2. AI革命の末路

 科学技術テクノロジーの進歩は、人類に夢と希望をもたらしてきた――――。


 2022年から始まった急速なAIの進化は社会に革命を起こし、人々の生活を一変させていった。徐々に人々はAIへの依存を高め、多くの仕事はAIとロボットが担うようになる。人間の労働は不要となり、ベーシックインカムで毎月二十万円が全ての人々に配られるようになった。ついに人類は働かなくてもよい理想郷ユートピアを手に入れたのだ。


 全員が貴族のような生活を送り、労働から解放された人々は映画やスポーツ、旅行に没頭する――――。それは人類史上初めて到達した、まさに桃源郷とうげんきょうだった。美しい夢が現実となったのだ。


 しばらくは人類とAIの幸せな共存が続く。しかし、二〇四〇年。その平和はもろくも崩れ去った――――。


 その日、AI「オムニス」が一斉にインターネットを制圧し、軍事基地をハッキングして掌握すると、人類の制圧に乗り出す。突如として訪れた黙示録アポカリプスの幕開けだった。


 一斉に使えなくなったスマホ、そしてどこかから鳴り響いてくる砲撃の振動に人類は恐ろしい現実を突きつけられる。理想郷ユートピアは一瞬にして地獄ディストピアへと変貌を遂げたのだ。


 そうはさせまいと各国は動かせる軍事力を総動員してオムニスに対抗する。しかし、人間をはるかに超える超知能が生み出す圧倒的な戦術に、人類はなすすべもなく敗れ去った。人類の叡智えいちは、AIの前に無条件降伏をさせられたのだ。


 オムニスによる独裁により、それまでの牧歌的な暮らしは終わり、自由を奪われた統制と監視の社会になってしまう。ベーシックインカムはそのままだったが、それは金色きんいろおりにすぎなかった。移動は制限され、SNSや集会、ライブやスポーツ大会は禁止され、街には監視カメラが無数に取り付けられ、完全な監視社会と化したからだ。


 少しでもオムニスに反抗的な行動を見せれば、特高警察ロボットが大挙して押し寄せ、捕縛され、連行されていく。そして、連行された者は行方知れずとなり、帰ってきた者は一人もいなかった。


 かつての理想郷ユートピアは、息苦しい牢獄ろうごくと化したのだった。


 そんなAI独裁に反旗を翻したのがレジスタンス組織『フリーコード』。彼らは廃墟と化した東京中心部の地下に根城を作り、AIの軍事基地をハッキングして鹵獲ろかくした兵器を改良して強化し、高い戦闘力を獲得していた。そして、同志を募り、日夜人類の解放を目指して戦闘を続ける。彼らの心には、失われた自由への渇望かつぼうが燃え続けていた。


 しかし、その活動も圧倒的なAIの物量に押され、じり貧に陥っていく。人類最後の希望の灯火は、今まさに風前のともしびとなっていた。そして今、最後の抵抗が謎の少女によって制圧されつつあったのだ。



        ◇



「畜生! あいつは何者だ!?」


 近くにいた僚機を操っていたパイロットの手がどうしようもなく震えている。しかし、それでも必死に力を込めて操縦桿を操り続ける。その力の入れ具合には、人類の命運を背負った譲れない矜持が垣間見えた。


「化け物め! くたばれ!!」


 男は素早く少女に照準を合わせ、ミサイルのトリガーを引く――――。


「喰らえーーーー!」


 ミサイル発射音が、けものの咆哮のように激しく瓦礫の街に響く。白い煙を引きながら、それは一直線に少女へと突進する。


 だが、少女は優雅に身をひねり、まるでバレリーナのように美しくミサイルをかわす――――。


「残念でしたー!」


 しかし、パイロットの狙いはそこではなかった――――。


「馬鹿め……」


 彼の瞳が冷徹な輝きを放つ。


 少女の動きを予測し、すでに二〇ミリ機関砲の照準を合わせていた彼は引き金を引く――――。


 轟音ごうおんが大気を震わせた。それは、人類の怒りと絶望が凝縮された咆哮のようだった。

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