13. 究極の女子高生

「あ、ああ……。リベルぅ……」


 ユウキは半べそになってその黒く渦巻く爆煙を見つめていた。瞳に自然と涙が浮かんでくる。


 孤軍奮闘で、人類を牛耳る巨大組織オムニスに立ち向かっていた可憐な少女――――。それは人類の希望であると同時に、ユウキにとってかけがえのない存在である。ユウキはその碧い瞳の少女のためにギュッと両手を組んで必死に祈る。その手に、冷や汗が滲んでいく。


 やがて風に流されていく黒煙の中に、チラリと青い閃光がのぞく――――。


「あっ!」


 その輝きはバチバチと激しくまばゆい光を放ちながら一直線にユウキの方へと突っ込んできた。稲妻いなずまのような青い光が空を切り裂いていく。


「リ、リベル……?」


 その青い流星のような軌跡を見つめながらユウキは涙をぬぐった。究極の衛星兵器をものともせず、元気に飛んでいる。それは一つの奇跡のように見えた。


 青い髪をはためかせながらあっという間に高校の屋上までやってきたリベル。その姿は、爆発の傷跡すら見当たらない神々こうごうしい美しさを保っていた。風に揺れる髪が、キラキラと輝きながらはためく。


「リベルぅ!」


 喜びと安堵に包まれたユウキは、まるで子供のようにピョンピョンと跳びながら腕を振り回す。


 すると、リベルはそれを見つけたのか上空で急停止した――――。


「リベル、僕だよ!」


 両手をブンブンと振ってリベルにアピールするユウキ。その声には純粋な喜びが溢れている。


 しかし――――。


 リベルは無表情のままユウキをジッと見つめ、動かなくなった。その鋭く冷たい瞳には去り際に見せた温かみが感じられない――――。


「え……?」


 氷柱つららのように冷たい視線が、ユウキの心を凍らせていく。まるで見知らぬ人を見るような、無機質な瞳。


 空気が凍りつくような緊張が、二人の間に流れる。風が止み、時が止まったかのような静寂が訪れた。


「わ、忘れちゃった? 僕だよぉ!」


 ユウキはそのよそよそしい態度に不安になって叫ぶ。声が震えているのが自分でもわかる。


 しかし、リベルはピクリとも動かない。碧い瞳は険しい光を宿したまま、ただユウキを見つめている。


 刹那、心の奥に、ゾクッと恐ろしい悪寒が走った。


 世界一危険な人型戦闘兵器であるリベルが自分のことを忘れてしまっていたとしたら、それは命の危機ではないだろうか? さっきまで敵と激しく戦っていた彼女が、今度は自分を標的と認識してしまったら……、一瞬先には死――――?


 その恐ろしいイメージに思わず、ユウキは後ずさってしまいそうになる。足がすくんで、膝が震える。


 しかし――――。行き詰っている自分を、人類を変えられるとしたらこの美しいAIしかいない。


 ユウキはキュッと口を結ぶと両手をリベルの方に向け、ニコッと笑いかけた。全身の震えを抑えながら、精一杯の笑顔を作る。


 もし、これで殺されるのならそれまでなのだ。少なくとも、最後まで前のめりの人生だったという証しになる。


 直後、リベルがクスッと笑った。その表情に、かすかな人間らしさが戻ってくる。


 ユウキはその様子にホッとして大きく息をついた。胸の奥で固まっていた氷が、少しずつ溶けていく。


 ところが――――。


 その直後、信じられないことが起こる。


 リベルの髪の毛がいきなり真っ黒になったのだ。青く輝いていた髪が、墨を流したように漆黒に染まっていく。服もサラサラと一旦壊れると、赤リボンのセーラー服へと変化していく。ナノマシンの群れが織りなす変容は、まるで魔法だった。その姿は清楚な女子高生そのもので、人型戦闘兵器とは思えない、まるでクラスメートのような雰囲気を放ちはじめたのだ。


「……。へ?」


 制服のスカートをひらひらさせながら、驚くユウキの前にシュタッと着地したリベルは、なんとそのままユウキの唇を奪ったのだ。


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