第4話 倉元家のやべえ倉

 トウキョ様の事件の解決後、僕は部長とあんどーに連絡をした。もう少しこっちで、やることがあるからと。部長たちに先に帰っていてほしいと伝えると彼女からぶつくさ文句を言われた。彼女は本気で文句を言ってるわけではないので僕は気にしない。


「ま、倉元さんの家族も無事で良かったしょ。えいくん。あんまりおそくなるなよー」

「分かってる。それじゃあ、また明日」

「うい~また明日~」


 通話を終えて、スマホを仕舞う。さ、僕にはやることが残ってる。ちょっと面倒だけど、やるか。


 夜、僕は倉元さんの家で、彼女とお母さんの二人が作った手料理をごちそうになっていた。白身魚のフライに、唐揚げに、なんだかボリューミーな夕食だ。うまい。けど、どうして夕食を御馳走になっているのか。答えは簡単。倉元さんたちがお金だけでなく、どうしてもお礼がしたいというからだった。それに大事な話もあるのだとか。嬉しいんだけどね。ちょっと面倒。だけど料理は素晴らしい出来。写真を何枚か撮らせてもらったよ。インスタに投稿する許可も貰った!


「それで、えっと……」

「改めて、私は倉元。下の名前は千家よ。チカと呼んでね。それで、お母さんの方は典子。ま、こっちはなんと呼んでもかまわないわ」

「あらあら。チカったら。最近は反抗期ってやつなのかしら。ごめんなさいねぇ帝くん。私のことは、ノリコさんって呼んでほしいな」

「あ、はい。いや、さっきもやりましたよ。この流れ」

「「あら、そうだったかしら?」」


 倉元親子はそろって、僕をからかうように笑っている。子は親に似るってやつか? からかわれるのは落ち着かないなあ。


「……えっとだね。倉元さん」

「「どっち?」」


 二人の美人に問われて、思わずドキリとしてしまう。悪い気はしないけど慣れないなあ。

 

「チカさん」

「何かしら?」


 うーん、この。美人さんにからかわれて、一人の男子としてはまんざらでもないのがねぇ。我ながらチョロいと思う。しかしなんだこの親子は? 親子そろって魔性の女か? サキュバス親子なのか?


「チカさん。僕に大事な話があるそうだけど、そろそろ詳しく聞いても良いかい?」

「ええ、私もそのことについて、そろそろ詳しく話そうと思っていたところよ」


 彼女は真剣に、かつ力まずに僕を見ている。彼女のそういう視線を受けると、こちらも真面目に話を聞かなければという気持ちになる。相手の気持ちに影響を与える。そういう力を持つ人はたまに居る。彼女もそうなのだろう。


「……私を、帝くんの助手にしてほしいの」

「助手? 君が言う助手ってのは、助けるに手と書く助手のこと?」

「そうよ」

「なるほど」


 ふぅん。面倒だな。


「だめだ」

「どうして?」


 そう聞きながらも、断られることはある程度予測をしていた風なチカさん。これは簡単には断れないかも。でもね、僕も意地悪で駄目と言ってるわけじゃないんだよ?


「だめな理由はいくつかあるよ。まず、第一に僕がやってるのは危ない仕事だ。怪異を鑑定して、時には祓うんだからね」

「第一に、ということは……他にも理由があるのね?」

「その通りだよ、チカさん。他にも理由がある。今言ったように危険だし、君は霊に対する知識が豊富というわけではないよね? 怪異の鑑定やお祓いは素人にできるような仕事じゃないんだ」


 実は僕も去年からの駆け出しなんだけど、それはそれ。あまり彼女に偉そうなことを言える立場ではないけども、目の前の相手が危険なことをしようとしていれば止めるさ。それくらいの優しさは持っているつもりだ。まあ……心配なんだよ。


「……なるほどね」

「チカさん。分かってくれたかい?」

「つまり霊のことを、ちゃんと勉強したら良いのね?」

「いや、そうなんだけど……そうじゃないんだよなあ。僕は……」

「私のこと心配してくれてるんでしょ? だから私に警告してくれているのよね? 危険に首を突っ込まないように」

「分かってるんじゃないか……」


 それでも彼女は僕の助手をしたいというのか。何が彼女をそこまで動かすんだろう。聞いてみよう。気になるからな。場合によっては彼女を止めるためのヒントになるかも。


「そこまで、鑑定人にこだわる理由。あるのなら聞かせてほしいな」

「うん、私も説明するべきだと思う。聞いてほしいな。帝くん」


 チカさんはコップのお茶を一口飲み、過去を思い出すかのように天井を見る。そして語り始める彼女の姿はずいぶんと様になって見えた。見惚れた、とでも言うべきか。彼女の一挙一動が美しく感じられる。


「私の祖父はちょっとした財産を築いていたわ。彼はそのほとんどを一代で使い果たしてしまったのだけれど」


 ふぅん? いったい何に財産を使い果たしてしまったのだろう。


「今回、うちの倉にトウキョ様が現れたわけだけど、あれはきっと、うちの倉に保管されていた呪物から目覚めたものだと思うの。封印が解けた、と言うべきかしら」

「なるほど」


 そうかもしれない。僕が以前対応した別のトウキョ様も、古い祠に封印されていたものが目覚めたのだ。あの怪異は古い時代に封印されていた存在なのだもの。チカさんは嘘をついていないだろう。この話は信用して良いと思う。とはいえ、ここまでの話だけで僕の考えが変わることはない。どうにかして彼女を説得したいところだ。


「それでね、帝くん。ここからが、とても大事な話なのよ」

「うん」

「私の祖父はああいうものを何点も、財産を使い果たして集めたの。あの倉が、いっぱいになるくらい沢山の呪物を集めたのよ」

「はぁ!?」

「いくらかの呪物は叔父の寺院に預けているわ。とはいえ、叔父には呪物の保管が精一杯みたいなのだけれど」

「いやいやいやいやいや!」


 待て待て待て待て待て!?


「あのレベルの呪物が!? 倉いっぱいにぃ!? ひょっとして倉のダンボールの中身は全部、呪物なのかい!?」

「きっと、ね。しかも一部は叔父の寺に預けてるわ」


 いや、ヤバイだろ!? 飯食ってる場合じゃねえ!


「い、今すぐ倉の様子を見てくるよ!?」

「私も手伝おうかしら」

「チカさんが何を手伝うのさ」

「もう外は暗いのよ? 明かりを照らす人間は必要じゃない? 具体的には懐中電灯を持つ役とか? だって倉は古くて電灯すら無いもの」

「ランプを置くとかで対処できるんじゃないかな?」

「ものを動かしたりする人手は要らないの?」


 ぬう、ああ言えばこう言うな。とはいえ、今日の事件のことを考えると、倉元家の倉はすぐに確認をする必要がある。人手があると助かるのも事実ではあるけど……やっぱり危険なことをやらせるわけには……しかし……ああ、もう!


「変に離れるよりは、近くに居てもらった方が守りやすいからね! チカさんもお母さんも一緒にきてください。二人に後ろから倉を照らしてもらって、倉の確認は速攻で終わらせるよ! 場合によってはものを動かすのも手伝ってもらうことになるかも。とにかく、急ぐよ!」


 家なり早口でまくし立ててしまったけど彼女たちにちゃんと伝わっただろうか?

 

「そうこなくちゃ!」

「あらあら、なんだか面白そうね」


 なんで倉元家の母娘は、今日の夕方にトウキョ様の事件があったばかりなのにノリノリで倉を調べる気分になるんだよ!? 親子そろって鋼メンタルか? 調子狂うなあ。


 その後、僕は倉元親子の手を借りながら一時間で倉のチェックを終わらせた。霊の封印がすぐに解けたりしそうな呪物はなかった。一応安心……だけど、これをこのままにしておくのは絶対に良くないな。


 僕が疲労困憊しているところに倉元家のお父さんが帰って来て、今日の事件を解決したことについては感謝された。倉のチェックに母娘を手伝わせたことが分かると、彼は非常に複雑そうな顔をしていた。この状況を作ったのは彼らの家の問題だけれど、危険なチェック作業を僕が家族に手伝わせたというのは複雑な気持ちになるようだ。まあぁ……そうなるよな。


 危険なチェックだったけど、当の母娘は楽しそうにしてたし、助けてもらった事実もあるから怒るに怒れないんだろうな。僕も色々思うところはあるけれど、今日はもう疲れたよ。

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