第41話 衣替え

「────うわ〜!半袖の空風そらかぜ見るの久しぶり〜!」


 朝、学校に登校して席に着いていると。

 今登校してきた陽瀬ひなせが、俺の方を見てそう声を上げてから隣の席に座った。

 俺が半袖なのは、今日から衣替えだからで。

 俺の半袖を見るのが久しぶりというのは、陽瀬とは一年前から同じクラスだったからだ。


「陽瀬の半袖も、久しぶりに見たな」

「でしょ〜?どう?半袖の私を見た感想!」


 そう言われた俺は、半袖姿の陽瀬のことを軽く見る。

 髪型はいつも通り綺麗な金髪ロングの巻き髪で、こちらもいつも通り可愛らしい髪留めやピアスをしている。

 変わったところと言えば、その整ったボディラインやスタイルが、半袖になったことでより顕著になったというところだろうか。

 主に、長く細い脚と、胸────


「っ……!」


 胸に視線を送ってしまった俺は、思わずすぐに陽瀬から視線を逸らす。

 陽瀬のモデル撮影について行った日から一週間は経ったが────


「ねぇ、空風。今から私制服に着替えるけど……その着替えの合間に、ちょっとだけ私のおっぱい?」

「今すぐおっぱい見たいって思ってくれた?それとも、おっぱい触りたいって思ってくれたの?もしそれがどんなことだったとしても、私はしてあげるしさせてあげるよ!……ほら、見て?」


 あんな強烈な体験を、たかだか一週間で忘れ去ることができるような度量は残念ながら俺には無い。

 が、ひとまず俺は、聞かれた服の感想について答えることにした。


「長袖の時は陽瀬のファッションセンスが光ってて良かったが、半袖は半袖で陽瀬自身の良さがより引き出されてて良いんじゃないか?」

「っ……!ありがとう、空風!空風も、半袖すっごく似合ってるよ!」

「そうか……?」

「うん!私が保証してあげる!」

「……ありがとう」


 素直に、陽瀬からの褒めの言葉を受け取ると、それから俺たちは少し雑談を交えた。

 そして、雑談に一区切りがついたところで、陽瀬が俺の顔を覗き込むようにして言う。


「そういえば、中間テストの時ほどじゃ無いけど、空風今日ちょっと顔色悪くない?」

「そうか?あまり自覚は無いが、もしそうなら最近はかなりの頻度でバイトに行ってるからかもしれない」

「また〜?本当、空風って見てるこっちが心配になるよね〜」


 続けて、陽瀬は俺の方に身を乗り出して。


「もし本当に限界って時が来たら、ちゃんと私に相談してね?空風に必要なことなら、どんなことでもしてあげるから」

「……あぁ」


 俺がそう返事をすると、陽瀬は明るく優しい笑顔を見せた。

 ……つくづく、俺は周りの人に恵まれているな。

 再度そんな実感を抱きながら、その後はホームルームや授業を受け────昼休み。

 屋上にやって来ると、相変わらずとても高校生とは思えない大人びた雰囲気を纏っている、雪のように綺麗な白の髪をした白百合しらゆり先輩の後ろ姿があった。


「白百合先輩、こんにちは」


 挨拶をしながら、俺が白百合先輩の隣に立つと。


りつさ────っ!」


 俺の名前を呼びかけた白百合先輩は、俺の顔を見て小さく声を上げた。

 そして、すぐに口を開いて言う。


「顔色があまりよろしく無いようですが、またお仕事の方をご無理なされているのですか?」

「いえ。まだ無理と呼べるほどの無理はしてない……つもりですけど、そんなに顔に出てるんですか?」

「いつか程ではありませんが、顔色が優れないことは間違いありません。以前もお伝えしましたが、もし職場環境に問題があるのであれば、すぐに私が致します……必要があるのであれば、白百合の名を使い給料の昇給や、何不自由の無い生活をご提供────」

「お、お気持ちはありがたいんですけど、本当にそんなことはしていただかなくても大丈夫ですから!」


 俺が慌ててそう言うと、白百合先輩はどこか落ち込んだように「……そうですか」と言っていた。

 ……善意を受け取り続けないというのは、少し申し訳ない気もするが。

 前も思った通り、白百合グループの一人娘である白百合先輩の口から放たれるという言葉ほど怖いものはないから仕方な────


「であれば、私にも考えがあります」

「……え?」


 俺がその言葉に困惑していると、白百合先輩は「こちらへいらしてください」と言って、俺のことを屋上にあるベンチに連れてきていつも通り隣り合わせになって座った。


「白百合先輩……?昼食を取る以外に、ベンチで何を────」

「失礼致します」


 直後。

 白百合先輩が、俺に何かの断りを入れると。

 俺の顔を自らの胸元に埋めるように抱きしめていた。


「っ!?白百合先輩!?何を────」


 俺が言いかけた時。

 白百合先輩は、口を開いて言った。


「今から律さんが私に甘えてくださるまで、私はこのまま律さんのことをお離しして差し上げません!」

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