第23話:伊勢海老


 ブオーンとエンジン音が鳴る。俺たちは日本を横に移動していた。目指すは三重県。愛知県のちょっと南西。完全オート運転の車を借りて、三重県へと向かい、高速に乗っている。さすがに年齢上車は運転できないのでオートドライブが基本だ。


「伊勢海老にゃー。美味しいの?」


「超美味い」


「それは楽しみ」


「俺は温泉が楽しみだ」


「一緒に入ってもいいにゃーよ?」


「いやー。俺の方が恥ずかしい」


「私だって恥ずかしいんだけどにゃー」


「言っておくが俺はお前のパイオツでも興奮できるからな?」


「こんにゃに小さいのに?」


 俺の隣で胸を揉むな。


「童貞はそういうとこ悲しいんだよ」


「私だってマジナ先輩のアレが小さくても気にしにゃいんだけど」


「いや。もう寝取られ系エロコンテンツの被害者キャラくらい貧相だから。お前が男を知ったら嘲笑うレベル」


「それを言ったら先輩だっておっぱいの大きい女性がいたらそっちに流れるにゃーよ?」


「ううん。否定できない」


「この童貞め」


 アハン。


「で、とにかくだ。ハンターになったら命の危険もあるし。あんまり家庭とかそういうのはな」


「結構未婚率高いらしいにゃー。やっぱり命がけのお仕事って」


「命がけっていうか。なんとなく補償を捨てているところあるしな」


「先輩は結婚しにゃいの?」


「今のところは考えてない」


 とにかくギフトをどうにかしないと……。


「だったら安心にゃ」


「何が?」


「にゃんでもにゃい」


 そんなわけで三重県につく。俺たちは予約したホテルにチェックイン。そしてまずは温泉を楽しむことになった。


「はー。いいお湯。生きていてよかった」


 カポーンと音が鳴る。そうして俺はダンジョンのアカを温泉で流す。まぁ報酬も入ったし、少しくらい贅沢をしてもいいだろう。


「極楽極楽」


 ゆっくりと染みわたる温度に、俺は救いを求めていた。


 ギフテッド・ワン。


 そんな俺が幸せを感じていいものか。いや、別に人間に成ったのは俺のせいでは無い……ということをアイツに向かって俺は言えるのか。


「わかんないんだよなー」


 そんなわけで、とにかく思考放棄。俺は平日のあんまり客がいない温泉で一人静かに入浴した。


「はー。いいお湯でした」


 で色々と堪能して、ホテルの部屋に戻る。既にリインは部屋にいた。俺より早く上がったらしい。女子ってもっと長湯する印象だったんだが。あるいはリインが例外なのか。


「むー」


「どうした?」


「ネットの炎上が止まらにゃい」


「ほっとけ。何もできんだろ」


「でもさー」


「エゴサするお前が悪い」


「にゃー」


 いうて、何を言われても問題ないだろう。


「中には数十億円を抜いたって信じて非難する人までいる始末だよ?」


「へー」


 そりゃ乙級ハンターだったらそれくらい稼ぐがな。


「丙級でも一億とか二億しか稼げないんだけど」


「丁級なんて一千万稼げればいい方だな」


 まぁ言うて稼ぎ以上に俺たちは出費が激しい。いやでも肥大王とかグレイトドラゴンとかそんなのに襲われる俺たちの運の無さが悪いんだが。


「ハンター学院だって何も言ってこないだろ? つまり議論しているのハンターを知らない俗人だ」


「そーだけどー」


 どうしてもエゴサはしてしまうらしい。


「じゃ夕餉にするか。伊勢海老。食いに行こうぜ」


「美味しいといいにゃー」


 抜群に美味いから気を付けろ。


「こ、これは!」


 そして一回エゴサを終わらせて。俺はリインに伊勢海老を御馳走する。プリプリの身。その中に凝縮された味。赤い色の鮮烈な印象。刺身でオーケー。焼いてもオーケー。味噌汁に入れてもオーケー。そんな無尽蔵に広がる可能性に、リインは打ちのめされていた。


「何コレ? 何コレ? 何コレ?」


「刮目せよ。これが伊勢海老だ」


「これが……! 伊勢海老!」


 とか言いつつ、俺もリインも箸が止まらない。


 とにかく伊勢海老料理を食べて食べて食べつくす。


「美味しい。エビっていうよりもっと上品な何か……」


「なのに濃厚な味に負けない料理の過程もまた職人の腕が冴えており……」


「海と甲殻類のハーモニー」


「これこそ甲殻機動隊」


「美味しいにゃー。にゃんだコレは。こんなにも美味しくなければ、伊勢海老さんは漁で獲られることもなかったのに……」


「言ってやるな。彼らは覚悟して、この味になったんだ」


「覚悟……にゃ?」


「覚悟とは犠牲の心ではない! 暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事だ!」


「おお。言っている意味は分からんが凄い覚悟だにゃ」


「というわけで有難く頂こう」


「そ、そうだにゃ。特にこの刺身はうますぎるにゃ」


「また稼いだら来ような」


「わかったにゃ」


「できれば旅費くらいはお前が出してくれると嬉しいんだが」


「気が付いたらにゃくにゃってるにゃ。不思議だにゃー」


「そういうのは自然の摂理って言わないんだよ」


「にゃー」


 伊勢海老モグモグ。


「もう二泊ぐらいしてもいいんだが」


「あんまりにゃがくいてもにゃー」


「次は北海道で海鮮丼でも食うか」


「沖縄もいいにゃ。ソーキそば」


「豚や牛が美味しいとこもピックアップすべきだな」


「にゃー。夢が広がリング」


「さて、じゃあホテルに帰って寝るか」


「ナニとかするので」


 もちろんしませんとも。

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