第19話:足を引っ張られるということ


「こんばんマジナー! リインちゃんネル! はっじまっるよー!」


『マジないわ~』

『マジないわ~』

『マジないわ~』

『マジないわ~』


「こんばんにゃーん! リインちゃんネル! はっじまっるよー!」


『待っていました』

『今回はハラハラさせないでくれ』

『その上でハラハラさせてくれ』


「はい。というわけで。今回もまた企業案件だにゃ」


『またかよ』

『ワイルドワールド?』

『おそらくそっちのロボットが』

『なんでロボット?』


「今回は株式会社サニー様から! メタリアンのご紹介ですにゃー!」


 バーンとリインが紹介して、メタリアンが映される。オートドローンも演出がわかっているのか。カメラをリインからメタリアンに移している。


「にゃわけで。こっちとしては商売敵にゃので紹介するのは微妙にゃんだけど。通信技術と仮想現実技術。それからロボット工学の粋を集めた技術が、このメタリアンだにゃ」


『つまり』

『ロボットにダンジョン攻略を』

『そこまで自動化したら意味なくね?』


「ノンノン。ただのロボットにあらず。メタリアンは一般人がダンジョンに入るための足掛かりににゃるかもしれないハイテク技術にゃのだにゃー」


「えー。つまりメタリアンをマテリアルから通信技術で動かして、ダンジョンを攻略するという画期的な商品であり……」


「つまり誰でもライセンス無しにダンジョンに潜れる商品となってまーす」


 俺が説明を引き継いで、最後にメタリアン三号機……通称ハーレンチが〆る。


「今ハーレンチには技術者がリンクしております」


「今日はよろしくお願いします。天寺様と御影様には迷惑を掛けないように頑張る所存です」


「ちにゃみに動かしているのは元ハンターなので、そこも安心安全だにゃー」


『つまりメタリアンが商品化すれば、擬似的に俺らもダンジョンに潜れると?』


「その通り。あくまで遠隔操作でロボットを動かしているだけにゃので、死亡リスクゼロでダンジョンを探索できるにゃーよ」


『それって凄くね?』

『いやしかし高いんだろ』

『そこは今後の技術相場で』

『メタリアンを買えば俺らでも……』


「そのメタリアンの技術を宣伝するのが今回の企業案件ってわけだにゃ」


「じゃ、そういうわけで行くぞ」


 アンドロギュノスを展開する。俺とリインが強化された。


「しかし久々ですな。ダンジョンに入るのは。足を引っ張らないといいのですが」


「ていうか。モンスターと戦えるので?」


 俺は率直なことを聞いた。


「もちろんです。ウィンディーズ王道魔術は使えますよ。トリセツも内蔵していますので」


 もちろんそれは知っていたが、こうやって商品の説明をするのも仕事の内だ。俺には一銭も入ってこないんだが。


「エリアは……雪原か……」


 これあるを察して、俺は自分とリインにコートを準備した。雪景色が広がるエリア。暴雪が吹いて、体温を下げる。このままエリアに留まっても意味は無い。


「じゃあ行きますか」


 そんなわけで雪原エリアを歩き出す。


「メタリアンには体温が無いのでわからないのですが。寒いですか?」


「超寒い」


 それは間違いない。そうして雪原の中を歩いていると。


「きあああ!」


 イエティが襲い掛かってきた。


 雪人とも呼ばれるモンスターだ。雪原エリアの普遍的なモンスターで、よく襲ってくる。


「――感電ショック――」


 俺は限定トリセツ、マヨイバシに雷系魔術を起動させてレールガンを撃つ。


「――火球ファイヤーボール――」


 で、氷雪系モンスターに有効な火炎魔術を撃つリイン。


「――鎌鼬ウィンドブレイド――」


 それらを撃ち漏らしたイエティをメタリアンの魔術が切り裂く。


「と、こんなところだな」


 イエティが撃たれ、燃え、切り裂かれる映像を見て、動画視聴者は感嘆とする。


『おおー。すげえ』

『メタリアンが凄いのか』

『いやでもリインちゃんが』

『マジナも中々やる』


「ま、普通に戦えるみたいだにゃ」


「我が社の製品を宣伝するのです。ハンパはしませんよ」


 たしかにそれはそうだ。


「なわけで。今のところ技術的な問題は無いわけだが」


「イエティくらいならどんとこいです」


 だったら先に進むか。


「御影様はダンジョンは慣れているのですか?」


「まぁ普通というか。特に意見することもないな」


「私なんかはもっとこう難しいと思っておりまして」


「難しい?」


「ダンジョンを攻略するのには経験が要ります。その意味で私なんてとてもではありませんが……」


「いや、俺も別に乙級みたいに一人で下層まで行く実力は持っていないが」


 なわけで、そんな話をしつつダンジョンを潜っていく。


「しかし雪原エリアだとハーレンチは楽そうだな」


「触覚は再現していますよ。ただフィードバックを考えて、さほど強力な刺激には反応が無いようにもしておりますが」


「まぁそりゃ痛い思いはしたくないよな」


「然りです」


 そんなわけで雪原のモンスターを倒しつつ、二階層へと足を進める。カツンカツンと階段を下りていくと、また雪原が見えた。だがちょっと違和感。クリスタルが碑のように立っている。氷……なのだろうか。


「じゃあちゃっちゃとモンスター倒してエーテルプリズムを手に入れるにゃー」


『今のところ問題なさそうだな』

『天下のサニーだぞ?』

『いや起動実験じゃなかったか?』

『まぁまぁ。これで一定の戦果を挙げれば俺らもダンジョンに』


「さっさーい。その通りでございます。誰でも簡単にダンジョンに。そう目標を置いて開発されたのがメタリアンですから」


 宣伝商品もスムーズだ。このまま何もなかったら問題ないのだが。


「雪原エリアは視界が悪いのがな」


 その上で下層へ下りる階段を見つけなければならない。ちなみに上層へ戻る階段は既にマッピングしている。


「お、同業者か?」


 で、その雪原エリアで戦っている別パーティを見つける。タイミングが悪いというか。


『同業者だな』

『イエティと戦ってる』

『これは手を出せない案件』


 そういうことだ。モンスターを倒す権利は、最初に見つけたパーティに優先される。


「じゃあどうする? 別のところ行くか?」


 雪原エリアは広い。なので別に同業者が戦い終わるのを待っている必要もないだろう。


「そだにゃー。下へ降りる階段も見つけにゃいといけにゃいし」


「適当に迂回するか」


 そんなわけで、こんなわけ。そうして迂回しようとすると、


「「「うぉ!? ぁわー!」」」


 悲鳴が聞こえた。見ればボコリと雪が積もっているはずの地面の一部が消えていた。円い空洞があり、そこにいたパーティが消えている。


「…………えーと」


 俺が悩んでしまう。


「落とし穴だにゃー」


 リインも分かってる風にそう言う。ていうかわかっているのだろう。このままだと彼らの行く末はちょっと問題になる。


「迷宮管理局に連絡するか……」


 どうせ三階層に落ちたのだろうが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る