第33話 もうちょっとだけ
「お、お風呂!?」
俺は、
……血が繋がっていないとはいえ。
俺と杏は兄妹同然に育ってきたため、一緒にお風呂に入ったことはある……が。
それも、今となっては昔の話だ。
「もう俺たちは高校生なんだ。一緒にお風呂なんて入れるわけ────」
「でも、お兄ちゃんどんなことでもって言ってたよ!」
「そ、それは、確かにそうだが……」
だからと言って、一緒にお風呂に入ろうと言ってくることなんて誰に予想できるんだ!
とはいえ、これによって先ほどまでどこか暗かった様子の杏が普段通りになったのも事実。
ここで、もしお風呂に入ることを完全否定してしまえば。
杏は先ほどと同じか、下手をすれば先ほど以上に暗くなってしまうだろう。
俺がその辺りの
杏が、少し間を空けてから口を開いて言った。
「……ねぇ。お兄ちゃんが私と一緒にお風呂に入りたくないのは、私が妹だから?」
「……妹だから。というよりは、妹とは言え女子高校生と一緒にお風呂に入るということの方が要素としては大きい」
「っ……!……それって、私の心とか体を、ちょっとは妹としてだけじゃなくて、異性としても見てるってこと?」
「っ!?」
確かに、今の俺の答えではそう聞こえてしまってもおかしくない。
が、ここでもし俺が頷きでもすれば、杏が俺のことを軽蔑するのは明白。
……正直、本当に少し。
本当に少しだけで言えば……異性として見ている、というか。
杏も、昔と比べて色々と女性らしくなったなと思うことはあるが……
それは、わざわざ口にすることでも無いため。
俺は、ほとんど反射的に口を開いて言った。
「み、見てるわけないだろ?妹の杏のことを、兄である俺がそんな風に見るはずがない」
というか、見て良いはずだってないんだ。
心の中でそう付け加えた俺だったが……ともあれ。
これで、俺が杏に軽蔑されてしまうのは回避でき────と思いかけた、直後。
「っ……!」
杏は、目を見開くと。
続けて、怒ったように口を開いて言った。
「それなら、私と一緒にお風呂入ってよ!」
「なっ……!?ど、どうしてそうなるんだ!?」
「だって、私のこと異性とも何とも思ってないんだったら、一緒にお風呂ぐらい入れないとおかしいよね?」
「そ、それとこれとは話が別じゃないのか?」
「一緒だよ!」
力強く言った杏は、俺の体に触れると。
その俺の体を大きく揺らしながら言った。
「お兄ちゃん!私と一緒にお風呂に入るって言って!!」
「だから、一緒にお風呂なんて入れるわけないだろ!?」
「入れるわけないなんてことないよ!実際に、私は今お兄ちゃんとお風呂に入りたいと思ってるんだから、あとはお兄ちゃんが頷いてさえくれれば────」
「っ!」
杏が言いかけた時。
杏は、俺の服を握っている手を滑らせてバランスを崩しそうになっていたため。
俺は、咄嗟に杏の背中に手を回して、杏のことを抱き留める。
そして────
「大丈夫か?杏」
俺は、ついさっきまで軽く言い争っていたことなんて忘れて。
すぐに杏の心配に全ての意識を向けて言うと、杏は俺の腕の中で小さく頷いて言った。
「う……うん。ごめん……ありがとう、お兄ちゃん」
「気にしなくていい。大丈夫なら────」
と、俺が杏から腕を離そうとした時。
「待って!」
杏は、俺のことを言葉で制止した。
「どうした?」
杏のことを抱き留めたまま動きを止めて聞くと、杏は俺の顔を見上げた。
すると────俺のことを見上げている杏の頬は赤く染まっており、どこか嬉しそうな表情になっていた。
そして、杏はその表情のまま口を開いて、どこか甘い声色で言った。
「お兄ちゃん……私────もうちょっとだけ、このままが良い」
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