3. 殺戮の天使

 激しい銃声とともに、無数の弾丸が雨のように彼女に降り注ぎ、その細いボディをハチの巣のように貫いた――――。


 鮮やかな青色の髪が、弾丸の衝撃で舞い踊り、残酷さと美しさが交錯する。それは異様な芸術作品のようにすら見えた。


 少女の碧眼が大きく見開かれる。驚きが、その美しい瞳に浮かんだ。


 ヨシッ!


 勝利を確信したパイロット。彼の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。


 しかし――――。


 その喜びはつかの間だった。現実は、彼の期待を残酷に裏切る。


 少女は穴だらけのボディのまま、まるで重力など存在しないかのように、スーッと上空へと舞い上がっていった。


 やがて、微粒子の集合体が群れになって穴をふさぎながら、神秘的な光が彼女の体を包み込んでいく――――。


 驚くべきことに、ハチの巣状態だったはずの少女の体が、目にも止まらぬ速さで元通りに修復されていく。人類を背負った執念の一撃も、彼女にとっては何のダメージにもならなかったのだ。


「バ、バカな……」


 男は啞然とした。ハチの巣にしても復活してしまう少女。それはもはやこの世のものとは思えない悪夢だった。


 完全復活した少女はニヤリと笑い、まるで蟻を見るかのように男を見下ろす。


 そして、怒りに満ちた表情でゆっくりと右腕を天に掲げ、そのこぶしを黄金色に輝かせた。


「やって……くれたわね?」


 その姿は、天の裁きを下す女神のように美しかった――――。


 パイロットの心に、絶望が深く刻み込まれていく。


「バ、バケモノ……。撤退だ! 全力後進!!」


 彼は真っ青になって操縦桿を一気に引っ張った。一刻も早く逃げねばならない。まるで死神の大鎌が首筋に当てられているかのような恐怖が彼の心を支配していた。


 しかし――――。


天誅てんちゅう!」


 凛然りんぜんとした叫びが、雷鳴らいめいのように大気を震わせた――――。


 両腕を大きく振り下ろす少女から、無数の青い光条がほとばしった。それは渦を巻きながら一つの巨大な竜巻たつまきとなり、空間を切り裂いていく。


 竜巻の渦は、破壊の意志そのものが形を成したかのように、凄まじい威力で一気にロボットを巻き込んでいく。


 青く輝く螺旋らせんの渦は、まるで天から降り注ぐ裁きさばきの光のようにロボットを破壊していく。


 巨大ロボットの装甲は、まるで紙のように引き裂かれた。金属がきしむ悲鳴と、部品が砕け散る轟音が混じり合い、瓦礫がれきの街に不協和音の残響を残していく。パイロットの断末魔が通信機から漏れ聞こえる中、人類の英知の結晶は徐々に塵と化していった。


 最後の抵抗のように起こった大爆発は、人類の敗北を告げる狼煙のろしとなって空を染め上げる。


 炎と煙が立ち昇る中、少女の澄んだ笑い声が木霊した――――。


「きゃははは! お馬鹿さん!」


 空中でくるくると回りながら無邪気に笑う少女。その聞く者の心を凍らせる笑い声は、人類の悲哀ひあいを嘲笑うかのようだった。


 殺戮の天使――――。


 少女の周りには、青い光の粒子が舞い踊る。それは破壊した敵の残骸ざんがいが、彼女の体に取り込まれていく様にも見えた。


 爆炎の立ちこめる空に咲く青い華――――。


 彼女の放つ輝きは残酷なまでに美しかった。

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