第24話:パパラッチ
「あ、天寺さん!」
で、伊勢海老も食ったし温泉にも入った。そうしてホクホク顔で、某都に戻った俺たち。その学院のエリアの入り口に一人の記者がいた。会話記録のための録音機とマイク。後は古ぼけたカメラをこっちに……というかリインに向けて突撃してくる。
「今まで逃げていたということはネットの記事は本当だったのですね!?」
「にゃにが?」
記者に言い寄られても、リインには意味不明だろう。俺は普通に把握していた。つまりパパラッチだ。
「キングユキダルマンを倒したことで数十億の金を手にした件ですよ! それによってハンター界隈では不当な稼ぎではないかと混乱中でして。今まで逃げていたのもその論拠に付随する……」
「はいそこまで」
俺は相手の襟をつかんで引っ張る。
「何を……!?」
「取材がしたいなら許可をとってくれ。これでも天寺氏は学院の生徒だ。不当な取材は学則で保護対象になっている」
「何を。報道の自由を侵害する気かね?」
「せめて生徒の自由を侵害しない形で言ってくれ。今のあんたはパパラッチも同然だ」
「正義の報道はなにより視聴者が求めるモノだろう。私はより公平に今回の問題に切り込むための材料として」
「そうか」
何を言っても無駄らしい。
「天寺さん。数十億の金は何に使ったのですか? それによっては国民は多大な税をハンターに使っているという現実を……」
そもそも、根本的に間違いだ。たしかに換金所がハンターに支払っている金は税金が根拠にあるが、そこには等価交換の法則が働いている。というかハンターに使っている金は正当なもので、むしろ今のエネルギー社会においてはエーテルプリズムの価値を理解すれば、これでも安い方に入る。命を賭けているのだ。丁級ハンターが一千万程度の報酬で済んでいるのはむしろ理不尽とさえいえる。
「その数十億円を何故不当にも別パーティから奪ったのです? やはりハンターは金にアコギだからですか?」
下品な問答で下に貶めようとする記者。その記者をリインは指差す
「ねえ先輩」
俺の名前を呼ばなかったのは善意故だろう。俺は配信の時、丸眼鏡のサングラスを掛けているので顔バレしていない。
「どうするコレ?」
「ほっとけ。学院内までは入ってこれない」
「つまり記事が事実だから逃げるわけですね? そこには後ろめたい感情があり」
「……っ」
「乗るな。相手の思うつぼだ」
「さすがに数十億の税金を奪って、自分たちだけいい思いをするのは人道に悖るのでは?」
最後までこっちのボロに期待するパパラッチには悪いが、付き合ってられん。
『数十億円の行方! 贅を凝らしたハンターの日常!』
で、次の日。
センセーショナルなタイトルでネット記事が一部リインをこき下ろしていた。
何でも不当に手に入れた金で天寺リインが豪遊をしているという記事だった。読んだ人間は頭沸騰。多大な税金を得ているハンターが自分たちを差し置いて贅沢している。そのことに怒りを覚えているらしい。
「……まぁ検閲案件だよなー」
流石にやり過ぎだ。記事の取り消しは当然ながら、この記事を掲載した報道機関には賠償を求めるだろう。俺たちじゃなくてハンター学院が。
「そこまでしてハンターを悪者にしたいかね」
「サニーはどうなってるにゃ?」
「一応会見は開いたらしいぞ。さっきちょっと見たが妥当なことを言っていた」
ていうか、そもそも悪いことはしてないので言い訳というか事実さえ言っていれば問題ないわけで。
「御社の社員が意図的に別パーティのハンターを見捨てた……という意見もあるようですが?」
「ちゃんとアーカイブを見ていらっしゃるのでしょうか。援護を袖にしたのは相手側の方です」
「報酬の山分けに議論があったと聞いていますが」
「先にその問題に踏み込んだのも相手側です。既にユキダルマンのドロップアイテムに関して言えば、その全てを別パーティに譲渡していることも記録として残っています」
そんなやりとりが行われていた。
サニー側としても思っていない対処だろう。メタリアンの宣伝としてはあまりいいとは言えない。だが俺たちは何も違反することはしていないし、その意味で思うこともない。冷静に考えれば命がけの職業に妥協していないというだけなのだが、それすらもマスメディアは理解しないらしい。
「急ぐなよ」
「にゃー。でもにゃー」
「何を言っても意味ないぞ。揚げ足を取られるだけだ。足を上げることが無ければ揚げ足も取られない」
「マジナ先輩はそれでいいの?」
「今更だなー。ハンターがねたまれやすい職業ってのは知ってるし。別に金稼いでだから何って感じ」
「大物だにゃー」
「お前だってスーチャとかで稼いでいるんだから、色々言われてきたんだろ?」
「まぁそりゃにゃー」
「ていうか。なんで廃課金してんだ?」
「魔術を使いたいにゃー」
ソレが理由というのも苦しいんだが。
「でも本当だにゃー」
「リインちゃんネルの視聴者は何か言ってきてるか?」
「ちょっと批判的にゃ一般人も混じってるけど」
「概ね弁護してるだろ」
「にゃんでわかるにゃ?」
「リインは憎めないからな」
「う……」
「どうかしたか?」
「マジナ先輩って……たらし?」
「女性にモテたことはそんなにないな」
「あんまり殺し文句を言っちゃダメにゃーよ」
「言ったか?」
「これだもの」
???
「とにかく伏して待つにゃ。どうせ企業案件も入ってこないだろうし」
「ダンジョンには行きたいんだがなー」
まぁ炎上が終わるまでの我慢か。自由になる金が一千万をあるんだから、籠城も手ではある。
「配信はどうする?」
「まぁ少しお休みだにゃー」
「スーチャも見込めんな」
「ていうかスーチャで得られる金ってそんにゃでもにゃいし」
「はい。問題発言」
「あ」
いいんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます