第16話:修羅病《ジュラシック》
例えるならソレは、夢の中に落ちていく感覚に近かった。ふわりと浮遊感があって。だが重力もあって。呑み込まれて亜空間には上下はあったが前後左右は何処までも広がっていた。
多分だが、メテオールはただのスライムじゃない。
進化したのか。元から持っていたのか。
この亜空間と体内を接続させているだけでも、もはやスライムというより生きている大穴。大悪魔と呼ばれるアバドーンにも似た奈落そのものを擬人化した存在だ。まぁスライムなんで正確には擬人化ではないのだが。そこはツッコみ無しでシクヨロ。
「ギイイイ!」
そのメテオールの体内……というか、そこを入り口として、放り棄てられたダストシュートの出口。ただ足場とダマスカス鋼の模様の空間が広がるそこで、俺はグレイトドラゴンと対峙していた。逢えるかどうかは賭けだったが、一応メテオールが気を利かせたともとれる。
コキッコキッと指の関節を鳴らす。うん。能力は順調だ。
「さあ。行くぞ。恐れることなくかかってこい」
「グルアァッ!」
俺の求めに応じたのか。躊躇なくブレスを放つグレイトドラゴン。それに対し俺は、
「――防衛守護――」
防御障壁で対抗する。だが元より魔術による防御など問題にしないのだろう。障壁はミシメシィとヒビ割れ、その存在の根幹から否定されつくす。強化ガラスを一撃で粉砕するが如し。そうして俺に襲い来るブレスを、俺は次の魔術で止める。
「――停滞止留――」
手を差し出して、概念的に捉えたブレスを、その時間ごと制止させる。滞留することのないビーム砲が、だが俺の魔術によって時間ごとピッタリ止まっていた。そのビームに触れて、俺はさらに呪文を唱える。
「――反逆弾拒――」
そして停滞止留を解く。そうすると反逆弾拒の干渉によって、ドラゴンブレスは反転してグレイトドラゴンを襲う。
「ガァアアアア!」
苦しむドラゴン。だが俺の実験にはちょうどいい。ここはメテオールを入り口として繋がっている亜空間。誰にも見られないが故に、俺は全力を出せる。
「――雷霆霹靂――」
雷撃が迸った。雷は電気エネルギーでグレイトドラゴンを苦しめ、その意識を混濁させる。
「――斬切分断――」
今度は切断魔術。ドラゴンの翼が根元から切れる。
「概念干渉系の魔術なら聞くのか。やはり課金魔術よりオリジナル魔術の方が効率はいいかもしれんな」
俺が使っている魔術は、リインが使っている課金魔術とは範囲が違う。アレはミステリアルにいるプロキッシャーがマグネットを展開して、声紋認証に合わせて各魔術……つまり魔法関数をダウンロードするシステムだ。根幹にある技術は同じだが、俺の今使っている魔術は独立している。このマグネットはウィンディーズ王道魔術とは回線が違う。なのでプロキッシャーである俺自身は幾らでも使え、関数をダウンロードするときに発生するロイヤリティも発生しないし、トリセツも必要ない。
使いたい放題のマグネットによって、俺のオリジナル魔術は保障されている。もちろんミステリアルの情報ネットワークであるマグネットを公開して、バイナリセマンティックしたトリセツを量産すれば、俺の魔術を間接的に使えるようになるハンターは出てくる。その魔法関数のダウンロードにロイヤリティを付ければ俺は大金持ちというか、世界のトップに立てるだろう。あとリインの魔法のカードの廃課金を辞めさせられるかもしれない。だがしない。俺はこの力を公開することを恐れている。自分だけ使えれば問題ないと小さくまとまっている。だからこうやって人目に付かないところでしか使えない。
「ま、卑屈だよな」
その俺目掛けてグレイトドラゴンがブレスを吐く。今度は、俺はそれを正面から受け止めた。轟々と熱が猛り狂い、あらゆる全てを焼き尽くす……はずだった。だが俺の身体は燃えておらず。その表面に火傷がチラホラ。
「
で、俺はグレイトドラゴンと間合いを詰める。そうして懐に潜り込んで、その巨体の腹に殴りつける。マヨイバシのレールガンより重い音がした。ゴゥウウウウンンンンッッッ! と低く、鈍く、重く、暗い音がしてグレイトドラゴンが吹っ飛ぶ。その軌道上の先に回って、吹っ飛んでいたドラゴンを地面に叩きつける。九十度。垂直に。
「ぎ? いいい?」
もはやグレイトドラゴンにしてみれば何と戦っているのかも分からないのだろう。
ここにあるのは修羅の果て。戦いを望む果て無き無間地獄だけ。
「ぎい………いいい」
今更ビビるのか。だがアイテムは必要だ。
「残念なく此処で死ね」
中略。
「あー。終わったぞ。メテオール。吐き出してくれ」
また浮遊感。それから酩酊感。そうしてメテオールが俺を吐き出すと、外にあったのはマグマの洞窟。ドラゴンバレー。
「大……丈夫……っすか?」
「ああ。問題ないぞ」
「グレイトドラゴンはにゃー?」
「倒した」
「ジョークだにゃ」
「いや。ここにエーテルプリズムが……」
とバックパックをガサゴソ探して、グレイトドラゴンのドロップアイテム……ドラゴンスケイルと牙と肉しかなかった。まぁこれでも倒した証拠には十分なのだが。
「メテオール?」
「駄賃」
ムフンとでもふんぞり返りそうな態度で、メテオールはそう言った。
「テメェ! エーテルプリズム食ったな!」
「肯定」
「お前~ッ! アレ売ったら百億は下らんのだぞ!」
なにせグレイトドラゴンが保有していたエーテルプリズムだ。電気エネルギーについてはあまり詳しくないが、あれだけの大きさと純度のエーテルプリズムであれば、都市部を三年は賄えるはず。だというのにそのエーテルプリズムを食ったと抜かすか。
「進化」
で、膨大なエーテルを保有。ついでに賢者の石を確保して不滅の身になったメテオール。その二つの因子によって、スライムはショゴスを超えてカオティックリキッドへと進化を果たした。スライムの上位種というか。混沌によって身体を構築したスライム。つまり何にでもなれる不定形不定義存在。何者にでもなれるが故に何物でもないという不条理な存在に進化していた。
「合掌」
「こっちのセリフだコラ」
「なわけで……」
と安全な場所から撮影担当をしていたオートドローンがコメントを読み上げる。
『うおおおおっ!』
『グレイトドラゴンに勝った?』
『マジないわー』
『マジないわー』
『ていうかメテオールちゃんとかチートすぎね?』
『最後にはスライムが勝つる!』
グレイトドラゴンを呑み込む体積。ついで不死で混沌でアルカヘスト。ああ、超流動も持っていたな。
「はい。広告」
「は! そうっす! こちらメガオメガとなっております。眠たいときはグビリと一本! 五時間はコンセントレーションを保てます」
『ところでパイセンって何者?』
『それ俺も思った』
『ダメージを与えたとはいえグレイトドラゴン一人で討滅』
『ちょっと何というか……』
「じゃワイルドワールドをよろしくだな。最後にウツロ氏。何かあるか?」
「サイトもチェックしてくださいっす」
『サイト覚えていたら』
『ある意味陰のヒロイン』
『誰だ! ウツロが邪魔だと言ったやつ!』
『息して無いんじゃね?』
ま、俺には関係のない話で。
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