第32話 一緒にお風呂入りたい!!
俺が、二人の誤解を解けたことに安堵していると。
「本当は、もっとお二人とお話ししていたいところですが」
と、続けて。
再度、俺の方を向いて言った。
「本日はもう遅いですので、またの機会へとさせていただきたいと思います」
「そうですね。わかりました」
俺がその言葉に頷くと、白百合先輩は礼儀正しく俺に頭を下げて。
「改めまして、
「いえ。俺の方こそ白百合先輩と一緒に過ごせて楽しかったので、ありがとうございました」
俺がお礼を返すと、白百合先輩は顔を上げて笑顔を見せた。
そして、白百合先輩は次に
「杏さんも、本日は誤解を生んでしまったようで申し訳ございません。今後は誤解無きよう努めて参りますので、どうかご容赦ください……そして、よろしければ、また機会があればご一緒させていただきたく思います」
「……はい!よろしくお願いします!」
緊張しているのか、それとも別の何かなのはわからないが。
杏は、少し間を空けながらも、明るい声でそう返事をした。
すると、白百合先輩は────
「それと」
と、続けて。
俺の方を向き、俺との距離を縮めてくると。
俺の耳元で、囁くようにして言った。
「先ほど律さんは、私が疲れている年下の方を車でお家までお送りする優しい人間だと仰ってくださいましたが────私が車という密室空間に、私と共にお乗せする男性は……いえ。そもそも、私が共にお出かけする男性は、律さんただお一人ですよ」
「え……?」
それは、どういう────と、言葉にするよりも早く。
白百合先輩は、目の前にある黒のリムジンに乗って言った。
「では、本日はこれにて失礼致します」
そして、白百合先輩がその言葉を放った直後。
開いていたリムジンのドアが自動で閉まると、そのリムジンは静かにこの場から去って行った。
……ついさっきまで。
俺があんな車に乗っていたなんて、未だに現実感が無いが……ひとまず、今は。
「家の中に入るか」
「うんっ!」
俺の言葉に頷いた杏と一緒に、俺はそのまま家の玄関に入った。
そして、俺は靴を脱ぎながら。
ふと、杏の手に持っている買い物袋が目に入って言う。
「悪い、杏が買い物袋を持ってたことがすっかりと頭から抜けてしまってた。重く無かったか?」
「うんっ!そんなに重くないから、それは大丈夫だよっ!」
「そうか、なら良かった」
が、妹にこれ以上目の前で買い物袋を持たせるわけにもいかないため。
俺と杏が靴を脱ぎ終えると。
俺は、杏が手に持っていた買い物袋を手に持った。
────ところで。
ふと、俺は今の杏の言葉に違和感を感じたため。
その違和感を、そのまま口にした。
「勘繰りすぎていたら悪いんだが、それはってことは他に何か気に掛かっていることでもあるのか?」
「っ……!」
俺がそう聞くと、杏は驚いたように声を漏らした。
そして、少し間を空けてから頷くと、小さな声で言う。
「うん。お兄ちゃんが、実際に他の女の人と一緒に居るところ見て……初めて鮮明に、お兄ちゃんに彼女が出来ちゃった時の感覚を、想像できて……」
少しずつ、杏の声が小さくなっていったため。
杏が何を言っていたのかは定かでは無い……が。
杏に元気が無いことだけは間違いないため、俺は口を開いて言った。
「杏、俺に何かして欲しいことは無いか?」
「……お兄ちゃんに、して欲しいこと?」
「あぁ。杏が俺にして欲しいことがあれば、どんなことでも言ってくれ」
「っ!……どんな、ことでも?」
「あぁ、どんなことでもだ」
俺がそう言うと。
杏は、表情を明るくし目を輝かせながら、活気ある声で言った。
「じゃあ、私────お兄ちゃんと、一緒にお風呂入りたい!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます