第22話:炎上


「くあ……」


 あくる日。俺が起きたら、学生寮の一室だった。というか俺の部屋。当然ながら居座っているリインもおり。コイツは常に金欠だ。先日のキングユキダルマンのドロップアイテムも金に換えて、そのまま魔法のカードに直行。コイツが何を思って魔術に金を使っているのかは知らない。だが何か取り憑かれるような執念を感じる。


「むにー」


 寝ぼけているリインを起こして、朝食にする。いやー。飯が食えるって素敵なことだ。つい最近まで、俺はそれもかなわなかった。ハンターって儲かるはずなんだがなー。何でだろう。理由は分かっている。そもそも出費がデカすぎるのだ。どうにもリインと関わってから、俺はダンジョン内でちょっと厄介ごとに絡まれている。その結果、電磁銃マヨイバシも結構使っているし、銃弾の補填も必要だ。適当に雑魚を殺して一千万くらい稼げればいいやー……みたいな安牌が切れなくなった。結果キングユキダルマンのエーテルプリズムは一億五千万で売れた。分配は八二なので、俺の取り分は三千万。そこにドロップアイテムの『溶けない雪』やイエティの毛皮でさらに五千万。最終的に俺の取り分は四千万。丁級ハンターとしては稼いでいる方だ。とはいえユキダルマン系の攻略はリインが全てしているので、今回に限っては出費が少ない。俺としても経済危機から脱したので、リインに飯を奢っていた。


 トーストとスープ。それから野菜。肉は無いので我慢してほしい。


「むにー?」


 で、スマホを弄っているリインが何か眉をひそめた。


「何か?」


 俺はエゴサとかしないので、今ネットで起きていることを把握していない。


「炎上してるにゃ」


 炎上っていうと……アレか。ネットでやり玉にされる。


「ダンジョンハンター天寺氏。数十億円を強奪か? だってにゃー」


「数十億円?」


 そんな金強奪してもコイツには何もできんだろ。精々魔法のカードを買うくらい。


「ふむふむ」


 で、俺も見てみる。特にSNSは必要最低限しかしてないが、ネットで検索すれば、出るわ出るわ。祭りになっていた。端的に言えばこういうことだ。ハンターの天寺が、別ハンターの手柄を横取りして、数十億円せしめた。その金を賠償すべきだ。という。


「数十億円っていうのは何処から来たんだ?」


 そもそもそんな金を稼げるのは乙級ハンターだろう。


 さらにネットを読み進める。


 リインちゃんネルの動画アーカイブも問題になっているらしい。オートドローンがしっかりと暖を取って温まっている俺たちを映しており。「目の前で戦っているハンターを見殺しにしている!」……という風に解釈されたらしい。


「へー」


 まさにどうでもいいんだが。


「リインはどうするんだ?」


「別ににゃー。本当に問題だったら協会から一言あるだろうし」


「だな」


 そんなわけでネットで炎上していることを俺たちは放っておいた。


「ところでリイン。金は?」


「持ってにゃいにゃー」


 まぁいいか。俺が四千万円ほど稼いだのだ。三千万ほどは必要経費で消えるとしても、一千万も残っていれば贅沢ができる。


「じゃあリイン。リフレッシュのためにも温泉宿に行こうぜ」


「混浴?」


「してもいいが。俺の股間は貧相だぞ?」


「私の胸も貧相だにゃー」


 互いに性的なことにコンプレックスを抱いているらしい。


「おっぱいってどうすれば大きくにゃるにゃ?」


「さー? 揉めば大きくなるとか、逆に小さくなるとか聞くが」


「揉んでいるんだけどにゃー」


 絶壁……とまではいわないが残念さ加減はたしかにある。


 俺だって股間のアレがもうちょっと自慢できる程度に大きければとは思っている。


「とにかく温泉だ。男女別で。俺は伊勢海老が食いたい。ので行こう!」


「宿に泊まって伊勢海老料理にゃー。それはちょっといいにゃ」


「だろ?」


「でも金有るのにゃ?」


「ある」


 なかったら提案していない。


「だったらいいんにゃけど」


 そんなわけで、伊勢海老を食いに本場のところへ……と思っていると、サニーから電話がかかってきた。


「あのー。天寺様」


 もちろんリインのスマホに。報酬払ったのはサニーで、受け取ったのはリインだ。なのでまず話を通すならリインになる。


「にゃにか?」


「ちょっとお尋ねしたいんですが」


 というサニー側の意見を聞くとこうだった。


 つまり別パーティからモンスターを奪って倒し、そのドロップアイテムを不法に奪った。そのため企業案件で仕事を出していたサニーにも苦情が殺到。対応に走っているサニー側はリインと意見を合わせていたいという。


「にゃにも悪い事してにゃいにゃーよ?」


 してない。


 今炎上している動画は、しっかり見れば不法でも何でもない。ボスモンスターが出たので警戒していた。別パーティは自分たちで倒すと言い、ついでに先に襲われたのがそっちのパーティだったので討伐の権利は有していた。ので、俺たちは手を出さなかった。討伐を放棄したパーティに代わり俺たちがキングユキダルマンを討ったので、正当な報酬を手にした。


 どこに問題が?


「つまりハンター法では非が無いと?」


「動画上げても問題になっていないし。協会も何も言ってきてないぞ」


 会議用のフルオープンでチャンネルを繋いで俺も議論に参加していた。


「そもそも動画見ているなら確認取れているだろ? そっちの技術者……ハーレンチを動かしていた社員さんはあのパーティを助けようとしていた。そこはバッチリ撮影されている。見捨てる気が有ったら、そもそも暖を取ってその場に居続ける理由がない」


「それは……」


 そうだろ?


「なわけで、その様に公表をしてくれ。本気で問題になっていたら協会だって動くはずだ」


「承知しました。ではこちら側に非は無いと」


「さいでーす」


 そもそも何で炎上してんだ?


「むにゃー。厄介事?」


「別に然程でもないんだが」


「にゃー」


 とりあえず温泉だ。伊勢海老を食うぞ。


「たのしみだにゃー」


 金があるって素晴らしい。


 本気でつい先日まで金なかったからな。


「ていうかお前ちょっとは貯金しようとか思わんのか」


「魔術が使えれば別ににゃー」


 まぁだからこその廃課金なのだろうが。

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