リベリオン・コード ~僕と美しき殺戮天使のちょっと危険な放課後~

月城 友麻 (deep child)

1. 舞い降りた悪夢

 二〇二七年、AIの進化はついに臨界点を迎える。創造主を凌駕したAIは、やがて人類を労働という概念から解放し、人類史上初めて真なるユートピアが花開いた。


 科学の輝かしい勝利――――誰しもその夢の世界を疑わなかった……が、その輝きは流れ星のようにはかなかった。


「でも……、今思い返せばそれは必要なプロセスだったかも……ね?」


 風が運ぶ灰が頬を撫でる中、高校生のユウキは言葉を紡いだ。天を突く鉄骨の森、砕け散ったガラスの砂漠、朽ちゆく文明の残骸――――かつて東京と呼ばれた瓦礫の海を見渡すその顔には十代とは思えない経験の重みが深く刻まれ、彼の眼差しをいつしか大人のものへと変えていた。


 彼の胸ポケットが微かに青く脈動する。そっと指を差し入れると、フィギュアサイズの青い髪の少女が顔を覗かせた。


「まぁ、そうかも……ね? ふぁぁぁあ」


 少女は眠そうに大きなあくびをする。


 これは世界の終わりと始まりの物語。あと十数年後に現実化するかもしれないストーリー――――。



           ◇



 瓦礫と化した東京の風景に、鈍い金属音が響き渡る。レジスタンス「フリーコード」の巨大な二足歩行ロボットが、人類最後の希望を担い、廃墟を進んでいた。


パイロットの男が汗ばんだ手で操縦レバーを握りしめながら無線を飛ばす――――。


「敵影なし。このまま目標地点αまで……、へ……?」


 薄汚れたロボットの頭部カメラが捉えたのは、天から降り注ぐ一筋の光と、宙にたたずむ天使のような少女だった。


 風になびく青い髪は生きているかのようにゆったりと揺れ、碧眼は宝石のように煌めいていた。その瞳の奥には人智を超えた神秘が宿り、少女の一挙手一投足には世界の秩序を揺るがす力が感じられた。


 彼女はゆっくりと、重力など存在しないかのように優雅に降下してくる――――。


「な、何者だ!?」


 パイロットの背筋に冷たいものが流れた。


 はかなげな見た目に不釣り合いな、ニヤリと浮かべた不敵な笑み。まるで無邪気な子供が、踏みつぶそうとする蟻を見つめるような冷酷さがそこにはあった。


「君、悪い子だね……」


 少女の声は風鈴のように涼やかで美しく響く――――。


「死んで?」


 少女は小首をかしげると指先を男に向け、銃の形をつくる。その一瞬の動きの中に、底知れぬ危険性をパイロットは本能的に悟った。


 刹那、少女の指先から虹色の閃光が放たれ、ロボットを包み込む。まるで裁きの光のように、容赦なく鋼鉄の巨体を貫き、操縦室に絶叫が響き渡る。


 直後、轟音と共に人類の希望は内部から大爆発を起こした。鋼鉄の巨体が儚い花火のように四散する中、少女の天使のような澄んだ笑い声が美しく響いた。


「きゃははは!」


 彼女の碧眼に歓喜の色が浮かび、それはまるで人類の絶望を糧にして育つ邪悪な花のように輝きを増していく。クルクルと宙を舞う姿は、死の舞踏を踊る妖精のようだった。


「次は誰かしら? もっと楽しませてよ!」


 少女は無邪気な笑顔を振りまき、ツーっと高度を上げると次の標的を探し始めた――――。

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