私の気持ちと君の想い

天野沙愛

私の気持ちと君の想い


「椿〜、帰ろうぜ」





今は下校時間、ほとんどの人はもうすでに帰っているか、部活動に行くかのどちらかだった。





椿というのは、私の名前。





雨水 椿(うすい つばき)





教室に入ってきて早々、帰ろうと言ってきたのは私の大好きな和輝くん。





フルネームは吉澤 和輝(よしざわ かずき)。





高校入ってから出会って、同じクラスになって、好きになって、やっとの思いで告白した。





和輝くんも私の事が好きだってわかって、私達は付き合った。





もうすぐで、付き合ってから1年経つ。





でも、最近の和輝くんは……





私じゃない、違う女の子の事を見てる。





最近、あの子の事…





目で追うようになったね。





私と話してる時よりも、あの子と話してる方が楽しそうに笑ってて…。





それはきっと、和輝くんがあの子に恋心を抱いてるからなんだと分かった。





つまり、私が和輝くんの事を好きなだけ。





もう付き合い始めたあの頃みたいに、和輝くんからは心の底から“好き”とは言ってくれない。





付き合ってるはずなのに、私の片想いでしかなかった。





今は付き合ってるっていう、形だけ。





だから、私は決めた。







「ねえ、和輝くん」





和輝くんと私以外、誰もいない教室に響く私の声。





「……ん?あ、ごめん、ぼっーとしてた」





あの子の事考えてたのかな…。





「ねえ、私達……」





この言葉を言ったら、すべてが終わるんだろうな……。





「なんだよ急に」





和輝くん、私の事いつまで好きだった?





心の中で聞いた。





当然、心の中で話してる声なんて和輝くんには聞こえない。





だから返答も来るはずがない。






「別れよっか」





たった一言。和輝くんにそう告げた。



「別れたいの?いいよ」





あー……。





わかってたはずなのに、泣きそう。





「今までありがとう」





私は“ありがとう”と言いながら、お礼の気持ちと、一度でも私の事を好きになってくれた感謝を込めて、頭を下げた。





頭を下げたと同時に、私の目から、涙がこぼれ落ちた。





「いいよお礼なんて、楽しかったよ、じゃあまたな」





「うん、また…ね…」





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あっさりとしすぎていて、逆に夢なんじゃないかと思った。





確かめるために、本気で両頬を叩いてみたけれど、夢じゃないから当たり前のように痛かった。





本気の力で叩いた自分の頬は、じんじんと痛み出して、その痛みと本当に別れてしまったという事実の悲しさに、また私は泣き出した。





教室に響く私の泣き声は、和輝くんが開けていったドアを通して、廊下にも響いていた。





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誰かが廊下を走ってこっちにくる足音が聞こえた。





私は、和輝くんが戻ってきたんじゃないかって少しだけ、本当にほんの少しだけ期待をした。





「やっべぇ、忘れ物した〜」





そう言って、教室に入ってきたのは同じクラスの九条 晴翔(くじょう はると)くん。





わたしは、とっさに窓の方を向いて、セーラー服の袖口で涙を拭いた。





「あれ、椿…?まだ残ってたのか?でもさっきお前の彼氏……下駄箱で見たけど…」





私は、黙った。





なぜなら、さっきまで泣いていた私は





今声を出したら、泣いていたのがバレると思ったからだ。





でも、黙っているのも余計に怪しまれて……。





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「椿、どうした?」





九条くんは、私の肩を持ち、振り返らされた。





「お前……泣いてたのか?どうして…」





「別れちゃった」





「吉澤と?」





「うん……」





「なんでだよ、喧嘩でもしたのか?」





「ううん、違うよ」





九条くん、優しいからなあ……。





心配してくれてるんだろうか。





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「私から振ったの」





「なんで?あんなに好きだったじゃん」





「本当、何してんだろうね……私…」





「今からでも行ってこいよ、まだ間に合うだろ」





「ううんっ、いいの…!」





「なんでだよ」





「だってあのまま付き合ってても私が辛いだけだもん」





「そっか……、大丈夫か?」





「大丈夫」





「嘘つくなよ、大丈夫じゃないだろ」





九条くんの言う通り、全然大丈夫なんかじゃない。





「見栄はんなよ」





「だって……泣いたら九条くんに迷惑かけちゃうから…っ…」





すでに泣きそうだった。





「俺の前では無理すんなよ」





「で、でもっ……」





涙が溢れ出しそうになる。





「いいから、泣きたい時に泣けよ、俺がついててやるからよ」





九条くんはそう言って、私の手をひっぱり勢いよく引き寄せられ、私の事を強く抱きしめた。





勢いよく引き寄せられた反動で、私の長い黒髪がふわっと少し上に舞い上がった。





抱きしめる強さがちょうど良くて、泣いていいよって体に語りかけられてるようで。





抱きしめられたまま





私は、泣いてしまった。





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「…うぅ……九条くんっ……」





「どうした?」





優しい声で聞いてくる。





「私の話、聞いてくれる…?」





「聞いてやるよ」





私は泣きながら、九条くんに話し始めた。





「私ね……和輝くんのこと、すごい好きだったのに…、他の子を見てる和輝くんの事見てたら、あー…私じゃなくて、あの子と一緒にいたいんだって思ったの」





九条くんは、私の頭を撫でながら、うんうんと静かに聞いてくれた。





「あの頃はやっと付き合えた!って嬉しくて、毎日楽しかったのに……、いつからだろうね…」





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告白







「なあ、椿」





私が話していると、九条くんが私の下の名前を呼んできた。





「なに……?」





私が聞き返すと、抱きしめていた私の体を少し離して、九条くんは手で私の涙を拭った。





「俺じゃだめかな」





「えっ……?」





「俺は椿をこんなふうに泣かせたりしない」





「それって……告…白…?」





「そうだよ」





頭が一瞬、フリーズした。





フリーズしたと同時に、びっくりしすぎてさっきまで止まらずに出続けていた涙が、ピタリと止まっていた。





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「でも……私、さっき別れたばっかりで…、今でも和輝くんの事好きだし、考えれないよ…」





「そうだよな、……でも、一度だけ考えてみてくれないか?」





「考えるって……?なに…を……?」





私が聞いてみると、九条くんがゆっくりと口を開いてこう言った。





「俺と付き合った時のこと想像してみて」





「九条くんと…付き合ったら…?想像かぁ……」





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想像







もし、九条くんと付き合ったら。





九条くんは優しくて、カンが鋭くて。





私が何かお祝い事とかしようと





驚かせる為に隠し事しても、すぐにバレちゃうんだろうな……。





話してると楽しくて、たまには、喧嘩とかもしたりして。





でも、ずっと笑ってそう…。





何に対しても一生懸命なところ。





決して人の不幸をばかにしたりしないで、必死に受け止めようとしてて…。





運動神経良くて、かっこよくて、頭も良くて。





あれ……?





なんか…、私が知らなかっただけで





あり……?かもしれない。





でも、付き合うにはまだ、早すぎるよ…。





去年も今年も同じクラスだった。





晴翔くんは、いつもハイテンションで、明るくて、クラスのムードメーカーみたいな人だ。





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「どう…?あり か なしで言ったらどっち?」





「あり……だけど、まだそこまで深く関わったことないから私には九条くんと付き合うってこと、まだ考えられない」





「そっか、いいよ大丈夫、友達から始めよう」





「友達……?」





「そう、まずは仲のいい友達になろうよ」





「……わかった」





少し考えてから“わかった”と返事をする。





私は、九条くんの想いを大事にして、とりあえず仲のいい友達を目指してみることにした。





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「なあ、椿」





「なに、?」





「これを機に、名前で呼んでくれない?」





「名前?」





九条くんの下の名前は……





「晴翔くん…?」





「あー、やっべえ、思った以上に名前で呼ばれること恥ずかしいわ…」





九条くん……いや、晴翔くんは初めて私が下の名前で呼ぶと、急に恥ずかしがって顔を赤く染めていた。





赤く染まると言えば……、やばい。





外は綺麗な夕焼けどころか、結構日が落ちてきていた。





部活動の人も終わって、帰っていく人が見えた。





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「夕日すぐ沈んじゃうよ、今日はもう帰ろっか」





「そうだな〜、夜遅くになってから帰らせるのはなんか心配だしな、今すぐ帰ろう」





晴翔くんは、夜遅くに私を帰らせるのは心配らしい。





ふと浮かんでしまうのは、和輝くんと付き合ってた頃の事。





つい重ねてしまって、晴翔くんに申し訳なくなる…。





きっと、和輝くんは明日にでもあの子に告白して付き合ってそうだなあ……。





私と付き合ってたにも関わらず、すごくいい雰囲気だったし。





自分で考えてて、悲しくなった。





けれど、今は隣に晴翔くんが居てくれてるから……、少しだけ安心できて、泣かずにすんだ。





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私達は帰る方向が一緒なので、帰りながら話した。





学校からの帰り道、反対側の道に行くために、歩道橋を渡る。





ずっと、晴翔くんが私に話しかけてくれてるので、和輝くんの事をこの時間だけ、忘れることが出来た。





でも、利用……してるみたいでなんか嫌だな…。





「ん?暗い顔してどうした?」





あ……また、晴翔くんに心配させちゃう…。





そう思った私はとっさに笑顔を作った。





「ううんっ、何でもないのっ…!」





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「椿」





さっきまで笑いながら話しかけてきてたのに、急に真剣な顔して私の名前を呼ぶ。





「な、なに…っ……?」





「今、あいつの事考えてただろ」





「べ、別に…考えてないよ…」





「あー、もう、お前本当下手だなぁ……」





下手……?何が……?





「え、なに……?」





「椿はちゃんと隠せてるって思ってるかもしれないけど、バレバレなんだよ」





バレてる…?何のこと?





頑張って笑顔を作って無理してたこと?





ずっと和輝くんの事考えてたこと?





晴翔くんの話聞けてなかったこと?





「何のこと…?」





思い当たることがいっぱいありすぎて、私は直接聞くことにした。





「俺の事だけ考えてろよ……」





晴翔くんは小声でそう言った。





「え……?」





「俺が話しかけてるのにあんまり頭に入ってねえだろ?それに、無理して笑顔作んな」





全部バレてる……。





「なんでわかったの……?」





「俺が話しかけても『うん』とか『そうなんだ』しか言わないし、笑顔作ってる時、顔がひきつってんだよ」





「そっか……、ごめんね…」





「別にいいけどよ…」





「今日は全然聞いてあげられなかったけど、明日は……明日こそは、いつもの私に戻るから」





うん、今日だけ。





「無理すんなよ…?」





「うん!無理しない!」





今度こそ、本当の笑顔で元気に答えた。





「何かあったら言えよ」





「わかった、今日はありがとね…?」





「いいよ、また明日な」





「うん!明日ね」





ここからは道が違うので1人で帰った。





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「ただいま」





玄関を開けて靴を脱ぎながら言った。





「おかえりなさい、遅かったわね」





帰るのが遅くなったから心配したのか、今日はお母さんが出迎えてくれた。





「あ、ごめんなさい、せ、先生に頼まれちゃって!手伝ってたの」





また一つ嘘をついた。





わかってる。





でもね、こうでもしないと私が今にでも泣いちゃうから。





「そう、お風呂沸いてるから先入っちゃいなさい」





「はーい」





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私は、自分の部屋に荷物を置いた。





その後、お風呂に入ってから夜ご飯を食べて、自分の部屋に戻った。





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私の気持ち







「はぁ……」





私は、深くため息をついた。





今日あった事を思い出していた。





本当に……別れちゃったんだなぁ…。





本当は、もっと一緒に居たかった。





もっと楽しい話をして


和輝くんと、笑っていたかった。





本当は、私が別れを告げても


“別れたくない”って言って欲しかった。





せめて、理由を聞くなりして欲しかった。





“楽しかった”っていつまで?





“好き”って言葉





心の底から言ってくれたのは いつまで?





「………好き…だよ…っ…」





私はまた泣き出した。





和輝くんの事を考えながら一晩中泣いた。





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泣き過ぎたせいか、痛いほど目が赤く腫れた。





あー…優しいから、晴翔くんは心配するんだろうなぁ。





ふと窓の外を見ると、もう日が登り始めていて、綺麗な朝焼けが見えた。





私はゆっくりと窓を開けた。





じっと朝焼けを見た。





いや、目が離せなかったという方が正しいのだろうか。





あんなに綺麗な朝焼け見たのは生まれて初めてだった。





私にも、あれだけの魅力があったらな……。





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まだ学校に行くまで時間があるので、私は腫れた目に、蒸しタオルを乗せて、少しだけ仮眠をとった。





ピピッピピッピピッピピッ





アラームがなった。





起きて洗面所に行くと、私は鏡を見た。





完全には治らなかったけど、少し腫れが良くなっていた。





学校に行く支度をして、朝食を食べて家を出た。





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学校に向かっていると「よっ」と、私を待っている晴翔くんがそこにはいた。





昨日、ちょうど別々の道になるので分かれた場所だ。





「おはよ」と声をかけると、晴翔くんも「おはよ」っと言ってきた。





すると、私の顔をじっと見ながらこう言った。





「椿、夜泣いてただろ」





やっぱり、バレれるよね。





「うん、一晩中泣いてたよ」





私は、隠すことをやめた。





「やっぱり、今でもそんなに好きなんだ?」





「本当に好き…」





「そんなに泣くまで好きでいる必要あんの?」





「好きなもんは好きなんだからしょうがないよ、私にはどうしようも出来ない」





「俺が忘れさせてやるよ」





「忘れることなんて、できるのかな……」





忘れる事が出来るか出来ないかの前に、私は忘れたくないと思っていた。





だって、和輝くんの隣にいて、辛い事より楽しい思い出の方が多かったから。





でも、あんなに泣くことになるなら……





和輝くんに対しての“好き”って気持ち、忘れたい。





「出来るよ!俺が言うんだから、間違いない!」





晴翔くんは何の確証もないのに、自信を持って言っていた。





「期待、してるね」





「任せとけ」





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話しながらも、学校に着いた私達。





クラスに入ると……





すっかり噂になっていた。





心配してみんなが声をかけてくれた。





幼なじみの安平 明莉(やすひら あかり)も、心配して私に声をかけてきた。






「噂聞いたよー?吉澤くんと別れたんだって?」






「うん、自分から振っちゃった」






「なんで?あんなに好きだったのに」





やっぱり、そう言われるよね。






「和輝くん、他に好きな人がいるみたいで、私の事もう全く見てくれてなかったから…」






「そっか、辛かったね」






幼なじみの明莉がそっと優しく頭を撫でてくれた。






「椿、大丈夫?」






「うん、大丈夫だよ」






大丈夫って何?





私のどこが大丈夫なの……?






和輝くんの事聞かれる度、今にも泣きそうになるのに。






でもだめだ、もう泣いちゃだめなんだ。






我慢しなくちゃ、私が我慢すればいい話なんだ。





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いろんな人が私の周りに集まって“大丈夫?”と声をかけてくる。





ずっと泣くのを我慢していると





晴翔くんが別のことを言い出してみんなそっちの方に興味を持ち、私の元から離れていった。





「今は、助かった…かも…」





あれ以上聞かれたら





絶対に我慢出来ないと思った。





ありがとう、晴翔くん。





すべてを知っている晴翔くんだからこそ、みんなの気を逸らすことができたんだ。





優しいな……。





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午前中の授業が終わった。





お昼休みになると、明莉が私にパンをくれる。





明莉の家は、パン屋さんなのだ。





小さい頃、明莉の両親が





『椿ちゃんにうちで作ったパンあげると美味しそうに食べてくれるから、その笑顔が私たちも嬉しいんだよ』





って言われて、それからパンをよく貰うようになった。





高校に入ってからも、ずっーと明莉の家のパンをお昼休みに食べている。





ちなみに私は、いつもメロンパンを食べる。





メロンパンと、パックのコーヒー牛乳。





その二つセットが私の、学校でのお昼ご飯だ。





コーヒー牛乳は、学校にある自動販売機でお昼を食べる前にいつも買ってくる。





いつものように、コーヒー牛乳を買いに





明莉と、自動販売機の方に向かって廊下を歩いていた。





私の通っている学校には、中庭がある。





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他の子







そこには、和輝くんの姿があった。





まさか、中庭で……





和輝くんと女の子が、2人で楽しそうに笑っているのを見ちゃうと……





力が抜けて膝をついた。





私は、隣に明莉がいるのに、泣いていた。





「椿大丈夫!?」





案の定、明莉に心配された。





周りにいた生徒達も、あわあわし始めた。





「椿、立てる?とりあえず保健室行こっか」





周りの反応を見て、噂されたらいけないと思ったのか、いろいろ気を利かせて保健室まで連れてきてくれた。





保健の先生には、事情を少し話したら





“昼休みの間だけ、ここに居てもいいよ”





と言われた。





明莉は、私を保健室に一人置いて





私と明莉のパンと、飲み物を買いに行ってくれた。





待っていると、「失礼します……」と小声で入ってきて





「椿 大丈夫?泣き止んだ?飲み物買ってきたよ」





と言いながら、私にパンと飲み物を渡す。





「ありがとう……」





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あれを買ってきて!





なんて言わなくても、私の飲みたい物を





明莉は分かってるから





ちゃんと、コーヒー牛乳を買ってきてくれた。





「いただきます…」





私は“いただきます”と言葉を言うと、メロンパンを口に運んだ。





「やっぱりおいしい…な…っ…」





明莉の家のパンを食べると





心が温かくなる、そんな感じがするのだ。





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パンを1口、また1口と





食べることによって、徐々に泣き止んでいった。





私は、次々とパンを口に運んで





食べ終えた頃には、ピタリと涙は出なくなっていた。





「ごちそうさまでした」





そう言うと、明莉がにこやかに微笑みながらこう言った。





「よかった、椿が泣き止んでくれて」





「急に取り乱してごめんね?」





「ううん、いいの」





明莉に謝った後





「先生、怪我とかしたわけでもないのに、わざわざありがとうございました!」





保健の先生にも、お礼を言った。





「いいのよ!雨水さん、また何かあったらいつでも来てちょうだい」





「ありがとうございます!次の授業があるので…」





「そうね、もう行った方がいいわ」





「失礼しました!」





保健室を出て、教室に戻った。





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教室に戻って早々、晴翔くんが私の所に来た。





「椿が泣いてるのを廊下で見たって別のクラスの人が言ってたけど、大丈夫か?」





「うん、隣に明莉が居てくれたから、大丈夫だったよ」





「そっか、ならよかった…」





大丈夫って言葉に安心したのか





晴翔くんは、ほっとした表情を私に見せた。





「今日の帰り、一緒に帰ろう」





晴翔くんはそう言い終えると





私が返事をする間もなく、チャイムがなった。





急いで席に戻って、午後の授業を受けた。





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午後の授業も終わり、下校時間になった。





すると、明莉が「椿!今日、私の家寄ってきなよ」と言ってきた。





「明莉の家?でも……今日は、晴翔くんに一緒に帰ろうって言われてて」





「晴翔くんって……あ、あの、クラスのムードメーカーの 九条くんの事?」






「そうそう」





「名前呼んでるから誰なのか一瞬わからなかった、九条くんと椿って、そんなに仲良かったっけ?」





「少し前までは、そこまで話したことなかったんだけど、去年も同じクラスだったし、たまに話すぐらいだったんだけど……」





「それで、なんで急に名前を呼ぶくらい、仲良くなったの?」





「和輝くんと別れた時にね、慰めてくれたの」





「え、そうだったの!?」





明莉は、ものすごく驚いていた。





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すると





タイミング良く、晴翔くんが私の所に来た。





「椿、一緒に帰ろ」





あー……どうしよ。





先に約束した方優先するか、長年の付き合いを優先するか……。





そんなことを考えていたら、明莉が口を開いた。





「九条くん、私の家に椿のこと誘ったんだけど、一緒に帰る約束したって聞いたから、良かったら九条くんも、私の家に一緒に来ない?」





あ、その方法があったか!





「えーっと、安平さんの家?俺も行っていいの?」





「いいよ!私の家、パン屋さんだけど、一応持ち込みOKの喫茶店も隣にあるからさ」





「家がパン屋なんて羨ましい、いいな」





「そう?まあ、お店に パンのいい匂いが広がってて、落ち着くのは確かだけど」





2人がお話しをしてて、どうするのか決まらないので、私は、晴翔くんに直接聞いてみる。





「晴翔くん、どうする?行く方向あんまり変わらないし、一緒に来る?」





「おう、俺も行くよ」





「じゃあ、早速行こう!」





晴翔くんが“行く”と口にすると





早々明莉が張り切っていってみよう!みたいなノリで言ってきた。





そして、私達は明莉の家に向かい始めた。





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仲のいい友達







明莉の家に着くと、「ただいまー」と裏口のドアを開けながら明莉が言った。






それに続けて私と晴翔くんも、「おじゃまします」と口にした。






すると、お店をやっている表の方から





私達のところに、明莉のお母さんがやってきた。






「おかえりなさい、って あら…!」






明莉のお母さんは、驚いた表情を私達に見せた。






「おじゃましてます!!」と今度は、お母さんに向けて私は言った。






「ちょっと、椿ちゃんじゃないの〜!久しぶりじゃないかしら?最近来てくれないから会いたかったのよ〜?」






「来れてなくてすみません!いつもパン美味しく頂いてます!!元気が出るのでここのパン好きです!」






「椿ちゃんにそう言ってもらえると、やっぱり嬉しいわね」





明莉のお母さんは、嬉しそうに笑っていた。





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私と話していて、今まで気づかなかったのか





晴翔くんの話題にならないので、あれ?と思っていると





「あら、気付くのが遅くてごめんなさいね、そちらの男の子は?」






男の子って言う年齢でもないけど……






「あっ…、私の仲のいい友達です!」






なんとなく“仲のいい”ってつけて言ってみた。






ちらっと、晴翔くんの顔を見たら驚いていた。






「はじめまして!椿と仲良くさせてもらってます!」






私のお母さんじゃなくて、本当は明莉のお母さんだけど……。






小さい頃から、私の面倒をよく見てくれていた。





なので私の第2のお母さん?





みたいな感じ…?って言えばおかしくはない。






「あら、そうなの??椿ちゃんは私の娘みたいな感じだから仲良くしてるなんて、嬉しいわね〜!どんどん仲良くしてあげてちょうだい」






そんな感じで話を終えて、私達はお母さんからパンを貰って、隣にある喫茶店に移動した。





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「いらっしゃいませー!何名様でしょうか?」





「3名です」





店員さんにテーブル席まで案内され、席に座る。





パンは明莉のお母さんがくれたので、飲み物を頼むことにした。





もちろん私はコーヒーを頼むつもり。





「晴翔くんは何飲む?」





そう聞いてみると、「コーヒー」とただ一言言った。





晴翔くんコーヒー飲めるんだ?





なんて考えながらも店員さんを呼んで、コーヒー2つと頼んだ。





明莉はというと





もう9月中旬で夜は少し寒いくらいなのに、アイスティーを頼んでいた。





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コーヒーとアイスティーが運ばれてきた。





「よし、いただきます!」





私は、はじめの一口目は必ず





備え付けのミルクや、ガムシロップを入れずにブラックで飲む。





「あ〜…おいしい、あたたまる」





私はそう口にした。





すると、目の前に座っている晴翔くんもブラックで飲むのが見えた。





「……ん…え、にが…っ…」





すごく難しい顔をしていた晴翔くんを見て





私は少し笑ってしまった。





「何笑ってんだよ……」





「え?いや、無理してブラックで飲んだりしなくても、ミルクとガムシロップ入れたらいいのになって」





そう言いながら私は、晴翔くんのコーヒーに備え付けのミルク2つとガムシロップ1つを入れた。





「ミルクは苦味を消してくれるから、甘くしようしようってガムシロップをたくさん入れるより、ミルクを1つでも多く入れる方がいいんだよ」






そう言いながら、私はコーヒーをスプーンで混ぜた。





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スプーンで混ぜ終えて、コーヒーを晴翔くんに渡した。





晴翔くんはコーヒーを手にとり、もう一度コーヒーを口に運んだ。





「ほんとだ……!これなら俺でも飲める!ていうかうまい!!」





「よかった、無理にブラックで飲んでコーヒー嫌いになって欲しくなかったから」





「椿はブラックでも飲めるんだな」





「私の家、両親がコーヒーをよく飲んでて、インスタントのコーヒーだったけど、初めは1口とかしか飲めなかったよ」





うんうん、と顔を縦に振りながら晴翔くんは聞いてくれていた。





「だけどね、小学生ぐらいの時かな?少しづつ飲めるようになって、気づいたら自分から飲むくらい今は大好きなんだよね」





そう私が言うと明莉が、「椿ったら、いつも私の家のメロンパンと自販機で売ってるコーヒー牛乳をお昼に飲んでるんだよ〜」と、晴翔くんに言っていた。





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「毎日同じの食べて飲んでんのか」





と晴翔くんが聞いてきたので





「好きなんだからいいでしょ」





と少し冷たく言ってしまった。





「いいと思う、ていうか俺も一緒にお昼食べたい」





冷たくしてしまった……と考えていたら、晴翔くんは あまり気にしていないようだった。





それどころか“俺も一緒にお昼食べたい”なんて言葉を言われて私は驚いてしまった。





「いいね!一緒に食べる〜?」と明莉は言っていた。





「椿、俺も一緒にお昼食べていい?」





と晴翔くんも私に聞いてきた。





「いいよ?」





賑やかになるなら私は大歓迎だった。





だって、和輝くんと別れてしまったこと、早く忘れたかったから。





少しでも楽しい思い出を増やして、上書き保存するみたいに、もっと楽しくして笑っていたかった。





それに、晴翔くんと一緒にいると…





なんて言うのかな……?





少し、安心……?





というか落ち着くというか……





もっと晴翔くんの事知りたいなって思う。





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私達はパンを食べ終え、明莉に“また明日”と挨拶して、店を出た。





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「ただいま〜」





靴を脱いで、リビングのドアを開けた。





「おかえりなさい、もうすぐでお風呂沸くから、沸いたら先にお風呂入っちゃいなさい」





お母さんにそう言われ、私はお風呂に入った。





お風呂を出た後、夜ご飯を食べている時、お母さんとお父さんと話した。





「今日ね、久しぶりに明莉のお家行ってきたよ!」





「そうなのか?お母さんとお父さん元気だったか?」





お父さんがそう聞いてきた。





「お父さんとは話せなかったけど、お母さんは変わらず元気だった!」





「私も今度顔を出しにパン買いにいこうかしら」





「俺の分も買ってきてくれよ?」





「わかってるわ、全員分買ってくるから」






「ならよかったよ」





「今度、みんなでコーヒーでも入れてお話しながら食べましょうか」





「昔みたいでいいな」





「私もいいと思う!」





私の家、最近家族での会話が少なくなってきてたから、ちょうどいいかもしれない。





家でコーヒーを飲みながらパンを食べるという約束をして、話を終えた。





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ピピッピピッピピッピピッ





朝だ。





高い音を何回も鳴らす私の目覚まし時計。





昔から使っているけれど、小さい頃はこのアラームが鳴っても起きれなかったな……。





なんて考えながら、顔を洗って準備をし始めた。





私の学校のセーラー服は、紺色が主体で、襟と袖に赤い2本のラインがある。





もちろんリボンも赤い。





全部赤いよね。





でも私はこのセーラー服可愛いと思う。





私は、寒いのが苦手なので






袖が長めで手の甲が半分隠れるくらいの長さの紺色のカーディガンを上に着た。





「襟を出してっ……と」





よし、着替えた。





私は準備を終えて、朝食を取り、家を出た。





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今日も学校まで歩いていると、昨日と同じところで晴翔くんが待っていた。





私達は“おはよ”と言葉を交わした。





「今日も待っててくれたんだ?」





そう私が聞いてみると





「出来るだけ椿と一緒にいたいから」





なんて言われてしまった。





「そっか」





「椿も俺と一緒にいて嫌なわけじゃないだろ?」





「嫌じゃないよ、むしろ一緒にいて楽しいし」





「ほんと?よかった」





話しながらも、私達は学校に向かった。





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下駄箱に行くと、明莉がいた。





私達の存在に、先に気づいた明莉は「おはよ」と声をかけてきた。





私も、靴を脱ぎながら“おはよう”と挨拶して、下駄箱のロッカーに靴を入れた。





私達は、3人で教室に向かった。





階段を1つ上がって、二階の一番奥の教室。





地味に廊下が長くて遠いと感じる。





けれど、その長い廊下も 友達と話しながらであれば





全く気にするほどの事ではなかった。





教室に行って、しばらくするとチャイムがなり、やがて授業も始まった。





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お昼







午前の授業が終わり、お昼休みの時間になった。





私は、昨日明莉が飲み物を買いに行ってくれたので





今日は、代わりに私1人で飲み物を買いに行くと決めていた。





「晴翔くん、私飲み物買いに行ってくるから明莉と少し待っててもらえる?」





私がそう言うと、「待って、俺も行く」と私の事を引き止めて言い出した。





「私、1人で大丈夫だよ?」





「じゃあ俺も何か飲み物買いに行く」





なんて言い出すので





「えぇ…?」





と困惑してしまった。





「これで俺も行く口実出来たろ?」





「そ、そうだけど……」





「ついてっちゃだめ?」





だめ?って晴翔くんが聞いてくる時、どこか寂しそうな目をする。





「そこまで言うなら……じゃあ、一緒に行こっか」





あの目を見てしまったら、断ることが出来なくなった。





「行く!!」





少し子供っぽい感じもする。





まるでお留守番をする小さな子供みたいで





置いてかれるのが寂しくて





連れてってもらえるように、必死になってお願いしている。





そんな感じがした。





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昨日みたいに、和輝くんが中庭にいたら





絶対、平常心を保ってられないと思ったので





私は窓の方をなるべく見ないようにして歩く事にした。





いつまで……、引きずるのかな。





なんて、ふと考えてしまった。





考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか自動販売機の前についていた。





「買わないの?」





私がぼーっとしているので、不思議に思ったのか





晴翔くんが首をかしげて聞いてきた。





「あ、買うよ」





と、あたふたしながら小銭を入れて、コーヒー牛乳のボタンを押した。





ガタンッ





飲み物を取って、教室に帰ろうとしたけれど





やばい。





晴翔くんも飲み物を買うってこと、完全に忘れてた……。





「そういえば、晴翔くんも買うんだよね、何買うの?」





「あー……あれは、たんなる口実だけど、まあいっか、お茶買ってくよ」





そう言いながら、晴翔くんは小銭を入れた。





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あれ…… ?





「間違えた」





そう一言 言いながら





晴翔くんが間違えて押して出てきたのは、リンゴジュース。





晴翔くんは、リンゴジュースを手に取った。





「もう小銭ないや……お札出すのもなんか嫌だし……」





「私が買うよ」





困っていた晴翔くんに、私はお茶を買った。





「はいっ」





私は、晴翔くんにお茶を渡した。





「ありがとう、いいのか?」





「うん、いいよ!」






そう言って、私達は教室に戻り始めた。





「リンゴジュースどうしようかな…」





なんてことを、ぶつぶつと晴翔くんが言っているので





「明莉にあげたらどう?明莉なら喜んで飲むと思う」





と提案してみた。





「じゃあそうするよ」





思ったより、きっぱりと決めていた。





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教室のドアを開けると「おかえりー!ちょっと遅かったね〜」と明莉が言ってきた。





「明莉、確かリンゴジュースって飲めるよね?」





「飲めるよ〜?なんで?」





「実は……」





私が言おうとしたら、「お茶買おうとしたらリンゴジュースのボタン押しちゃってさ、これ良かったらもらってくれない?」





晴翔くんが自分で言っていた。





「いいよ〜、もらうー」





なんだか、さっきまで子供みたいだなって思って、子供扱いみたいになっちゃったけど。





晴翔くんに慰められたりしてる私は、それ以上に子供っぽいと自覚してしまった。





「いただきますっ」





私は、いつものようにメロンパンを口に運んだ。





昨日は、泣いていたせいなのかは わからないけれど





メロンパンが少し、しょっぱかった。





でも、今日のメロンパンは 本当に美味しい。





ほんのり甘くて、外側のクッキーみたいになっているところが、私は一番好き。





好きな食べ物食べてる時って、少し口元緩むっていうか……





人に見られるのがちょっと恥ずかしい……





そんな感じもする。





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そんなことを考えながら、メロンパンを食べていると、前からの視線を感じた。





晴翔くんが、じっと こっちを見ていたのだ。





「えっ、な、なに?なんか顔についてる……?」





「いや、そうじゃないけど」





そう言って、まだ私の顔を見ている。





やっぱり私の顔になにか付いてるんじゃないかと思って、触ってみた。





すると、晴翔くんは声を出して笑い始めた。





「な、なんで笑うの??」





「椿の行動が面白くて」





そう言いながらもまだ笑っているので、





「ちょ、ちょっと笑わないでよ…!!」





そう言ったら笑うのをやめてくれた。





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「お前、ほんと可愛いなあ」





いきなり過ぎて、私はその言葉にびっくりして、目を丸くした。





「………えっ…?」





「椿がパン食べてる時の顔、俺すごい好きかもしれない」





「そ、そんなに見ないでよ……食べずらい」





「ニコニコしながらパン食べてるとか可愛すぎ、椿が小動物みたいに見える」





「しょ、小動物…っ……!?」





そんなに私って、ニコニコしながらメロンパン食べてたのかなぁ……。





なんて考えていたら





「ちょっとー、私の存在忘れてイチャイチャしないで」





「あっ、ごめん、……ってイチャイチャなんてしてないから!!」





私は、すぐに否定した。





「私は何を見せられてるんだか…」





「…だからしてないっ、てば…っ…」





もう1度私は否定をした。





「はいはい、わかったわかった」





めんどくさくなったのか、明莉に呆れられてしまった。





そうこうしてる内に、お昼休みの時間が終わった。





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あっという間に下校時間がやってきた。





「帰ろ」





晴翔くんは、今日も一緒に帰ろうと私の元にやって来る。





「あ、うんっ、帰ろっか」





これがいつの間にか当たり前になりそうだなあ……。





なんて考えていた。





一人で帰るよりは、誰かと一緒の方が私としても助かるからいいんだけど。





“また明日”と言葉を交わしてあと少しの帰り道を、少し小走りして帰った。





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明日は土曜日






学校がないとはいえ、みんなと会えないのは少し寂しいな…。





「暗い顔してどうしたの?」





「あっ、ううん!なんでもない!ちょっと考え事してただけだよ」





今はご飯食べてるんだった……。





ちゃんと食べないと、体も持たないよね。





そう思いながら、残さずにご飯を食べ終えた。





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散歩







ピピッピピッピピッピピッピ





うるさいなあ……。





そう思いながら私は






布団から手を出して、目覚まし時計のアラームを止めて、腕をしまい もう一度眠りについた。





「………て…おき…て……椿起きて!」





私は、気持ちよく二度寝をしていたのに誰かに起こされた。





「…ん…ぁ…?ふあ…ぁ…」





私は夢でも見てるんじゃないかと思った。





だって、私を起こしてきたのは





明莉だったから。





「なんで明莉がここにいるの?」





重たい まぶたを必死に開けて、そう言った。





「寂しがってるんじゃないかなって思って、連れ出しに来たの」





「まだ眠いよ……」





そう言って、布団の中に潜ろうとすると





「寝たらだめだよ!!」





私の布団を引っ張られ、眠すぎて力の出ない私は布団を取られてしまった。





「うぅ…さむい、明莉〜…返してよ〜」





「なに言ってるの?着替えればいい話でしょ!」





「もう〜……わかったよ、私は着替えてどこ行くの?」





「いいから、はやく!」





「教えてよ〜」





「ひみつ」





そう言って、明莉は何も教えてくれなかった。





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明莉に言われるがまま、私は準備をした。





「準備終わったよ、ていうか私お腹空いたんだけど……」





「そう言うだろうと思って、じゃじゃーん、これなーんだ」





「えっ、もしかして明莉の家のパン!?持ってきてくれたの??」





「正解、これでもう言うことないでしょ」





「ない!ありがとう!!どこにでも明莉についてくよ〜」





パンをもらったことでテンションが上がった。





「パン食べたら行こっか」





「うん!」





私は、すぐさまメロンパンを紙袋から取り出しパクリと、かぶりついた。





1口、また1口と、勢いよく食べていくと





あっという間にメロンパンを食べ終えた。





今更ながら時計を見ると、9時20分くらいだった。





私達は、お母さんに“行ってきます”と挨拶をし、家を出た。





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「ねえ、明莉?」





「ん〜?なに?」





「どこに向かってるの?」





「ちょっとそこまでー」





「そこまでってどこまで?」





「いーの!たまには散歩もいいでしょ」





多分、どこに行くのか





何も考えていないんだ……?





「あっ、ねえねえ!公園行こっか」





「公園?」





「小さい頃2人で遊んだとこあるでしょ?そこ行こうよ」





「いいけど……」





「ほら!はやく!」





そう言って明莉は私の手を引っ張り、走らされた。





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その公園に着くと、私はひとこと言った。





「わあ〜……懐かしい」





小学生くらいの子や、小さな子供連れのお母さん達、いろんな人が遊んでいた。





「ほんとだ、あんまり変わってないね」





変わってない、というよりは





ちゃんと遊具なんかも手入れがされてて、保っているという方が正しいのだろうか。





普通の公園よりは少し広い公園。





でも、昔はもっと大きく見えた。





私達が小さかったからかな……?





「見て!懐かしい花壇があるよ」





「ほんとだ」





今は、パンジーの種が植えてあるようだ。





「昔花壇のことで2人で謝ったよね」





と明莉が言ってきた。





「そうだね、懐かしい」





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昔話







私達は、ボールを投げて遊んでいた。





「えいっ、あっ、向こうに行っちゃったよ?」





明莉が投げたボールは、花壇の方に飛んでいった。





「わたし取り行ってくるね?」





私がそう言うと、





「まって、わたしも一緒に行く!」





明莉もついてきた。





「あかりちゃん、どこまで飛ばしたの?」





「えー…?そんな遠くに飛ばしてないと思うけど……」





「あっ、つばきちゃんあったよ!!」





「どこ〜?」





「ここだよー!」





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「ほんとだっ……って…」





花壇に植えてある花の上に、ボールが落ちていた。





「つばきちゃん、どうしよう……お花が…っ…」





「うーん……いつもほうき持ってるあのおじちゃんに、ごめんなさいって言いにいこう?」





「おこられない…っ…?」





「わたしも一緒にごめんなさいするから、きっと大丈夫だよ!」





私達はボールを取って、落ち葉とかの掃除をしている人に謝りに行った。





「おじちゃん…っ……」





「そんなに泣いてどうしたんだい?」





「あのね、えっとね…っ…」





明莉は、怒られるのが怖くてなかなか言い出せずにいた。





早く言ったほうがいいと思って、私が代わりに言うことにした。





「おじちゃん、ボールでお花がつぶれちゃった」





「花壇のかい?」





「うんっ……」





「あかりちゃん、せーので言おう……?」





私は明莉の耳元に小声でそう言うと





明莉はうん、と言いながら縦に小さく首を振った。





「いくよ?…せーの『ごめんなさいっ』」





「いいよいいよ、悪気はないんだもんね、仕方ないよ」





事情を話したら、許してくれた。





これからは気をつけてねって、言われてその日はそのまま帰ったっけ。





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次の日公園に来たら、棒がさしてあって、倒れていたお花がまっすぐ立ってたんだよね。






ちゃんと謝れてよかったって次の日来て思った。





「そんなこともあったなあ〜」





「ほんと懐かしいよね」





私達が話してると後ろから声をかけられた。





「あれ?椿じゃん」





見覚えのある声だと思って振り返ると





晴翔くんともう一人小さな女の子がいた。





「なんで晴翔くんがここに?」





「あー、今日親戚の子の面倒見ててさ、公園行きたいっていうから、ここが一番広いし近いだろ?」





「あ〜…そっか、晴翔くんの家からも近いのかぁ」





「名前はなんていうの?」





一方、子供好きの明莉は晴翔くんの親戚の子に名前を聞いていた。





「うー、お兄ちゃんー……」





「あ、ごめん、こいつ人見知りなんだ」





「まり?ちゃんと挨拶しないとだめだろ?ほら」





「真凜(まりん)です…っ…」





晴翔くんの後に隠れてそう言った。





「真凜ちゃんっていうんだ?じゃあー、まりちゃんだ!」





「お姉ちゃん、たちは?」





「私が明莉で、私の隣にいるのが椿ちゃんだよ〜」





「あかりお姉ちゃんと、つばきお姉ちゃん?」





「そうだよ〜」





「お兄ちゃん、あかりお姉ちゃん達と遊んでもいいの?」





「いいのか?遊んでもらっても」





「私はいいよ〜、でも椿は……どうする?」





「やめとく、子供と接するの少し苦手だし……」





「わかった、まりちゃん!明莉お姉ちゃんと遊んでくれる?」





「うん、いいよ!遊んであげる!」





そう言って、ブランコの方に走っていった2人。





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取り残された私と晴翔くん。





「いつもまりちゃんの面倒見てるの?」





「違うよ、まりの両親が土日は仕事入れないようにしてるんだけど急に仕事入っちゃった時とか、俺の家に預けにくるんだよね」





「そっか、子供の面倒見るの大変じゃない?」





「俺は子供好きだし、まりにも懐かれてるからさ、別にいいんだよ なにより楽しいし」





「まりちゃんに“お兄ちゃん”って呼ばれてたもんね」





「物心がつく前からよく会いに行ってたから、いつの間にか懐かれてたんだよなぁ」





「子供に懐かれやすいんだ?」





「そうなのかもなぁ」





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私達が話していると





「お兄ちゃん達も遊ぼ!!」





すっかり明莉と打ち解けていたようで





可愛らしい笑顔で、まりちゃんが私達に話しかけてきた。





たまには、こういうのもいいよね。





「まりちゃん!だるまさんが転んだしようよ!」





「え〜!鬼ごっこがいい!」





「じゃあ、だるまさんが転んだで 負けた人が鬼にしよう??」





「いいよ!!お兄ちゃんだるまさんね!」





「あ、俺か、少しでも動いたらすぐ名前呼ぶからな〜」





なんて私達はみんなで遊び始めた。





「あかりお姉ちゃんが鬼だ〜!逃げろ〜!」





「よーし、まてまてー!捕まえちゃうぞ〜!」





「わあ〜!今度は、まりちゃんの鬼だ〜!」





なんてはしゃいだりして





案外、楽しかった。





お昼の時間になったので、晴翔くんとまりちゃんとさよならすることに。





「……うー…まり帰りたくない…っ…」





「お母さんお昼には帰るって言ってただろ?ご飯作って待ってるよ」





「まり、お腹すいてないもん」





よっぽど私達と遊んだのが楽しかったのか、帰りたがらなかった。





「まりちゃん、また今度遊んであげるから」





私はそういった。





「約束してくれる…っ……?」





「うん!約束!」





私とまりちゃんは、小指を絡ませて、約束した。





「まりちゃん、またね!」





「ばいば〜い!」





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「あぁ〜!楽しかった!」





私は上に手をあげて背伸びをしながら、そう言った。





「あれ〜?子供苦手なんじゃなかったっけ?」





「そんな事言ったっけ?」





「私の気のせいかもっなーんて」





「私達も解散する?」





「そうしよっか、今日はありがとね」





「いーえっ、どういたしまして」





「また学校でね〜!」





姿が見える限り私達はお互い手を振りあって、家に帰った。





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あっという間に、土曜日も終わって日曜日のお昼。





「コーヒー入れたわよ」





「ありがとう!!」





そう、家族3人で仲良くパンを食べた。





明莉の家のパンは人を笑顔にするから本当にすごい。





泣いてる時も、怒ってる時も、喜んでる時はもちろん、悲しい時も





いつだって、明莉の家のパンを食べると元気が出てくる。





自然に笑顔になる。





この日は、おかげでずっと笑ってた。





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呼び出し







ピピッピピッピピッピピッ





いつものようにアラームを止めて、布団から出る。





今日もずっと笑ってられるかな……





なんて、少し気にしてしまった。





最近ずっと笑っているから。





みんなのおかげだよね。





支度しなきゃ。





「行ってきます!」





そう言って、私は家を出た。





あ、やっぱり晴翔くんいる。





きっとこれから、毎日待つ気でいるんだ。





“おはよ”という言葉を交わし、学校に向かった。





下駄箱に行くと、晴翔くんは何か言った。





「なにこれ…?」





下駄箱を開けて、入っていたのは





ラブレター?呼び出し?





なんと





“授業が始まる前に話したいことがあります。中庭まで来てください。”





と書いてあった。





誰からなのかは、不明。





どこのクラスの人なのか、名前も、学年すら書いてなかった。





「ごめん、先行ってて」





それでも ちゃんと行くんだ……?





「うん、先行ってるね!行ってらっしゃい」





仕方なく、晴翔くんを見送って





1人でクラスに向かった。





「あれ、九条くんは?」





クラスに入って早々、声をかけてきたのは明莉。





「女の子に呼び出しされてる」





と、ただそれだけ言った。





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あっという間に、お昼休み。






「私、飲み物買ってくるね?」






「まって、俺もい「1人で大丈夫だよ」」






晴翔くんの言葉を遮(さえぎ)って私は1人で行った。






自動販売機の前に着くと、先輩らしき人が飲み物も買わずに





ただただ立っていた。






何だろう?と思いながら飲み物を買うと






私の取り出した飲み物を見てから私に近づいてきた。





「ちょっと、あなたが雨水さん?」






「そうですけど…私に何か……?」





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「あのさあ、いろんな人に色目使わないでくれる?」






「使ってないですけど……」






「今日の朝、私が九条くんに告白したら、あなたの事が好きだからって断られたのよ!」






「そんな事私に言われても……」






「どう責任とってくれんの?」






「責任も何も……」






私達が言い争っていると……






「椿?なーにやってんの?」





そう言いながら晴翔くんがやって来た。





心配して来てくれたんだ。






「えっ、晴…九条くん……?」






先輩に何か言われるんじゃないかと思い、下の名前をあえて呼ばなかった。






「なんでいつもみたいに、名前呼んでくれないの?」






晴翔くんにそう言われて、戸惑っていると…





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先輩が勝手に晴翔くんと腕を組み始めて笑顔で口を開いた。






「九条くん!そんな女にかまってないで、私とお話しましょうよっ!ねっ?」






先輩はさっきまで怒っていたことが嘘のように、可愛い子を演じていて、まるで媚を売っているかのようだった。






先輩の言葉にイラッとしたのか、晴翔くんは怖い顔をして、先輩に何か言い始めた。






「なあ、そんな女って何?誰に対して言ってんの?」






「えっ…?いや、だからそこにいる色目を使う汚い女よ!」






「は?何言ってんの」






晴翔くんが珍しくキレているので、少し抑えた方がいいと思った。





「晴翔くん、大丈夫だよ、いいよ」






そう言ってみたけれど……






「いいから、椿は俺の後ろで黙ってて、言いたいこと言わないと俺の気が済まないから」






「わかっ…た……」






そう言って、また先輩に怒り始めた。






「椿は、先輩よりよっぽど心が綺麗です、色目使うって椿のどこが色目使ってるって言うんですか?素直で可愛いじゃないですか」





「ていうか俺、先輩にきちんと断りましたよね?」





「先輩は、1度自分が何してるのか見直した方がいいですよ、そしたらきっと変わると思います」






「えっ、あっ、うん…っ…はい……」






先輩は、ポカーンと口を開けて、言葉に詰まって何も言えなくなり、自分のクラスに帰っていった。





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「ほんとにわかってんのかな、ていうかちゃんと話聞いてたか?あの先輩」





なんてことを ぶつぶつと口にしていた。





「晴翔くん、ありがとう」





私がそう言うと、ぶつぶつと口にしていたのをやめて、晴翔くんはこう言った。





「え…?あ、いいよ!俺のせいでもあるしさ、椿は気にしなくていいよ」





「そっか」





「嫌な思いしたでしょ、ごめんな」





「ううん、大丈夫!晴翔くんが言い返してくれたから…助かっちゃった」





「来るの遅くなってごめんな」





「謝らなくていいってば!わざわざきてくれて、ほんとにありがとうね」





「じゃあ、戻るか」





私達は、教室に戻った。





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一応、報告することにした。





「朝、晴翔くんに告白してきた人が自販機の前で私の事、待ち伏せしてて……」





そうやって話し始めて、全て話終えると





“大丈夫だった?”と一番に心配してくれた。





私は、いい友達と巡り会えたね。





なんてふと思ってしまった。





パンを食べて元気を出した。





帰り道。





心配して明莉も途中まで一緒に帰ってくれた。





2人ともありがとう。





でも、そこまで私弱くないよ…?





心配しすぎだよ。





心の中でそう つぶやいた。





「ありがとう」





小さな声で喋った。





聞こえるかもわからない本当に小さな声。





「いいよ」





晴翔くんはそう言った。





聞き逃さないんだね。





無事家に帰った。





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もう一度







寝る準備も満たんになり、布団に入ると





1件のメールが届いた。





ベットの隣に置いてある目覚まし時計の隣





手を伸ばし、スマホを手に取った。





“元気にしてるか?”





私は驚いた。





「なに急に……今更…何の用…?」





なんと私にメールをしてきたのは、和輝くんからだったから。





自分から振ったとはいえ、今でも好きなのは変わりない。





たった一言送られてきただけでも





嬉しさが私の心を埋めた。





「な、なんて返そう……」





たった1件の返信をするのも、勇気が必要で





手で必死にスマホを持って





緊張しながらメールを返した。





“元気だよ。和輝くんは?”





返信来るのかは わからないけれど……





待っていたかった。





スマホが光って、メールが来たことを私に知らせる。





“それなりに元気だよ”





そっか……。





“急にどうしたの?”





そう聞きたくなった。





気付いたら手が打っていた。





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結局、返信は来なかった。





待ってても時間が過ぎていくだけで





一向に来る気配は無かった。





私は、布団に入りながら待っていたけれど





夜も遅くていつも早く寝ている私には、





起きてられず






スマホを持ったまま寝てしまった。





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ピピッピピッピピッピピッピピッ





高い音を鳴らして私を起こすアラーム。





完全に寝不足だ。





ずっと返信を待っていたから。





あー……支度しなくちゃ。





紺色の赤いラインのセーラー服に





紺色の膝上5cmくらいのスカート





紺色のカーディガン。





荷物を持って家を出た。





朝ごはんは食べなかった。





早く学校に行って、一目でも和輝くんの事を久しぶりに見てみたかった。





「行ってきます」





ちゃんと靴を履けてないまま、ドアを開けた。





玄関の前で片足で立って





つま先でトントンして靴を履いた。





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「おはよ」





当たり前のように待っている晴翔くんに、





「ごめん、今日早く行かなくちゃいけないから、先行ってもいいかな……?」





「お、おう……いいけど あれ、椿日直だったっけ?」





「えっ…?ちが…う、けど……」





「なら なんで先行くの?」





そう言われても、言いたくなかった。





晴翔くんを傷つけたくないから、





和輝くんのとこ行くって分かったら傷付くと思った。





「……ごめん、本当に先に行くね」





沈黙の後、先に行くことをもう一度告げて





私は学校まで走った。





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「はぁ…はぁ……」





こんな朝早くから走った事なんて





全然なかったから、当然息切れしていた。





下駄箱で靴を履き替え、落ち着かせる為に廊下を歩いた。





和輝くんのクラスまで向かってる時





緊張のしすぎで





心拍数が上がっているのが分かっていた。





「…すー…はぁ……」





和輝くんのクラスの手前で止まり、深呼吸をした。





ガラガラ





「……椿?」





「和輝くん、少し話さない…?」





落ち着け、私。





「いいよ」





震えるな、私。





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手の震えを隠して、中庭に移動した。





「ごめんな?昨日いきなりメールして置いて、あのまま寝てた」





「そうなんだ……?別に…いいよ?」





本当は、ずっと待ってたけど。





「俺達、別れてから話さなくなったけど、もう一度前みたいに話して欲しい」





「えっ……?」





「だめか?」





「本気で言ってるの…?」





「本気だ」





和輝くんは、私と話す必要あるのかな。





だって、他の子の事……好きなんでしょ?





気になってるんでしょ?





私になにか求めないでよ……





私が辛くなるじゃん……?





でも、話せるなら話したい。





「わかった、いいよ、また前みたいに話そう?」





そう言った。





「良かった、ありがと」





和輝くんは、教室まで見送ってくれた。





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和輝くんと一緒に教室にやってきた私を見て、





一番に声を掛けてきたのは





晴翔くんだった。





「……吉澤と話すために早く学校来たのか…?」





あー……やっぱり、傷付けちゃう。





「ちょっと気になることあったから聞いてみただけだよ、それだけだから」





自分のことを見てくれない悲しさは、私だって知ってる。





「…そっか」





今後話す時、ぎこちなくなったりしたら嫌だな……。





チャイムが鳴り、ちゃんと話す間もなく授業を受けることになった。





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授業中、ずっと和輝くんの事考えてた。





珍しく授業にも集中できなくて、なんだか頭がぼっーとしていた。





ガタンッ





体の力が抜けて、倒れてしまった。





意識がもうろうとしている中






明莉と晴翔くんが、私の元に駆け寄って来ているのがわかった。





そこまでしか覚えていない。





ここできっと、意識がなくなったんだ。





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目を覚ました時には、保健室のベットの上にいた。





「あら、雨水さん起きたの?」





保健の先生が声を掛けてきた。





「…はい、私……」





私の頭に置かれている濡れたタオルを手に取り、起き上がる。





「教室で倒れたのは、覚えてる?」





「そこは覚えてます、でもそこから記憶がなくて……」





「実はね、九条くんが背負って連れてきてくれたのよ」





「えっ……晴翔くんがですか…?」





「そうなのよ、雨水さん 寝不足と発熱で体に負担がかかって倒れたの、九条くん 休み時間も様子見に来てくれてたわよ」





「そうですか……、教えてくれてありがとうございます」





迷惑……かけちゃったなぁ。





ちゃんとお礼言わなきゃ。





「先生、教室戻ってもいいですか?」





「だめよ!念の為、お昼の時間までここにいなさい」





「わ、わかりました……」





私は、お昼休みになるまで





もう一度寝ることにした。





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「……ば…き…つ……ば…き…椿!」





横を向いて寝ていた体を揺すられ、私は起きた。





「大丈夫?お昼持ってきたよ」





目を覚ますと、隣に明莉と晴翔くんがいた。





「わざわざ持ってきてくれてありがとう」





明莉にお礼を言った。





「いいよこれぐらい」





「晴翔くんが運んでくれたんだって保健の先生から聞いたよ…?ありがとう、迷惑かけてごめんね…」





「俺は迷惑だって思ってないよ、俺の事より自分の心配しろよ、本当に大丈夫か?」





「うん、大丈夫だよ」





「ならいいけど……」





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私達は、保健室のソファーに移り

お昼ご飯を食べることにした。





「いただきます」





やっぱり、どんな時でも明莉の家のパンは、私を笑顔にしてくれる。





元気が、心の底から湧いてくる。





そんな感じがする。





私は、 朝ご飯を食べていなかったので、余計に美味しく思えた。





とてもお腹が空いていたんだと思う。





パクパクとメロンパンを口に運び、コーヒー牛乳を勢いよく飲んだ。





「よし!元気出た!!先生、次の授業から出てもいいですか?」





保健の先生に聞いた。





「いいけど、また体調悪くなったら無理しないでちゃんと保健室に来ること!」





「わかりました」





「雨水さんは、すぐ溜め込む癖があるんだから絶対に無理しちゃだめよ」





バレてる……。





「は、はい……」





「安平さん、九条くん、ちゃんと様子見ててあげてね」





「はーい、じゃあ先生、教室行きますね!失礼しました〜」





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午前中よく寝れたおかげで、無事に午後の授業を終えることが出来た。





授業の間の10分休みに、2人からすごく心配されたけど。





「帰ろ」





そう言って、私の元に来たのは晴翔くん。





普通に話しかけてくれてる。





少し安心した、ぎこちなくなったりしたら嫌だなって思っていたから。





やっぱり、優しいな……。





「九条くん、椿のこと任せたから!」





明莉も一緒に帰りたかったみたいなんだけど





今日は家の手伝いをしないといけないらしい。





私達は、明莉に“また明日”とさよならして、一緒に帰った。





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今日も寝る前にスマホを見ると





メールが届いていた。





“明日、朝早く学校来れるか?”





なんかあるのかな……。





“行けるけど、どうして?”





返信をした。





ピコンと音を鳴らしながら光まで、私にメールを知らせる。





“話したいことあるんだ”





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次の日も、晴翔くんに先に行くことを告げて、学校まで走っていった。





中庭まで行くと、和輝くんがいた。





「今日は随分早いなあ」





「走ってきちゃった、……話って何?」





私がそう聞くと、少し表情が変わった。





「実は……さ、椿と別れた時 泣いてること気づいてたんだ」





「えっ……?」





「でも俺は 話には触れなかった、なんでだと思う?」





「わかんないよ、そんなの……」





「椿っていつも俺のこと良く見ててくれたから


人1倍頑張って無理しちゃうところとか、


本当は弱い癖に強がっちゃったりとか、


全部知ってるから、無駄になると思ったんだ」





「そんな事考えてくれてたんだ……」





「ああ、……でもそのせいで辛い思いさせたよな…ごめん」





「ううん、いいの…!気にしないで」





「俺達、やり直そうよ」





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走って自分の教室戻ってきちゃった。





あんな事言われるなんて……





思ってなかったなあ。





「なあ、椿……」





自分の席に座って、気持ちの整理をしていると





晴翔くんが話しかけてきた。





「今日も、吉澤のとこ行ってたのか?」





「うん、行ったよ」





「なんで……俺じゃ「実はね、また付き合うことになったんだ」」





晴翔くんが何かを言おうとしていたことに気づいてたけれど、





わざと聞かないように、言いかぶせた。





「ごめんね、やっぱり…忘れられなかった」





「そう…か、もう一度振り向いてもらえて良かったな」





「うん、良かったよ!」





そう言って、微笑んで見せた。





「……頑張れよ」





少し、寂しそうなのに





笑っている晴翔くんがそこにはいた。





辛い、だろうな…ぁ……。





でもね?私、自分の気持ちに 嘘はつきたくないの。





和輝くんの事が好きって気持ち、自分自身にすら隠し通せないよ。





その日を最後に、学校で会っても





なんとなくぎこちなかった。





いや、違う。





私が避けてたんだ。





合わせる顔がないから、話さないように





出来るだけ話さないように、って





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君の想い







毎朝





当然のように待っていた晴翔くんは





いつもの場所にいなかった。





ある日、学校に行っても晴翔くんは来ていなかった。





探しても探しても見つからない。





……どこにいるの?





「雨水さん、九条くんと仲いいよね?」





ポニーテールでメガネをかけた





学級委員長が話しかけてきた。





私、この人とほとんど話したことない。





「これ、頼めるかな……?


授業のプリントとかいろいろあるんだけど、私塾があって行けないんだよね」





まだクラスのみんなは、私と晴翔くんが仲がいいってそう思ってる。






実際、前まで仲良くしてるところをみんなが見ていたから。





今でもそうだと思い込んでいるに違いない。





「いいよ」





断ることも出来ず





授業のプリントやお知らせの紙が入った封筒を手に取り





晴翔くんの家までやってきた。





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ピンポ-ン





「はーい!」





元気な子供の声……?





インターホンから、なんとなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。





重たいであろう、玄関を必死に開けて





出てきたのは





まりちゃんだった。





「わぁ〜!つばきお姉ちゃんだ!


見に来てくれたのっ??」





私の目を見て、誰だかわかった途端





すぐに私の元にやってきた。





「あがってあがって!」





本当は、封筒を渡して帰ろうと思っていた。





まりちゃんに手を引かれて、中に入った。





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「おじゃま……します…」





和輝くんと付き合っているのに





クラスメイトの家にあがるのはどうかと思いながら、





恐る恐る中に入った。





綺麗に片付けられていて、広いお家。





「お兄ちゃん2階で寝てる、こっちこっち」





まりちゃんに案内されながら





2階に行った。





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2階の手前の部屋をまりちゃんが開けると





だるそうにベットで横になっている晴翔くんがいて、





急に心配になった。





思ったより体調ひどいのかな。





「……ん…あれ……椿……?」





「あ、ごめん……起こしちゃった…?」





「なんでここに……」





ゴホンゴホンと咳をする晴翔くん。





「授業のプリントとか、いろいろ届けに来た」





「あー……ありがと……」





無理に起き上がろうとして





咳がひどくゴホゴホと止まらなくなっていた。





「大丈夫?薬……飲んだ?」





「…飲んでない……」





「じゃあ、まずご飯食べないとだよね」





「いいよ、吉澤の所行けよ、もう大丈夫だから帰れよ……」





「病人の事ほっとけないよ!


風邪ひいてる時は頼れる人がいるなら


ちゃんと頼って甘えないとだめだよ」





「すぐに なおるからいいよ……」





すぐに治るとか言ってる癖に





咳は治る事を知らないみたいだよ?





「待ってて、私薬とかいろいろ買ってくるから」





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看病







買出しに行って、キッチンを借りた。





綺麗なキッチン。





おかゆ……ってどうやって作るんだっけ。





スマホで調べながらおかゆを作ることにした。





調べたら、いろんな食材に効果があることが分かって





全部詰め込んだら、なんか味が微妙になっちゃったけど





晴翔くん食べてくれるかな。





「晴翔くん、おかゆ……作ってきたよ」





まりちゃんにドアを開けてもらって、部屋に入った。





「少し失敗しちゃったんだけど……食べれる?」





「こんな具沢山なおかゆ、初めて見た」





「起き上がれる……?」





「少しなら、でも体がだるくて 思うように動けないんだ」





食べさせた方がいいのかな……?





「自分で食べれる?」





「きついかもしれない」





スプーンを持たせてみるとぷるぷると震えていて、食べれるようには見えなかった。





仕方なく、私が食べさせることになった。





「ふーふー、はい」





火傷しないように、少し冷まして





食べさせた。





「いただきます」





「……うまい」





良かった。





金魚の様にパクパクと





おかゆを食べてくれる晴翔くんを見ると嬉しくなった。





「ごちそうさまでした、ありがとな」





晴翔くんは全部食べきってしまった。





よっぽどお腹が空いていたんだろうか?





「最近、全然食欲なくてさ


でも椿が来てくれたおかげで少し元気になった気がするよ」





「良かった、はい!薬飲んで」





コップに水を入れて、風邪薬を飲ませた。





薬を飲ませて、タオルを冷たい水を染み込ませ、おでこに置いた。






「また明日ね」





「おう、また明日」





早く良くなるといいな……。





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「和輝くんおはよ!」





学校の近くにある歩道橋の手前で





スマホを見ながら待っている和輝くんに声をかけた。






「おはよ」





そう言うと、和輝くんはスマホをポケットに入れた。





2人で一緒に学校に行く。





歩道橋の階段を下りていると





最後の1段で気を抜いてしまい、私は転んでしまった。





「痛…っ…た……」





膝をすりむいたのだ。





「大丈夫か?立てる?」





膝から血が出ている。





ひりひりしててものすごく痛い。





周りの人も見てる……。





「……ほら」





「えっ?」





なんと、和輝くんが私に背中を向けてきたのだ。





「……乗れって、こと?」





「早くしろって」





そうだよね。





みんな見てるもんね。





「わ、わかった」





私は、和輝くんの大きな背中に体を預けた。





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「……懐かしい、な…ぁ……」





私は小声でそういった。





「何が?」





おんぶされているのだから





小声で言ったって





当然聞こえる。





「付き合ったばかりの頃もさ、


私歩道橋の階段で転んだよね」





「そういえば前転んだ時もあの場所だったなあ」





「覚えててくれたんだ?」





「当たり前だろ」





「そっか、嬉しい」





そう、あの日。





付き合ったその日の事。





初めて一緒に帰るってなって





テンション上がりすぎちゃってた。





足元見てなくて上ばっか見上げてたり、





和輝くんの横顔ばっかり見てたり?





私なんかと付き合ってくれた事が嬉しくて





『私なんかでいいの?』





なんて聞いたこともあったっけ……。





そしたら





『私なんか、じゃなくて椿がいいの』





この時初めて名前で呼んでくれたよねっ。





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「ほら、ついたぞ」





そう言って下ろされたのは





保健室のソファー。





「運んでくれてありがとう!……保健の先生、いないね」





保健室のドアが空いてるってことは、保健の先生は職員室にいるのかな……?





「俺 先生呼んでくるわ、ちょっとまってて」





「わかった、まってるね」





そう言って私は1人、保健室に残った。





案外、職員室って遠いからなぁ……。





保健室は、正門から一番近くて





1階にある。





職員室は2階にあって、一番奥の教室だ。





この学校案外広くて、初めの頃は迷子になってたっけ。





学校で迷子になって





他学年の先生にクラスまでの道教えてもらったこともあったなぁ。





私、どれぐらい待ってればいいんだろう。





なんて、つい疑問に思ってしまった。





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ガラガラ





「先生ー……って、あれ?先生いないのか」





入ってきたのは





晴翔くんだった。





「えっ?風邪はもう大丈夫なの??」





「大丈夫じゃないから今保健室に来たんだろ?」





「あ、そっか……


え、でも大丈夫じゃないのになんで学校に来たの?」





「そ、それは……椿が『また明日ね』って言ったから、頑張って行かなきゃって思ったんだよ……」





「そんなことしなくても家までプリント届けに行ったのに」





「そ、そうなのか?


ていうか、椿はどうしたんだよ?保健室なんか来て」





「怪我したの、歩道橋の階段で」





「おっちょこちょいだなー、ちゃんと傷口洗ったか?」





「洗ってない……」





「俺がついてってやるから洗いに行こうぜ、そのままにしとくと良くねえよ」





「わ、わかった……」





このまま和輝くんが来ない気がしてたから





これで良かったのかもしれない。





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「痛ッ…い…」





こんなに痛いもんだっけ??





「少しは我慢しろよ」





保健室の外にある、蛇口で水を出して





私は傷口を洗っていた。





「……痛い…すごいしみる…」





「……よし、これくらいでいいだろ」





「本当に?これで終わり??」





「終わり!保健室戻るぞ」






「うん!!」






私達は保健室に戻った。





晴翔くんが、勝手に消毒やらいろいろ借りて





ささっと、馴れた手つきで絆創膏を貼ってくれた。





「よし、これでいいかな」






「ありがとう、なんか手馴れてるね」






「まりがよくはしゃぎすぎで転ぶんだ」





「あ〜……それでいつもやってあげてるんだ?」





「そうなんだよ、泣きながら話されても


何言ってんのかわかんねえけど


怪我して痛いってことだけは伝わってくるわ」





「あはは、大変だね…」




私は少し苦笑いをした。





私は子供あんまり好きじゃないから





泣かれたりすると一番迷惑。





どうしていいのかわかんなくなっちゃう。






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ガラガラ





「あら?九条くんに雨水さん?どうして保健室に?」





え、和輝くん呼びに行ったんじゃないの……?





「和輝くんが呼びに行きませんでした?」





「和輝…くん?あぁ、吉澤くんの事ね


私のところには 来てないわよ」






「そ、そうですか……」






「ところで保健室なんか来てどうしたの?


怪我でもしたのかしら?」





保健の先生が不思議そうに聞いてくる。





「私は怪我したんですけど、


晴翔くんは身体がだるいみたいで


無理をして学校に来ちゃったらしく


休ませて欲しいみたいです」




「あら、そうなの?」






「あ、はい」





「じゃあ、そろそろ私行くね」





「転ばないように気をつけろよー」





「わかってるよ、もう二度も同じように転ばない」






そう言って、私は教室に向かった。




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教室に入ると





「今日遅いね?えっ、なに?膝どうしたの?」





明莉が話しかけてきた。





「歩道橋の階段で転んだんだよね……」





そう言って、私は苦笑いをした。





「九条くん今日も来てないみたいだよー?」





と、明莉が言ってきたので





「晴翔くん来てるよ、保健室で休んでる」





「え、来てたの!?」





すごくびっくりされた。





「うん、なんか頑張って来たのはいいけど、だるすぎてあんまり動けないんだって」





「あらら〜、これは早退しそうだね〜」





「だね……あんまり無理してほしくないなぁ…」





私達は心配しながらも授業を受けた。





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お昼休みになった。





コーヒー牛乳を買いに自動販売機まで行っていると





廊下で保健の先生に会った。





「あっ、先生!晴翔くん大丈夫ですか??」





呼び止めて聞くことにした。





「九条くんは、熱が上がってきちゃったから早退させたわよ」





「そうですか……わかりました、教えてくれてありがとうございます」





「雨水さん達も風邪うつらないように気をつけてね」





「はーい!ありがとうございます!」





明莉もそう返事をしていた。





そんなに熱上がったのかな……





なんてずっと下を向いていると





「帰りにさ、プリント渡しに一緒に行こう?」





「え、でも……私……」





「知ってる、噂聞いたよ?


吉澤くんとまた付き合い始めたんでしょ?」





え、そんなに知れ渡ってるんだ……。





「ごめんね、話すタイミングわからなくて」





「いいよいいよ!


でも今日は、私と一緒に九条くんの所行こう?


吉澤くんには私が一緒に頼んであげる!」





今日は一緒に帰れないって、





明莉も一緒に頼んでくれるらしい。





「わ、わかった」





「よし!


じゃあ、早くコーヒー牛乳買って教室行こ?」




私達は、早めに教室に戻ってパンを食べた。





その後、和輝くんのクラスまで行き





「吉澤くん!


今日の帰りさ、椿の事借りていい?」





「いいけど、なんで?」





当然聞かれるよね……。





「女の子同士の話があるの


だから吉澤くんには教えないよ〜」





この2人ってこんな風に話すんだ……?





何か私、身近な存在なのに知らなかったなぁ。





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和輝くんに許可を貰って





学級委員長からプリントを受け取り、





2人で晴翔くんの家に来た。





ピンポ-ン





「はーい、どちら様でしょうか?」





インターホンから大人の女の人の声が聞こえた。





「あ、あの、私 晴翔くんのクラスメイトの雨水椿と言います、授業のプリントとか届けに来たんですけど……」





先生ぐらいにしか使わなくて






慣れていない敬語で頑張って伝えると





中から人が出てきた。





「どうぞ、あがってください!」





「「おじゃまします」」





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「晴翔、今寝てると思うんですけど、部屋行きますか?」





どうやら晴翔くんのお母さんのようだ。





「起こさない方がいいですかね……?」






と私が言うと





「せっかく来たんだから様子見に行こうよ」





と、明莉が言った。





「案内しますね」






とても綺麗な顔立ちで、喋るのにすごく緊張する。





晴翔くんはお母さん似なのかな……?





案内されて、晴翔くんの部屋に来た。





「…だっ、大丈夫……?」





とっさに声をかけてしまった。





だって、うなされていたから。





私の声で目を覚ましてしまった。





「いつからそこに……」





ゴホゴホと咳をこみながらそう言った。





ここに来て、すぐにわかった。





風邪が悪化しているんだ。





「ごめん、起こしちゃった?」





私がそう言うと





晴翔くんは、無理に体を起こそうとするので





手を背中にあてて、晴翔くんの体を支えた。





「ついさっき ここに来たんだよ、そしたらうなされてたから声掛けちゃった」





「わざわざありがとな……」





本当に大丈夫かな……?





すごく心配になる……。





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「はいこれ、プリント、どこに置けばいいかな……?」





「あー……机の上、置いといてくれるかな」





「わかった」





私は、晴翔くんの勉強机の上に





プリントの入った封筒を置いた。





机の棚は私が思っていたより、案外綺麗で





教科書や参考書などが整理整頓されていた。





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「お母さんもいるようだし、今日はひとまず帰ろっか)





「そうだね」





私達がそう話していると





「さっきの、お母さんじゃないよ」





と、晴翔くんが言ってきた。





「えっ、お母さんじゃないの!?」





「俺と4つ歳が離れた姉ちゃんだよ」





「そうだったんだ……?」





あまりにも、話し方が綺麗だったから





てっきりお母さんだと思い込んでいたのだ。





「いいお姉ちゃんだね」





「何でも出来てかっこよくて、俺の憧れの人なんだ」





「そんなにすごい人なの?」





「ああ、勉強も出来るし部活だって両立して頑張ってた


今は大学に通ってて、どんどん綺麗になるし


気配りだって出来るんだ」





晴翔くんは、自慢げにお姉ちゃんのことを話すと





疲れたのか、すーすーと寝息をたてて眠ってしまった。





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「帰ろっか」





明莉が小声で私に言った。






私達は、音を立てないように 静かに部屋を出た。





下に降りていくと、晴翔くんのお姉ちゃんがいた。





明莉は






「良かったらこれ、みなさんで食べてください!


うちで作っているパンです!」





と、お姉ちゃんに渡していた。





「また、来てもいいですか?」





何故だろうか。不意に聞きたくなったのだ。





「いつでも来てください、晴翔も喜ぶと思いますし


お待ちしております」





その言葉を聞いて嬉しくなった。





「ありがとうございます!!」





元気に返事をして、晴翔くんの家を出た。





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「このあと時間ある?」





明莉に言われて「大丈夫だよ」と答えた。





お母さんに、帰るのが遅くなることと、


明莉と一緒にいるから大丈夫だよ。とメールで伝えた。





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相談







私達は、晴翔くんの家を後に





明莉の家に1度より、隣にある喫茶店に入ることにした。





「どうしたの?急に」





私は、メニューを開きながら そう明莉に聞いた。





「いや、あのね?どう、思ってるのかなって」





「どうって?」





私は、勘が鋭いわけじゃないから





直球で言ってくれないと、わからない時がある。





「だから、吉澤くんと九条くんのこと!」





「私は、和輝くんのことが好きだよ」





「本当に?自分の心に嘘ついてない?」





「ど、どういうこと?嘘なんかついてないよ」





「思い込んでるんじゃないの」





「思い込み……?そっ、そんなことないよ…!」





一緒にいると楽しくて





和輝くんとまた付き合えて、私は……嬉しいよ?





「でも、最近 また前みたいに不安になってるのは確かでしょ?」





「な、なんでそれを……」





「さすがに椿の事は、見てればわかるよ」





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私達は1度、飲み物を頼んだ。





飲み物が席に届いて





少し時間を置いてから





「……私ね、気づいたの」





そう、口にした。





「何に?」





私が言うと、すぐに明莉が聞いてくる。





「和輝くん、結局、誰でもいいんじゃないかなって


最近思い始めたの」





「それはどうして思ったの?」





「今日……さ、私怪我したでしょ?」





「してたね、朝見た時すごく痛そうだった」





「保健室に先生がいなくて、呼びいくって言いながら


和輝くん保健室を出ていったの」





「それで?」





「待ってたんだけど


結局、戻ってこなかったんだよ?


その後来た 保健の先生も会ってないって言ってた」






これは不安になってもおかしくないよね……?





「そっか、辛かったでしょ」





私の言葉で、私の気持ちを考えながら 慰めてくれた。







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「もしかしてさ、より戻す前の気持ちが


残ってるだけなんじゃない?


吉澤くんの事が好きって頭がずっと、思い込んでんじゃない?」





「思い込む?…………そんな事ない。


好きだよ、和輝くんのこと」





「本当に好き?心の底から言える?」





「……不安が大きすぎて言えない。わかんない……」




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「私、和輝くんの事 本当に好きなのかな。


わからなくなってきた……」





「逆にどこが好きだと思うの?」





「ああ見えて優しいんだよ?

その優しさに惹かれたというか。なんというか……」





「優しいだけで好きになったの?それだったら、


優しいだけの人なんて、いくらでもこの世にいるよ」





「より戻してから、和輝くんのどこが好きなところ?


って聞かれても今の私じゃ答えられない」





いろいろな不安が大きすぎる。





「でも、本当に……好き、なんだよ……?」





「それはなんで?」






「わかんないよ……。好き……だった……?


今はもう好きじゃなくなってる……?ってことなのかな。


これが、明莉の言ってた思い込みなのかな」





「私には思い込んでるのかどうかは


さすがにわからないよ。一度よく考えるべきだと私は思う」





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「考えるべき……かぁ」





私は、はぁ…… と深くため息をついて


飲み物を勢いよく半分くらいまで飲んだ。





「一度、何も意識しないで吉澤くんと接してみなよ


何かに気づけるかもよ」





「わ、わかった」





「九条くんの事も、ちゃんと考えてあげないと可哀想だからね」






「うん……」





確かに、明莉の言う通りだ。





「明莉」





私は、明莉の名前を呼んだ。





「ん〜?どした?」





「変わったね、小さい頃より成長した」





小さい頃は、私に


『これどうすればいいの?』ってよく泣いてたのに。





「もう、小さい頃の話なんてやめてよ〜


あの頃は嫌な思い出しかないんだから!


それに、小さい頃より成長するのなんて当たり前だし?


おかげさまで頭の回転も良くなりました〜」





「いつの間にか私が、明莉に助けられてるね」





「いいんだよ?


小さい頃から一緒なんだから、一番話しやすいでしょ」





「話しやすい!本当、ありがとうね」





「また気持ち落ち着いて


まとまったら話聞かせてね」





「うん!わかった!」





考えてみよう。





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次の日、和輝くんが待ってる歩道橋





「おはよ」





と、私が声をかけた。





「あぁ、おはよ」





いつも携帯触ってる……。





誰と連絡取ってるのかな。





「行こっか」






学校まで短い距離、一緒に行くことに意味があるんだろうか。





前までは、少しでも長い時間一緒にいたい!





なんて考えていたけど……





好きって感情 意識しなくなると、こうなるものなの?





「どうした?」





私が下を向いて歩いていたせいで、和輝くんに不思議がられた。





「なんでもないよ?」





これ以上不思議がられないように、少し笑って見せた。





歩道橋から学校が近いので、あっという間についた。





「またあとでなー」





「またね」





「なんか、ドキドキしない……」





と、小声で言った。




いつも、心臓バクバクで話してたのに。





どうして?





今までのは思い込みだったの?





下を向いて、和輝くんに対しての気持ちが整理つかないまま





ぼっーと、クラスに入った。






「つーばーき!おはよ!」





「椿ってば!」





「……んえっ?なに?」





「さっきから話しかけてんのに」





明莉が話しかけて来てたらしい。





なんで私気づかなかったんだろう。





「あっ、ごめん。気づかなかった……


怒ってる……?」





「ううん、怒ってないよ。


どうせ吉澤くんのこと考えてたんでしょ」





「…………バレた?」





「すぐ分かるよ。私を誰だと思ってんの!」





「長年一緒にいる幼なじみの明莉ちゃんでしたね〜」





と、少し茶化した。





「明莉ちゃんって、なに!ちょっとばかにしてない??」





「してないしてない」





「本当?」





顔を覗き込んで私を見てきた。





「ほんとほんと」





そう言いながら私は、目をそらした。





「嘘だね。今、目そらしたから!


嘘つく時とかごまかす時


たまに目そらすの知ってるんだから」





「えっ、私そんな癖あるの?」





自分も知らなかった。





無意識にやってたんだ。






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「ほら、授業始まるよ」





「あ、うん!」





私たちは、午前中の授業を受けた。





お昼の時間になり





いつものように、明莉がパンをくれた。





「遅いね……。


吉澤くんうちのクラスに迎えに来るんだっけ?」





「来るはずだけど……」





ガラガラ





その時、ドアが開いた。





「椿〜、一緒に食べようぜー」





「あ、うん!」





「おっ、今回は良かったじゃん。行ってきな〜」





と、小声で言われた。





「そうだね。ありがとう」





私も小声で返事をした。





「どこで食う?」





「うーん……コーヒー牛乳買いたいから外の方がいいかも。


でも外って寒いよね……。どうしよ……」





「じゃじゃーん!椿、これ見て。俺が買ってきた」





「えっ!?わざわざ買ってきてくれたの?」





「この前、保健室に置き去りにしたまま


俺、帰って来れなかったろ?」





「うん……。帰ってこなかった」





「その時はごめんな。


言い訳みたいになっちゃうかもだけど、担任に捕まっちゃって


いろいろ借り出されてたんだ。


だからそれのお詫びと言っちゃなんだけど……」





そっか。気にしてくれてたんだ。





「うれしいよ!!


ありがとう!私はこれで充分だよ!!」





私、単純だなぁ……。





コーヒー牛乳もらっただけで、許しちゃうなんて。





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「美味しいっ……」





微笑みながら、私がメロンパンを食べていると





和輝くんの視線が気になった。





私の方をじっと見つめていた。





驚きながらも、「どうしたの?」と声をかけた。





「俺もメロンパン食べたい」





「えっ…?た、食べる……?」





「食べる」






「はいっ……」





私が和輝くんに





メロンパンを差し出すと、パクっと1口食べた。





「……こんなの毎日食べてんの?」





「えっ、気に入らなかった……??


ご、ごめん、すぐに何か口直し出来るもの……」





「違う、ごめん、俺の言い方が悪かった。


すごく美味しいから、俺も毎日食べたいなって思って」





なんだ……





そういう事か。





「びっくりした……。私が明莉に頼もうか?」





「いいの?」





「いいよ!頼んであげる!」





あげるって、ちょっと上から目線だったかな。





「すっげぇ、嬉しい。ありがとな」






そう言って私の頭をぽんぽんしてきた。





「椿、顔真っ赤。久々だから照れてんの?」





う、嘘!?顔真っ赤だって、どうりで顔が暑いと思った。





「そっ、そんなこと……ない…っ…」





「椿可愛い、キスしてもいい?」





「えっ?」





「嫌……?」





そう言いながら





私に答えさせないようにしてんのか






そのままキスしてきた。





「…ん…っ……」





私の声が漏れた。





「嫌だった?」





「嫌、じゃない……」





「好き。和輝くんの事、ずっとずっと好き。


……これからもきっと、ずっと好きでいる」





「嬉しい。俺も好きだよ」





そう言って私達はもう1度キスをした。










好きって聞けただけで、私は充分幸せだよ。










111 / 225


裏切り







「帰り正門集合な、ちゃんと待ってろよ」





「うん!待ってる!またあとでね」





「おう、またなー」





クラスに戻ってきた私は、明莉に伝えた。





「もう、大丈夫。吹っ切れたよ」





「ほんと?よかった」





「あ、それとね。


頼みたいことあるんだけど……いいかな?」





「なになに?何でも言ってごらん?」





「和輝くんがね、メロンパン食べたいって!


明莉の家のパン美味しいって!


和輝くんの分まで用意出来ないかな……?


和輝くんの分お金私が出すからさ……」





「それぐらいならいいよ?お母さん達に頼んでみる!


お金なんていいよ、小さい頃からの仲でしょ?


そんな事言わなくていいんだよ!」





「ありがとう……!!


和輝くんも喜んでくれると思う!!」





今日は、いい事ばかりで嬉しいなぁ……!





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気分が上がったまま、受けた授業は





あっという間に終わった。





「ねえ、雨水さん。


また、頼みたいんだけど。


プリント、お願い出来ないかな……?」





メガネをかけた学級委員長。





そう言えば晴翔くん、まだ風邪引いてるんだ。





「ごめん、今日は行けない。


誰か代わりに行ける人探して?


今日は、和輝くんと帰るって約束してるから」





「そっか、より戻したんだよね……


そんな大切な時に、ごめんね。他の人当たってみる……」





私は、トイレの鏡で髪のチェックをする事にした。





「どこもおかしくないよね……?


一緒に帰るの楽しみ!」





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なんて、テンションの上がった私は





スキップをしながら、教室の方に戻った。





教室では、まだいろんな生徒が話をしていたりしていた。





学級委員長も、その子達に頼めないか聞いていた。





そんな学級委員長に気づかないふりをして、





カバンを取り、急いで正門に向かう。





正門に向かう途中、あまり目立たないが、大きな木がある。





そこには、見たくも無い光景が私の目に写った。






「なん、で……?」





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「明莉……?和輝くん……?」





そこの、大きな木の後ろで





ふたりが密着して、キスをしていた。





私の理解が追いつかなかった。





「ねぇ、ちょっとまってよ……


私にわかるように説明……して?」





私の手足がガクガクと、震えているのが分かった。





「え〜?なに?


ちょっと髪にほこりがついてたから


吉澤くんに取ってもらってただけだよ〜」





「あぁ、そうだよ」





「だから明莉の気のせいじゃない?」





「そ、……そんな事ない……。


私には完全にキスしてるところが見えてた。間違いないよ……」





震えを隠して、必死に答えた。





「なんだ、もう隠す必要ない……か。


あのね、私と吉澤くん、実は、椿に隠れて付き合ってたの」





明莉は、平然とした顔でそう言った。





「え……?いつ、から……っ……?」





「学年変わったぐらいの頃かなぁ………。いつだっけ?」





仲良さそうに 手なんか恋人繋ぎで、さっきから密着してて





「1年の頃の終業式が終わって春休みの頃からだな」






二人の会話なんて、全然頭に入らなかった。






ちゃんと聞いてるはずなのに





すっと、流れていくようだった。





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「じゃあ、お昼休みの今日の出来事は何だったの……?」





和輝くんみて私はそう言った。





「あれは、明莉ちゃんから椿が悩んでるって聞いて


『コーヒー牛乳でも買ってきて

渡して少し元気付けてあげれば?』


って言われたから」





そんなの、私、知らな…い………。





「全部……明莉が言ったことだったの……?」





今度は、明莉を見て言った。





「そうだよ、どんよりした空気出されても


私の気分まで下がるし、それが嫌だったから


吉澤くんにそうしてもらったの」





さっきから信じられない現実を知る度に





二人の顔がまともに見れなくなっていった。





「なんで……幼なじみで、親友だったのに……


そう思ってたのは、私だけだったの……?」





冗談、だよね……?





嘘って言ってよ……。





明るくて私の事心配してくれる






いつものあの明莉に戻ってよ……。





「そうだよ、椿が勝手にそう思い込んでただけ」





これすらも、思い込みだったっていうの……?





「ていうか、もう普通に名前で呼んでいいよね?


吉澤くんじゃなくて、いつもみたいに」





いつ…も……みたい、に……?





「和くん、もう椿に構わないでね?」





「からかったら、面白そうかなーって思ってただけだから


もう近づかないよ、明莉ちゃんだけだし」





「じゃあね、椿。九条くんとお幸せに〜


あっ、でも……それじゃあ、九条くんが可哀想だね!


まあ、せいぜい好きになれるよう頑張って?」





2人は、そのまま帰っていった。





116 / 225







私は、頭の整理が付かなくて、その場に座り込んだ。





周りの人がざわついてるのが分かっていた。





「誰を信じればいいの……」





小声でそう呟いた。





「大丈夫?」





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私の肩に手を置いて、声をかけてきたカップル。





一瞬、和輝くんと明莉に見えて





「やっ……やめてッ!!


触れないでよ……!お願いだから、私に近づかないで……!」





と、手を思いっきり はらってしまった。





「ちょっと、私よ。雨水さん」





「…え……、せ、先輩…っ…?」





よく見ると、自動販売機の前で待ち伏せされて





晴翔くんのことが好きなのに





好きな人がいるからって断られた。





って私に文句言ってきた先輩だった。





結局あの後、晴翔くんが先輩を説教して





助けてくれたんだっけ。





「大丈夫なの?こんな所で座り込んで


一体、なにがあったのよ…」





「先輩、どうして……?


私なんかに、声かけて下さったんですか……」





「九条くんに説教されて、私ね、心入れ替えたの。


このままじゃだめだって。


そしたら、こんな素敵な彼氏まで出来て。


2人には、感謝でいっぱいよ」





「そう、だったんですね……」





118 / 225







「一体、どうしたのよ、私でよければ話聞くわよ……?」





私は、ゆっくりと立ち上がった。





「……長年一緒にいた幼なじみに裏切られたんです


ただ、それだけです、もうなんともないので失礼します」





ふらふらした状態で教室の方に歩き出す。





「ちょっと、なんともなくないでしょ!


そんなふらふらして、大丈夫なわけないじゃない!」





先輩に手を引っ張られたが、手を払った。





「本当に、大丈夫なんで……。もういいですか」





無表情で、先輩に行った。






「わ、わかったわよ……。


倒れないようにちゃんと歩くのよ……?」




「はい、ありがとうございます」





「本当に、大丈夫かしら……」






と、小声で言ってる声を聞きながらも教室に向かった。





119 / 225







ふらふらしながらも、ちゃんとクラスに着いた。





「お、お願い!九条くんの家、行ってくれないかな……?」





「無理だよ、あいつの家わかんねーもん」





学級委員長がまだ男子達にお願いをしていた。





「……ねえ、級長」





そこに私が声をかけた。




「えっ、雨水さん?そんなふらふらで……


どうしてここに……?彼氏さんと帰るんじゃ……」






「彼氏なんて、私にはいなかったんだよ。


単なる私の妄想、みんなが見てたのは単なる夢」





「えぇ……?それどういうこと……?」





目の前にいる学級委員長が、困りに困った顔してた。





「それ貸してよ、私が行くよ」





「えっ、いいの??助かる……!」





「いいよ。もう行かないと塾、間に合わないんじゃない?」





「本当は、もう間に合わないの。


でも、大丈夫!なんとかなる時間だから


ありがとう!雨水さん!」





「いいよ、塾頑張って」





男子達の視線を感じた。





「……なに」





私がそう言うと





「雨水さんって、そんな無表情で喋る人だっけ


もっと感情出てる人だと思ってたけど、なんかあった?」





「別に、何も無いよ」





それだけ告げて、私は晴翔くんの家に向かう事にした。





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「あれ……そう言えば、カバンどこやったっけ……」





来た道を辿りながら、正門まで歩いていくと





私のカバンが






ぽつん、と1つだけ取り残され、地面に落ちていた。





私は、自分のカバンを持って、学校を出た。





狂ったようだった。





自分じゃないみたい。





衝撃の事実を知った時も驚きのあまり、泣けなかった。





悲しい、なんてものじゃなかった。





誰を信じたらいいかわからない。





みんなが何考えてるのかわからない。





本当は、心の中でまだ夢じゃないかと信じていた。





でも、心がグサグサと弓の矢で刺されてる感覚。





とても痛かった。





「なんで気づけなかったんだろう」





なんて疑問が浮かんだ。





すべて、私が鈍感なせいだ。





一度和輝くんと別れてから





私の感の鋭さは消えてしまったのだ。





きっとそう。





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ピンポ-ン





インターホンを鳴らした。





「どちら様でしょうか?」





晴翔くんのお姉ちゃんの声だ。





「この前来た、雨水椿といいます。


学校のプリントを届けに来ました」





「はい、今開けます」





ガチャ





「また来てくれたんですね……って、


ふらふらですけど大丈夫ですか?」





「大丈夫です、何の問題もないです」





「無理なさらないでください。


家で休んでいっても構いませんよ」





「大丈夫です」





私は、晴翔くんの部屋に案内された。





「晴翔くん」





ドアを開けて、すぐに名前を呼んだ。





「椿?……そんな顔してどうしたんだよ」





早く伝えたかった。





「私、誰を信じていいかわからない……」





「待てよ、何があったんだ」





「夢なのかな……。わかんないよ……」





「1から説明してくれ」





「2人に裏切られたの……。付き合ってたって……


ずっと昔から一緒だった明莉に……ま、で……」





バタン





倒れてしまった。





私の体温が上がっていた。





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目を覚ますと、天井が見えた。





横を見ると、ベットに顔を伏せて





寝ている晴翔くんがいた。





「私、なんでここで寝てるんだろう……」





「ん……、?目が覚めたのか。熱は?体大丈夫か」





「体が重い……。何か乗ってる……動けない……」





「何も乗ってねえよ、重症だなこれは……」





「今何時……?お母さん心配してるかも……」





「あぁ、それなら大丈夫だ。


姉ちゃんが椿の家に連絡入れてくれたから」





「そう、なんだ……ありがとう」





「礼なら姉ちゃんに言えよ。俺は何もしてねえよ」





「そうだ、ベット。私が使っちゃって……わるいよ……」





「いいんだよ、使ってな」





「だめだよ」





「でも、体重くて動けないんだろ?」





「うん……どうしよう……」





「じゃあ、一緒に入る……?なーんてな、冗談だよ」





「いい、よ……?」





「冗談だから、間に受けんな。


こっちが反応に困る」





「お願い、体が寒いの。


体が震えちゃって、添い寝するだけでいいから……」





「何言ってんだよ、今日の椿おかしいぞ。


ていうか、吉澤と安平さんと何があったんだよ」





「…………誰?それ。私の聞いたことない人。


私、会ったことある?」





「冗談だろ……?」





「うん、冗談。びっくりした?」





私は、そう言いながら起き上がって壁に持たれた。





「驚いた」





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「なんかね。


心にぽっかり穴が空いたような感じがして


まだ、夢なんじゃないかなって……これも夢、だよね?」





「夢じゃねえよ。俺と会ったことまで夢にすんなよ……」





「あ、ごめんなさい。傷つけるつもりはなくて……


でも、和輝くんの事、もっとわからなくなった。明莉まで」





「それにしても、なんで付き合ってるって分かったんだ?」





「2人がキスしてるところ、見ちゃったの」





「え……嘘だろ?」





「本当だよ。仲良さそうに手なんか繋いで


びっくりするぐらい距離近くて。


和くん、明莉ちゃんって二人とも呼びあってた」





「なんだよそれ……。大丈夫、か……?」





「泣けなかったんだ。


二人が帰ったあと、その場に座り込んだの」





「そしたら、晴翔くんが説教してくれた先輩の事、覚えてる?」





「ちゃんと覚えてるよ」





「心入れ替えたんだって。彼氏と一緒に声かけてきてくれた」





「それだけ。もう私の話すことなくなっちゃった」





「本当は、泣きに来たんじゃねえの?」





「私強いから泣かないよ?」





「嘘つくなよ、泣いてもいいんだぞ」





苦しさがこみあげてきた。





「ほら」腕を広げて私を呼ぶ。





晴翔くんの優しい声に負けて、弱い自分を表に出した。





思いっきり泣いた。






泣いても泣いても、さらに涙が出てくる。





「こんなに泣くなら和輝くんのこと好きになりたくなかった。


初めから晴翔くんに興味もって話せてたら……


もしかしたら付き合ってたかな……?」





「そうかもな」





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「なぁ、俺にしとけよ……


やっぱり俺じゃだめなのかよ……」





「まだ、だめ……みたい」





「俺は、こんなふうに椿のこと泣かせないよ?」





「私さ、両思いじゃない限り、付き合いたくないんだ」





「なんで?」





「付き合ってる相手が可哀想だから。


付き合ってるはずなのに片思いって、1番悲しいと思う」





私がその悲しみを知っているから。





晴翔くんには、そんな気持ち味あわせたくない。





「そっか……」





「だから、待ってて欲しい。


きっと、好きになるから。


晴翔くんの事、心の底から好きって言えるまで


待ってて欲しい」





「わかった。待ってるよ」





本当は、もう既に好きになり始めてるのかもしれない。





けれど、まだ自分に自信が持てなかった。





二人に裏切られたこの悲しみが






私の事を、そう思わせてるのかもしれない。





「ごめんね。今日は、ありがとう……また、明日ね」





私は家に帰ることにした。





まだふらふらしてたけど。





落ち着くために帰らなくちゃいけない、と思ったのだ。





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帰って、部屋着に着替えて、すぐに横になった。





気づいたら寝ていた。





目が覚めると子鳥の声が聞こえた。





もう、朝か……。





「体、だるいな……」





「つばきー?いつまで寝てるの、学校遅刻するわよ」





「体が重くてだるい……」





「えぇ?大丈夫なの?熱を計った方が良さそうね」





お母さんが体温計を持ってきた。





私は、ゆっくり起き上がり、熱を計った。





38.6℃だった。





思ったより熱が出てる……。





「風邪かしら……、学校に連絡しとくわ。寝てなさい」





「ありがとう……」





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寝れないな、なんて思ってたら





気付けばまた、二度寝をしていて





手を伸ばし、スマホの時計を見ると、11時20分だった。






もう少し時間が経てば、お昼の時間だ。






重い体を起こして、昨日の出来事を思い出しながら





自分の部屋のカーテンを開ける。





窓の外は、私の心のように土砂降りで、





雨の嫌いな私は、さらに心が沈んだ。





なんとなく机の棚を見ると、




誰もがこの本を持っていたぐらい。





一時期有名になった、人気の小説が置いてあった。





これは、帰ってる途中で、明莉の気まぐれさが





唐突に、いつもは興味がないであろう、本屋さんを





指でさしながら 『本、見に行きたい!』と





一緒に立ち寄った時、偶然気になって





買ったものの、全く読まずに





存在を忘れていた小説だった。





明莉との思い出もある本なんて





すぐにでも捨ててしまおうかと思ったが、





毎日楽しかったあの頃だけは嘘じゃない。





きっとそうだ……と思うと、





せっかく買った小説なのに、もったいない気がした。





それに、もし捨てたら





あの頃の記憶まで、消してしまうような感じがして





明莉と過ごした思い出、忘れられない。忘れたくない。





そう思うと…捨てるどころか、現実とは違う。





何か別の物に、集中したかった私には





今すぐにでも、読むべきだと思い





私は、小説を手に取った。








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窓辺に座りながら小説を読んでいると、





風で舞った雨が、窓に叩きつけていた。





その雨のしずくが影となって、





私の読んでいる小説に





ぽつんぽつんと、次々と落ちてきて、





回しながら万華鏡を覗いたかのような





綺麗な模様が 写りこんでいた。





どうしてかな。この綺麗な影が増える度に、





自分の中の暗い暗い闇みたいな物が、





増していくように思えた。






「私……、重症……?…か…な…ぁ………」





そう、呟いた。





どうして、こんな結果になったのだろう。





私が、もう少し来るのが遅ければ、今まで通り





楽しく二人と過ごせてたのかな。





私だけが知らないままなら、前みたいに





ずっと居られたのかな。





こんな事実を知る直前までは、





ハイテンションで、スキップしながら喜んでいたのに。





あぁ、やだな。





こんなに嫌な現実を、突きつけられるのなら





もう、幸せなんて……来なくていい。





そう思った。





まだ読み始めてそんなに時間が経っていないのに





自然と涙が溢れて、頬を濡らしていた。





私だけが不幸になれば





きっと、周りは




幸せでいっぱいになるんじゃないかな。





全国の、自分は不幸だと思っている人達が、





少しでも幸せになるのなら……





不幸だと思うのは私だけでいい。





私だけが暗闇の海に溺れればいい。





もう、幸せなんていらないから。





きっと、晴翔くんだって、こんなに重い考えしている





私なんかの傍には、居たくないはず。





もう、学校も行きたくない。





家でこうして、誰とも接しないで一人で過ごしていたい。





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なんて、考え事をしていたら





コンッ、コンッ。





ドアをノックする音が聞こえた。





「ご飯、食べれる?」





お母さんが、聞きに来たのだ。





私は、食欲ないからいらない。





そう、いおうと思ったけれど……





なんとなく、晴翔くんの顔が浮かんで





『食べないと体に悪いぞ』





そう頭の中で言った。





「食欲ないけど……食べようかな」





「雑炊でもいい?」





「なんでもいいよ、好きなの作って」





食べるものなんて、特に意識してなかった。





なんでもいいと思った。





今は何が食べたい、だとか特に思いつく訳でもなく





とりあえず何かを口に入れれば、なんて考えていた。





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「出来たわよ、熱いから


ちゃんと冷まして食べなさいね」





お母さんの言う通り、とても熱そうだった。





湯気がゆらゆらと上がっていて





これはきっと、冷まさずに食べれば火傷してしまうだろう。





「ふー…ふー……熱…ッ………」




ちゃんと冷ましたはずなのに……




火傷した。





お母さんに冷たい水を飲まされた。





少しヒリヒリしていたけれど





ヒリヒリは無くなり、違和感だけになった。





少し時間を置くことにした。





手でパタパタと雑炊を仰ぎながら





冷めるのを待った。





待ってる間、明莉と和輝くんのことを考えていた。





今頃2人は、一緒にご飯食べているんだろうか。





そんな事を考えたら、急に吐き気が襲った。





手を口に当て、急いでトイレに向かった。





でも、吐けなかった。





お母さんが





「ちょっと、大丈夫なの?」





って言葉をかけてきてた。





わかってる。大丈夫じゃない事ぐらい。





一番、私がわかってるつもり。





「ちょっと気持ち悪かっただけ。なんともないよ」





何事もなかったようなフリをした。





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そして、何事も無かったように





冷めてしまった、ぬるい雑炊を食べた。





そして私は





今度は、何も考えないように





ベットに横になった。





考えない、考えない。





なんて思っていても、考えるのが人間。





何も考えない時なんて





起きたばかりの





ぼーっと、する時間ぐらいだろう。





これが夢ならいいのに。





何度この事を思ったのだろうか。





これが夢なら、私は随分長い夢を見ているんだな。





とても悲しくて苦しくて、後には戻れなくなるような





そんな夢。





でも、これは夢ではない。





何度も試したから。





私が和輝くんに別れを告げた時みたいに……





何度も頬を本気で叩いた。





今だって、ベットに横になる前





部屋に入ってからドアを閉めてから





思いっきり叩いた。





やっぱり、夢なわけないんだよ。





痛みも感じる夢もあるのかな?





なんて普通に疑問を抱いた事もあった。





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いくら夢だ夢だ。なんて考えていても





紛れもなく、これは現実なのだ。





もう……嫌だな。





私が生きる意味なんてあるんだろうか。





この世界に、必要あるのかな。





私が居なくなれば、もう……みんな幸せなんじゃ……。





不幸だと思っているみんなの為に、生きてやろう!





なんて、1度は考えたはずの私は





マイナス思考に、なっていくだけだった。










“お願いだから……。誰か、助けてよ……”










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しばらくして私は、時計を見た。





3時を回っていた。





きっと、家に誰か来るんだろうな。






なんて思った私は、家にいたくなかった。





チャイムがなる音さえ、聞きたくなかったのだ。





パジャマのままだった私は





外に出れる格好、フードがついている





ラフな格好に着替えた。





「出かけてくる」





そう一言、お母さんに告げた。





「そんなふらふらで、どこに行くのよ!


ちょっと、椿!?だめよ。家で寝てなさい!」





当然私のお母さんは、必死になりながらも





私に怒鳴っていた。





「そんなに怒鳴らなくても…


……うん……私は、大丈夫だから」





それだけを言い残して、家を出た。





土砂降りの中、傘も刺さずに





フードだけをかぶり、公園に向かった。





思い出の場所。





小さい頃の思い出だけじゃない。





最近だって、明莉と 晴翔くんと まりちゃんと 私、





4人で無邪気に遊んだ。





私は、ブランコに座った。





ゆらゆらと揺れる度





キィー、キィー、キィー、と





ブランコの鎖が音を立てていた。





風邪を引いたっていい。





むしろ、引きたかった。





1ヶ月、いや、1週間でいい。





それぐらい休める為の口実が欲しかった。






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「そろそろ帰っても大丈夫かなぁ……」





ブランコを止めて、立ち上がった。





ふらふらの状態で、私はまた歩き出した。





雨だからかな……。





歩道橋の階段で転んだ時に出来た、治りかけの傷が





ピリピリと少し痛いと思った。





まあ、そんな事はたいしたことないのだ。





ふと空を見上げた。





見上げると、フードが背中の方に落ちた。





雨で顔が濡れたって構わなかった。





ねえ、私……





そんなに悪いことしたのかな。





何かしちゃいけないこと、しちゃったのかな。





無意識で だめなこと、やったりしてたのかな。




……





わかんないよ。






上ばかり見上げていたせいで、私は転んだ。





「……痛いよ……」





「心の傷の方が……よっぽど痛いよ……」





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「こんな所に座り込んで、何やってんだよ」





聞いたことのある声……。





上を見上げると、傘を私の方に向けて立っている





制服姿の晴翔くんが、そこにいた。





「どう、して……ここに来たの」





私は、誰にも言ってないはず。





お母さんにだって、ここに来ること言わなかった。





「プリント届けに椿の家行ったら、お母さんが


心配そうに出てきて、椿が傘を刺さずに


ふらふらしたまま、外に出てったって言うから」





「それでも普通、私の居場所なんてわかんないでしょ……


誰にも言わずにここに来たんだから……」





「そうなんだよな。


でも唯一、思いつく場所がここしかなかったから」





「そっか……」





「ちゃんとご飯食べてるか?


食べないと体に悪いぞ?」





「その言葉……私頭の中で言われた。


だからちゃんと食べたよ……。


すごく気持ち悪くて、吐き気がしてたけど」





「そこまで、無理して食べる必要ないだろ……


でも、俺のこと、頭に浮かべてくれたんだな


ありがとう。嬉しいよ」





「なんか、自然と浮かんだんだよね。


心配かけないように、頑張って食べようって思った」





「椿はえらいよ。ほら、風邪引くから家に帰ろう。


家まで送るから」





そう言って、晴翔くんは





背中を向けてきた。





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なんか、和輝くんと似たようなことしてる……。






少し嫌だな。なんて思ったけど





晴翔くんだから、私を裏切った和輝くんじゃない。





そう思い込むことで、気持ちを抑えた。





「うん、かえる」





私は、そう言うと傘を私が持ち、





そのまま晴翔くんの背中に、体を預けた。





ねえ、いつか……





晴翔くんまで、裏切ったりするの?





なんて疑問が浮かんだ。





「晴翔くんは、しない、よね……?」





「んー?なにを?」





「…………何でもない。気にしないで」





少しの間もなく





「しないよ。


俺は、絶対椿を悲しませないし


ずっと椿の傍にいるから」





私のそばに……?





ずっと?





さっきまで苦しかった胸の痛みとは





少し違う。





ドキドキとした感覚が少しあった。





「好きになれるかな……」





「必ず好きにさせるから。


俺の事しか見えないくらい、好きにさせるから」





「……本当に?」





「うん、本当。出来るよ任せて」





何の根拠があるんだろう。





でも、任せてみたくなった。





「期待してる」





私は、そう言った。





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「ついた」





晴翔くんがしゃがみ、私は、降りた。






「ごめん。重かったよね」





私が言うと、「ごめんよりありがとうが聞きたい」





晴翔くんはそう言った。





「そっか、あり……がとう。家寄ってって、


雨で体冷えたでしょ?体温まるまで家にいなよ」





「お言葉に甘えて」





そう言ったのを確認して、私は家のドアを開けた。





ガチャ





「そんなに濡れて……。どこ、行ってた……の?」





お母さんは、とても不安そうな顔して





玄関前で待っていた。





「昔からよく行く公園」





と答えた。





「そう、…………おかえりなさい」





「……た、ただいま」





私がそう言うと、お母さんは安心したようで





いつものように、テキパキと動き始め





私達にタオルを渡してこう言った。





「温かいスープでも作るわ……九条くん?もありがとう


うちの子見つけて来てくれて、とても助かったわ」





「ありがとうございます」





と、答えていた。





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私は、シャワーを浴びた。





傘も刺さずに公園に向かったから、体はびしょびしょで。





風邪引くから、お風呂に入りなさいって





お母さんがうるさかったから。





でも、それだけ心配してるってことだよね。





お母さんがスープを作ってくれたおかげで





体の芯からぽかぽかと、温かくなった。





そういえば……





晴翔くんの制服姿。





久しぶりに見たな……。





「学校、今日は行ったんだね。風邪、ちゃんと治ったの?」





「治ったよ。昨日は病み上がりで


まだ心配だからって休んだだけ」





「そっか……。ならよかった」





何故か、晴翔くんと話すと心が穏やかになる。





「そんな事より自分の心配しろよ……」





「私は大丈夫だよ」





大丈夫って言わないと、晴翔くんが余計に心配するから。





「大丈夫じゃないだろ。椿、あの時と似たような表情してる」





あの時……?





あぁ、私が和輝くんを





泣きながら振った時の事かな。





「そう、かな……」





振った後、走って晴翔くんが教室に来て





泣いてたの隠さなきゃ……って制服の袖口で涙拭いて





頑張って耐えてた。





あの頃はまだ、今みたいに





そこまで仲良くなかったよね。





あれからいろんな事あったなぁ……。





考えると、楽しい事ばかり浮かんでくる。





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それとは正反対に、





明莉と和輝くんがキスして仲良くしてた光景が





頭に焼き付いて、忘れようとしても、一切離れなかった。





ねぇ、2人は今どんな気持ち?





私が学校に来なくなって





人前でいちゃつけるようになって、満足?





毎日楽しい?





私とは正反対の生活。





高校に入ってから





一切休んだことなかった私が休むほど





こっちは自分でわかるほど重症なのに。





「私、忘れたいよ……」





そう呟いた。





「何度でも言うけど、俺が忘れさせてやるから


心配すんなって」





「うん……」





その言葉を聞いていないと、不安で不安で……





晴翔くんだけは、私から離れないで。





お願いだから、裏切らないで。





1番今信頼できるのが、晴翔くんだから。





「椿には、自然な笑顔で笑っていてほしい」





「笑顔……?」





「そう、笑顔。まだ笑えないって、わかってる。


けど、椿の笑った顔が見たいよ俺は……」





強くなろう……。





こんなに弱音を吐いてちゃだめだ。





「初めは、ぎこちないかもしれないけれど


笑えるように頑張るから。


最高の笑顔を


見せれるように頑張るから!」





笑い方がぎこちなくて





苦笑いになったけど、私は少し笑って見せた。





「明日、前と同じ場所で待ってるから、一緒に学校行こう」





一緒に……?





そっか、私……1人じゃないんだ。





「うん、絶対行くね」





「おやすみ、また明日」





「おやすみなさい」





私達は、一緒に行く約束をした。





私は1人なんかじゃないって





気づけた。





私に、希望をくれたから。





その希望をくれた晴翔くんの為に





そして、深く傷がついた自分の心の為に





神様。私は、明日から気合いと勇気で、頑張ります。





だから見守っててください。





そして私は眠りについた。





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ピピッピピッピピッピピッ





久々に聞く、私のうるさいアラーム。





起き上がって早々、私は両頬を叩いた。





弱い自分に、気合いを入れるためだ。





「よし、がんばろう」





私は、支度をして 家を出た。





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「おはよ」





「お、おはよう」





「良かった、ちゃんと来てくれて」





「約束したから。


それに、私は1人じゃないって……。気づけたから」





「俺がいるから、1人じゃないよ」





その言葉を直接聞くだけで、ほっとした。





そうだ、私は1人じゃないんだ。





「ありがとう……。頼りにしてる」





学校に向かった。





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下駄箱に着くと、先輩が待っていた。





「あっ、やっと来た!」





「えっ……どうしたんですか、私に何の用なんですか」





「そんな驚かなくてもいいじゃない!


私でも傷つくのよ?」





「あっ、ごめんなさい……。傷つけるつもりはなくて


今はまだ、誰かを信用するのが難しくて、


唯一信じれてるのが、晴翔くんだけなんです」





「そうよね。私こそごめんなさい。


裏切られたんだものね。


それは誰もが敵に見えてもしょうがないわよ。


でも、私は、あなたの味方よ。安心しなさいな」





味方……。





「ありがとうございます……」





どうやら、本心を言っているようだ。





「本当に心入れ替えたんですね」





晴翔くんがそう言った。





「すごいです。私も見習わなきゃ……」





「九条くんのおかげよ」





弱い自分を切り捨てなくちゃ。





下を向いてちゃだめだ。





「少しづつでいいのよ」





「はい……、頑張ります」





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クラスがある階まで行くと、クラスの前に明莉がいた。





それも、和輝くんと一緒に。





あぁ、見たくないな……。





「あ、学校来れたんだ」





明莉がそう呟いたのが聞こえた。





久々に聞く声……。





なんだか、吐き気がした。





グッとこらえて席に着く。





大丈夫、私は1人じゃないから。





晴翔くんだけじゃなく





先輩だって、私の味方だって言ってくれた。





大丈夫だよ。きっと、大丈夫。





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授業中も休み時間も、明莉の事が頭から離れず





何度も明莉を見た。





ねぇ、本当に2人は付き合っているの?





前の明るい明莉は少しでもいないの?





今の明莉の本心が聞きたいよ。





本当は、どう思ってるの。





友達だ、親友だ、って思っていたあの頃は





嘘だったの?





私を心配して





やってくれた事、してくれた事は……





嘘だったの?





友達……。今の私と明莉の関係は……何?





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あっという間に昼休み。





私のご飯はない。





もう、明莉は私にパンをくれないのかな。





私にあげるはずだったパンは、和輝くんにあげるのかな。





毎日笑いながら話しかけてくれた、あの頃の明莉に会いたいよ。





「これ」





聞き覚えのある声……。





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「いらないから食べて」





「……えっ……」





明莉が私の机の上にパンを置いていった。





「待って、これ……なんで私に……」





謎ばかり浮かんでくる私の頭は





既に歩き出している明莉を引き止め、声に出して聞いていた。





「お母さんが椿ちゃん椿ちゃんって


何度も言ってくるから。いい加減離して、しつこいんだけど」





仲良く話してた頃とは口調が違う……。





やっぱりもう、あの頃の明るい明莉は存在しないのかな。





「……そ、っか……。


ありがとう。ってお母さんに伝えておいて。


……それと、……大好きだった明莉にも」





目を見ながら私は伝え、じっと見つめた。





そこには、驚きながらも、懐かしい表情をする明莉がいた。





“ねえ、本当にあの頃の明莉はいないの?”





その疑問は、明莉をじっと見つめていたから分かった。





まだ、少しだけど……明莉はそこにいるんだと。





仮面をかぶって、そこにいるんだ。





和輝くんの事はいいから、もう一度……





もう一度でいいから。





チャンスを下さい。





明莉と友達になれるチャンスを──。





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「一緒に食べませんか」





気づけば私は、明莉にそう聞いていた。





「何言ってんの、食べるわけないでしょ」





当然、断られた。





「前みたいに、明莉と仲良くしたい」





「ばかじゃないの?ついに、私よりばかになったわけ?」





「ばかでもいいよ。


か、ず…………吉澤くんのことはもういいから」





友達に戻るぐらい、きっと大丈夫だよね?











「もう1度、明莉と仲良しの友達に戻りたい」










驚いていたのが、はっきりわかった。





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「ねえ、私に仕返しでもしたいわけ?


私は、椿を裏切ったんだよ?」






クラスのみんなが





こっちを注目しているのが分かっていた。





晴翔くんは、私の傍にいた。





騒ぎにならないよう、止めようとしてくれていたけど





「大丈夫だから、見守ってて」





そう私が小声で言ったら






何もしないで見つめている。





「そうだよ。裏切られた。


でも、それは好きな人が同じだっただけ。


私達、小さい頃からずっと一緒だったじゃん……


あの頃の事は嘘だったの?偽りの明莉だったの?


そうじゃないでしょ?……私にはわかるよ」





手の震えが、きっと明莉に伝わっているだろう。





「何をわかるっていうの……?


親友裏切っておいて、自分が辛いです。って


私がばかみたいじゃん……私だって戻りたいよ……」





明莉も震えていた。





「戻ろうよ。今度は、同じこと繰り返さないように


ちゃんと、思ったこと合ったら言い合おう?


何の為に私達に、言葉があるの?


話し合うためだよ?戻ろうよ。楽しくいようよ


お互い辛い思いする必要ないよ……」





「椿……。ごめん、私。


本当はもっと前に話そう、話そう、って


思ってたんだよ。


でもあんな形でバレて……。


ああいう風に言うしかなかった」





「私も気づけなくてごめん……。


私が気づけてたら、こんな思い。


2人してする必要なかったのに……


明莉に辛い思いさせなくて済んだのに」





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友達から







「食べよっか」





明莉が言った。





「か、ず……吉澤くんの所行かなくてもいいの?」





疑問を口にした。





和輝くんと言いかけたけど……





それほど明莉は気にしていなかった。





「呼んでも……いい?」





明莉はそう言った。





ここに、和……吉澤くんが来るの……?





明莉から目をそらし





晴翔くんの袖を掴み、晴翔くんを見つめた。





「俺は、いいけど……」





そう言うと、見つめ返してきた。





明莉をもう一度見ると、なんだか不安そう。





そっか。





私に嫌われるか、怒られるか、の





を覚悟の上で、聞いてきているんだ。





「いい、よ……私は、大丈夫」





「本当に?」と、聞いてきたので





「うん、大丈夫」そう答えた。





「呼んでくるね!」





飛び出して呼びに行った。





明莉がいない間に、晴翔くんが





私の顔を覗き込んで





「いろいろと、本当に大丈夫か?」





と、聞いてきた。





「大丈夫、だけど……


少しの間でいいから、ぎゅってして欲しい」





いろんな感情で押しつぶされそうだった。





不安や、恐怖。





自分の震えが止まっていない、事だって知ってる。





強く強く、ぎゅっとしてもらった。





頬を赤く染めながら





私をぎゅっーと、する晴翔くんは





きっとすごい緊張してるのだろう。





私にも、緊張感が伝わってくる。





149 / 225







「もう、大丈夫。すこし元気でた」





「よかった」





小声での会話を終えると





そのタイミングで、明莉と吉澤くんが教室に入ってきた。





「説明するのに戸惑っちゃった」





と、少し焦りながら言う明莉。





吉澤くんが、目の前にいる……。





全く、ドキドキしなかった。





多分、もう吉澤くんに対しての




恋愛感情が無いから……?なのかもしれない。





それぐらいの予測しか、私には出来なかった。





おかげで、この2人の事。





ちゃんと応援する事が出来る。





きっと、これから明莉の惚れ話や、相談に





戸惑うかも知らないが、心の底から





応援する事が出来るのなら……





私は満足だ。





2人に対して、心残りはない。





「明莉の事。幸せに、してあげてね」





吉澤くんを見て、そう言った。





「わかってる」





「泣かせたら……今度こそ許さないから」





脅しみたいになっちゃったかな。





でも、本当の事。





散々、吉澤くんの事で、泣かせられてたから。





そんなことがないように、幸せにしてあげて欲しいと





心の底から思った。





2人のこと、完全に信じる事はまだ出来ないけど





明莉の口から聞けたことは、本心だと分かったから





もう、きっと大丈夫。





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話を終えると、私は紙袋から、メロンパンを取り出した。





「いただきます……」





メロンパンの皮はクッキーみたいにサクサクで





中はしっとりとふわふわしているこのメロンパン。





あぁ、懐かしいな……





「美味しいっ……!!」





久々に食べたメロンパンは、あの頃と変わらず





私の大好きなパンだった。





自然な笑顔で笑うことが出来た。





晴翔くんの期待に答えられてるかな。





なんてことを考えていると





「椿……これ、受け取ってくれる……?」





明莉が言った。





差し出してきたのは、コーヒー牛乳。





「もらっても、いいの?」





確認を取る。





「椿にもらって欲しい、椿の為に買ってきた」





「……ありがとう。もらうよ。


これがないと、私の大好きなセットじゃないもんね」





そう私が言うと





「うん!!」





と、大きな声で言って、明莉が笑った。





「美味しいよ、明莉がいれば……きっと、何でも美味しいよ」





私も、笑って言った。





“ これは、夢じゃ……ないよね? ”





そんな疑問は……





うん、きっと現実。





と心の中で、すぐに答えが出た。





ずっと、このまま笑っていたいな。





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でも、明莉と私の関係は





単なる友達。





何でも話せる、親友まで戻れるかな。





いや、前までが友達なのかな。





晴翔くんの事も考えないといけない。





友達から……恋人に、なれるその日まで。





どれぐらいかかるんだろうか。





もっと、晴翔くんのこと知りたい。





いろんな表情知りたい。





もっと……私に、教えて?





どんな些細な事でも知りたい!





晴翔くんしか知らないような事まで、全部知りたい。





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「帰ろ」





晴翔くんが、カバンを持って私の元に来た。





あれ?





いつの間にか、帰りの時間になっていた。





よっぽど楽しかったからだろうか。





裏切られた事が嘘みたいに、仲良くお話したりして





4人で仲良く。楽しかったなぁ。





勇気を出して、学校に来てよかった。





それも、晴翔くんのおかげだ。





夕日がオレンジ色に染まる空の下、歩道橋の上。





晴翔くんが歩いている後ろを振り返り、





「私に希望をくれて、ありがとうっ」





穏やかな笑顔で そう、言った。





風が、前から吹いていて、私の長い髪がなびいていた。





晴翔くんの表情を見ると





夕焼けのせいか、頬が赤くなっていた。





本当に赤く染めているかどうかは、私にはわからない。





「希望を与えたのは俺かもしれないけど


その後、気合いと 勇気を出して 頑張ったのは


紛れもなく、椿だよ。よく頑張ったな」





頭を撫でてくれた。





褒められたのが、とても嬉しかった。





そのままぎゅっと、抱きしめられた。





「んえっ……?」





変な声まで出て、驚いてしまった。





「ごめん、笑ってる椿を見たら抱きしめたくなった」





離れようとするので、私は、





「もう少しだけ、このままでいようよ」





晴翔くんの顔を見ると、近くだから





赤くなっているのが、はっきりとわかった。





夕焼けの色だけじゃなくて、本当に頬を赤く染めていたのだ。





「ねぇ、もし私たちが恋人になったら


どんな風になるのかな?」





疑問を言った。





「なってからのお楽しみ。想像なら、前にしたろ?」





うん、した。





『想像してみて』





晴翔くんにそう言われて





恋人になった時のことを想像した。





まだ、九条くんって呼んでた頃とは





今のイメージだいぶ変わった。





思ってた以上に優しくて、頼りがいのある人。





待っててね、好きになるから。





大好きって言えるように、頑張るから。





それまで、いろんな思いで作ろう。





友達としての、晴翔くんと





いっぱい思い出を作ろう。





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別れ際





「明日休みだよね。


晴翔くん予定、空いてる?」





そう聞いてみた。





「あー、その日はまりが 家に来るんだ。


椿も俺の家、来るか?」





「行ってもいいの?」





「当たり前だろ」





「じゃあ、遊びに行くね」





「まりに伝えとく、きっと喜ぶよ」





「うん!!


じゃあ、また明日」





「また明日」





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ピンポ-ン





「はーい!」





インターホンから聞こえてくるのは





元気で返事をする、まりちゃんの声。





「椿か?今、玄関開ける」





それと、晴翔くんの声。






「おはよ」





玄関を開けて、そう言ってきた。





「おはよ!!」





とまりちゃんに負けないぐらい、大きな声で返事をした。





「つばきお姉ちゃん、本当に遊びに来てくれた!」





「まりちゃん、私が来るまで大人しく静かに待てた?」





「し、静かに待ってたよ……!」





あれ?この反応は……





「さっきまで家の中で


はしゃぎ回ってたんだぜ。


『まだかなまだかなー』って言いながら」





私の耳元に晴翔くんが、小声で言ってきた。





「ふふっ、ちょっと可愛いかも」





小声で呟いた。





私、子供苦手なはずだったのになぁ……。





いつの間にか、子供と話すのも楽しい。





そう思えるようになった自分に、少し驚いた。





「入らないの?


お家の中入って入ってー!!」





「あっ、はいるよ!入る!」





やっぱり綺麗なお家。





「おじゃまします」





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中に入ると、玄関の近くに





晴翔くんのお姉ちゃんがいた。





「遊びに来てくれたんですね。


わざわざまりの面倒見て下さって、ありがとうございます」





そう言いながら近づいてくる晴翔くんのお姉ちゃん。





「耳貸してください」





そう言われ、顔を近づけると





「私、子供相手は少し苦手でして


すぐにまりが泣いてしまうので……


正直、とても助かります……。





私もできるだけまりの面倒は


見ますが、今日はよろしくお願いします」





そう言われた。





なんだ、晴翔くんのお姉ちゃんも、苦手な事あるんだ。





あれだけ、晴翔くんの憧れになっているお姉ちゃんも





そりゃあ、人間だから、得意不得意あってもおかしくはない。





けれど、なんだか……完璧に全てをこなすイメージで





すごい人だと聞かされていたから





少し親近感がわいた。





「実は、私も子供の世話とかするの苦手なので


共感できて、少し親近感が湧いてきました。


今度、お姉さんと2人で話してみたいです」





さすがに、本人にお姉ちゃん





と言うのは恥ずかしかった。





「じゃあ、明日にでも……


ぜひ、どこかでお茶しましょう


連絡先とか、聞いてもよろしいですか?」





「あっ、はい!!


連絡先!交換しましょう!」





私達は、携帯番号と、メールアドレスを交換した。





お姉さんと連絡先交換できただけで、とても気分が上がった。





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「ねぇー、お姉ちゃんたち!


お話終わったぁ〜??まだぁ〜?」





頬をふくらませて、まりちゃんが聞いてきた。





「あ、もう終わったよ!


何して遊ぼっか?」





「う〜ん、お料理ごっこしたい!」





「お料理ごっこ?」





「うん!……だめ??」





泣きそうな顔で聞いてきた。





だめ?って、その顔……。反則!!





可愛すぎるから。





子供ってこんなに可愛いんだ。って改めて思った。





「いいよ!お料理ごっこしよっか!」





「やったぁ〜!!つばきお姉ちゃんすきー!」





「か、かわいい……」





そういえば晴翔くんの姿が見えない。





「ねえねえ、まりちゃん。晴翔くんは?


どこいったのか知らない??」





「お兄ちゃんなら、部屋に行ったよー


呼んできてあげよっか??」






「あっ、大丈夫!私が行くから!


まりちゃん、もうちょっと待っててね。


後で遊んであげるから」





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「ちょっと、私とまりちゃん


ほっといてなにしてるの?」





部屋を開けて早々、大声で言ってやった。





そしたら、まりちゃんも着いてきてたみたいで





「そーだそーだー!」





と声を出していた。





「ごめん、ちょっと携帯取りに来ただけなんだ」





「あ、そうなの?」





そういえば……





「俺とも交換してくれよ。連絡先」






「交換、してなかったね」





「俺とは……したくない……?」





「そんなことない。


しよ?ていうか、したい」





「本当にいいのか?」





「いいよ!交換しよう」





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連絡先が2個増えたところで





さすがに、ぷくーっと膨らんだ頬が





爆発するんじゃないかぐらい





怒っていたまりちゃんに話しかけた。





「よし、まりちゃん!遊ぼう!!」





「……やっと遊べるの?」





「もう、怒ってない?遊んでくれる?」





「怒ってない!まりが遊んであげる!」






「やったー!うれしい!」






おもちゃのまな板の上で、おもちゃの包丁を使って





おもちゃの人参や、キャベツ、ピーマン……





いろんなものがマジックでくっついてて





こういうおもちゃで遊ぶのは何年ぶりだろうか。





小さい頃を思い出す。





雨の日とか明莉とよくあそんでたなぁ。





着せ替えごっこに、お料理ごっこ。





おままごとに、おえかき対決とか。





やっぱり、私の記憶には明莉がいないと……ね。





あの時、ちゃんと話してよかった。





また前ほどの信頼関係を、築けるかはわからないけれど。






話せるだけで、私は幸せだ。





「つばきお姉ちゃん?なにぼーっとしてるの?


それじゃ、自分の手切っちゃうよ??」




まりちゃんが、心配そうに私を見ていた。





包丁が私の手の上にあった。





これがおもちゃで良かった。





だめだめ。最近よくぼーっとするから。





「遊ぶの代わろうか?」





「そろそろタッチ交代」





「俺のベット使ってもいいよ、疲れたなら寝転んでなよ」





「そうする……」





お言葉に甘えて横になった。





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ベットに横になると、晴翔くんの匂いがすごくした。





ぎゅってしてもらった時





すごくいい匂いするなって思ってたんだよね。





なんだか、落ち着く……。





「……ぃ…お…ぉ………ぃ…おー……い」





目を開けると目の前に晴翔くんの顔があった。





「んえ?……あれ、私……いつの間に寝てた……?」





近い……。





私、いつの間にか横向いて寝てたんだ。





「お昼ご飯、出来たって


家で食べてけよ」





「えっ、いいの?」





「いいよ、お母さんもう作ってあるって」





お母さん、今日家にいたんだ。





お姉さんにしか会ってない……。





「どうぞどうぞ、好きなとこ座ってー」





お母さん、初めて見た……。





「はじめまして……!


わざわざありがとうございます!」





「たいしたもの作れないからあれだけど


いっぱい食べてってね」





「ありがとうございます!!」










「ごちそうさまでした!」





つい、おかずが美味しくて





よくご飯が進んで、おかわりしちゃった。





「ありがとうございました、片付け!手伝います」







「いいのかしら?助かるわ〜


いつもお姉ちゃんがやってくれるんだけど


何でもかんでもしてくれるから休ませたくて


手伝ってくれるかしら?」





「そうなんですね……


はい!手伝います!」










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「普段、家の手伝いとかするの?」





「たまにするぐらいです……!


最近は、私の体調が良くなかったので


してなかったですが……」





洗い物をしながら、少し離れたリビングで





まりちゃんと遊んでいる晴翔くんを見ながら





お母さんと話をした。





「あら、そうなの?


じゃあ、休んでた方が……」





「あ、今は大丈夫なんです!


お気になさらず!!自分の意思でしてる事なので!」





洗い物に目を戻した。





「そう?ならいいけど……


椿ちゃん?だったかしら?」





「はい!椿です!」





「彼氏とかいるの?」





痛いところついてくる……。





「今はいません、でも……少し気になる人はいます」





ちらっと、また晴翔くんの方を見ると





パチっと目が合った。





「あら、そうなの?


もしかして……うちの子だったりする?」





ドキドキとした。





「……は、はい……!


すごく私の事心配してくれる優しい人で


晴翔くんの事もっと知りたいな……って思ってます」





緊張しながらも、そう言った。





「いつでもうちに来てちょうだい


椿ちゃんが、うちの子と付き合ってくれたら


私はそれで嬉しいわ〜。こんなにいい子うちにほしい」





「あ、ありがとうございます……」





私は、少し苦笑いをした。





恥ずかしい……。





でも、お母さんに気に入ってもらえたようで





嬉しかった。





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あっという間に夜になった。





さすがに、夜ご飯を頂くわけにはいかないので





帰ることにした。










「今日は、ありがとうございました!


まりちゃんも、またね」





「うん!ばいば〜い!!


つばきお姉ちゃん、また遊びに来てね??」





「わかった、遊べるの楽しみにしてるね」





「まりも楽しみにしてるー!」





「晴翔くんも今日は誘ってくれてありがとう」





「いいよ、また学校でな」





「うん!またね!」





今日は、本当に楽しかったなあ……。





家に着いてから思った。





いつの間にか子供と遊ぶの楽しいって





思えるようになってる自分に驚いたし。





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なんて、家で考え事をしていると










“ 明日、10時に公園前に集合でよろしいですか? ”










交換したばかりのお姉さんから





メールが届いた。





晴翔くんは、お姉さんに憧れてるんだよね。





私なんかより、お姉さんみたいな人の方が……





いいんじゃないのかな。










“ その時間帯で大丈夫です!わかりました ”










お姉さんみたいに、尊敬され





目標とされるような人に私もなりたいな……。





出来ることと言えば、勉強くらいしか出来ない。





これでもテストでの順位は、1桁をキープできる程。





それぐらいしか私に取り柄がない。





部活もやってない。





勉強以外の何かに、熱中することもないし。料理も苦手。





お姉さんは何でもできるって晴翔くんが言ってた。





私も、何かを極めたら





目標とされるような、すごい人になれるかな。





ちょっと夢を膨らませながら私は、想像をした。





明日の為に今日は、早く寝よう。






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やばい。寝坊した……。





「すみません!!遅れました!!」





10分の遅刻。





「遅いですよ」





9時に起きる予定が





起きたのは9時50分。





15分で支度をして、5分で突っ走ってきた。





「……怒ってますか?」





「いえ、そうじゃないんです。


……ただ…………


いや、私の話はいいんですよ。


早く行きましょう」





何かを言いかけていたように見えたけど。





話をそらされてしまった。





お姉さんについていくと





そこは、明莉の家の隣にある喫茶店。





「ここでもよろしいですか……?


ここぐらいしか、お店を知らないので」





「あ、大丈夫です!入りましょうか!」





「そうですね」






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店員に案内され、テーブル席についた。





「何、頼みますか?」





お姉さんが聞いてくる。





「温かい飲み物の方がいいですね……


やっぱりコーヒーが飲みたいです」





「飲めるんですね……。私が注文しますね」





「ありがとうございます」





お姉さん、コーヒー飲めないのかな。






そう思いながら、紅茶とコーヒーを





頼む、お姉さんをじっと見つめた。










なんて考えながら待っていると飲み物が届いた。






「お姉さんって……コーヒー、飲めないんですか?」





恐る恐る聞いた。





「……はい、飲めないです。


苦いのがだめというか……なんというか…………」






「お姉さんならきっと、飲めると思います。


試しに、私のコーヒー飲んでみます?」





晴翔くんだって、初めは飲めなかったけれど





私のコーヒーは飲めた。





ミルク多めでシロップも入ってる。





お姉さんは、ゆっくりと





コーヒーの入った カップを、口に運んだ。





「…………」





あれ、苦かったかな……?






「美味しいです!!」





びっくりした。





いきなり大声で叫ぶお姉さんに驚きながらも





「そう言ってもらえて嬉しいです!


飲めるって信じてました!」





「私でもコーヒーを美味しい、と思えるなんて……


信じられない。あんなに苦くて飲めなかったのに



なんでですか? なにをしたんですか??」





興味津々……。





釣り竿に付けられた餌にひっかかり、





思いっきり引っ張り、逃げようと焦る魚みたいな勢い。





「簡単なことですよ?


甘くしようと、シロップを多く入れるのではなく


ミルクを多く入れればいいだけのことです!


ミルクは苦味を消してくれますから!」





「そ、そうだったんですね……!


知りませんでした。次から自分でもやってみます……」





そんな方法があったのか!なんて顔をしてた。





こういう所は、兄弟そっくりなんだなぁ。





晴翔くんに教えてあげたくなった。





『晴翔くんの憧れのお姉さんは、晴翔くんみたいに


コーヒーが苦手なんだって』





でも……そんな風に教えたら





憧れなんかじゃなくなったりしたら





私嫌だな。やめとこう。





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「私、ずっと前からお姉さんと


話してみたかったんです」





私はそう言った。





「えっ?どうしてですか?」





「晴翔くんから、すごい人なんだ。


って聞かされていたので、どんな人なんだろうって」





「そうだったんですね……晴翔がそんな風に……」





「初めて会ったとき、敬語が綺麗で


若いお母さんなのかと思ってました」





「……それは、私が老けてるって事ですか?」





「あっ、違います!そうではなくて……


綺麗だな、って思ったんです


私みたいに慣れない人が、敬語を


使っている感じではなくて


普段から使い慣れてるような、そんな感じがしたんです」





「そう、ですか……なんというか、ありがとうございます。


確かに。普段から、敬語を使っているような気がします」





「やっぱりそうですか??


憧れます!そんな綺麗に敬語が使える女性になりたいです」





「きっと、すぐに慣れますよ」





「そういうものですか??」





「そういうものです!」





「お姉さんみたいになれるよう、頑張ってみます……」





「はい!……そういえば……」





「な、なんですか?」





不思議そうな顔で私を見つめてくるお姉さん。






「晴翔とは、どういう関係なんですか?


恋人同士か親友かなにかですか?」





「えっ!?そ、そんなんじゃないですよ!


ただのクラスメイトです!」





……ズキンッ…………






あれ、どうしてだろう。





「クラスメイトですか。


随分(ずいぶん) 仲がよろしいのですね」





ただの、クラスメイト……





そう言っただけなのに。





ズキズキと心が痛んだ気がした。



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「晴翔は、学校ではどういう感じなのですか?」





「クラスを引っ張ったり、盛り上げたりするような


ムードメーカーみたいな感じです。


よく一緒にいますが、気配り出来て優しくて、いい人ですよ」





「そうなんですね。学校での晴翔は知らないので……


あの子は、昔から優しいんです。


正義感とかも強くて。


昔は、テレビに出てくる


『俺、かっこいい ヒーローになりたい!』


なんて言ってましたよ」





「そ、そうなんですか?」





可愛い……





「可愛らしくて、面白いでしょう?」





「とても可愛いです!


小さい頃の晴翔くん。見てみたいなぁ……」





そう言うと携帯を取り出し





「これ、アルバムを写メった物です」





私に見せてきた。





「えっ、可愛い!!」





戦隊ヒーローのおもちゃで遊んでる……。





晴翔くんにもこういう頃があったんだなぁ。





「今とは少し違う、可愛さがありますよね」





「これ、欲しいです!」





「メールで送りますよ」





「本当ですか!?ありがとうございます!!」





「椿さんみたいな、可愛らしい素直な子……


私もなりたかったです」





「えっ?どうしてですか?」





「綺麗、だとか……別にいらないんです


綺麗さなんて、求めてない。


誰も近づこうとしてくれないんです。


それもきっと、綺麗だから相手にされないだとか


そういう噂をよく耳にします」





「私は、綺麗って言われたら嬉しいですけどね


そっかぁ……、そういう悩みもあるんですね……」





「まあ、今は慣れたので平気ですけど


少し寂しいですね」





「自分のなりたいものになれる人なんていませんよ


お姉さん、1度 誰かに


話しかけてみたらどうですか?


相手が話しかけてくれないなら


自分から話しかければ きっと話してくれますよ」





「無視されたらその後が困りますし……」





「お姉さんならきっと、大丈夫です!


お姉さんに憧れてる私が言うんですから


間違いないです!」





「…………わかりました。頑張ってみます」





「そろそろ、帰りますか?」





「ですね、帰りましょう」





「お姉さんと話せて良かったです」





「また遊びに来てくださいね」





「はい!ぜひ!」





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晴翔くんの小さい頃の写真も貰っちゃったし





お姉さんとお茶出来て良かったなぁ。





お姉さんにも、苦手な物があるってわかったし。





今日は思ってたより楽しかった。





今度はみんなでお茶したいなぁ。





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「おはよ」





懐かしい、ね……。この感じ。





「おはよう」





晴翔くんがいつも





先に待ってて、私が合流する。





そして一緒に学校に行く。





「ねえ、晴翔くん」





私が声をかけた。





「んー?どうした」





「晴翔くんは、私のどこを好きになったの?」





唐突に思ったから、唐突に言ったのだ。





晴翔くんは、顔を真っ赤に染めた。





「いっ、いきなりなんだよっ……」





「なんで好きになったのかなって……


どこ好きになったとか


聞いたことなかった気がするから」





「そうだっけ」





「そうだよ。ていうかいつから好きなの?」





「去年から」





恥ずかしそうに赤面状態で言う





晴翔くんは、少し可愛かった。





「去年!?そんな前だったの??」





去年という言葉に驚きが隠せず言った。





「そんな大きい声だすなよ……。悪いかよ」





「ずっと隠して、耐えてたの?」





「だって、ずっと椿の事見てきたから


吉澤の事好きなんだなって、椿の目線の先ですぐに分かって。


俺じゃきっとだめなんだって。





……そう、思ったら伝えれなくて、応援しよう。


クラスメイトとして接しようってそう考えてた」





「そう、だったんだ……?」





そっか。そんな前から私のこと……





「気付かなくてごめん、ね……?」





「いいよ、そういう素振りも見せてないのに


わかるわけないと思うし。


それに今は、仲のいい友達でいれてる事に感謝だから」





「……辛く、ないの?」





「そりゃあ、辛いよ。


本当は今すぐにでも俺の物にしたい。


でも、そういうわけにはいかないだろ?


俺は、椿の気持ちを大事にしたいから。





椿が俺の事を、心の底から


“ 好 き 。 大 好 き 。 ”


って言える時まで、待ってるよ」





そう言って、少し寂しそうに





晴翔くんが笑った。





「……ありがとう」





辛くないわけがないんだ。





いつまでも待たせてちゃ、晴翔くんが可哀想だよね。





片思いの辛さは、私も経験してる。





どれぐらい辛いのかわかるのに……





わかってるのに……





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私には、恋愛というもの自体が





わからなくなっていた。





好きっていう感情が





どういう物なのかさえ、いまいち





理解出来なくなっていた。





これも、裏切られた事が原因だろう。





許した、はずなのに。





一度凍った心を





簡単に解凍する事はできない





そういう、事なのかな。





時間が解決してくれるのだろうか。





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「おはよ〜」





クラスに入ると





明莉がニコニコしながら





話しかけてきた。





早々、惚れ話でもされるんだろうか。





「おはよ、どうしたの?


そんなに嬉しそうに


ニヤニヤしちゃって」





「実はね……!


ダブルデートしたいなって思って!」





「ダブルデート?


明莉と吉澤くんと?


あとの2人は?誰と誰?」





私と晴翔くんは





まだ、付き合ってないし。





「1人は、椿に決まってるじゃん。


九条くんも誘ってさ?


一緒に行こうよ!」





「えっ?決まってる?


……私はもう、行くこと決定なの?」





「うん、決定事項だよ?」





当たり前でしょ?みたいな顔して


平然と言ってくる明莉。





「はぁ……。


まあ、明莉が言うなら


しょうがないか……


いいよ、行こう。いつ行くの?」





「明日って、祝日でしょ?


早く行きたいから明日行こうよ」





あ、明日!?





いくら何でも早すぎ……





って思ったけど。





明莉は、思い立ったら





すぐにでも行動するタイプだった。





かなりの、気分屋で






気になったらすぐして、すぐやめる。





「どこに行きたいの?


私は、ダブルデートなんてしなくても


ただみんなで喫茶店行って帰る。


それだけでも、充分いいんだけど」





「えー!だめだよ!


行こう?椿と行きたいの!」





「だからどこに?」





「……水族館!!」





「水族館?あー……そういえば


もう、何年も行ってないなぁ……」





イルカとか、ペンギンとか見たいかも。





「でしょっ?ねっ!行こ?」





「行く。行こう!」





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お昼休み。





4人でパンを食べながら





タブルデートの件を





晴翔くんに話した。





「…ー……〜…〜って


ことなんだけど。


一緒に行かない?」





「いいけど、どこに行くの?」





さらっとOKしてくれた。





「水族館!行きたいって椿が!」





「えっ?ちょ、……っと


私そんなこと…ひとこ…と…、…」





明莉が私の口元に手を当てて





喋れないようになったかと思うと





小声で、晴翔くんと





仲良くなって欲しいから。





晴翔くんには





椿からって事にしとこう?





そう言われた。





明莉いわく、私のお願いと分かれば




間違いなくどこでもOKしてくれる





そういう作戦らしい。





「そ、そう、なんだよ、ね〜……!


水族館行きたいなって、明莉に言ったら


ダブルデートしたいって言われて



どう?だめかな?」





ぎこちなかったかな……?





バレバレだったかな……?





でも、イルカとペンギン





見に行きたいから





“水族館行きたい”





これは、一応、嘘は付いていないよね。






「ん〜……水族館かぁ」





そう言ってどこか遠くを見て考え事をしているように見えた。





「だめ、……かな……?」





もう一度、そう聞いてみると。





「あ、いいよ?行こう!」





よかった。





断られるのかと思った。





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水族館








「じゃーあ、明日!8時に歩道橋の所集合ね?」





明莉がそう言った。






営業時間を調べたら





私たちが行きたい水族館は、9時から営業スタート。





少し離れたところの水族館に行くので、1時間前集合になったのだ。






ペンギンさんいるかな……?






でも、ペンギンって普通は





寒いところに住んでるんだもんね。





って事は、水族館の中も寒いはず……。





上着、着ていかなきゃ。






楽しみだなぁ!





ダブルデートっていうよりは、私にとってはただ遊びに行くって感じで。






だって、晴翔くんと……付き合ってないし。





付き合ってるのは、明莉と吉澤くんだし。





でもね。






晴翔くんとちゃんと向き合いたい。






期待に応えてあげたい。






明日の水族館、楽しみにしていいよね?





待っててね。







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「あれ、少し早かったかな……?」





集合時間より早く来ちゃったみたい。





少し、待っていると……吉澤くんが来た。





「おはよ」





そう、声を掛けてくる吉澤くん。





「おはよう、相変わらず早いね」





私がそう言うと





「ああ、……習慣ついてるからかな…」





習慣……?って、もしかして私の時からってこと?






初めの頃は私の方が早く来てたのに




いつの間にか吉澤くんの方が





早く来るようになってたもんね。





「……そっか」





ゆっくりと、素っ気ない返事をしながら




気遣われてたんだなぁ……と、私は実感した。





そうこうしてるうちに、「おはよ!」と




明莉が来ると、晴翔君も来た。





私達は、水族館に向かった。





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祝日だからかな?




人で溢れてて、少しでも離れたら




迷子になりそう……。




チケット1枚買うのも長い列を並ぶハメになるとは……。




「はぁ〜……、やっと買えた!!」





そう明莉が言うと、





「こんなに並ぶとは思わなかったなー」





と、吉澤くんが言っていた。





やっとの思いで、水族館の中に入ることが出来た。





明莉と吉澤くんは、腕なんか組んじゃって





すごく仲良く楽しみにしてるみたい。





なんか、人混みの中って




……人に酔うっていうか




あんまり楽しめないかもしれない。





「どうした?」





私が考え事をしていたせいで




晴翔くんが心配して声を掛けてきた。





「ううん、なんでもないよ」





これ以上心配掛けないように、そう言った。





「手、貸して」





晴翔くんは、私に手を差し出した。





「な、なに?」





なんだろう……?





「手繋ごう?

逸(はぐ)れたら、探すの大変そうだから」





そう言って、晴翔は私の手をぎゅっと握った。





「んえっ?あ、そうだよね…!」





ちょ、……ちょっとだけ。





びっくりしちゃった。




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広い広い水の中に、いろんな魚達が自由に泳いでいた。





「わあ〜!トンネル!


椿、椿!トンネルだよ!!」





明莉は、はしゃぎまくっていた。





「トンネル?


あ、本当だー!上まで魚が泳いでる!」





「あっちに変わったお魚いるって!


あっちも見に行ってみようよ!!」





「どこ??待ってー、明莉〜!」





気づいたら、私も明莉につられてはしゃいでいた。





どんどんテンションが高くなっていた。




「なぁ、そろそろお腹空かない?」





吉澤くんが言った。





「えっ?もうそんな時間!?」





明莉がそう言うのを聞きながら





私は、スマホの中の時計で確認する。





「本当だ〜、なんか食べよっか」





と、私が言うと





「え〜!!まだ見たい……」





明莉は、食べる気はまだないようで……





「食べ終わったらまた回れるだろ」





と、晴翔くんが言った。





「そうだよ、食べてからまた回ろう?」





私も明莉に向けて言った。





「うーん……、わかった。


じゃあ、すぐ食べてすぐに見に行こう!」





少し考えてから、やっと うなづいてくれた。





「あ、ここ ホットドックある!」





「美味しそう〜!


ケチャップとマスタード掛け放題だって」





「よし!椿、これにしよう!?」





「わかったわかった。


そんな急かさなくてもホットドックは逃げないから」





と少し笑って見せた。





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「いただきます!」





その一言を言うと、大きく口を開けて





パクッとホットドックを口に入れた。





「んん〜!美味しい!」





やっぱり、美味しいもの食べると元気出るし





すごく口元が緩むっていうか……。





そんなことを気にしていると






「椿?口元にケチャップついてるよ」





晴翔くんがそう言った。





「えっ!?ど、どこ?」





口元と言われ、右側を触ると





「違う、反対。左側……」





そう言いながら顔を近づけてきた。





「えっ……?」





おしぼりを使って





私の口元についた、ケチャップを拭き取った。





「あっ、ありがとう……!」





急に恥ずかしくなった。





なんか……。晴翔くんの顔、見れない……。






「ん、いいよ」





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「食べ終わったし!次、何見に行こっか?」





明莉が言った。





「……イルカショー、見に行きたい……な」





「イルカ可愛いよな。いいよ、見に行こ」





晴翔くんがそう言った。





「どこで見る?」





「一番前!!」





「えぇ〜、一番前って服濡れちゃうことない?」





明莉は服の心配をしていた。





「ポンチョ型の濡れないようにする


カッパみたいなの、売ってるみたいだよ」




「じゃあ、それ買おう!!」





私達は、一番前の真ん中に座った。





もうすくショーの始まりですよ〜という





アナウンスが入ると、ショーが始まった。





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イルカの名前や性別などを説明していく人。





とても可愛い。





イルカが高く飛んで、バシャンッ──。





と水が音を立てていた。





「えー!すごい!


イルカが飛んだ!!」





さっきまで飛んでいた高さも充分高い!





なんて思ってたのに、今度は上から吊るされたボールに






ジャンプして口でタッチする!というのだ。





「あんなに高く飛べるのかな??」





私がそう言うと、





「飛べたらすごいよな」






晴翔くんがそう言った。





イルカは、深く潜って勢いをつけながら泳いで、





軽やかに飛ぶと、ツンっとボールに触れた。





「すごい!!イルカってこんな高くに飛ぶんだ!」





なんて言ってる間に、高く飛んだせいか





さっきまでとは比べ物にならないほどの水しぶきが





私たちに掛かった。





幸い、さっき買ったポンチョ型のカッパがあったので





服は濡れなかったが、髪はびしょびしょ。





私の綺麗で長いストレートの髪は、絞れるほどに濡れた。





「あーあ……髪濡れちゃった」





私がそう呟くと





「だから言ったのに!ずぶ濡れじゃん!」




と、明莉が言った。





「散々だけど、ある意味いい思い出になったことね?」





晴翔くんは、まあ………これぐらい大丈夫でしょ!ぐらいの勢いだった。





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イルカショーも終わり、見る前にポンチョを買ったところに戻って





私達は、タオルを買った。





髪が濡れてちゃ、風邪ひいちゃうもんね。





私は、タオルで髪をはさみ、水気を取った。





「あ……」





小声で呟いた。





「ん?どうした?」





隣で私の小声を聞いていた





晴翔くんが聞き返してきた。





「ペンギン、先に見に行けばよかったなあって、思って。


髪濡れたままペンギン見に行ったら、絶対寒いし風邪ひきそうだし」





私がそう言うと





「えー、ペンギン見に行かないの?」





明莉はしょんぼりした顔で、少し残念そうに言った。





明莉も楽しみにしてたようだった。





「少しくらい大丈夫だろ」





吉澤くんは行く気らしい。





「うーん。どう、しよっか……?」





タオルで髪の水気を取りながらなので、少し上目使いになりながら





晴翔くんの目を見てそう言った。





「見ない方が絶対、損する気がする」





晴翔くんは私から目を逸らして、そう言った。





なんで今逸らしたんだろう。





なんかちょっと寂しいな……。





なんて考えていると





「じゃあ、今すぐ行こう!もう行こう!!」





明莉は勢いで走って行こうとするので






「待って、そんな先に行くと追いつけない、迷子になるよ」





そう言うと





「もう、迷子にならないよ!


小さい頃とは違うんだから!」





小さい頃……。





懐かしいなあ。





そう思いながら





私達は、ペンギンのところに向かった。





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一番初めに着いた明莉は





「わぁ、ペンギンいっぱい いるんだね!」





と言った。





壁の向こうにペンギンが居て、壁に触れるとすごく冷たかった。






だけど……





「壁で仕切られてるから、思ってたより空間は寒くないね」





そう思った。





よいしょよいしょと、重たそうに





右、左(みぎ、ひだり)と次々に両足を前に出して歩くペンギン。





この歩き方が可愛いんだよね。





みんなでペンギンの歩き方を真似したりして、とても楽しかった。





「大丈夫?寒くない?」





そう言いながら私を気遣ってくれる晴翔くん。





やっぱり、優しいんだなあ……。





「なんでそんなに優しいの?」





小声で呟いてしまった。





「椿の事が心配だから。


それに、好きな人が風邪なんか引いたら


いても経ってもいられなくなるだろ?」





「そっか……。確かに、そう……かも。


ほんと、優しいね」





「褒めても何も出ないぞ?」





「あはは……。そういうつもりで言ったんじゃないけどね……」





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ペンギンも見終わり、売店?みたいなところに来た。





「ぬいぐるみがいっぱい……。いいなぁ……かわいい」





私がイルカのぬいぐるみを眺めていると





「ほしいの?」





そう言われて





「ほしいけど、


今は、持ち合わせないから……いいかなって……


欲しくなっちゃうから、もう帰ろ!」





「んー、わかった。先出口の方出てて!


トイレ行ってから後で追うよ」





「わかった!外で待ってるね!」





そう言って、私達は外に出た。





「あ〜あ!もうダブルデート終わっちゃった!」





あ、そっか。





今日ってダブルデートって事で、水族館行ったんだった。





なんか、デートってことすっかり忘れてた。



「いっぱい魚泳いでたなあ、たまには水族館行くのもいいよなあ」





吉澤くんと明莉は結構楽しんでたんじゃないかな。





でも、晴翔くんはどうかはわからないけど





私はイルカとペンギン見れたことに満足かな。





でも、あんまり距離感変わらなかったし。





「遅れたー、帰ろ」





「だね〜!もう帰ろー!


楽しかったねー!」





と、明莉は言っていた。





晴翔くんはどうだったのかな?





「晴翔くんは、今日楽しかった?」





気になったので、聞いてみたら





「すっげぇ、楽しかった!!


椿と一緒に居れるだけで俺は楽しかったよ」





晴翔は満面の笑みでそう言った。





私は、晴翔くんの笑顔に少し胸が苦しくなった。





苦しさを抑えて、「それならよかった!」と、返事をした。





他の人にもこんな笑顔見せるのかな?





なんて……。私、どうしちゃったのかな。





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「じゃあ、そろそろ帰ろっか??


家に帰って、早くお風呂入りたいし!」





「そうだなぁ、椿が風邪ひいたら困るしなっ」





「えっ?あ、うん!」





晴翔くんが、いきなり私の方を向いて言うから驚いちゃった。





私達は、帰ることにした。





行きと同じ道を辿り





1時間掛けて、出発地点の歩道橋まで帰ってきた。





「また明日ね!」





そう言って解散した……





のですが。





明莉は吉澤くんが家に送るらしく、ふたりで帰っていった。





その流れで私達も途中まで一緒に帰ることになった。





「椿、いいものあげる」





そう言われて、袋でラッピングされたものを貰った。





「えっ?なにこれ?


開けていいの……?」





「うん、いいよ。開けてみて」





リボンを引っ張って中の物を取り出すと





イルカのぬいぐるみが出てきた。





「えっ!?な、なんで!?」





驚いて晴翔くんの顔を見ると





「びっくりした?」





微笑んでいた。





「そ、そりゃびっくりするよ!!


なんでなんで??いつ買ったの??


あの後すぐに出口出たはずじゃ……」





「先に出ててって言っただろ?


あれ、本当はトイレに行くんじゃなくて


椿がぬいぐるみほしそうにしてたから、買ったら喜ぶかなって思って


一人残って、ぬいぐるみ買ってた」





「うれしい……!!!


もらっちゃっていいの??」





「いいよ?椿の為に買ったんだもん


俺は、その笑顔が見れて幸せ」





笑顔?





そっか、私……





笑えてるんだ。





気づいてないだけで、自然に笑えてるんだ!





「晴翔くん、すごいね……。私の事笑わせてくれて」





「そんなことないよ、心の底から嬉しいって


思ってくれたんだろ?」





「本当に嬉しい。ありがとう!!」





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「じゃあ、また明日な〜」





「うん!また明日!!


イルカさん、大事にするね!!」





私が元気にそう言うと





「目一杯可愛がってあげて、おやすみ」





少し笑って晴翔くんは、そう言った。





「わかった!おやすみ!!」





「ただいま〜」





「おかえりなさい、お風呂湧いてるわよ」





そう言われて、部屋に荷物を置いてから





すぐにお風呂に入ることにした。





私は、お風呂に浸かりながら今日のことを考えていた。





今日は、すごく楽しかった。





本当はこんなに楽しい1日になるなんて全然思ってなかったなぁ。





あんなサプライズされるなんて、全く思ってかったし。





あれは、ずるいよ。




本当に驚いたもん。





あのイルカさん、大事にしなきゃ。





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お風呂から出て、もう1度袋にしまっていたイルカさんを出して






ベットの横にあるいつも携帯を置いている、棚の上に置いた。





ここなら毎日見るし、ちょこんと置いてあるのが可愛いかもっ。





イルカの可愛さに、ふふっと少し笑ってしまった。





私は、ドライヤーで髪を乾かす。





上から下に風が当たるように





ドライヤーをゆらゆらと動かしながら乾かす。





いつもこうやって、しっかりキューティクルを





閉じてあげる事で、綺麗な髪になる。





私は、ドライヤーを掛け終えると、リビングで両親とご飯を食べた。





もちろん、祝日でいつもよりは





多い量の課題が出たけど、それも全部やった。





こう見えても、勉強だけは手は抜かない。





自分で言うのもあれだけど、優等生だから。





勉強が出来ても、それ以外はあんまり得意じゃなくて。





人間関係で上手くいかない事が多々あるんだけどね〜……。





部屋の電気を消して私は寝た。





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これが恋






「行ってきます!」






玄関を閉めて、まだ履き終えてない靴を





つま先でトントン─。






リズム良く叩いて、靴を履いた。





「おはよ」





晴翔くんは、いつもの場所で待っていた。





「おはよう!課題やった?」





首をかしげて、聞いてみると





「やったよ、いつもより量が多かったよなあ」





案外、晴翔くんも頭はいいのだ。





「多かったね〜」





「安平さんは、終わったのかな?」





「うーん、どうだろ。


明莉の事だから終わってなかったりして……」





私達は、下駄箱で靴を履き替えて、クラスに向った。





「あっ、やっと来た!?椿遅いよ〜!!」





クラスに入って早々、明莉は私に泣きついてきた。





「なになに、どうしたの」





私は、明莉の頭を撫でながら聞くと





「課題が終わってないんだってば……。


やばいんだよ?すごい量出てるの。


昨日が祝日だからって、1日くらいさ?


課題無くても良くない?」





「あはは……そういうわけには、いかないんじゃない?」





「うぅぅ……。


もう〜!全然課題わかんないよ!!」





「私が手伝おうか?」





「ほんとに!?いいの??」





「うん、元々そのつもりだったし。


ていうか明莉もその為に、いつもより早く学校来たんでしょ?」





「な、なぜそれを……!!」





「わかるよそれぐらい。


手伝うかあ〜!明莉の為だし!」





手伝うって言っても、私は答えを写させる事は絶対にしない。





だって、その人が頑張ってやらないと




その人の為にならないから。





自分で出来ない物は、少し手を貸す程度で教える。




簡単に例えて言うならば




高い所に、欲しい物があるとするでしょ?





でも、手が届かないとする。





それを取るためには、高さが必要なの。





でも、自分1人じゃ届かないから




下に土台となる物を置いてあげるのが私の役目。





そしたら、階段みたいに上に上がれるし




その人も自分自身で歩けるからね。





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「はぁ〜!終わった〜!!」





椅子の背もたれに持たれながら




グッーと伸びてる明莉。






「無事に終わってよかったね」





一方私は、説明するために使った





ノートやシャーペンを、筆箱にしまいながらそう言った。





「本当さ、椿って教えるの上手いよ!


勉強も出来るし、先生にでもなったら?」





「先生……かあ。


確かに、教えるのは好きだけど……」





必ずしも私の教え方で分かるわけじゃないと思うし。





「私、椿が先生になるなら応援するよ?


絶対向いてると思う!!」





明莉は、やけに真剣そうに




キラキラした目で私を応援すると言っていて




よっぽど心の底から思ってるんだなぁ、と思った。





「うーん、明莉がそこまで言うなら……


少しだけ、考えてみるね」




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私は、午前中の授業を受けながら





黒板をぼーっと見て、考え事をしていた。





先…生、……かあ。





今までで1度も、考えたこともなかった。





確かに、教えるのは好きだけど。





私も来年受験生だし。





そろそろ考えてもいい頃なんだよね。





むしろ、既に考えてる人もいるのかも。





将来の夢の候補として、考えておこうかな……。





私は、ぼっーとしていた





頭を切り替え、授業に集中した。





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チャイムが鳴り





午前中の授業を終えると





「やっとパンが食べれる!!」





明莉は、授業が始まる前から





課題を頑張っていたので、いつもより





お腹が空いているみたい。





「私、コーヒー牛乳買ってくるね」




明莉の方を見てそう言った。





「あっ、行ってらっしゃい!」





「先食べてていいよ〜」





「わかった!!」





廊下に出ると、吉澤くんが入れ違いで





教室に入って行った。





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自動販売機まで、早歩きをして行くと





ちょうど、何買うか迷っている





先輩がいた。





「あら、この前見た時より


ずいぶん元気そうね」





先輩が私に気付き、声をかけてきた。





「おかげさまで……


あの時、正門の前で声かけて下さり


ありがとうございます!


あの時、先輩に声かけて


もらえなかったら、私……


座り込んだまま


立てなかったかもしれないです」





「いいのよ。


私もあなた達に救われたから。


本当に感謝してるの。


……そうだ。なにか奢るわよ」





「え、いいんですか…?」





私が聞き返すと





「ええ、好きなもの選びなさい」





と、お金を入れ始めた。





少し、申し訳ないな……





なんて思ったけれど。





先輩の気持ちを受け取るように、





「じゃあ、コーヒー牛乳で……」





ゆっくりと、ボタンを押した。





ガタン──。





パックに入った





コーヒー牛乳が落ちてくる。





「ありがとうございます」





私は、コーヒー牛乳を取りながら





そう言った。





「最近、どうなのよ」





先輩が言った。





「最近……?ですか?」





「あなた達のおかげで


私に、素敵な彼氏ができたから。


あなたにも幸せになって欲しいのよ」





「そう、ですか。


最近は、恋っていうものが少し


分からなくなってて。


今抱えている気持ちが、どういう感情なのか。


いまいちピンと来なくて、困ってます」





「恋が分からない?そうね……


誰か気になる人はいないの?


私は、九条くんとあなたが


付き合って欲しいと思ってるんだけど


なんか特別な気持ちになったりしない?」





「特別な気持ち……?


うーん。晴翔くんと話すと


とっても楽しくて、自然と笑顔になってて


ドキドキして顔見れなくなったり、


少し顔が熱くなったり


晴翔くんの予想外の行動に


時々、少し驚いて、嬉しくなったりします」





「なんだ、恋してるじゃないの」





「えっ??これが、恋…です、か?」





「そうよ。あなた充分恋してるわよ。


九条くんのこと、いつの間にか


好きになってたのね。


さすが九条くんだわ」





そっか、これが恋なんだ。





私、好きになるから!って言いながら





実はもう、晴翔くんのこと





好きだったんだ。





気付かなかった。




「先輩、教えてくれて


ありがとうございます!


教室戻ってもいいですか??


今、すっごく晴翔くんの声が


聞きたくなってしまって……」





「えぇ、いいわよ。いってきなさい」





「ありがとうございます!


お先に失礼します!!」





急いで教室に戻ろう。





私は、走って教室に向かった。




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廊下走っているせいで、先生に見つかって





「廊下は、歩きなさい!」





なんて、怒られたけど。





先生が見えなくなった瞬間に





また、私は走り出した。





息を切らして、教室の前にたどり着くと





深呼吸をした。





すーはーすーはー。





呼吸を整えて、教室に入ると





席が前後同士の明莉と私の席をくっつけて





明莉、吉澤くん、そして……晴翔くんの





3人が、明莉の家のパンを持ちながら





お話をしていた。





「何、話してたの?」





何事も無かったかのように、話に入った。





「やっぱり椿が、いるといないじゃ


全然味が変わるなっておもって!話してた!」





そう、明莉が言った。





「そ、そうなの?


やっぱり、みんなで食べた方が美味しいのかな?」





「椿と食べるパンは美味しいよ、全然違う」





晴翔くんも言った。





「みんなで食べるか」





吉澤くんが言った。





「うん!食べよ!」





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いつものように





「いただきます!」を言って、





パクッと大きな口を開けて食べる。





すると、みんなもパンを食べ始めて





「おいしい〜!」





私よりも先に、明莉が言っていた。





「やっぱり、全然違うね!


美味しさが増す!」





「ほんとだ、すっげぇ美味しい」





晴翔くんも吉澤くんも





みんな違うと言っていた。





何より私は、晴翔くんと一緒に






パンを食べている時間が、本当に楽しい。





美味しさを共有してるみたいで、嬉しくなる。





コーヒー牛乳とメロンパン。





大好きな物を食べて、飲んで





大好きな人達と一緒にご飯を食べる





こんな幸せな事に気付けて、私は幸せ。





「ごちそうさまでした。


今日もおいしかった〜!」





やっぱり、明莉の両親が作るパンは






私が知ってるパンの中で





一番美味しい!!





小さい頃から食べてるだけあって





一番馴染みのあるパンだから。





更に一番、美味しく思えるのかな?





きっと、そうだよね。





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お昼ご飯を食べ終えると





私はスマホをを確認した。





1件の通知が来ていて、それは





晴翔くんの、お姉さんからの





メールだった。





“今日、家に泊まりに来ませんか?





今日の夜ご飯は、カレーにするつもりなので





もし良ければ、ご飯だけでも





食べて行ってください。





晴翔には、後でメールを入れておきますので”





カレーかぁ。




いいかも。





あんまり、お姉さんと話す機会ないし





せっかく誘ってくれたんだもんね。





行こうかなぁ。うん、行こう。





でも、お泊まりは流石に……





迷惑かかる気がするし。





どうしよう、悩む……。





もう、行ってから考えよう。





“お誘いありがとうございます!!





食べに行かせてもらいます!”





そう、返事を送信してから





午後の授業を受けた。





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午後の授業も終わり、帰る支度をする。





「椿〜、帰ろうぜ。今日、ご飯食べに


俺の家来るんだろ?」





あ、そっか。





お姉さんが、メールで





知らせといてくれたんだ。





「うん!食べに行くよ〜


まってね。教科書カバンの中入れるから」





私は、急いで机の中から





教科書を少しつづ出して





カバンに入れる。





一気に持つのは、重たくて持てないから。





小学生の頃に一度だけドシった事あるんだ。





一気にランドセルに入れようとして





全部持ったら、予想以上に重くて






床に思いっ切り ばらまいたんだよね。





そんな事を思い出しながら、少しづつ急いでカバンに入れていく。





「ゆっくりでいいよ」





私が急いで入れてる事に気付いたのか、晴翔くんはそう言ってきた。





そこまで急かさなくていいと思うと、少しだけホッと安心した。





待たれるとどうしても急いじゃうよね。





でも、やっぱり優しい。






優しさを感じる度に、なんだか心がキュンとして、顔が熱くなる。





私って、晴翔くんのこういう所が好きなんだ……?





そう思いながらも、教科書を全部入れ終えた。





「も、もう行けるよ!」





自覚するといつもとは全然違って、朝だって





一緒に登校して来たはずなのに ものすごく緊張する。





ドキドキと心臓の音がうるさくて。





2人で帰りながら話してるだけなのに





テンションが上がって自然と笑顔になる。





「姉ちゃんのカレーさ、めちゃくちゃ うまいから


絶対、椿も気に入ると思うよ!」





よく家の事 手伝ってるって言ってたもんね。





料理も相当上手なんだろうなぁ。





「本当?すごく楽しみ!」





私も見習わなきゃ。





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急接近







ガチャ──。





「ただいまー」





晴翔くんは、ひょいっとドアを開けて中に入ると





私の為にドアを支えてくれていた。





「おじゃまします!」





晴翔くんの手で支えられている





ドアを私も持ち、続けて私も家の中に入る。





家の中は、すっごく美味しそうなカレーの匂い充満していた。





「おかえりなさい。


椿さんも、わざわざ来て下さり


ありがとうございます!待ってました!」





お姉さんは、エプロン姿出ててきた。





白色がベースの、薄い水色の小花柄のエプロン。





お姉さん自身も綺麗だが、エプロンがさらに引き立てていた。





「いえいえ、こちらこそ……


わざわざ呼んでくださって


ありがとうございます!」





私は兄弟すらいないから、少し晴翔くんが羨ましいなぁ。





こんなに綺麗で完璧なお姉さんがいて。





憧れないわけない。





晴翔くんが目標とするのもわかる気がするな。





「まだ、もう少し時間かかるので、上で晴翔と待っててください!


出来たら呼びますので」





お姉さんは、そう言うと





すぐにキッチンの方に戻ってしまい、私たちは取り残された。





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シーンと静まった後






「俺の部屋行くか?」





晴翔くんが声を掛けてくれた。





「うん、行きたい!」





そう言うと、私達は二階にある





晴翔くんの部屋に向かった。





いざ部屋を目の前にすると、すごく緊張し始めた。





2人きりで私心臓持つのかな。とか思いながら





晴翔くんは、ドアを開けた。





部屋に入ると、晴翔くんは机の横に





カバンを掛けてベットに座った。





何処に座ったら良いのか分からず、私は





ドアの目の前でじっと立っていた。





「その辺にカバン置いていいよ」





そんな私に気付いて、晴翔くんは声をかけてくれる。





「わ、わかった」





この部屋、晴翔くんが風邪の時に来たのが最後だっけ。





私がカバンを床に置くと、ポンポンっと晴翔くんが





片手でベットの上を叩いて、もう一方の手で手招きしていた。





隣に座れってこと…かな…?





ちょこんと少し距離をあけて





隣に座ると晴翔くんは話し始めた。





「最近、あの2人とは大丈夫?」





あの2人──?





明莉と吉澤くんの事かな。





まだ心配してくれてたんだろうか。





「うん、大丈夫だよ」





「吉澤の事、まだ好きだったりしない……?」





全然そんなこと無い。





晴翔くん、不安になってるのかな?





「好きじゃないよ」





だって今はもう、晴翔くんのことが好きだし。





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あれ……?





私って、1度でも “ 好 き ” って口にした?





晴翔くんに伝えたことあった?





だから、か。





「そっ…か、よかった……」





「でもね……?


ちょっとだけ、苦手意識付いちゃった。


明莉の事は大丈夫なの。



でも吉澤くんの事は、なんであんなに好きだったんだろうって


どこが好きだったんだろうって。


自分でも驚くほど今じゃ苦手意識出てる」





「そっか。……無理して一緒に


お昼食べなくでもいいんだぞ?」





「え……?」





「これからはさ、俺と2人で食べようよ。


……やだ?」





「ううん。嫌じゃない!」





2人で食べれるなんて、すごく嬉しいもん。





私、いつ伝えるんだろうか。





やっと好きって分かったのに。





いざ自分の気持ちが分かっても、早々伝えられない……。





そういえば、吉澤くんに告白した時もそうだったっけ。





好きになっても全然伝えられなくて、隣にいるだけで緊張して……





まるで今と同じ。





すぐ近く、真横にいるのに。





触れられないし、伝えられない。





この もどかしさ。





今の私には、まだ伝えられるような





決心 出来ないよ……。




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「そろそろかな?結構時間経っただろ


下行くか?」





「あ、そうだね。行こっか」





私達は、一階に降りる事にした。





どうやったら決心付くのかな。





晴翔くんは、私がまだ吉澤くんの事を





好きなんじゃないか?って思ってるみたいだし。





晴翔くんの事好きって気付けたのになぁ……?





考え事をしながら階段を降りていると





「わっ……!?」





私は、階段を踏み外した。





転びそうになった所を、晴翔くんがとっさに、支えてくれた。





「怪我してない?大丈夫?」





「ふぇっ?だ、大丈夫!


あっ、ありがとうっ……」





自然と私を抱き抱える感じになってしまって、すごく距離が近い……。





ドキドキとした。




落ちそうになった恐怖から来るものなのか。





晴翔くんとの距離が近くてドキドキしてるのか。





正直ごちゃごちゃになりすぎて分からなくなっていたけど。





この気まづさから何故か沈黙になり





自分の体温も上がっていくのがわかった。





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耐えきれなくなった私は





「も、もう大丈夫だから!」





そう言ってすぐに自分の体を持ち直し、晴翔くんから離れた。





晴翔くんは喋ろうとしなくて、不思議に思って顔を覗き込んでみると





晴翔くんも、顔を真っ赤にしていて





恥ずかしそうにしていたけど、どこか切ない感じに見えた。





沈黙が、さらに気まづくなってしまった。





「あれ?こんな所で2人して、何してるんですか?」





お姉さんが、私達を呼びに行こうとこちらに来たのだ。





なんとか助かったかも。





気まづいまま、どうしたらいいのか分からなかったから。





「ちょっと、転びそうになってしまって!





特に何も無いです!





でっ、でで、出来たんですか?」





「あ、そうなんです。


カレー出来ました!」





そう言うと





私の近くに来て





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「ひょっとして……


お邪魔でした……?」






耳元に小声で言ってきた。





「そ、そんなんじゃないですよ……!!」





なんでさっき、切なそうというか





悲しそうな顔したんだろう。





「出来たてを食べて欲しいので、早く食べに移動しましょう!」






お姉さんに、背中を押されてリビングまで行き





はい!と机に座らされた。





お皿に盛り付けるの、手伝おうかと言い出したけど。





お客様なのに、そんないいんですよ。





座っていてください!





と怒られてしまった。






そのまま座っていると、カレーが入ったお皿が





目の前に運ばれてきた。





カレのールーが多めに載せてあって




赤い福神漬けまで盛り付けてあった。






「すごく美味しそうですね!!」





「姉ちゃんのカレーは


俺にとって、一番上手いからなあ」





「さ、頂きましょう!」





「ですね。いただきます!」





お姉さんの作ったカレーは、野菜がいっぱい入っている代わりに





小さめに切られていて、とても食べやすく、味もすごく美味しかった。





「美味しい……!


なんかこのカレー。


お店で食べるようなカレーみたい。


すごく美味しいです!!」




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「本当ですか?


そんな風に言ってもらえて嬉しいなぁ……。


頑張って作ったかいがありました」





お姉さんはとっても嬉しそうに微笑んでいた。





「さてと、高評価なカレーを私も頂こうかな!


せっかく自分で作ったんだから、いっぱい食べよっと」





お姉さんは鍋の前でルンルンとお皿によそっていて





私の前じゃないから?なのかもしれないけど





気を許したのか、敬語では無くなっていた。





どこにでもいる、可愛い女の子で





前にお姉さんが悩んでいた問題も、ああいう部分を表に出せば





きっと解決するんじゃないだろうか?と、少し考えてしまった。





前に、お姉さんと喫茶店で話をした時に





普段から敬語ばかり使っているし、あまり人と話せないみたいな事を言っていた。





だから私は、自分から話しかけてみたらどうですか?





きっと話してくれると思います。





そう伝えたのだ。





友達が増えてるといいなぁ……。





「おかわり!」





お姉さんがよそってる間、私が考え事してる間に






晴翔くんは、見事カレーを食べ終えていて





おかわりと言っていることに驚いた。





「えっ?早くない??


晴翔くん、もう食べ終わったの?」





「姉ちゃんが作ったカレーはいつも美味しいけど


それ以上に美味しいから。だって、椿がいるからさ


好きな人と食べるご飯って、魔法が掛かったみたいに


美味しくなるだろ?」





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みんなで食べてるご飯は、いつも以上に美味しくなるって





お昼休みにみんなで言っていた、あれの事?





確かに、1人で食べるよりは





気分も上がるし、とても美味しいかもしれない。





何より同じ時間を共有しているのが、嬉しくなるよね。





「このカレー、とっても美味しいもんね!


私も、食べ終えたらお代わりしちゃおうかな?」





なんて、そんな量食べれるのか分からないけれど





それぐらい美味しかったのだ。





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「ごちそうさまでした!」





手を合わせて、私はそう口にした。





みんなも食べ終わり、食べ終わった食器をキッチンに置いていく。





お姉さんは、今から洗い物をするのだろう。





ただお呼ばれしただけの、お客様だからと言って





手伝わずにぐだるつもりは、私には無かった。





「私、洗い物手伝います!」





そう言いながら、スポンジまで手を伸ばし手に取った。





「えっ、良いんですか?」





お姉さんは、キョトンとびっくりした顔で こちらを見ていた。





「はい!とても美味しかったので。


最後までしっかりとしたいんです」





私は、食器用洗剤をスポンジにタラ〜っと垂らして





冷たい水を我慢しながら、スポンジに付けて





クシュクシュと泡を立てた。





家では たまにしかやらない分、こういう時に





思いっきり手伝わないとね。






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私が、お皿についた汚れを綺麗にスポンジで落としていく。





そして、そのお皿は お姉さんが水道水で洗い流していく。





ピカピカになったお皿は





キュッキュッと音を立てるほど綺麗になった。





「椿さん、実は報告があってお呼びしたんです」





さっきまでルンルンしながらカレーをよそっていた時とは違い





真剣な顔をして、お姉さんは私を見ていた。





「報告?……ですか?」





何の報告だろう。





良い報告?それとも、悪い報告?





ひょっとして、この前喫茶店で話した事に関する話なのかな?





「はい、実はですね……」






お姉さんは、なかなか話を進めてくれなくて





ただただ、焦らしていく。





うずうずと気になる一方で、その報告が何なのか余計に浮かばない。





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「私、新たに友達が出来ました!」





お姉さんは、真剣な顔から一気に頬が緩み





ニコニコと笑っていた。





「えっ!おめでとうございます!!


……ていう事は、話し掛けることが出来たんですね!?


良かったです!!」





「はい、本当に良かったと思います!


あのまま話し掛けずにいたら、今でも辛い思いをしていたと思います。


本当に、椿さんが相談に乗ってくれたおかげです!


椿さんには、本当に本当に感謝しているんです!!」





今までの事が辛くて話せる人が出来たっていうのは





お姉さんにとって、よっぽど嬉しいんだろうなぁ。





「お姉さんの力になれたなら、私も嬉しいです!!


また何かあったら頼ってくださいね?


私に出来ることなら何でもします!!」





「いいんですか??


ありがとうございます。


椿さんのおかげで、すごく前向きになれた気がします」





お姉さんは、にこやかに微笑んでいた。





幸せそうなお姉さんの事を見ていると、私まで心が暖かくなった。





「それなら良かったです。


そういえば、お姉さんって将来なりたいものとかあるんですか?


大学行ってるっていう事は、なにか目標があるってことですよね?」





首をかしげながら、私は聞いた。





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「あれ?言ってませんでした?


私、教師になりたいんです」






「教師ですか??」





「そうなんです。


実は私、小学生の頃は勉強好きじゃなかったんです。


授業も何をやってるのか分からないし、計算は遅いし


宿題だって進まなくて、出すことが出来ませんでした」






完璧だと思っていたお姉さんの過去。





誰にだって出来ない事はあるよね。





「そうだったんですね……?


でも、晴翔くんは昔から姉ちゃんは凄いって言ってましたよ……?」





「多分、晴翔が私の事を意識し始めたのが


もう少し、遅かったからだと思います。


私も、勉強出来なかった時期は 小学校の低学年までですから


そんな頃の記憶なんて晴翔もあまり覚えて無さそうですし」





「お姉さんが今みたいになる


その 変わるきっかけは、何だったんですか?」





「小学3年生の頃です。大学を卒業したばかりの


新しく来た、新任の先生が 私の担任になりました。


内田先生といって女性の人でした」





「内田先生という方がお姉さんの事を、変えてくれたのですか?」





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「そうなんです!内田先生……」





お姉さんが、やっと本題に入ろうとしたその時。






私の携帯が鳴った。





画面を見ると、お母さんからだった。





「あ……。お母さんに連絡するの忘れてた……


話の途中にすみません。電話に出てもいいですか?」





「あ、どうぞどうぞ!こちらこそ


長話して引き止めてしまい、申し訳ないです」





お姉さんがそう言ったのを確認し、お母さんからの電話に出た。





「もしもし?お母さん?」





『ちょっと、あなたどこにいるのよ。


帰ってくるの遅いじゃない!


遅くなるなら必ず連絡しろって言ったわよね?』





「ごめんなさい、すっかり連絡するの忘れてて……」





『心配かけないでよ。今どこにいるの?


私が迎えに行くから、場所を教えなさい』





お母さんは怒っていた。





連絡しないでここまで人の家で長居する事なんて





今まで無かったから。





「大丈夫だよ、一人で帰るから。


お母さん、今から帰るね?」





『本当に今から帰ってくるんでしょうね』






「うん、帰るよ。


心配かけてごめんね?お母さん」





『分かればいいのよ。分れば。


家でお風呂沸かして待ってるわ』





そう言って、お母さんは電話を切った。





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「あの、すみません。


椿さんのお母さん 怒ってました……よね?」





お姉さんは、不安そうな顔で私を見ていた。





きっとお姉さんは、私のせいで……なんて思っているのだろうか。





「大丈夫ですよ、帰りが遅いから


心配して電話掛けて来たみたいです


お姉さんは、何も悪くないですよ」





「本当ですか?」





ううん。本当は怒ってた。





でも、お姉さんを心配させたくない。





「はい!大丈夫です!」





私はそう、口にした。





するとお姉さんは、ぱぁーっと表情が明るくなり





かなりホッとしている様子だった。





「私、今から帰りますね。


お姉さん、また明日来てもいいですか?


話の続き とても聞きたいので」





「はい、ぜひ来てください!


もし良ければ次の土日、予定が空いてらしたら


その時にたっぷり教えましょうか?


多分、その方が一気に教えられると思います」





「え、いいんですか?お姉さんの貴重な休みを……」





「いいんですよ、では次の土曜日あの喫茶店で会いましょう


時間は、またメールでお知らせします」





「わかりました!


わざわざありがとうございます!」





私は、お姉さんとの話を終えるて





晴翔くんの部屋に自分のカバンを取りに行った。





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「あったあった。よし、帰ろっと」





私はカバンを持ち、晴翔くんの部屋を出ると




「あれ、椿もう帰んの?」





目の前で晴翔くんは待っていて、そう呼び止められた。





「うん、帰るよ。


お母さんに連絡するの忘れてて、心配かけてるから


帰って来いって言ってたし。また明日ね」





少し寂しい気もしていたが、お母さんの為にも





早く話を終えて家に帰ろうと、私は歩き出す。





「待てよ、夜遅いし家まで俺が送るよ」





晴翔くんは、私の腕を掴み そう言った。





夜が遅いというよりか、今の季節は日が暮れるのが早いので





既に外が真っ暗なのだ。





街灯の無いところは足元も見えず、道の先が分からないので





人通りもほとんど無く、一人で帰るのは正直危ないのかもしれない。





こういう所で気遣いが出来る晴翔くんは、とても優しい。





「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな……?」





「うん、いいよ。


わざわざ家に来てくれたんだし。


これぐらい普通にするよ」





「そっか。じゃあ……行こっか」





「姉ちゃん、椿の事家まで送ってくるから」





晴翔くんがお姉さんにそう言ってから、私達は家を出た。





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帰り道。





真っ暗闇の中、月明かりと携帯のライト1つ。





夜に2人きりで歩いているだけなのに、変な緊張感と気温の低さで





携帯を持つ手が少し震えていた。





「今日はごめんね。あんまり長居できなくて」





「あ、全然いいよ。


姉ちゃんが椿に手料理食べてもらえて喜んでたし


美味しいって言ってくれただけで充分、俺も嬉しかったし」





「そっか。なら良かった……。


ていうか、晴翔くんのお姉さん 教師目指してるんだね?


私知らなかったんだけど、お姉さんが教えてくれた」





「あれ?言ってなかったっけ?


椿には、もう話してると思ってた」





「お姉さんも同じ事言ってたよ。


それだけ私って馴染めてるって事……?」





「俺の家族、みんな椿の事気にってるから


なんでも話したと思い込んじゃうんだよなぁ」





「それはなんか、嬉しい気がするけど


話が聞けないのは悲しいかな……」





私は、小声で呟いた。






「ごめんな?今度から気を付けるよ」





ねぇ、何でそんな優しいの?





「ほんと?ありがとうっ」





他の人にも優しく接するのかな。





ちょっとだけ、本当に。ちょっとだけ。





他の子にも優しくしてるのだと思うと、嫉妬した。





私が『好き』って伝えられないせい。





待ってなんて言っておいて、結局私は大事な事を言えないまま。





いつになったら言えるんだろうか?





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そうやって考えている間も、自分の家にどんどん近づいている。





なんとなく、歩くスピードを遅くしてみたり。





もうちょっと晴翔くんの隣に居れたらいいのに。





「下なんか向いてどうした?」





「あっ、ううんっ。何でもないの……」






帰るのが寂しいって言ったら 晴翔くんは、どうしてくれる?





「本当に?何かあるならちゃんと言えよ」





言ってみようか?





「ううん。本当に、大丈夫」





今の私には、やっぱり無理みたい。





いつか、言うね。





覚悟が決まるまで、待ってて欲しい。





そう、心の中で願った。





「ごめんね?送ってもらっちゃって」





そう言いながら、晴翔くんの顔を見上げた。





「いいよ、こんなに暗いのに一人で帰す方が心配だから」





そんな私に気づいた晴翔くんは、そっと笑ったと思うと





私の頭をぐしゃっと撫でる。






「ちょ、ちょっと!髪ボサボサになるじゃん……」





顔が赤いのを隠して、ぐしゃぐしゃにされた髪を手で直した。





「たまには、これぐらい いいだろ?」





「別にいいけど……」






本当はすごく嬉しい。





私って単純なんだなぁ……。






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もうすぐで、自分の家に着く。





はぁ。なんでこんなに寂しいと思うんだろう。





「……るとくん」





「ん?なんか言った?」





「あのね、晴翔くん。


寒いからぎゅってして欲しい……。


少しだけでいいの。お願い」





ずるいかな?なんて思ったけど、身長差のおかげで





自然と晴翔くんを見上げる形になった。





「少しだけだからな……」





晴翔くんはゆっくりと私の体を包んだ。





ぎゅっと抱きしめてくれる晴翔くんもきっと緊張してるんだろうな。






本当は既に両思いなのに、晴翔くんは、私の思いは知らない。





なんだか、片思いしている気分だった。





ただただ、自分が辛くなって泣きそうになる。





ここで泣いたらきっと晴翔くんは心配する。





泣くのを我慢して、ぎゅっと晴翔くんの背中の方に手を回した。





強く強くぎゅっとした。





「も、もう大丈夫だから。ごめんね」





「なんで謝んだよ、そこはありがとうだろ?」





「そっか、ごめ……ううん。ありがとう」





「また明日な」





「……うん。……また明日」





私は家の中に入った。





『また明日』なんて言いたくなかったな。





あのままずっと一緒入れたらいいのに。





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決意







ガチャ──。





「ただいま」






私がそう言うと、お母さんはすぐに私の元に走ってきた。





「おかえりなさい。ご飯は食べたの?」





「うん、食べてきちゃった。


ごめんね?心配かけて、今度からちゃんと連絡するから」





「分かればいいのよ。


お風呂沸いてるから、入っちゃいなさい」





「お母さんありがとう」





私は部屋に荷物を置いてお風呂に入ることにした。





お母さん、あれは完璧怒ってるよね。





いつものように接してくれてたけど……





口に出さないだけで、すごく心配してくれたんだろうな。





迷惑かけないようにしなきゃな……。





そう心掛けることを決心してから、お風呂に入った。





外は寒かったが、いつもより帰りが遅くなったので湯船に浸かることはせず、早くお風呂から出た。





お風呂を出て、私は髪を乾かす。





「私の髪って、長いよね……」





1度は短い髪にも憧れた。





でも、勇気が出なかった。





胸の辺りまである長い髪。





手入れが大変だが、小さい頃から頑張ってきたおかげで





慣れているため、1日も欠かさなかった。





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ドライヤーの風を、上から下にゆらゆらしながら乾かし、同時に考え事をする。





それは、晴翔くんのこと。





ずっと私のことを支えてくれる優しい晴翔くん。





いつの間にか晴翔くんの事を好きになっていて、これが恋だと気づけた瞬間は嬉しかった反面、既に好きになっていた自分に驚いた。





本当、先輩には感謝しなきゃだね。





先輩みたいに、変わりたいな。





どうしたら先輩みたいに変われるのかな……?





勇気……?





勇気を振り絞ってみようか。






もう少し、考えてみよう……。





次にお姉さんに会った時に、この事 相談してみようか?





相談に乗ってくれるかな?






大丈夫だよね。





そう言い聞かせて、私は寝ることにした。





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あれから数日後。





土曜日の朝、10時半。





喫茶店にてお姉さんの話を聞くことになった。






「どこまで、話しましたっけ?」





そう言いながらも、しっかりと覚えていたお姉さんは話し始めた。





内田先生という新任の先生がお姉さんを変えたんだそう。





「その頃の私は勉強が大嫌いで、遊んでばかりいたので、宿題なんて全くしてませんでした。


特に覚えるのが苦手で、その頃は国語が一番苦手だったと思います。


漢字の100問テストみたいな物が、1年間に2回ほどあったのですが


恥ずかしながら100点中 2点という1問丸があるかどうかぐらいで、本当に…ばかですよね。


分かってます。自分でも理解してました。


ですが内田先生は、呆れるのではなく


こんな私と一緒に勉強をしてくれました」





「一緒に、ですか?」





私は思わず声に出した。





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「はい。本当に優しいですよね。


放課後に時間まで作ってもらい、私は漢字のノートと筆記用具だけ机に出して、先生は私の隣にいてくれました。


それだけで私は、安心しました。


テストでは、100問一気に受けるのではなく、ずるいのかも知れませんが、特別に5問ずつ受けさせてくれました。


まずは その5問をこれでもか!という程、ひたすらノートに書いて書いて、書きまくって覚えました。


そして、覚えたな。と思ったら今度は、その5問だけのテストを行います。


その繰り返しをしました。


そして、何回も繰り返し終えてなんとか98点を取り、テストに合格する事が出来ました。


例えるなら100問を一気にやるという大きな山を超えるよりは


1つ1つ、小さな山を地道に乗り越えることで、その漢字も覚えることが出来ました。


その案を出してくれたおかげで、必死に頑張った後の達成感や喜びを知り、勉強するのってこんなに楽しいんだと、この時初めて知りました。


それからの私は、勉強に対しての考え方が変わりました。


宿題もちゃんとするようになり、授業でもノートを取り、先生の言ったこともメモするようになり、思いっ切り変わることが出来ました。


きっかけって、とても大事ですよね」





話に聞き込みすぎて相づちするのも忘れていた。





「すごい、ですね。そんなにお姉さんを変えるなんて、びっくりしました。


その内田先生という方に出会えて、教師になろうと思ったんですよね?」





「そうです。この事があったから私は今、教師を目指して大学に通っています。


晴翔から、椿さんも教師になろうか悩んでいると聞きましたよ」





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「あ、晴翔くんから聞いたんですね?


友達に勉強の教え方が上手いと言われて目指したら?と軽く言われたぐらいなんですが


私も前から気になってはいたんです。


教えるの好きだし、役に立てるならそれもありだなって。


でもお姉さんの話を聞いたら、私なんてたいした理由も無いのに


軽い気持ちで目指すのはどうかな……?なんて思っちゃいました」





「別に悪くないと思いますよ?


なりたいのなら、やってみるべきだと思います。


どんな理由であっても、やりたいと思っているのにやらずにいるというのは、きっと後悔すると思います。


私はやった方がいいと思います!椿さんがなりたいというのであれば、応援します!」





「確かに……、後悔はしたくないですね。


お姉さんが応援してくれるのならやってみようかな……?」





「はい、応援しますよ!


勉強だって分からないところがあれば、私に聞いてください。


力になりますよ」





「本当、ありがとうございます!!


お姉さん、優しいですね。


頑張ってみようかと思います!



それと、別の話があるんですが……してもいいですか?」





「はい、いいですよ。


どうされたんですか?」





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「実は、晴翔くんの事なんですけど……


私、晴翔くんの事が好きなんだと、気づいちゃったんです。


でも、告白する勇気が出なくて、困ってるんです。


晴翔くんは、私にいっぱい自分の思いを伝えてくれているのに。


本当は両思いなのに、恥ずかしくなっちゃってなかなか伝えられないんです。


どうしたらいいと思いますか?」





「私、もう既に2人は付き合ってるだと思ってました……!


違ったんですね。告白する勇気ですか……」





お姉さんは、私の相談に真剣に考えて答えを出そうとしてくれていた。





そして、お姉さんはこう言った。






「もし仮に私が勇気が出なくて悩んでいるのなら、自分に自信が付くような事をするか


自分の事を思いっ切り変わる何かをしてみるだとか、きっと考えれば沢山あると思います。


例えば、小さい頃からしてみたかった事を今になってしてみるとか……


ごめんなさい。こんなことしか浮かびません」





「あ、全然!大丈夫です!!


お姉さんなりに考えてくれた事なんですから。


小さい頃からしてみたかった事……?」





小さい頃短い髪に憧れてた事ならあるけど、その頃は勇気が出なくてやめたんだっけ。





そっか。





今になって、挑戦してみようかな。





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もし、思いっ切り私の髪が短くなっても





晴翔くんは好きでいてくれるのかな。





「ありがとうございます!


いいヒントになりました。


早速、試してみようかと思います」





「私の言葉が役に立てたのなら良かったです。


頑張ってくださいね!」





お姉さんは私を応援してくれた。





私が髪を切るのは、今までの自分を捨てるため。





新しい自分を歩むため。





私はお姉さんとの話を終えてから、美容室まで髪を切りに来た。





今すぐにでも行動したかったのだ。






胸まである私の長い黒髪。






この髪とはお別れだね。





新しい自分に生まれ変われるかな。






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晴翔くんに出会えて今の私は幸せだよって、胸張って言えるかな。






なんて事を考えながら座ったまま短くなっていく髪を眺めていた。





そして、鎖骨あたりまで短く切ってもらった。





軽く15cm程は切ってる。





明日、晴翔くんを呼び出して告白するつもり。






あんなに長かったのに短い私の髪……、なんだか見慣れないなぁ?





そう思いながら短くなった髪を触りながら家に帰った。





「ただいま」





家に帰って早々、お母さんは私の元に来た。





「おかえりなさ……ぃ…


その髪、どうしたのよ」





お母さんは目を丸くして驚いていた。





「うーん、ちょっとした気分転換?


イメチェン……?みたいな…?」





軽くそう言った。






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切ってしまえば、もう後悔などしてももう遅いし、別に憧れていたことが出来てむしろ私は嬉しい。





「どう?似合うかな」





「私は長い時の方が好きだったけど、悪くは無いわね。


いいんじゃないかしら?似合ってるわよ


でも、どうしていきなり短く切ってきたの?」





「そう言ってもらえてよかった。


自分を変えたかったの。


うじうじしてる自分が嫌だったから。


切った事、後悔はしてないよ」





「そう。……変われた?」





お母さんは私の目を見てそう聞いてきた。





「変われた気がする。うん、気がするだけ」





私は少し笑って見せた。





だって、変われたかどうかなんて明日になってみないと分からないから。





告白出来たら、確実に変われたと私は思う。





“明日、話したいことがあるんだけど


家まで行ってもいいかな?”






お風呂から出ると急いで晴翔くんにメールで連絡をした。





返信はすぐに来た。





“話したい事?いいよ。


じゃあ明日家で待ってるから”





なんだか、今から告白するわけじゃないのに、緊張してきた。





とっさに すーはーすーはー と、深呼吸をして落ち着かせた。





明日、なんて告白しようか?





『好きです。付き合ってください!』





なんか、普通すぎるよね……?






どうやって告白しようかといろいろ考えて考えて、結果決まらず。





いつの間にか寝落ちしていて





気付けば小鳥がチュンチュンと鳴いて朝を迎えていた。





私はゆっくりと起き上がり、暖かい毛布から出るとすぐに出かける準備をした。





まだ慣れない短い髪。





どうせなら少しでも可愛く見られたいから、ピンク色のヘアピンなんかを前髪に付けちゃって。





自分ってごく普通の女の子なんだなって、自分で思ってしまった。





鏡で確認して、緊張する自分を大丈夫。と言い聞かせ玄関に向かった。





「よし。行ってきます」





靴を履いて家を出た。






221 / 225







寒さと緊張で少し震えながらも晴翔くんの家まで向かった。





家に着くと、チャイムを鳴らした。






「はーい!」






そう言いながら出てきたのは、お姉さんだった。






「あっ、椿さん!


髪切ったんですね??


すごく可愛いです!」






出てきて早々、私の元に来たと思ったら






お姉さんは私を褒めてくれた。






「ありがとうございます!


そう言ってもらえて、とっても嬉しいです


自信つきます!」






「これから告白するんですか?」






お姉さんは、私の耳元に小声でそういった。






「あ、はい!すごく緊張してて、ちゃんと言えるか心配なんですけどね……」






私は、少し笑いながら緊張感を伝えた。







「椿さんなら大丈夫ですよ!


晴翔の事呼んできますね?」






「あ、ありがとうございます!


お願いします!」






お姉さんは、晴翔くんを呼びに家の中に入って行った。






しばらく待っていると、ガチャと音がして晴翔くんが外に出てきた。






「お待たせ、あれ。なんかいつもと違う。


髪切った……?よな?」







みんな気づくのが早い。






「あ、バレた?そう。髪切ったの!


どうかな?」






「そっちの方がいいよ。似合ってる」






予想外の言葉に思わず顔が熱くなる。






「ほんと?そう言ってもらえて良かった。


髪切った甲斐があったよ」






「話って何?」





「え、今それ聞く?


ちょっと散歩しようよ」






「こんな寒いのに?」






「いいからいいから、ほら。行こ?


話をするのは、もう少し後でね」






「わかったよ」






222 / 225







私達は歩き出した。






思い出がある場所に行くことにした。






まずは、公園。






「この公園でみんなと一緒に遊んだよね。


楽しかったなぁ、またみんなで遊びに来ようね?」






「まりも椿と遊びたいって言ってたから喜ぶと思うよ」






「本当?じゃあ、まりちゃんとまた今度会ったら


いっぱい遊ばなきゃだね!」






前まで、子供苦手だったのにね。







なんでかな。






まりちゃんとは遊んでいられるの。






晴翔くんがいるからかな……?なんて。







「ねぇ、学校行ってみよっか?


明日もどうせ行くんだけど」






「学校?なんで学校?」





「休日に行ってみたくない?


入れないだろうけどさ。


学校までの道歩きたいな」






なんで学校までの道のりを歩きたいと思ったのかは、きっとその道が一番晴翔くんとの思い出があるから。






どんな時だって、一緒に学校行って一緒に帰った。





「本当、晴翔くんには感謝してもしきれないよね……」






小声で呟いた。






「ん?なんか言った?」






「ううん、ちょっと独り言。


気にしないで。ねぇ、晴翔くん」






私は、歩道橋の上で立ち止まった。






「どうした?」






立ち止まった私を不思議に思ったのか、晴翔くんも立ち止まり私の顔をじっと見つめた。






「いつもありがとね。私のこと支えてくれて


迷惑ばっかかけてるよね」






「いいんだよ。俺がしたくてしてる事だからさ


何も気にすんな?」





223 / 225







「私ね」






頑張れ。私。






「私、晴翔くんの事が好き。


やっとね、気付いたの」






「それ、本当?」






「嘘なんかつかないよ。


待たせてごめんね。遅くなっちゃった。


ずっと晴翔くんと一緒にいて思ったの。


私、いつの間にか好きになってて、近くにいたから逆に気づけなかったんだなって。


こんな私で良ければ付き合って欲しい……な」






風で鎖骨あたりまで短く切った私の髪がゆらゆらと揺れていた。






「遅いよ」






「ごめんね、時間掛かって……



もう、遅いよね」







そりゃずっと待たせてたら、私の事なんて好きじゃなくなるよね。






もう自分の事を好きじゃないんだと思うと、何かがこみ上げてきて自然と泣いていた。






涙が溢れてきて頬を伝って地面に落ちる。






「私、ばかみたい……」






ずっと好きでいてくれるなんて都合のいい話無いよね。






「何泣いてんの?」






「え……?だって、私の片思いだって分かったら悲しくって、……」





224 / 225









「何言ってんだよ、今でもずっと待ってたんだぞ」






「今でも私の事、好きっ……なの?」





「当たり前だろ?ありがとな。


俺の事好きになってくれて、すっげぇ嬉しいから。


夢見てる気分。夢じゃないよな?」






「もう好きじゃないのかと思ったじゃん……


夢じゃないよ。


私すごく緊張してたんだからね。


頑張って伝えたのに夢なんかにしないでよ」






「ごめんごめん。本当、ありがとう」







晴翔くんは、ギュッと私を抱きしめた。






今までと特別何かが変わるって訳じゃないけど、恋人同士になれた事が私は嬉しかった。






ギュッと強く抱きしめられて、晴翔くんからの想いが強い事もよく分かった。






「もう、泣くなよ。な?」






「なんだか嬉しくって、涙が止まらないや……」






笑いながらも私は泣いていた。





225 / 225









「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」






そう言いながらも困った顔をしつつ、晴翔くんは何故か嬉しそうだった。






「もうちょっとで泣き止むからっ……んっ……」






私の涙はピタリと止まった。






喋っていたと思った私の口は、晴翔くんにふさがれたのだ。






「泣き止んだ?」






そう言って晴翔くんは私の顔を覗き込んだ。






私は驚きのあまり、口をぱくぱくとさせながら喋る言葉を探した。






「……ばか。急にするからびっくりして涙止まった……。晴翔くん好き!」






私はそう言って、晴翔くんに抱きついた。





「俺も椿の事好きだよ」






「嬉しい!


そろそろ、帰ろっか?」





「そうだな。帰ろ」






想いが通じあった私達は、自然と恋人繋ぎをして帰った。





ずっと一緒に居られるといいな。






大好きな晴翔くんと幸せな毎日を過ごそう。






晴翔くんと出会った時も、付き合った時も、私って泣いてばかりだね。





これからも迷惑かけちゃうんだろうけど、そんな私だけど、ずっと好きでいてね?





なんて、微笑みながら心の中で言った。

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私の気持ちと君の想い 天野沙愛 @amanosara

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