第21話:普通のハンターはこんなもの
「むんむんむん!」
死亡フラグビンビンのパーティは、その功名心によって疾駆していた。相手はキングユキダルマン。その雪だるまにしか見えない身体から、雪玉を放出してくる。
「な」
「わぷ」
「おお?」
三人パーティは雪玉をぶつけられて、困惑する。いやユキダルマンのデータ持ってねえのか?
「君たちはなんなんだ?」
「リインちゃんネルのものだ」
「こんばんにゃーん。リインちゃんネルだにゃー」
キャピッと横ピースをするリイン。
『可愛い』
『天使』
『女神』
『物理的可愛い特異点』
オートドローンもノリノリだな。的確にリインを映して、バエさせる。
「なわけで、キングユキダルマンをお前らが倒しきれなかったら俺らが貰う」
「横取りは卑怯だろう! 君たちはハイエナか」
まさにお前が言うな何だが。
「お前らが無事倒せれば手を出さんよ。ダメだったらの保険だ。どうせキングユキダルマンをダンジョンで放置するわけにもいかんしな」
「手を出さないで欲しい。これは僕たちの獲物だ」
「さっさーい。倒せたらな」
「何を……ッ」
三人は魔剣を手に三包囲で囲んでキングユキダルマンを削っていく。魔剣の能力までは知らないが、おそらく何某かの魔術を付与されているのだろう。もちろんハンターの戦力を聞くことはマナー違反なので俺は何も言わない。だが危ういのはちょっと思う。
「さ、寒い……」
「コート来てるよな?」
「遮絶コートを着ていてこれか?」
そうしてキングユキダルマンの雪つぶてを浴びて、三人は動きが鈍くなる。
「くあ」
俺は欠伸した。
「リイン。火を炊こうぜ」
「アイアイアイサー。先輩もちょっと意地悪っすね」
「はっはっは。俺は聖人君子からはかなり遠いからな」
「――
適当に固形燃料を取り出して、魔術で火をつける。はー。あったか。
「緊張感がないな! 君たち!」
で、擬似的な焚火をしている俺たちに非難の声を上げる別パーティ。
「まぁお前らが削ったところで、改めて美味しいところを取ろうと思っているハンターのクズだからな」
「卑怯とは思わんのか」
「ドロップアイテムを取られたくないのであれば、死ぬ気で頑張れ」
こういう時は魔術で一撃で消し飛ばすのが一番いい。だがソレだけの決戦力をコイツ等は持っていない。リインだったらドラゴニックバレルで一撃だ。
「さ、寒い」
「なんだこれ?」
「コートを着てもなお寒いぞ……」
知らね。
『キングユキダルマンが放つ雪つぶては体温を低下させる呪詛が染みているんだよ』
『それくらい知ってろ』
『我らがリインちゃんに変わった方がいいんじゃね?』
『頑張れテイカーパーティ。応援しないけど』
リインちゃんネル視聴者もご立腹らしい。
「じゃ、がんがれ」
俺は焚火に当たりつつ、そんな感じでスルーした。
「動きは遅い! ダメージはあるはずだ! このまま押し切る!」
「その前に寒いっす! リーダー!」
「うまく身体が……」
「気合で何とかしろ! こんな獲物はそうそうないぞ!」
『ダンジョンハンターが気合とかwww』
『一番求めちゃいけない奴w』
『ハンターってもっと理知的じゃねーの』
「まぁそれに関しては俺も言えた義理じゃないんだが」
『マジナはマジないけど俺は評価している』
『マジナはマジないけどグレイトドラゴン倒してるし』
『マジナはマジないけどちゃんとハンターやってるじゃん』
「ありがとう。皆さん。後スーチャはしていいのか?」
『もち』
『暖房代』
『放火代』
『核融合代』
『超新星爆発代』
『最終的に太陽系滅んでいて草』
このスーチャまでもを魔法のカードに使うリインがなんなんだろうな。
「はー。焼きマシュマロとかしたい」
「わかりますが。メタリアンでは食べられないんですよね」
「休憩は取っているか? いくら遠隔操作とはいえ、集中力が続かないと」
「大丈夫です。おしっこに行きたくなったら一時ログアウトしますので」
ああ、わかるわー。一応ミステリアルに近い位置取りのダンジョンは、潜った人間に祝福をする。睡眠と空腹と排泄が要らなくなるのだ。ただダンジョンを攻略するだけの存在になる。とはいえ集中力を得るために飯は食う。だがさすがに排泄に関してはどうしても都合上、しなくてもいいというのは有難い。
「はー。寒くなってきたなー」
「温度上げるにゃー? マジナ先輩」
「おう。もっと上げてくれ」
で、暖を取る。雪原エリアなので、寒いと言えばこの上なく寒い。
「そちら! そちらの御仁!」
俺とリインが暖を取って。一人平気そうなハーレンチさんは立ったまま。
「君たち助成してくれ!」
「いや」
「却下」
俺とリインは暖の前から動かない。
「そうだ。換金金額は八二でどうだ? 君たちにも分け前をやろう」
「絶対ヤダね」
「興味にゃし」
つっけんどんに俺たちは言う。
「わかった七三だ。これなら君たちにも潤沢な金が」
「ゼロ十。それで引き受ける」
「鬼か貴様ら!」
「別に倒そうと思えば倒せるし。お前らが全滅した後で、ゆっくり倒すぜ」
「人非人!」
「さいですなー」
だから何だとしかこっちには言えないわけで。
「じゃあ六四で! これ以上はまかりならん!」
「そうか。頑張れよ」
俺は取り付く島もない。その間にもすでにキングユキダルマンは周囲の雪を取り込んで巨大化していく。このままではパーティの存続の危機だろう。俺と交渉している余裕もないはずなんだが。
クリスタルの記念碑が立ち並ぶ雪原エリア第三層。そこで戦うパーティは自分たちの死を明確に理解しているのだろうか。
「大丈夫か」
「いいから助けろ!」
「まぁ頑張れ。そっちにも丙級ハンターはいるんだろ? こういう時はどうすんだ?」
「それは……」
逃げ一択。そう取らないのなら、どうせ此処で生きていても、いつかはダンジョンで死ぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます