第35話 あかりちゃんの彼氏?

 6月も近づいてきた今日この頃。

 朝、俺が学校に登校して席に着いていると。


「────空風そらかぜ!」


 後から登校してきた陽瀬ひなせは、すごい勢いで俺の目の前までやってきた。


「陽瀬……?朝からどうしたんだ?」


 陽瀬が元気なのはいつものこと、だが。

 いつにも増して朝から活気付いているため俺がそう聞くと、陽瀬は口を開いて言った。


「実は、空風にお願いしたいことがあるんだけど、もし今日の放課後予定空いてたら私と一緒に撮影スタジオに来てくれない!?」

「……え?さ、撮影スタジオに、俺が!?」

「そう!」


 頷いて、俺の言葉を肯定する陽瀬。

 だが、もし俺が何かしらの形でモデル業界というものに関与しているのであればともかく。

 当然、俺はモデル業界なんていうものから程遠い存在であるため。

 そんなお願いをされて疑問が浮かばないわけもなく、すぐにその疑問を言葉にして伝える。


「そうって、どうして俺が陽瀬と一緒に撮影スタジオに行く必要があるんだ?」


 これ以上無いほどシンプルだが、俺が今抱いている疑問を解消してくれる疑問。

 その疑問に対して、陽瀬はどこか呆れた様子で言った。


「それがさ〜!私、最近ちょっとシフト増やしたんだけど、そうしたらプロデューサーが授業に集中できてるかとか心配してくるようになったの!大丈夫って言ってるのに、全っ然信じてくれなくて、このままだったらシフト削られるかも!って感じになってるの!」


 そこで、と続けて。


「空風に、私がちゃんと授業に集中してるって、プロデューサーに直接伝えて欲しいんだよね!」

「なるほど……要は、証人として俺を呼びたいってことだな」

「それそれ!どう!?」


 最初モデル撮影の場所に来て欲しいと言われた時は何事かと思ったが、そういうことなら。


「ちょうど今日はバイトを空けてる日だ。放課後は陽瀬についていくことにする」

「やった〜!」


 目の前で、一度飛び跳ねて喜んで見せた陽瀬。

 最近は毎日バイトをしていたが、陽瀬がこの話をして来たのがたまの休みである今日だったのは幸いだったな。

 なんて思った後も、俺はいつも通り学校生活を送り────放課後。

 俺は、陽瀬に案内される形で、撮影スタジオへ向かった。


「……」


 見慣れないグリーンバックや大きなカメラに、見慣れない傘のような照明を見て。

 俺が、別世界にやってきたかのような感覚になっていると。


「あかりちゃん、来たのね」


 いかにも仕事ができそうな、大人な雰囲気の女性がこちらに近づいてきた。

 その女性に向けて、陽瀬は口を開いて返事をする。


「はい、プロデューサー!今日もよろしくお願いします!」

「うん。こっちこそお願いね」


 この人が、この撮影のプロデューサーさん。

 言われてみればそんな風格があるというか、むしろそんな風格しかない人だな。

 なんて思っていると、プロデューサーさんは俺の方を向いて。


「そっちの男の子は?」

「っ!」


 プロデューサーさんが聞くと、陽瀬は待ってましたと言わんばかりに俺に手を差し向けて。


「プロデューサーが、私がシフト増やしてることに対して授業に集中できてるかとか色々心配してたので、私がシフトを増やしてもちゃんと授業に集中できてることを証言してくれる証人です!」

「なるほどね、そういうこと」


 それから、プロデューサーさんは自らの顎に手を当てると。

 少しの間俺の顔を凝視してきた。

 どうして俺の顔を見ているのか、とか色々と聞きたいことはあったが。

 その表情が、まさしくプロのそれであったため口を挟むことができず。

 ただ黙っていると、プロデューサーさんはやがて自らの顎から手を離し。

 俺から視線を切ると、陽瀬の方を向いて言った。


「良い顔立ちしてるけど、もしかして────この子、あかりちゃんの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る