第14話:グレイトドラゴン


「――感電ショック――」


「――水流刺突トライデント――」


 俺の雷系魔術のレールガン。


 リインの水の槍。


 それによって貫かれるドラゴンの集団。


 流石に上層程度では対処も容易だ。丁級でも攻撃手段さえ確保すれば倒すことは難しくない。ただ懸念事項は無いではない。ダンジョンの悪辣さだ。行けると思った時に最悪の試練を課すのがダンジョンである。いま五階層で順調というのが、俺にとってはむしろ怖い。どこかで穴がありそうな予感。


 とか思っていると、


「にゃーん! 宝箱!」


 で、隠し扉も隠し部屋もなく、普通にダンジョンにおかれている宝箱をリインが見つけた。目が星になっている。


「開けるにゃー!」


 目をギラギラさせてリインは宝箱に向き合う。


「大丈夫っすか? 罠とか」


「罠があってもスルーする理由にはにゃらにゃいにゃー!」


 で、カチンカチンとトラップの起動を封殺して、宝箱を開ける。


 派手な装飾の宝箱。その中にあったのは、赤い石だった。


「え?」「にゃ?」「は?」


 俺とリイン、ウツロが唖然とする。


 赤い石。ソレが示すアイテムを知らないハンターはおそらくいない。


 曰く――哲学者の石。

 曰く――天上の石。

 曰く――赤きティンクトゥラ。

 曰く――大エリクシル。

 曰く――第五実体。


 これを求めて深層へと足を進めるハンターもいるくらいだ。少なくとも上層の途中で見つかるというのはイレギュラーにもほどがある。


『え? それって』

『祭りじゃ祭りじゃ!』

『賢者の石!?』

『超欲しい!』


「…………マジナ?」


「なんだ?」


「どう思う?」


「まぁ売ったら一兆は下らんだろうな」


 死者には復活を、生者には不死を約束する奇跡の石。


「でもこんな上層で見つかったってことは」


「百パー罠」


 それは断言できる。


『取らないよな』

『そこはリインちゃんを信用しようぜ』

『ダンジョン攻略は常に冷静に』

『ハンターの基礎だしな』


「例えば」


 とリイン。


 もう例えばとか言ってる時点で冷静じゃない。


「賢者の石を握って猛ダッシュで逃げるというのは?」


「してもいいが。確認を取るのは俺じゃなくて卍山下ウツロ氏じゃね?」


 ヒョイと彼女を指す。男女共有完全強化魔法アンドロギュノス。その中でもブーステッドエフェクトが一番利いてないのがウツロだ。仮にここで最悪の事情が起きると、逃げ遅れるのは彼女と言っていい。


「欲しいのなら……止めないっす。師匠たちが必要だというのなら、僕に止める権利は無いっす」


「あるぞ。自分に正直に意見を言え」


「出来ればそのー」


 だよなぁ。喉から手が出るほど欲しているリインには悪いが、こんな見え見えのギロチンのヒモを切るのも賢いとは言えず。ボコボコとマグマが泡立っている大気温度が熱い火山の内部のような洞窟。ドラゴンバレーで罠を踏んだ場合の命の危険度ははっきり言って青天井だ。


「じゃあ、今回はスルーということで」


「美味」


 で、ポンポンとリインの肩を叩いて冷静さを促して、このあまりに罠テロしている賢者の石を諦めるよう説得する。その俺とリインの漫才の隣で、メテオールが賢者の石を体内に取り込んでいた。


 …………。


 ……………………。


 ………………………………え?


「至宝重宝」


 ゲップこそしなかったが、賢者の石を呑み込んだことを満足げにメテオールはそう言った。時が止まった。思考が剥奪される。こいつ。たかがスライムが賢者の石を取り込んだ?


 そして時は動き出す。


「グルルルルルッ!」


「で、ですよねー」


 もちろんタダで済むはずもなく。


 巨大な影が俺たちに落ちる。俺とリインとウツロとメテオール。


 グレイトドラゴン。


 本来ダンジョン下層にいる階層主とも呼ばれるボスモンスターだ。その吐くブレスはあらゆるものを焼き尽くし、その鱗は何者をも弾いてしまう。矛盾を体現した不条理な存在。


 俺はメテオールを掴んで、アイドルのライブでそうするようにタオルの如く振り回した。


「出せー! 賢者の石を出せー!」


「無理。美味」


 コイツ。売ったら兆円する希少なトレジャーを自分の都合で吸収しやがった。不死のスライムとか誰得だ! ちょっとよく見たらスライムの核が赤く染まっている。おそらく種族的に進化はしているだろう。スライムの進化先はショゴスだったか。いや、賢者の石の能力を考えれば、それ以上もあり得る。


「どうしてくれる!」


「責任回避」


 このスライムはー……。


「あのにゃー。マジナ。そんにゃことしている場合じゃ……」


 グレイトドラゴンがアギトを俺たちに向けてきた。ドラゴンブレスが吐かれる。


『やべーって!』

『シャレになってない!』

『超逃げてー!』

『放送事故じゃね?』

『言ってる場合か!』


 オートドローンは臨場感たっぷりにグレイトドラゴンを映し、それから逃げ惑う俺たちを上空から見下ろしていた、多分コイツが一番危機感がない。


「ギシャアアア!」


 で、ドラゴンがブレスを吐く。それも地平線まで更地にしそうなやつ。今ここはマグマの洞窟なので地平線は無いが、逆に言えば巨大なビーム砲撃を躱すための空間もない。薙ぎ払われて終わりだ。ボウッッとグレイトドラゴンの口から蒼い炎が漏れ、そしてその炎を導火線に極太ビームを放ってきた。


「――竜王吐息ドラゴニックバレル!――」


 対するリインも竜の吐息を放つ。ドラゴンブレスとドラゴニックバレルが、互いに受けたら骨も残らない威力で相殺される。


「セーフだにゃん」


「暗号資産はどれだけある?」


「三億くらい。撃てて六発かにゃ」


 じゃあ逃げた方が賢明だな。


「――神雷ダムネイション――」


 俺は声紋認証で雷魔術を発動する。銃弾はアダマンタイト。加速はマッハ二十。しかも弾丸は変形せず、空気摩擦で高温とソニックブームを生む。光も生まれ、音が弾け、視界が真っ白に染まる。そのレールカノンの一撃で、


「ギガァァ!」


「元気ピンピンなのな」


 さすがにグレイトドラゴンは生半じゃないらしい。


「とはいえここで……」


 本気を出すのは。

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