18. 痛恨のミス

「おぉ、おぉぉぉぉ!」


 ユウキは思わず息を呑む。その神々こうごうしい輝きは、まさに希望そのものだった。部屋全体が神秘的な光に包まれる中、ユウキの心臓は高鳴りを抑えられない。


 やがてその光はまぶしいまでに輝きを増していき――――。


 ヴヴヴッ!


 高周波の電子音が静謐な部屋に響き渡った。


 それは新たな生命の誕生を告げる鼓動のように、ユウキの胸に響く。


 瑞々みずみずしい光の塊がバチッ!バチッ!と激しいスパークを放ちながら宙に浮かび上がっていった。その黄金色の輝きは空中で徐々に落ち着いた青白い光へと変容していく。そして、生命の胎動のように、完璧な卵形へと姿を変えていった。


 ユウキは固唾を呑んで、その神秘的な光景を見守る。待ち焦がれた奇跡が、今まさに目の前で起ころうとしているのだ。その予感が全身を震わせる。


 卵型の光に細かなヒビが走る。まるで生命の誕生を映すかのように、そこから微細な造形が施され始め、次第に現代アートのような有機的な形を成していく。


 おぉぉぉ……。


 目を大きく見開いたユウキの見守る中、やがて、それは膝を抱えた少女の姿へと変容していく。その姿は、まるで天使てんしの降臨のように神々しかった。


「リ、リベル……」


 ユウキは思わず手を組み、その少女の再生の神秘に涙を流した。


 少女はゆっくりと手足を伸ばし、宙に十字を描くように胸を張る。その姿は、まるで生命の神秘を表現した芸術作品のように美しい。


 露わになる気高い肢体――――。


 ユウキは目を逸らすべきだと分かっていながらも、そのギリシャ彫刻のような美しいふくらみ、流れるようなフォルムから視線を外すことができなかった。


 やがて彼女の身体を包むように、銀色のボディスーツが形作られていく。全身を覆う未来的なフォルムには、胸元から背中にかけて鮮やかな青色の回路サーキット模様が彫られていった。その幾何学的な模様は、彼女の人工心臓から全身へとエネルギーを送る生命線のように輝いている。


 一度うつむいた彼女は、力強く顔を上げた――――。


 青いかみが宙に舞い、碧眼へきがんが鋭く開かれる。その瞳には、確かな生命の輝きが宿っていた。


「リ、リベルぅ……」


 ユウキは震える声で呼びかける。期待と不安が交錯し、喉の奥がカラカラに乾いていた。


 リベルはゆっくりとユウキを見下ろす。その碧眼へきがんは氷のように冷たく、まるで見知らぬ人を見るかのようだった。その視線に気圧されながらも、ユウキは震える声で言葉を紡ぐ。


「ぼ、僕だよ、分かる?」


 小首を傾げるリベル。その仕草は、まるで幼い子供のように愛らしい。


「キミは……ユウキ……」


 リベルはそう呟くと、突如としてキラリと碧眼を輝かせた――――。


 その瞳に、あの懐かしい愛らしさが戻ってくる。


 直後、リベルは太陽のような笑顔を見せると、ユウキの胸に飛び込んだ。


「アリガトー! 助かったわ!」


 柔らかな感触と共に、春の花々を思わせる甘く華やかな香りが漂う。思いがけない展開に、ユウキは目を白黒させながら固まってしまう。心臓が高鳴り、頭の中が真っ白になった。


「や、役に立てたなら……良かった……」


 精一杯の気持ちを込めて、ユウキはぎこちなく答えた。


「なに? こういう時はキスをしたら……いいの?」


 リベルは首を傾げながら、水晶すいしょうのように透き通った青い瞳でユウキを見上げる。その仕草は、あまりにも無邪気で魅惑的だった。


「ど、ど、どうなんだろう……?」


 ユウキは焦って言葉を濁す。こういう時にサラッと上手いことを言えない自分の愚昧さに辟易としてしまう。


「ふぅん、キスしたくないんだ……」


 リベルはつやのある唇をとがらせ、つまらなそうな表情を浮かべると、ふわりと宙に浮かび上がった。


「あっ……」


 ユウキは自分の痛恨のミスに気づき、思わず宙を仰いだ。

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