第39話 変な考え

 ひ、陽瀬ひなせの胸が、俺の体に。

 ……少しでも、体を前に動かしたら。

 というか、今でもその柔らかさや弾力のようなものをしっかりと感じる。


「っ……!」


 何を考えてるんだ、俺は……!

 相手は、友達である俺のことを本当に心配してくれている陽瀬だ。

 そんな陽瀬を相手に、こんなことを……

 頭ではそう思っていても。

 さっきは陽瀬が第二ボタンを外したばかりでプロデューサーさんが来たため気づかなかったが。

 よく見てみると、陽瀬の大きな胸の谷間もそのボタン付きシャツから覗いていて────


空風そらかぜ……?どうし────っ!?」


 俺が声を上げたこと。

 もしくは、俺の視線から何かを感じ取ったのか。

 俺が視線を向けている場所と同じ場所に視線を送った陽瀬は、驚いたような声を漏らした。


「わ、悪い!つい────」

「う、ううん!私は気にしてないっていうか、むしろ……」


 俺が陽瀬の胸から視線を逸らして言うと、何かを言いかけた陽瀬は一度言葉を止める。

 そして、少し間を空けてから俺の顔を見て言った。


「えっと、空風の方は大丈夫?その……私のおっぱい当たっちゃってて、苦しくない?」

「あ、あぁ……大丈夫だ」

「そ、そっか……!」

「……陽瀬の方は、その、苦しくないのか?」

「わ、私は全然大丈夫!」

「……そうか」


 俺たちが、そうやり取りを終えると同時。


「あかりちゃん?居ないの?入るわよ?」

「っ……!」


 部屋の外から、プロデューサーさんのそんな声が聞こえてきた。

 直後、ドアが開く音がすると足音が部屋の中に入ってくる。


「……」

「……」


 その間、俺と陽瀬は互いに顔を向かい合わせたままただただ息を潜めていた。

 ……胸だけでなく、陽瀬の今は頬が赤く染められている整った顔や。

 陽瀬の方から漂ってくる良い香りに、俺はさらに心臓の鼓動を早める。

 すると、当然俺たちがそんな状態にあるとは露知らず。

 外から、プロデューサーさんの声が聞こえてきた。


「今後も撮影の時は律くんも連れてきて良いって伝えようと思ったけど、もう帰ったのかしら。まぁ、それなら後でメッセージで伝えてあげれば良い話よね」


 そんな呟きの後、足音が段々遠ざかっていくのが聞こえてくると。

 そのまま、ドアの閉まる音がして。

 一応少しの間動かずに待ってみるも、それからは特に何も変化は無かった。


「よし……俺たちも、そろそろここから出るか」


 そう言って、俺がこのクローゼットを内側から開こうとした時。


「待って!」


 陽瀬が、クローゼットから出ようとした俺のことを言葉で止めたため。

 俺が、陽瀬の方を向くと。

 陽瀬は、自らの服のボタンに手をかけながら言った。


「せっかくおっぱい見せてあげるなら近くで見て欲しいから、ここでおっぱい見せてあげるね」

「え?ちょ、ちょっと待て陽瀬!」


 そう言って第三ボタンを外そうとした陽瀬のことを、今度は俺が止める。

 すると、陽瀬は手を止めてくれたため、俺はすぐに口を開いて言った。


「その……さっき思わず陽瀬の胸を見てしまっていたように、やっぱり俺も一応は男子高校生というか。陽瀬が友達っていうのはわかってるんだが、やっぱりまだ友達の胸を見るっていうことに対しての心の準備のようなものができてなくて、本来友達に抱いてはいけない変な考えが過ぎ────」

「変な考えって、どんな考え?空風は、私のおっぱい見てどんなことを考えてくれたの?」

「……え?」


 俺にそう聞いてきた陽瀬は、俺の左手を自らの胸元に近づけて。

 より頬を赤く染めると、甘い声色で言った。


「今すぐおっぱい見たいって思ってくれた?それとも、おっぱい触りたいって思ってくれたの?もしそれがどんなことだったとしても、私はしてあげるしさせてあげるよ!……ほら、見て?」


 そう言った陽瀬は、そのしなやかな左手でゆっくりと第三ボタンを外すと────さらに、自らの胸を露わにした。

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