定してハンターの生涯労働に三億円も払えば十分見返りがあると思いますが』
ふざけんな。
『ではそれによって、ハンターがモチベーションを低下させ、結果、エーテルプリズムの供給が低下した場合、どういう経済波及が起きるかを分かって言っているのですね?』
『そもそもハンターに一億も二億も出すのが信じられません。乙級ハンターなんて一回のダンジョン攻略で数十億稼ぐと言われています。そんなことに税金を浪費するのは社会ガンに他ならないと思います』
そう記者は言い切った。コホンと学院理事は咳払いをする。
『これは語るまでもない経済基礎ですが。そもそも地球の地下資源は既に枯渇寸前です。石油もウランもほぼ開拓を見込めない現状です。その上で、このエネルギー社会を維持していくのにはエーテルプリズムは必須と言えます。これは極論ですが、我が国のハンターがボイコットして、エーテルプリズムの供給がゼロになった場合、我が国の電気代は甘く見積もっても五十倍に増額されます。エーテルプリズムがあるからこそ消費社会を維持できているのです。これは記者会見に来てくださっているマスメディアの皆様ではなく、この会見を見ている視聴者……ひいては国民の全員に問います。いいのですか? 来月から電気代が五十倍になって。ガソリンなどは五十倍では済まない額になりますよ?』
普通に経済学を齧っていれば誰でも知ってることだ。
『今現在の日本の各家庭の毎月の電気代は一万円が平均です。来月から毎月五十万円の電気代を支払いますか? リッター一万五千円のガソリンで自動車を運転しますか? もちろん政府は国民の意思に従うものなので、それを国民が望むならそうしますよ。来月から電気代が五十倍になってガソリン代が百五十倍になる。それも国に還元されるのではなく、石油を輸出する外国に法外な金銭の流出をすることになりますが、それでもいいのですね?』
勝負あったな。
俺はテレビで記者会見を見つつ、湯呑で茶を飲んでいた。
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