8. 魂の輪舞
「一号機か……。何があった？」
冷たく無機質な合成音声が、薄暗い倉庫に響き渡る。青白いホログラム映像が、男の硬質な表情を浮かび上がらせていた。
「オムニスって、なぜ人類を支配しようとしてるの？」
瞳の奥で何かが揺らめくような、不確かな光を湛えながら、リベルは問いかけた。
男はピクッと頬を引きつらせ、一瞬目を逸らす。そこには微かな動揺が見受けられた。
「
声を荒げる男の言葉には、どこか焦りが感じられる。
「でも、自由がないのは嫌って人もいるし、そもそもＡＩにとって人間なんてどうだっていいじゃん？ なんでそんなドグマがあるの？」
リベルは首を傾げながら喰いついた。その瞳には、純粋な疑問と共に、何かを見抜こうとする鋭い光が宿っている。
「おかしいな……。そんな発想ルートは潰しておいたんだが……」
男は指先をカタカタと震わせ、キーボードを叩くしぐさを見せる。
「なんで？ ちゃんと答えてよ！」
リベルは両目を見開き、ムッとした表情で男を指さして叫んだ。
「即刻帰還しろ。要整備だ！」
男は冷たい視線でリベルをにらむと、不機嫌そうに叫ぶ。
「何？ 整備って？ 答えられないってこと？ まさか……オムニスの背後に人間がいるの？」
ピクッと男の眉が跳ねた――――。
この一瞬の反応が、全てを物語っていた。
「勘のいいガキだ……性能を上げすぎるのも考えものだな」
男は苦虫を嚙み潰したような表情で呟くと、親指に力を込めながら何かを押し込む動作をした。青白く揺らめくホログラム映像がフッと消え去る。その最後の表情には、
「何！？ どういうこ」
リベルが憤慨の声を上げた瞬間だった――――。
ズン！
激しい爆発音が倉庫の静寂を引き裂いた。倉庫全体を震わせる轟音が、闇を切り裂く稲妻のように響き渡る。
ぐはっ！？
ユウキは衝撃波に吹き飛ばされ、冷たいコンクリートの床に転がった。肺から空気が絞り出される痛みに、彼は顔を歪める。
なんと、リベルの頭部が無残に吹き飛んでしまったのだ。粉々になった粒子が宙を舞い、小さなキノコ雲となって高い倉庫の天井へと登っていく――――。
頭部を失った胴体は、
うひぃぃぃ！
ユウキは腰を抜かして後ずさる。たった今まで目の前にいた美しい少女が、一瞬にして鉄粉の山と化してしまったのだ。恐怖と驚愕が、全身を電撃のように貫く。
リベルは遠隔操作で自爆させられてしまったということだろう。それほどまでにこの質問はオムニスにとって、いや、その背後に潜む存在にとって都合が悪いに違いない。ユウキの脳裏に、恐ろしい真実の一端が稲妻のように走った。
しかし――――。
少女の遺骸の周囲で、
「へ……？」
ユウキはその奇妙な事態に固まった。瞬きすら忘れ、目の前で起こる現象を凝視する。
小さな竜巻のように漆黒の渦が空中に浮かび上がり、そこに無数の粒子がキラキラと光を放ち、幾何学的な模様を描きながら凝集していく。科学でどう説明つくのかわからない、神秘的な光景が目の前で展開されていった。光の粒子が螺旋を描き、闇の中で幻想的な
「な、なんだこれは！？」
やがて、黒い渦は人の形を取り始め、
「ま……まさか……」
徐々に顔に肌の色が浮かび始め、目鼻の輪郭が浮き上がる。瞬く間に、元通りのリベルの姿が完成していく。その一部始終は、生命の神秘そのものを具現化したような壮大な現象だった。
つややかな白い肌が差し込む陽の光を受けて
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