第36話 好きなところ

「っ!?」


 プロデューサーさんにそう聞かれた陽瀬ひなせは、驚いた様子でありながら頬を赤く染めると。

 どこか、照れた様子で言った。


「そ……そう見えますか!?」

「うん。すっごくお似合いな感じ」


 プロデューサーさんがそう言うと、陽瀬は少し顔を下に向けて恥ずかしそうにしていた。

 が、プロデューサーさんはそんな陽瀬のことを見て呟く。


「その感じだと、付き合ってないんだ……でも」


 それから、プロデューサーさんは俺と陽瀬のことを交互に見ると「なるほどね」と呟いてから小さく口角を上げた。

 そして、俺の方を向いて言う。


「君、名前は?」

空風そらかぜりつです」

「じゃあ、律くん」

「律くん……!?」


 陽瀬が勢いよく顔を上げて驚いたように何かを呟いていたが。

 プロデューサーさんは、続けて口を開いて言う。


「律くんはあかりちゃんのこと、お友達として接しててどんなところが好き?」

「プ、プロデューサー!?何聞いて────」

「あかりちゃんがここに来るぐらい信頼してて仲良しってことは、律くんにもあかりちゃんの好きなところとかあるんじゃない?」

「陽瀬の好きなところ……」


 それは、熟考するまでもなく。


「あります」

「っ!?」


 横目に映る陽瀬がまたも驚きの声を上げていたが。

 プロデューサーさんがすぐに言葉を発し始めたので、俺はそちらに意識を向ける。


「今後あかりちゃんとお仕事していく上で、あかりちゃんのお友達から見えるあかりちゃんの話とかも聞いておきたいから、良かったらそれ教えてくれない?」

「なるほど……そういうことなら」


 仕事のため。

 つまり、陽瀬のためということであれば、それに答えない理由は無い。

 そう思った俺は、すぐに口を開いて陽瀬の友達として好きなところを口にする。


「ずっと明るくて、笑顔なところが好きです」

「好……!!」

「うんうん、他には?」


 相変わらず、隣で陽瀬が何か騒いでいるようだったが。

 俺は、その理由がわからないため気にしないことにして続ける。


「あと、ずっと明るくて笑顔だからといって、空気が読めないわけじゃなくて。俺のことを気にかけてくれたりすることもあって、そういう優しいところも好きです」

「好……!好……!!」

「良いわね、他は?」

「あとは────」


 俺が言いかけた時。


「も、もう無理!!死んじゃう〜!!」


 俺の隣に立っていた陽瀬は、そう言うと。

 自らの顔を両手で覆いながら、グリーンバックの方へと走って行った。


「う〜ん、ちょっとやり過ぎちゃったかしら。でも、あかりちゃんって好きな男の子の前だとあんな顔するんだぁ」


 俺には聞こえない声で、何かを呟いたプロデューサーさん。

 ……顔を両手で覆っていた陽瀬だが、頬の端が赤くなっているのと耳が赤くなっていることは確認できた。


「さっきから、陽瀬は色々と騒いでたみたいですけど、どうしたんでしょうか」


 俺にはその理由がわからなかったため聞いてみると。

 プロデューサーさんは、俺のことを見ながらどこか楽しそうに。


「どうしちゃったんだろうね〜」


 そう言ったプロデューサーさんは、陽瀬を追いかけるようにしてグリーンバックの方に向かった。

 俺の、陽瀬が学校でしっかりと授業に集中していることを証言すると言う役割は、もう終わったため。

 これ以上俺がここに居る理由は無い、が。


「……」


 せっかくなら、陽瀬の撮影を少し見てみたいと思いこの場に残ることにした。

 それから、少しだけ時間が経つと。

 陽瀬が別の服に着替えてグリーンバックの前に立ち。

 いよいよ、撮影が開始された。


「……すごいな」


 モデルとしての陽瀬は、何度か雑誌の表紙で見たことがあるが。

 指定された表情やポーズを的確に取っている撮影現場を、こうして実際に見てみると。

 やはり、陽瀬が人気モデルであるということがわかる。

 というか、改めて……本当に、陽瀬は────


「あかりちゃん、すごいでしょ?」


 俺がそう思いかけた時。

 グリーンバックの方から、プロデューサーさんが俺の元に戻ってそう聞いてきた。


「そうですね……正直、驚きました」

「あかりちゃんはいつもすごいけど……今日は、いつもより調子が良いみたい」


 グリーンバック前に居る陽瀬の方を向いてそう言うと、次にプロデューサーさんは俺の方を向いて聞いてくる。


「あかりちゃん、最近勉強の方も頑張り出したって言ってたけど。それと同時にお仕事の数も増やしてたから体とか心配だったけど、本当に学校の方では大丈夫なの?」


 なるほど。

 プロデューサーさんは、陽瀬の授業に集中できているという言葉を信じていなかったわけでも、授業に集中できているかどうかだけを気にしていたわけでもなく。

 純粋に、仕事量も増えた上に勉強も頑張り始めたことによって、その疲労が体にきていないか心配していたんだろう。

 なら、ここは事実を伝えることで安心してもらおう。


「はい。ちゃんと授業を受けて、休み時間は女友達と話したり、俺と一緒に勉強したりしてます」

「……どうしていきなり勉強頑張り出したのかわからなかったけど、やっぱりそういうことね」


 何かが腑に落ちたように頷いたプロデューサーさんは、続けて。


「ねぇ、律くん。ちょっと真面目な質問なんだけど────律くんは、あかりちゃんのこと好きになったりしないの?で」

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