第13話:トレジャーテイカー
「本当に案件をお受けしていただきありがとうございましたっす」
一階層。二階層。と続いて三階層を歩いている俺たち。マグマによって狭められている洞窟の通路を歩き、そこそこモンスターも倒している。まるで風呂にでも浸かるようにマグマの中を遊泳しているドラゴンもいれば、溶岩を避けるように飛んでいるワイバーンもいる。視界に入った瞬間襲われるわけだが。まぁウチにはリインがいるんでね。
「――
あっさりと襲い掛かったワイバーンの首を斬るリイン。コイツも自重はしているのか。低予算の魔術でドラゴンを牽制している。ただ打ち合わせでは、この探索で一回はドラゴニックバレルを撃つという契約がある。やはり対軍魔術を放てば撮れ高になるし、その合間にワイルドワールドの宣伝をすれば多くの人の目に留まる。ちなみに俺も、この探索で一回は神雷による最強の一撃を撃たねばならないことになっていた。
まぁ五階層くらいまではゆっくりくらくらレールガンでお茶を濁す羽目にはなろうが。
「――
最底辺の雷魔法で、加速レールを構築。襲い来るドラゴンを撃ち殺していく。ドラゴンが死んでマグマへと沈んでいく。これがあるのでちょっとな。ドラゴンバレーはドロップアイテムを回収しにくい。まさかマグマに入るわけにもいかんし。足場のある空間でドラゴンを倒さないとドロップアイテムがマグマに沈んでいく。
「失礼」
ニュルッとスライムのメテオールは地面に消えていく。
「?」
まるで隙間のない地面だったが、そこに染み込む……というより液体が滑るように消えていった。
「ああ……メテオールの悪い癖が」
ウツロ氏が「あちゃー」と頭を抱える。
『隠し扉か?』
『スライムって隠し部屋検知できるのか?』
『で、何故テイマーのウツロ氏が困るので?』
「えーと。ボク……というかボクとメテオールはちょっと一般パーティに嫌われる要素がありまして」
「はぁ」
「にゃー?」
地面の底に消えていたメテオール。その消えた地面をコンコンと叩く。空間特有の響きが聞こえてきた。おそらく隠し部屋がある。コンコンと地面を叩いて、とっかかりを見つける。そしてギギギィと開けると隠し部屋への階段が生まれる。
「俺たちだけだったら見つけられなかったな。優秀じゃないか。メテオール氏」
「いやー。見つけるだけならいいんすけど」
「?」
で、メテオールを追って、俺たちは隠し部屋に入っていく。小さな空間。そこに宝箱があった。ドロップアイテムとはまた違う。ダンジョン特有の御褒美みたいなものだ。ただ開錠にも技術は要るし、場合によっては罠もある。その宝箱に近づいて、あろうことかメテオール氏は染み込むように内部へと侵入していた。
「えーと?」
俺が指を差して聞くと、ウツロが答える。
「メテオールは二つのスキルを持っています。一つが超流動」
ああ、低温物理学のアレ。
「で、一つが体内格納」
空間的に格納庫を持っているわけだ。一部そういうモンスターは存在する。スライムが……というのは寡聞にして知らないが。
「で、隠し扉の隙間と宝箱の隙間を超流動ですり抜けて、宝箱の中身を体内に取り込んでしまうっす」
…………えーと。
「なのでボクとメテオールはこう呼ばれています」
『トレジャーテイカー』
隠し部屋を見つけるのはハンターの花だが、悉く見つけて奪ってしまう。だからウツロとメテオールは嫌われてしまう。
「満足」
で、開錠もしていない宝箱の隙間から現れたメテオールは、言葉通り満足そうにプルプル震えた。
『つまりトレジャーを全部奪ってしまうと』
『何ソレ。仁義はどうした?』
『ていうか取り込んだ宝はどこ行ってんだ?』
「すみませんすみませんっす! でもメテオールはそう言う性質で」
「まぁそりゃハンターには嫌われるな」
「にゃー」
「申し訳ないっす」
「ああ、大丈夫。最初に見つけたのはメテオールだ。所有権は彼……彼か? 彼女か? とりあえずメテオールにある。リインもそれでいいだろ?」
「大丈夫にゃーよ。どうせスルーするはずだったお宝だから。早い者勝ちってことでにゃ」
「い……いいんすか?」
「問題なし」
「それよりエーテルプリズム集めてにゃー。メテオールにも一部食わせていいから」
「なんと心の広い……」
おそらくハンターから鼻つまみ者だったのだろう。俺とリインだから許容したようなものだ。
「お二方のことは師匠って呼ばせてもらうっす!」
『お、部下が出来た』
『ニキって呼んだ方がいいのでは?』
『トレジャーテイカー、一応ネットにあるな』
『ソース何処だ』
『でも確かに宝箱は早い者勝ちだからリインちゃんたちが口を出すのは逆にアレじゃね?』
「な、わけで気にすんな。俺らが見つけたら貰うが、メテオールにお手付きは無い」
「は……これが天使っすか?」
「ていうか、スライムの体内にある格納空間が俺としては気になるんだが」
「色々入ってますよ。たまに吐き出したりもするっすけど」
……………………ふむ。
俺はメテオールを掴んだ。洗濯したタオルを干す時みたいにバサッバサッと振ってみる。掴んでみたが粘液というより滑りの良い半液体みたいな感触。で、バサバサと振る。
カラン。
「カラン?」
で、ちょっと意匠を凝らしたナイフが落ちてきた。鑑定に回さないと分からないが、おそらくレアものだろう。
「これもメテオールが?」
「まぁボクがテイムしてから、一般ハンターに嫌われるまで、色々と格納してきたっすから」
「ふーむ」
で、放り出されたナイフを柄ではなく刃を握って、俺は柄頭をメテオールに押し付けた。これで辻斬りの呪いでもかかっていると、場は最悪になる。鑑定していない刃物は柄を握ってはいけない。そのままニュルッと不定形のメテオールの腕がナイフを巻き取ると、そのまま体内に取り込んで消してしまう。細胞核のあるアメーバ状の体内のどこにナイフが消えたのかもよく分かっていない。だが、おそらく四次元ポケットみたいなものだろう。
「便利だな」
「本人が預かっているだけならっすけど」
「恵愛仁愛」
どうやらメテオールは熟語でしか喋れないらしい。
「実はすっごいお宝秘匿していたりしないか?」
「黙秘」
あ、そ。
ところでドラゴンもそろそろ強くなってきたな。
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