第17話:深刻でもない話


「か……金が無い」


 ひーふーみーと数えて、俺は唖然とする。口座の引き落としに不備はない。つまり根本的に俺は貧乏だった。いや、ハンターですよ? 一回ダンジョンに潜るだけで一千万とか稼いでいるはずですよ? なんで金が無い?


「おい。リイン。今いくら持ってる?」


「二百三円だにゃー」


 定食も食えねー。


「あれー? そこそこ稼いでいたよな?」


 グレイトドラゴンを倒したのはちょっと前の話で、その動画はバズりにバズった。なにせ丙級ハンターと丁級ハンターでグレイトドラゴンを倒したのだ。ドラゴニックバレル撃ちまくり。スライムの活躍目覚ましい。ついでに俺による単独撃破。色々な意味で配信は大成功をおさめ、ワイルドワールドさんも感謝してくれていた。問題は、手に入れた賢者の石とグレイトドラゴンのエーテルプリズムをメテオールに奪われたことか。アレ二つもあれば一兆円を軽く超えるのだが。つまりあのダンジョン探索で最も得したのはウツロということになる。後のアイテムとプリズムは俺とリインで山分け。もちろん丙級ハンターの取り分は八割。結果、俺は一億とったはずだが。魔法のカードを買って、銃弾を買って、その他細々と必要なものを買ったら財産が飛んでいた。


「ちなみにリイン。お前にはダンジョンアイテム換金で四億振り込まれただろ? アレは?」


「全部魔法のカードに消えたにゃー」


「企業案件の報酬は?」


「全部魔法のカードに消えたにゃー」


「ライブ配信のスーチャは?」


「全部魔法のカードに消えたにゃー」


 殺したろうかなコイツ。


「マジで! これからどうすんだよ!」


 金が無いのは俺も同じだが、こっちは普通に丁級ハンターだ。一回の探索で得られる金額は微々たるもの。一億稼いだのだって本来であれば珍しい類だ。ポーションとか、その他もろもろ買えば財政は問題を起こす。だが丙級ハンターであるリインは億を稼げる。であれば金に困ることは無いはずだが。コイツはどうにも経済観念が欠如しているというか壊滅的というか。


「にゃははー。そんにゃことは分かっていたことじゃにゃいかー」


 撃っていいか?


「もう。マジナは経済管理をしっかりしにゃさいよねー」


「テメーに言われたくねーんだよ! 本気で明日からどうすんだ!」


「ダンジョン潜る?」


「そうだな。それしかあるまいよ」


 ただその前に腹減った。空腹のままで集中力切らしてダンジョンには潜りたくない。


「ワイルドワールドさんのメガオメガは段ボールで貰ってるけどにゃー」


 なんで腹減ってるのに集中薬を飲まにゃならんのだ。


『おーい。生きてる?』


 で、俺が我が家というか学生寮でウダウダしていると、ドラコ姉から声がかかった。そうだ。ドラコ姉を忘れていた。彼女に奢ってもらおう。


『腹減った』


『あー。だいたい分かりみー。ここに来て。URLは……』


 なわけで、そこにリインとともに向かう。


「おっすおっす! ドラコ姉! 飯奢って!」


「まぁいいけど」


 助かった! 九死に一生。


 待ち合わせ場所はファミレスだった。パスタを頼んで七百円程度。だがその七百円を俺は持っていなかった。


「金ぐらい稼げるでしょうに」


 苦笑してドラコ姉はそう言うが。丁級ハンターなんて一回のダンジョン探索で一千万から二千万が平均だ。丙級で一億越え。乙級は五十億と言われている。まぁ中層や下層に行かないと、ソレだけ稼げないのだ。丁級である俺は浅層や上層が精々なので、どうしても稼ぎは小さくまとまってしまう。


「でもグレイトドラゴンの件は結構バズってるでしょ? 企業案件とか来るんじゃない?」


「余計なものは結構来るが……」


 ズビビーとパスタをすすりつつ、俺は言う。本来はマナー違反だが、俺は麺はすする派だ。


「余計……ねぇ」


 リーガルチェックもしてもらっている。その代金を俺が払っているというか。そもそも課金するために家賃すら投げ捨てている天寺リインには払えないというか。なんで俺はコイツのフォローに金を捨てているのだろうか?


「でも……いいコンビだぞ」


 丙級ハンター天寺リイン。丁級ハンター御影マジナ。俺たちは稼ぎこそ絶望だが、生きて帰ってきているというだけで、結構ダンジョン探索のハンターとしては最低ラインを守っているとは言える。死ななければいいという話でもないのだが。


「で、さ。お金ないんでしょ?」


「だからこの後ダンジョンに潜る」


「企業案件受けてみない?」


「? ドラコ姉が斡旋か?」


「まぁお姉さんが受けてもいいんだけどね。さすがに乙級が浅層で商売するわけにもいかなくてさ」


 それは分かる。商売柄、浅層や上層は丁級ハンターの領域だ。


「まぁなわけで出元ははっきりしているんだけど、お姉さん的には受け難い案件で。それならマジナちゃんでいいかなーって。正確にはリインちゃんに、ね」


「んぐんぐもぐもぐ! 受けるにゃー」


 話も聞かずに肯定するな。ていうかリイン宛の案件なら俺には一銭も入ってこないじゃねーか。そしてその金はリインが独占して魔法のカードに消える。


「いいじゃない。女に貢ぐのもいい男の条件だぞ」


「いや。魔法のカード買いすぎて家賃も払えないコイツには貢ぐっていうか立て板に水というか」


 まだしも自分で魔法のカードを買った方が生産的だ。


「バグバグモグモグうぐうぐはむはむ! それで案件って?」


 既にリインはメニューを一周している。ドラコ姉の奢りとはいえ、胸が痛くなったりしないのか?


「マンモグラフィーが必要ニャ年齢じゃにゃいから」


 そういうボケはいいんだよ。


「まぁ言ってしまえばロボットの操作試験だぞ」


「ロボット?」


「技術大手サニーのメタリアンっていう商品の品質テスト。詳しいことは向こうさんから聞いて欲しいんだけど。報酬は億出るよ」


「やるにゃー!」


「えー……」


「にゃんでやる気にゃいにゃ?」


「いや。だって。俺には一銭にもならないし」


「飯奢るから」


「お前が! 言った! 言葉の中で! ……今のが一番説得力ない」


「とにかく! 今は動くとき! 立てよハンター! ジークダンジョン!」


 そろそろ俺も丙級ハンター昇格試験でも受けようかな?

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