第40話 生理現象
第三ボタンまでしか外していなくても、胸のかなりの部分が見えてしまう。
……こんなものが、さっきまで服越しとはいえ俺の体に。
というか、こんなに近くでこんなに大きな胸を。
まだ服を脱いだわけじゃないにしろ初めて見て、本当に────
「次のボタン外したら下着見えちゃうかな……今日こんなつもりじゃなかったから勝負下着じゃないけど、一応可愛いのだから
何かを言いかけた陽瀬は。
困惑した様子で、頬を赤く染めながら。
下の方を向いて、呟くように言った。
「下に、何か当たってるような……」
「下……?クローゼットに、下から当たるようなものなんて────っ……!」
ついさっきまで、本当に今目の前に居る陽瀬に集中していて。
俺自身については意識の外だったが、今陽瀬に下と言われてようやく気がついた。
どこがとは言わないが────俺の体の一部分が、活発になっているということに。
というか……最悪だ!!
そう思った俺は、すぐに力強く言う。
「ひ、陽瀬、悪いが、俺は外で待たせてもらう。制服に着替え終わったら出てきてくれ!」
「えっ!?そ、空風!?」
陽瀬からしたら突然のことで意味がわからなかったかもしれないが。
そんな陽瀬を差し置いてでも、俺は一刻も早く陽瀬から離れる必要があったため。
すぐに、陽瀬の控え室から出た。
「……」
それから陽瀬が控え室から出てくるのを待っていた俺は、かつて無いほどの羞恥心に苛まれていた。
そして、その羞恥心と向き合い続けること約5分。
「お待たせ、空風!」
制服を着た陽瀬が、控え室から出てきた。
「あぁ……じゃあ、行くか」
「うん……!」
それから。
俺たちは、撮影スタジオのある建物を出るまでの間。
どこか、互いに緊張した様子でありながらも、場を繋ぐように言葉を交わした。
そして、建物から出て少しした頃。
陽瀬は、口を開いて。
「ねぇ、空風……さっきのクローゼットの中でのことだけど、あれってもしかして────」
「頼むから、そのことについては何も言わないでくれ!」
力強く言った俺は、続けて口を開いて言う。
「陽瀬には悪いことをしたと思ってるが、今まで彼女もできたことのない俺があんな状況になったら、ああなってしまっても仕方ないというか……そもそもあれは意識的な現象じゃなく、生理的な現象なわけで────」
「お、落ち着いてって!私、別に嫌だったとかそういうわけじゃないから!」
「え……?」
俺が、その言葉に困惑していると。
陽瀬は、頬を赤く染めて、どこか恥ずかしそうにしながらも優しい声色で言う。
「だって、その……あれって、私のおっぱいちょっとでも見たからあんな風になってくれたってことなんだよね?」
「っ……!」
「なら、私は……やっぱり嬉し────」
あんなことになってしまっただけでも恥ずかしいのに。
今から帰り道を二人で歩く間、そのことについてさらに話を広げることになる。
というのは、いくらなんでも気が気で無いため。
俺は、口を開いて言った。
「陽瀬……この話題はやめよう」
「なんで?仕方ないことなんだから、恥ずかしがらなくても────」
「良いから無しだ!何か別の話をしよう!」
「え〜?まぁ、空風がそうしたいって言うなら……そういう話は、また今度にしてあげる!」
「……助かる」
それから、俺は陽瀬の言うまた今度の意味については深く考えず。
とにかく、現状その話題を避けられることに安堵して。
陽瀬と一緒に、普段通り何気ないことを話しながら帰り道を歩いた。
そして────いよいよ、六月。
六月は、気圧や湿度のせいで体調を崩しやすく、雨が多い。
一般的にそういう時期であり────俺はそのことを、身を持って知ることになるのだった。
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