第18話:メタリアン
「お待ち申しておりました。天寺様。御影様」
「あー、いえ」
俺はヘコヘコと頭を下げる。名刺なんて持ってないし、相手の名刺を受け取るときのマナーも知らない。ただ相手さんの名前を覚えるために受け取ったようなものだ。
「それで御社の案件とは……」
「むにゃー」
俺の隣で、寝ぼけ眼を擦っているリインはどう考えても契約に向いていない。なんで俺がフォローしているのかは永遠の謎だ。
「こちらです」
と社内ビルを案内してくれる。行き届いた清潔感。プレッシャーを覚える程度には綺麗にされているサニーの社内ビル。そこを外靴のまま歩くということが、既に威圧される。そうして一階の会議室に案内されて。現れたのは人型ロボット。楕円テーブルと、そこに並んだ椅子。普通は会議をするのだろう。その室内の隅っこにロボットが立っていた。
「こちらが我が社が開発しているメタリアンという商品になります」
「はあ」
と言って、俺はしげしげとロボットを見る。一応書類で説明されていたので、驚くことは無い。
「にゃにこれ?」
スパカーンと俺のツッコミが冴えた。読んでこいよ。書類くらい。
「にゃにするにゃ」
「サニーの商品メタリアンだ。いわゆるハンターの市場ライバルだ」
「にゃー?」
「仰る通り。このメタリアンは一般人でもダンジョンに入れるように我が社が開発しているロボットでありうんぬんかんぬん」
プレゼンでもしているのか。メタリアンについて語ってくれる。
まぁ言ってしまえばセカンドボディが近い。リインがダンジョン攻略をネット配信しているようにダンジョン内にはネット環境がある。つまり電波が届く。じゃあロボットの遠隔操作もできるだろって話で。そのロボットをマテリアルから動かしてダンジョンを攻略するように開発されたのが目の前のメタリアンだ。自分の意識をロボットに移して、安全にダンジョンを攻略するように作られたアンドロイドというか。
俺からすれば、普通にAIを使えよとも思うが。おそらくダンジョンの疑似体験を楽しむためのものでもあるのだろう。安全にダンジョンを攻略できれば、人死には減るし、ドロップアイテムも持ち帰れる。
実際にダンジョンにおけるハンターの死亡率は社会問題になっており、ハンターライセンスを国で管理しているのも、そこに起因する。
「今回は始動テストということで、動かすのは我が社のテクノロジストになりますが。天寺様と御影様には、この商品と一緒にダンジョンに潜って欲しいのです」
すっげー嫌。何せリインちゃんネルの権利はリインが握っているので、実質俺はただ働き。ついでに廃課金のリインから俺に還元される金は無い。コイツは入金されると全部魔法のカードにつぎ込む。そこで俺がどうやってモチベーションを維持するのかというのはかなりの難題だ。
「ちなみに技術者はハンターで?」
「はい。今は引退されましたが、我が社の契約ハンターでした」
「なるほどねー」
だったらダンジョンの感覚も身に着けているわけだ。
「ご不満ですか?」
「満足してほしいなら俺にも入金してくれ。実質タダ働きなんだよ。こっちは」
「報酬はご納得されているのかと」
「コイツはな」
と欠伸しているリインの首根っこを掴んで、俺は言う。
「廃課金兵のリインが金受け取っても魔法のカードに消えるんだよ。俺には一円も還元されない」
「それは……ふむ」
社員さん……山中さんも思うところはあったらしい。
「追加褒賞を与えると契約を外れてしまうので、今回に関してはどうしようもないのですが……」
「知ってる。ただの愚痴だ」
まぁダンジョンに潜るんだから、そこで稼ぐしかない。
「以降ご縁がありましたら、御影様にも別個契約をする……というのは」
「そうだな。この企業案件が成功したら、次からはお願いする」
「承りました」
そもそも企業案件はまず広告だ。俺かリインがヘマして商品に悪評を付ければ、まず次からは採用されない。とはいえ今回に関しては俺は焦っていない。商品であるメタリアンは技術者が動かすし、最悪の状況になってもサニーには被害は出ない。メタリアンが破壊されれば開発費は水の泡だが、以前のウツロの時のようにスポンサー側から死者を出すということは無い。よく考えると、よくバズったな……あの動画。普通に考えて処刑動画だろ。
「では。契約書はこちらに」
「ああ。はい」
なんで俺が契約書を受け取っているんだ。サインするのはさすがにリインだが。
「ここに署名すればいいにゃ?」
「ああ」
まぁサニーほどの大手企業が契約詐欺をしたら、社会信用を失う。その意味で、かの会社のネームバリューがそのまま信頼だ。
「ではどうします? ダンジョン攻略は何時にしましょう」
「今から」
俺は断言した。
「い、今からですか?」
「今からだ」
もう目の前にメタリアンはある。まぁこれはプレゼン用で、実機は別にあるんだろうが。
「恐れながら。理由を聞いても?」
「金が無い」
「えーと」
「リインは丙級ハンター。俺は丁級ハンター。つまりダンジョンのドロップアイテムの換金率は4:1。ついでに今回の企業案件で入金されるのはリインの口座。俺の口座は今三桁だ。つまり明日まで待ったら俺の飢餓は末期を迎える」
なので今からだ。とにかくダンジョンに潜って、俺はアイテムを欲している。
「切実ですね……」
「マジナ先輩は経済観念がにゃいから……」
お前にだけは言われたくないんだが。
「なわけで。起動してくれ。」
「しばしお待ちを……」
そして部屋から消えていく山中さん。
「そんな催促しにゃくても」
「ほぼテメーのせいだがな」
「私にゃにかしたにゃん?」
「だから金がねーんだよ! お前の飯代を誰が稼いでいると思ってる!」
普通は丙級ハンターは同参した丁級ハンターに飯を奢るのが普通なんだが。
取り分が四一で、なんで一の側の俺がリインの飯代を支払っているのか。
コレガワカラナイ。
「でもご飯は美味しいにゃ」
「そういう店を選んでいるからな」
食事は俺の娯楽だ。妥協はあまりしたくない。
とはいえファミレスとかも活用している。別に高い食事が比例して美味いとは俺は思っていない。
「メタリアンってポーション効くにゃーよ?」
無理じゃね?
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