第20話:ドロップアイテムの権利


 三階層。


「ここまでは普通に来れたな」


「意外とメタリアンも戦えているにゃーよ」


「何せ我が社が開発した商品ですので!」


 それも事実だ。サニーの技術力は未だに侮れない。


「じゃあ三階層も頼むな」


「承りましょう」


 まだ浅層。ここら辺まではイエティが出てくるだろう。そう思っていると。


「ダルマー!」

「ダルマー!」

「ダルマー!」

「ダルマー!」

「ダルマー!」


 おお?


「おー。ユキダルマンですね。珍しい」


 ハーレンチがそう語る。俺もモンスターそのものは知っている。


 ユキダルマン。


 要するに雪だるまをそのままモンスターにした奴。愛らしい外見だが、結構力はある。とはいえ、さすがに雪だるまなのでさほど脅威には見えないし、実際に一体二体程度なら苦でもない。ただコイツ等は群れる。三十体とか五十体でそこら中に発生し、ワラワラと襲ってくるのだ。数の暴力というか。


 で、そうなると浅層になんでユキダルマンが湧いているのか。といえば。


「さっきのアイツらか」


 落とし穴に落ちたパーティ。あれによってモンスターパニックを生み出したのか。落ちたのはおそらく此処。つまり三階層。であれば、それによってダンジョンのスイッチを入れた形になる。


「どうする?」


「助けに行っていいんにゃけど。確実にもめると思うにゃよ?」


 それは俺も同感だ。困っているパーティは助けなかったら後味悪いが、助けたら助けたで厄介ごとになりかねない。


「とはいえなー」


 ドウンドウンとレールガンを撃ってユキダルマンを倒しつつ、俺は悩む。その間にも広範囲で炎魔術を展開しているリインがユキダルマンを殲滅していた。ハーレンチも炎系の魔術を撃っている。こういう時は魔術師って便利だなと俺も思う。状況に対する対応性っていう意味では魔術はハンター能力でも頭一つ抜けている。


『ていうか助けに行ったらなー』

『人道には悖るが、助けたら助けたで』

『ドロップアイテムの取得権利が』

『とはいえライブ配信で助けないって選択肢あるか?』


 ですよねー。


「私は行きます! 我が社を代表してここにいるので、無様は晒せません!」


 たしかに。天下のサニーが困っている人を見捨てるところをライブ配信にはできないだろう。


「…………」

「にゃー」


 俺とリインは視線を交錯させる。目で会話。結果。


「行くか」


「だにゃー。死にゃれても寝覚め悪いし」


 そんなわけで突き進む。とはいえ炎魔術でユキダルマンを殲滅して、進軍するだけだが。


 俺は普通にドロップアイテムを拾っていた。俺のマヨイバシはこういう軍勢相手に無双するのには向いていない。弾丸の無駄だ。なのでアイテムを拾うことに終始する。


「――燃焼バーン――」


「――燃焼バーン――」


 炎が生まれて、雪を焼き尽くす。そもそもハーレンチって幾らぐらい課金しているんだ?


 で、幾分か進むと、対象が見えた。ユキダルマンを相手に大わらわをしているパーティ。全方位をユキダルマンに囲まれて狼狽えている。死者は……今のところいない感じだ。倒れている人間がいない。


「――燃焼バーン――」


 そのユキダルマンの包囲の一角に炎魔術で穴をあけ、ハーレンチが叫ぶ。


「こちらに避難なさい!」


 言われて、ハッとするパーティ。ユキダルマンが蒸発して空いた一角からこっちに走ってくる。俺は聞いた。


「加勢はいるか?」


「いや助かる。あのままだったらちょっとな」


「じゃあ。リイン。やっちゃって」


「オールライト!」


 そしてリインは手を空に掲げる。


「――太陽ザサン――」


 巨大な火球が生まれた。それこそ太陽のような。とはいえ名前ほど高度な魔術ではない。火球の上位互換と言われる対軍魔術だ。生まれた巨大な火球が撃たれて、ユキダルマンを殲滅する。これが魔術師が他のハンターに対して優位とされる理由だ。あらゆる意味で最適解となる。


「あれだけのユキダルマンを一撃……」


 別パーティが驚いている。三人パーティだ。一人は丙級ハンターのはずだ。そもそも丁級ハンターたちはどれだけいても丁級だけでダンジョンに潜れない。


「助かりました」


 パーティの一人が頭を下げる。


「いえいえー。こっちも商売なんで」


 そうして俺はドロップアイテムを拾おうとして。


「待ってくれ」


 パーティに制止される。


「何か?」


「このドロップアイテムは僕たちのものだろう?」


 はあ?


「いや。殲滅したの俺たちだし」


「だが先に戦っていたのは僕たちだ。つまりこのドロップアイテムの所有権は僕たちにある」


『何言ってんのコイツ?』

『ビキビキ』

『これだからテイカーは』

『はい。解散』


「君たちは後からやってきただけ。それでドロップアイテムを掠め取ろうとするのはハンターの理念に悖ると思うのだが?」


「そうですか」


 だから俺はドロップアイテムを拾うのを止める。


「どうする? リイン」


「いいんじゃにゃい? 太陽くらいなら別に出費ってほどでもないし」


「私としましても、助けられたならそれ以上ではないのですが」


 リインもハーレンチも特に何も思っていないらしい。


「じゃあ此処は譲るか。どうせアレも出てくるだろうし」


「アレ?」


 と、パーティの一人が聞いてくる。


「アレ」


 と俺はダンジョンのとある方向を指す。そこにいたのは雪だるまのサイズではない雪だるま。全長で十メートルを超えるボスモンスター。キングユキダルマン。とはいえ要するにでデカい雪だるまなのだが。


 言葉はない。悲鳴も咆哮もない。ただ巨大な威圧感だけが、キングユキダルマンにはあった。


「アレもお前らが獲得権を主張するのか?」


「もちろんだ。さっきの群れよりはやりやすそうだ」


 さいですか。じゃあ頑張れ。


「どうするにゃ? マジナ先輩」


「すっごい死亡フラグを立ててるからなぁ。あとボスモンスターが出たってことは倒さないと次の階層に行けないし」


「だにゃー」


 そんなわけでこんなわけ。

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