第15話:メテオールの中の人


「次弾、来るぞ!」


 グレイトドラゴンがブレスを吐く。そのブレスに向かって、


「――竜王吐息ドラゴニックバレル!――」


 リインが相殺ビームを放つ。威力は互角。


「もうダメっすー! 視聴者の皆様! ワイルドワールドはダンジョンに潜る皆様へ! 受験勉強を頑張る皆様へ! 集中薬を販売しております。これを飲めば五時間の集中を維持できるっす! その名もメガオメガ! 是非ともご愛顧いただきたくー!」


「言ってる場合かー!」


 たしかに事態は既にほぼ死亡一歩手前だが。ドラゴンブレスは亜光速で飛ぶ。それを防ぐ防御魔術はかなり少ない。逃げるなどもってのほか。だが上階層に逃げる以外に生き残れる手段がなく。


『やばい! リインちゃんの暗号資産が尽きるんじゃね?』

『俺たちがスーチャするしか!』

『今のドラゴニックバレルの相場を考えろ!』

『五千万とかどうやってスーチャするんだよ!』


 はっきり言ってかなり無茶。そもそもスーチャはハンターにとって飯代とかその程度だ。必要経費には加えられない。


「万事了解」


 ポヨポヨと俺たちの後ろを跳ねているメテオールがそう言った。


「元はと言えばテメーがお宝呑み込んだりするからー!」


「ウチのメテオールがすみませんっす!」


 謝って済むレベルを超えてるぞ。


「メテオールちゃん! 急いで!」


 リインもあと何発撃てるか分からないドラゴニックバレルを数えている。その俺たちのしんがりにメテオールが立った。


「おい?」


「代替行為」


 ウツロのテイムモンスター……メテオールがグレイトドラゴンを睨みつける。というイメージだが、そもそもアメーバ状なのでどこ向いているのかも分からん。上下くらいは分かるが、前後左右はマジでわからん。


「メテオール! ダメっすそれは!」


 悲鳴のように叫ぶウツロ。


「責任」


 だがメテオールは引かない。


「ギああああ!」


 もちろん「俺を置いて先に行け」というメテオールの男気は汲み取れるが、既にウツロはメテオール目掛けて駆けだしている。死ぬ気か!


「戻れ! ウツロ!」


「嫌っす! メテオールはボクの大事な友達っす! 絶対! 絶対! 見捨てない!」


 クソが! 話がややこしくなってきた!


「メテオール!」


 もうグレイトドラゴンの口内が輝いている。荷電粒子が吐き出される寸前。


「大丈夫っすよ。死ぬときは一緒っす」


 そのドラゴンブレスを前に、穏やかにウツロは笑った。


 俺が本気を出すわけにはいかない。だが、それによってウツロが死ねば、それは俺にとって傷となる。使うべきか。挑むべきか。門を叩くべきか。


「条理。大丈」


 だがしんがりにいるメテオールが、一番この状況に絶望していなかった。


「ガアアアア!」


 ドラゴンブレスが吐かれる。その荷電粒子砲を。


「我田引水」


 メテオールが体積を膨らませて真正面から受け止める。その半透明の水色ボディにドラゴンブレスが呑み込まれる。


「は?」

「え?」

「ま?」


「無事息災」


 で、地平線まで消し飛ばすドラゴンの一撃はメテオールに吞み込まれて消えた。と思った刹那。今度は同威力のブレスをメテオールがドラゴンに浴びせる。


「ドラゴンブレス!?」


 ウツロの驚愕も分かる。普通スライムはブレスを吐かない。っていうか。


「ドラゴンブレスを呑み込んで吐き返してんのか!?」


 そういうことになる。無茶苦茶だ。ハッキリ言ってとてもではないが常識外れ。だが同時にチャンスでもあった。


「ギイイイイ!」


 そのドラゴンブレスを受けて、苦しむグレイトドラゴン。


「これって……」


「光明が見えたな」


 呆然とするリイン。俺が安心して息を吐く。そんな能力がメテオールにあるのなら、ここから先は理屈が通じる。


『ちょ! 凄くね!?』

『おいおい! 撮れ高が酷すぎる』

『スライムってこんな強いのか?』


 あーくそッ。コメントを読み上げるオートドローンが憎らしい。絶対自分だけ安全確保してるだろ。あのドローン。


「ギあああああ!」


 さらにドラゴンブレス。だが体積増し増しの巨大なスライムは、そのブレスを呑み込んで、またグレイトドラゴンに吐き返す。


「ん? ちょっと待てよ?」


 そこで俺はちょっと要らんことを考えた。


「メテオール。あのドラゴンを呑み込むことは可能か」


「肯定」


 出来るのかよ。


「ウツロ。メテオールに命令。ドラゴンを呑み込ませろ」


「やっちゃってメテオール!」


 命令になっていないが、俺の言語も理解しているので、改めてウツロの命令を思索するまでもない……と言ったところか。


「合掌」


 手ェないだろお前。とはいえ、ドラゴンを呑み込むのだから、仏教的に祈りをささげるのはちょっと面白い。


「ギあああ! ガアアアア!」


 そもそも体積が何処から出てきたのか。ハッキリ言ってグレイトドラゴンより巨大な体積のスライムが、まるで津波のように襲い掛かって呑み込んでしまう。


「馳走」


 全部呑み込んだ後、ケプッと可愛らしいゲップをするスライム。こうしてドラゴンはスライムの体内に消えていった。そのシステムを逆算して、俺は言った。


「ついでに俺も吞み込めるか?」


「肯定」


「ちょ!」


 リインが瞠目する。


「何を!」


 ウツロも驚き散らす。


「いや。おそらくだがスライムの中にはグレイトドラゴンがいる。多分だが亜空間に収納されているだろう。つまり今ここで安全にはなったが、メテオールが体内で保持している限り、グレイトドラゴンの危険は去らない」


「で、にゃんでマジナがスライムの体内に入るってことににゃるにゃ?」


「勝てるから」


 何を言っているんだコイツは。そんな思想が見え隠れ。


 まぁ気持ちはわかる。ドラゴンバレーの階層主。普通なら乙級ハンターがパーティを組んで討伐するレベルのモンスターだ。とはいえ、放っておくわけにもいかない。


「なわけでメテオール。俺を呑み込んでくれ。できるだろ」


「否定否定」


 つまりできるわけだ。

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